010話 総長、竜化のコツをつかむ
<リササイド>
私は今、人生で最良の時間を過ごしています。義母の居ぬ間にアリスたん、タツキちゃん、ムースどんと仲良く・・くっ、後ろ髪を引かれますが、そろそろ警戒に移行しましょう。
「さあ、伊月が帰るまでトレーニングしながら警戒を密にしますよ。シャイナ、必ず何かが起こります。その際は経験者のあなたに指示をお願いします」
私の言葉にシャイナ以外のみんなが警戒体制を取りながらトレーニングを始める。
「???師匠なら心配いらないのでは?」
その質問に答えたのはアリスたんだ。
『伊月はね、最強?最凶?運の持ち主なの。その影響は広範囲で仲間達にも降りかかるから、気が緩んでいると死ぬよ。その分ガンガン強くなるけどね』
そう、今回も伊月の強運(本人はこの認識)で、本来ならあり得ない魔物が現れたのですから、その余波が必ずあるはず。
「絆さん、初の実戦です。一緒に伊月の為に頑張りましょう」
『是』
そうなのです!伊月とムースどん達が作ってくれた片刃直刀剣「絆」には意思があるようなのです。
「伊月のため」以外には反応しませんけど。
伊月の仲間として油断なく警戒していても、彼女らには容赦なく凶運のフェニックスが舞い降りてくる。
『ヒューを滅したのはお前達か?』
「「「!?」」」
え!?いつの間に現れたの!
それよりも・・この人物?黒き醜悪な炎に包まれていて姿が確認出来ない、それにこれって穢の炎?直視するだけで影響されて悪心がうずいてくる。
ぐぬぬぬ、父親が憎い!今すぐ殺しに・・『否!』はっ!?ありがと、絆さん。
皆が自身から湧き上がる悪心に対抗して硬直している中で、唯一平然としているメリッサが言葉を発した。
「私はマーキュリー教会の聖教皇メリッサと申します。修行のために森に向かうところですが、道すがらヒューというお方とはお会いしてません」
『・・・そうか、確かにお前達には穢がないな。無礼のお詫びだ、森は危険、しばらくは森にはいかないほうが良いぞ』
その言葉の後、正体不明の存在はいつの間にか消えていた。ずっと見ていたんですけど、本当に気がつけば居ない、って感じでした。
「・・・ぶはーーーーー!!!!・・何あれ?恐怖で息が出来なかった」
「メリッサ様、動けず申し訳有りません」
「それを言うならギルマスの私だよ。ああ・・90年も生きてきて・・情けない」
「あーーーー!!!ちくしょー!極上の獲物を逃がしたーーーー!!!!!」
『伊月、今回は凶運のほうだったね〜』
いきなり現れた伊月が、悔しさで雄叫びを上げている。
今回は仲間には【強運】伊月には【凶運】だったようだ。
「お前ら運が良かったな。シャイナは無意識に経験が生きたようね。戦闘の意志を見せれば死んでたよ。あいつは神だよ神。中級神かそれに近い下級神みたいだけど・・あれがトンボの主神か?」
あれが、神!・・・初めて見た(注:伊月も神です)。
ひと目見た感想は、伊月を除いたら全員でも瞬殺の未来しか見えません。
ムースどんとの婚姻の道のりは長そう・・
って、アリスたん!?痛い痛い!なんで噛むの〜〜〜!
<伊月サイド>
トンボとゴブリンを片付けてたら突然危機感知が働いた。
これ・・仲間達が危険のようだ。
慌てて戻ったが間に合わなかったが、仲間達は無事のようで何よりだ。
でも・・あいつと戦いたかったーー!!!
まあ、すぐに戦えるだろう。
思考を切り替えて・・さて、肝心の戦闘訓練なんだけど森のゴブリン全然居なかったんだよね。
みんなアンデットにされたみたいで・・これじゃ訓練にならない!
今回は【他者を殺す】訓練だったんだけど、仕方がないので【圧倒的な能力差】訓練でもするか。
「神聖属性竜、永遠なる聖淨」
お?・・・この感覚は、神聖属性竜は私と相性良さそうだ。
あ、そうか!対象の属性に体を塗り変えてから変化するのか!
