015話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略戦(決戦前日)①
<伊月(本体)サイド>
『ドッペル1号、お前は闇の神キュレィムの配下として西都メントレームから蹂躙して、王都に向かってくれ』
『了解した。当日が楽しみだ』
『建物は破壊し尽して人は今回はなるべく逃がす事』
『うん、じゃあ明日ね』
私は、暗黒竜で女神の封印から復活した闇の竜王として東都ザラデタンから蹂躙を開始するか。
「それぞれ別勢力として、王都ラ・メールに向けて進行する。その結果、教会勢力を排除して王城破壊が通常エンドかな」
「教会勢力を抜けないとグッドエンド、目標Xをおびき出せたらトゥルーエンド!OK?」
「あの、バッドエンドはないんですか?」リサの最もな疑問にメリッサが答える。
「不信心なあいつらが全滅しても困らないのですよ。むしろ不要なのです」
そういうことだ。不信心者は正直いらない。
サクッと確認したんだけど、レオンハル王国は女神信徒国に変貌。
魔族領の魔族には女神忌避は一切ない、どちらかと言うと世界樹信仰かな。
その他の国は信仰は控えめでほぼ無関心だけど、忌避まではっ、て感じ。
この国だけが異常だったのよ。
「了解!」
「承知しました」
「我が身を鍛えるために全力で防衛いたします」
「王都襲撃イベント【漆黒の巨竜、襲来!今こそ女神信仰が試される!】明日スタートだ!」
<始祖竜王レオンハルサイド>
うふふふ、さっさと黒竜ちゃんにお願いされたことを実行しないと。
暗黒竜は蛇蝎のごとく嫌われる、と聞いていたが・・実際は我の好みにドンピシャ、ここまで魂を揺さぶられるとは。もしや!?恋のライバルを減らすための偽情報!?
いや違うな。かつて出会った暗黒竜はもっとこう・・おぞましいというか、そう!瘴気が醜悪でキモいのだ。
性格も最悪だったし。
だが、黒竜ちゃんはどちらかというと神聖竜と同等の高みに居る。
私が知る限りとても不思議な存在である。
その不思議な神聖竜と暗黒竜、その両方を持つ少女、いや女神か。
発情うんぬんは抜きにしてもこのつながりを切るわけにはいかぬ。
女神マーキュリー様の守護を盤石にするためにも。
最近は暗黒神の侵攻も話題にのぼるし、彼女の庇護は必須だろうて。
「!?・・何者か!今日は侯爵様へ訪問者が来るとは聞いておりません。別途アポイントをお取り下さい」
ザラデタン侯爵の邸宅を守る守衛達は恐怖で震えながらも必死に役目を、それこそ決死の覚悟でこなしていた。
眼の前には身長1m程の竜人の幼女と4体のサキュバス。
本来であればその程度で恐れるような弱者はザラデタン騎士団には皆無なのだが・・・
この幼女から無造作に放たれる圧倒的な 何か が恐ろしいのだ。
邸内警備の騎士達も気配を感じて集まってきている。
「かかかか、新たに授かった【発氣】が怖いか?よいよい、力を抑えてやろう。そしてザラデタン侯爵に報告しろ、始祖竜王レオンハルが参ったとな」
ふっ、と圧が消え、緊張が消え弛緩した体が膝を付きそうなのを気力で維持し、安堵もしたのもつかの間【始祖竜王レオンハル】この言葉に別の意味で騎士達の体が震えた。
もちろん歓喜に震えたのだ。
この島で暮らす者たちの中で【始祖竜王レオンハル】を知らぬものなど皆無だ。
特に男子はその武勇伝を子守唄代わりに育つのだから。
金竜に瀕死の重傷を負わされたその御方がついに復活されたのだ!
歓喜に震えるのも無理はない・・だが、なんで幼女姿なのだろうか?
「ん?これか。実は女神マーキュリー様の現在の御姿が幼女なのだ。主の姿をトレースするのは当然であろう」
「そうでしたか。女神様はそのような状況なのですね。お労しや・・あ、すみません。では、私が侯爵様に伝達してまいります」
「レオンハル様、貴方様が入れない場所などありません。応接室に案内いたします」
テキパキと行動を開始する騎士達に「よろしく頼む」と礼を言い、この屋敷の主のごとく堂々と邸内に入る。
「始祖竜王レオンハル様、ご復活おめでとうございます」
絨毯の上に膝をつき平伏するザラデタン侯爵に
「大事な話がある。席に座って話そう」
と着座を促す。
「復活はな、お前の所のバカ王の功績だそうだぞ」
レオンハル王に話を聞きはしたが、そこまで馬鹿な男が居るのだろうかと懐疑的だった。
だが侯爵を見る限り真実のようだな。
「・・は?」
ザラデタン侯爵のこの顔、あのクズが善行を?って顔をしていて笑えるな。
もちろんお主の予想通り善行ではない。
「王が呼んだ異世界転移者の女神様に復活して頂いたのだ」
「なるほど・・でしたら、その女神様を洗脳で手籠めにしようとした話は?」
「んあ!?あの女神様にか?・・我の常識を遥かに超える予想以上の人物なのだな」
復活して一番の驚きだ。人ごときが神を手籠めにすると考えるとは。そして、何より・・・
「・・まだ生きているのが不思議だ」
「おっしゃるとおりです」
伊月殿が生かしている理由が分からないが、それとも何か使い道でもあるのだろうか?
その真実は無能すぎて伊月の思考の端にも残らないだけなのだが・・どうでもいい真実である。
「まあよい、その女神様の命令でな・・耳貸せ・・・ごにょごにょ」
私の内緒話に顔を青ざめさせるザラデタン侯爵。
だが200年も女神排斥思想を放置したお前達の責任だ、受け入れよ。
「女神を蔑む民を放置した責任は重い。もちろん我も賛成だ!天界神さまのお言葉無くば、止める事はない(もし止めようとしても瞬殺されるがな)」
「・・・それが我らの罪滅ぼしでしたら、喜んで努めを果たします」
「天界神である女神を尊崇しない民など不要。この国はかの女神様の遊び場だ・・我も含めてな」
そう、既に伊月殿にこの国の民に対する温情など存在しない。
死なない程度に、くらいの思考だろうて。
「だが、女神信徒は出来るだけ生かせ、そして今度は間違うな。しかと統治せよ!それがお前達の今後の努めだ」
「・・は!魂に刻みます」
「それと・・闇属性の住民を邸内に匿っているな」
「はい、魔物の襲撃以来、住民の排斥がひどく国内の闇属性者はすべてこちらで保護しております」
「明日、暗黒竜に差し出すのだ・・生贄としてだ」
「そ、それは!?それは出来ません。それに、みな女神信徒です!差し出すなど出来ません!」
「否は許さぬ!!!」
グワッと立ち上がり発氣を周囲に放つと、ザラデタン侯爵の体が恐怖で硬直した。
力尽き、床に崩れ落ちる侯爵は
「・・・わ、分かりました」
なんとか声を振り絞った。
決戦は明日だ。もし黒竜ちゃんに勝てば、1日デートの約束だ・・ぐふふふ。
「「「「・・・」」」」
色欲に染まった始祖竜王を冷ややかな目で見つめる四天凰だった。
<天界ガイア 立花サイド>
私は、六神立花
【レディースチーム:ラブリーイツキ同盟】の副長をしております。
伊月直属の四天王として、次席【女帝】を冠しております。
突然のカミングアウトですが、総長の伊月にはチーム名を【レディースチーム:同盟】と嘘をついております。
なぜ?それは卒業式で
「あなたはこのようなお恥ずかしいチーム名の総長をしておりましたのよ!おほほのほ!」
と伊月を辱める為ですわ。
はい?死にたいのかって?もちろんそんな意志はありませんわ。
3年間鍛えに鍛えてもらった皆様からのお礼ですわ!
おほほほ!成就した瞬間の歓喜がすべて!
【伊月を(策で)打ち負かした】
この事実が大事なのです・・その後の事は未来の私が考えて責め苦に耐えればいいのです。
レディースに入隊する条件として「総長を打ち負かせ」という項目がある。
だが、成績優秀・スポーツ万能(超人レベル)、喧嘩上等(悪鬼羅刹)の超人伊月を超えることは難しいのだ。
今回は結成当時からの策、まさか伊月もこの時点から仕込まれているとは思っていないでしょう。
ですが、肝心の伊月はテロ事件に巻き込まれて失踪中。
あいつが死ぬことなどありえませんが・・・心配するだけ無駄ですが・・・早く顔がみたいものです。
「おら!夢の中でなにたそがれてんだ!起きろ!」
「きゃ!?え・・伊月!?」
慌てて周りを確認すると、四天王筆頭【ちわわ(身内では:黒オーガ)】こと、綾瀬このは が満面の笑みで嬉しそうに、四天王三席【軍師】 近藤はるか がボロボロで地に伏しており、四席【忠犬】 湊さくら は気合が入りすきて吐いている。
汚いわよさくら!ここ私の夢の中なんですよ。
「これから大きな争いがある。いい経験なのでお前達もご招待!あ、ドッペルで複製作るから本人のスケージュールに影響ないぞ。死んでも問題なし!」
いえ、その前にまずはテロ事件以降の話を聞きたいんですが・・・貴方は今何処にいるんですの?
「まあ、そう焦らない。その前にやる事があるでしょ?例えば、レディースの名前偽装の件とか?」
「ぎゃ!?バレてた!」
卒業式の成就前にバレましたわ!
もし、1年程で伊月に真実を話していたら
「マジか!?やられた!」
と伊月は負けを認めただろう。
だが、3年もの期間を騙し切ることは出来なかった。
欲張り過ぎての敗戦だった。
「本当はさ、お前達が待っている卒業式の前日に〆る予定だったんだよ?でもさ、私も今忙しいので・・今から〆まーす!」
その後、魔法の授業と称して、魔法で焼かれ、切られ、溺れ、潰され、凍え、しびれ、恐怖、治療、と全属性フルコースを体験致しました。
・・・ああ、そうね、そうでしたわ。
はるか、あなたも共犯でしたね。
だから私と同じ様にボロボロ・・・に。ガクリ。
「おらー!寝てんな。明日は決戦だ!最低でも魔法は習得しろよ!そして喜べ!天界ガイアにも魔力はある。ドッペル帰還後はお前達も魔法使いだ!」
まずは・・・経緯を・・・話して・・・やる気・・・出ませんから・・・あと、体も治して。
天界ガイアの仲間たちも参加させるようですね。