あの神との戦闘のために移動中に神聖体にしたんだよ。
なるほどね〜
その姿は全長8m程の金龍、うーん、これだと人型は難しいみたい。まあ使い分ければいいか。
金竜とフォルムは違うけど同じ金。
あとは上位の龍を見せてタツキの成長を刺激しようと思ってね。
<ステータス>
名前:山本伊月
年齢:なし
性別:女神
種族:世界神(lv1000以上)
存在値:レベル199/1000
スキル:
◎暗黒竜化:【始原の黑邪】
◎神聖竜化:【永遠なる聖淨】)
称号:
【神からの簒奪者】
【暗黒竜の怨敵】
【神聖竜のアイドル】
『流石に存在値は上がるよね。神聖竜のアイドル?称号は全く意味分からん。さあ、訓練の開始だ!』
「「「「「????」」」」」
先ほど出来ないと言っていた竜化をした伊月に呆けるメンバーに容赦なくブレスを放つ伊月。
この時のメンバーの思考は
「竜化出来たの!?で、なんでゴブリン討伐のハズが龍との戦闘に?」
だった。それはそうだろう、何も説明されていないのだから。
それでも健闘はしていた。けど1時間後・・
『伊月、説明は大事だよ・・・(ガクリ)』
死屍累々で周囲に静寂が訪れた頃、アリスの今際の際(生きてます)の声が聞こえた。
「そういえば訓練変更の話しをしたっけ?」・・・今更ですね。
「「「せめて、心の準備をさせて下さい!」」」
みなを治療した後で、メリッサ達にしこたま怒られた。
<ザラデタン侯爵サイド>
同時刻、ラ・メール王国の東都ザラデタンでは重要な会議が行われていた。
アホ王の書簡についての話し合いに、レオンハル王国からの使者と西都からはメントレーム侯爵をそれぞれ迎え入れての会議だ。
あんのクソ王が出した書簡の真意を問いただすのが使者の目的だったが、それは表向き。
真実は異世界転移者対策の会議だ。
だが、会議早々にレオンハル王国の使者、ゴルゴラル・レオンハル王太子に怒られた。
「次から次へと・・お前んとこの王は脳にウジでも湧いてるのか?早く王太子と交代しろ。事情を知らん他国に流れでもしたら、これを信じる国も出てくるぞ」
おっしゃる通りだ。
幸いなことにうちの王のバカさ加減は隣国では全国民周知の事実。
馬鹿な武勇伝が多く、お笑いという意味で隣国国民に大人気なのだ。
吟遊詩人の恰好のネタ元でもあるため、レオンハル王国以外の周辺国でも有名らしい。
王などやめていっそお笑い芸人にでもなればいいのだ。
今では「悪さしていると将来は隣国の王になるよ」と言うと子供が反省するらしい。
そんなだから侯爵達3人の連名書簡以外はどんな書簡を送っても笑い話とされる。
だからこそオーランド侯爵であり宰相(王のお世話係)でもあるタオは、クソ王を自由にさせているのだ。その分、やつの指導をみっちり受けている王太子には期待している。
「まあそれは今更だな。確認したかったのは197年ぶりの【異世界転移者】。召喚したというのは事実なのか!?」
「ああ、強いらしいぞ。なにせ鑑定結果は存在レベル300オーバーの女神様だからな・・更にはその御方を洗脳で性奴隷にしようとしたらしいぞ、うちのバカは」
「はぁーーー!!!???なんてものを召喚してるんだ!普通は女神様なんて召喚出来る訳ねーだろが!」
「はぁーーー!!!???存在レベル300の女神様に対して性奴隷!?不敬過ぎるぞ!やはり王は殺したほうが良い」
運だけはいいからな、あいつは。運だけで生きていると言っても過言ではない。
「タオの話では、やつの運を頼りに異世界女神様と和解するまでは生かす方向だ・・それに責任を取る者は必要だろ?」
「「なるほどな!」」
その後、その異世界女神様に威圧されて大小漏らしたこと。
その醜態をあの石像を使って異世界女神様に忠実に再現された事などを話した。
「無駄だと思っていた石像にそんな素晴らしい活用方法があったとはな。これなら王位の継承もスムーズに行きそうだ」
「「その異世界女神様とは気が合いそうだ」」
私も同意だな。
そして、今はマーキュリー教会に身を寄せており、聖女として活動している事を説明する。
情報はマーキュリー教会のメリッサとサラサからもたらされたものなので信頼出来る。
「なるほど、最近マーキュリー様の力が増しているのは彼女のおかげか。これは感謝しかないな」
「しかし、この天界が崩壊寸前だったとは・・やはり異世界女神様には早急に面会をお願いしたほうが良いだろうな」
まずはメリッサとサラサにつなぎの手紙を送ることで会議は終了した。
会議も終わり、夜会までまったりと過ごしている時に事件が起こった。
なんと森から出てこれないはずの魔物達が襲来してきたのだ。
「はぁぁっ!?もう一度頼む。魔物たちは何処から現れたのだ?」
あまりにも予想外な出来事、状況に頭の回らないザラデタン侯爵がもう一度問いただす。
「黒いゴブリン達が突然、空から降ってきました。その数30体程。強さはゴブリンとは比べ物にならないほど強いです」
もう一度聞いても意味がわからない。
ゴブリン達が空を飛んで襲来して来たと言うことか?最弱のゴブリンがだぞ?
「住民は即座に自宅の地下に避難していて死傷者は出ておりません」
これは日々の訓練の賜物だな。
「いえ・・それが降り立ったゴブリン達が『天界神の加護が消えた今、封印されし悪臭神キュレィムが復活された!神はお前らに悪夢の臭いをもたらすだろう!』などと住民達には脅しだけで、被害は主に建物に集中しております。それに派遣した兵士に戦闘訓練などを始めまして・・」
どういう状況だ?訓練だと?一体何が狙いなのだろうか?それにこの天界神は女神マーキュリー様しか存在しないはず。他神を封印など聞いたことがない。
「使者殿は?」
「嬉々として戦闘に!」
そりゃそうだろうな〜、竜王族はすべて脳筋だもんね。
「メントレーム侯爵は?」
「嬉々として戦闘に!」
そりゃそうだろうな〜、あいつの一族も脳筋だもんね。
「あと長女のミリエール様も嬉々として・・しかも夜会用のドレス姿で」
「それは聞きたくなかった!そもそもあいつは騎士団長、指揮官だ!すぐに連れ戻せ!」
西都メントレームだったら俺も自由に暴れられたのに!
ちくしょー!そんな面白そうな魔物達、俺も早く戦闘に行きたいぜーー!
・・・ラ・メール王国の侯爵は脳筋が多いようですね。