009話 総長、魔物に見下されて・・ブチキレる!
<伊月サイド>
冒険者登録をして、予定通りラ・メール王国の中心部にある森での戦闘訓練に向かう。
ラ・メール王国には3つの都市があり、
領地南部地域がオーランド侯爵家が管理する、王都ラ・メール。
北西部地域はメントレーム侯爵が管理する西都メントレーム。
北東部地域はザラデタン侯爵が管理する、東都ザラデタンがある。
王都と西都は魔王国に対して、東都はレオンハル王国に対しての防衛ラインでもあるそうだ。
ちなみに王家に領地はない。煩わしい領地経営は侯爵に任せて国の舵取りに専念、らしいよ。
そして国の中央部にはラ・メール大森林がある。
ここは広大な森だけど冒険者も来ない程魔物が貧弱で国民の避難場所に指定されている。
木を切るのは禁忌の為、戦争時には守りに長けた場所なのだそう。
今日は予定通りここで戦闘訓練をするつもりなのだけど、予定と違うのはギルドマスターが同行している事だ。
「私達が竜王氣と思っていたのは、竜化の劣化版だったんですね」
「角と尾が生えただろ?そういうこと。たださ、それをあるものと混ぜれば完全版になれるのよ」
波動拳:餓狼だったか?あれを受けて竜の因子を頂いたんだよね。これで私も竜化出来るようになった。
「是非!それを教えてください!もちろん喜んで女神様の神徒になります!慈愛の神でしたので忌避していましたが、力こそが全てですから!」
「この脳筋が・・まあ、いずれは金竜程度など教会勢で撃退出来る位には鍛えてやる」
「「「「はい!!!!」」」」
鍛えがいがあるな〜こいつら。
私の竜化・・その名は【始原の黑邪】・・厨二全開?
仕方がないでしょ!こういうのは名前も含めてイメージが大事なんだから。
魔法を覚えた時に神聖属性と暗黒属性は使い慣れている感じがしたんだけど、私の根っこは暗黒属性だ!って感じたので暗黒属性竜にすることにした。
暗黒属性の竜化、体の調整は出来そうなので人型に近い姿がいいだろう。ただしサイズは変えずに・・っと。
「暗黒属性竜:始原の黑邪」
竜の因子に濃密な発氣を混ぜると竜因子が活性化、そこに暗黒属性の魔力を投入して体の変化を促す。
私の体をベースに皮膚が黒く硬質な鎧状になり、雄々しい3本の角が両耳の上と額に突き出し、力強い尻尾が生えた。強靭な手足に翼も標準装備だ、もちろんブレスも実装している。
あれ?この竜化は失敗だね。
私にとっては竜の因子はただの弱体化の模様。
体外に弾かれ鎧みたいになってしまった。
あ、角と尻尾だけはそのまま生えているんだ。
鎧ならば、鱗を使ってカイトシールドを、爪を使って大剣を製造して装備しよう。
顔と髪はそのままで見た目は良くても黒騎士、悪くなら竜というより悪魔とか魔族みたいだ。
だけど素晴らしいのが私の存在レベルが10のままなのよ。
この存在レベルって生物にしか適用しないから竜化という名の存在レベル200の鎧をレベル10の私が装着している感じかな。
当然だけど瞬発的に出せる能力は200レベル、まだ使い慣れてないから今は無理だけど。
この基本ベースに発氣や魔力を流せば更に能力を上げられる。
これなら手加減がしやすくて重宝しそう。
ん?これをシャイナに着せたら面白そう!試して見るか!
<ステータス>
名前:山本伊月
年齢:なし
性別:女神
種族:世界神(lv1000以上)
存在値:レベル10/1000
スキル:竜化(暗黒:【始原の 黑邪】)
称号:【神からの簒奪者】【暗黒竜の怨敵】
念の為、鑑定したけど存在値は10のまま。
ただ存在レベル1000にしたことで世界神?になったみたい。
で、レベル1000が基本値みたいに固定された。
年齢の概念も無くなったようね。
そして竜化がスキルに。
称号も得たようだけど簒奪者?エネルギーイーターの事かな。
怨敵は全く分からん、だけど厄介事は大歓迎だ!特に拳関係ならね。
「どうだ、シャイナうゎ!」
ガギャギャギャギャーー!
ふう、びっくりした。
異変を感じ、慌てて発氣の波動を周囲に放出して皆を地面に転がし、カイトシールドと大剣で敵の攻撃を防いだ。
「あ、あれは!?カイザーリベリュール!なんでこんなところに!?」
攻撃してきたのはトンボの魔物、体長は3m、大きさが別もんだけど。
羽は4枚で各5mサイズだ。顔はトンボだけど体はムカデ。
さっきの攻撃は数多の足(しかも硬質)で捕獲されそうになった。
しかもこいつは・・・
「シャイナ、カイザーリベリュールって、アンデットなのか?」
「いえ、アンデットの個体は初めて遭遇しました」
ゴブリン程度の存在しか居ない場所でシャイナが恐れるほどの存在、しかも初遭遇のアンデット。
更には森から出てこないはずの魔物が遠征してきたのだ。異常事態だろう。
<ステータス>
名前:ヒュー
年齢:なし
性別:オス
種族:カイザーリベリュール(アンデット)
存在値:レベル71
スキル:【大空の覇者】【ゾンビメーカー】
称号:七冥魔将
こいつだけで、ラ・メール王国滅ぶんじゃね?しかもスキルが2つもある。
【大空の覇者】はトンボ独特の飛行関連だろう。
【ゾンビメーカー】はそのままの意味だよね?噛まれると・・って定番。
「ミラ、聖結界!数値は71だ、手を出すなよ。噛まれるとゾンビになる!」
「「「はい!」」」
しっかりと観察すれば、森からゾンビ共がぞろぞろと出てきているけど、まだ数キロ先なので問題ない。このトンボだけが突出してきたようだ。
魔将ということは大将の一人なんだろうけど、単独行動は将としては失格だね。
『黒き強者よ、一騎打ちを・・・所望する!!!』
「知性もあるか。いいよ、だいぶ手を抜くけどね」
『よい・・強者の特権だ』
ガギャギャ!ガキーーーン!
瞬間移動の如く後方に現れた。
なんとか尾で受けられたけど、移動時の大気のゆらぎを全く感じなかった。
存在レベル10ではきつい相手だが、そういう対策も既に考えている。
飛ばせない魔力を感知用として周囲に散布する、その範囲は周囲50m
『・・・む!?』
スキル【大空の覇者】ってのは、大気に縛られない飛行が出来るスキルみたい。
摩擦なんかも無効にしているので感知が難しい・・ふむふむ、これって風の精霊?
でも、私の魔力を欺くことは出来な・・ギャリガリガリ!
おわっ!?散布した魔力も大気扱いになるのか。これは素晴らしいスキルだね。
ああもう!邪魔!この鎧邪魔!まだ竜の因子の使い方が馴染んでないので色々と阻害されてしまう。こんな楽しい戦闘には不要だよ。
竜化を解除して鎧を消し、瞬時に神経を研ぎ澄ませて体内に濃密な発氣を充填させて、この世界との、すべてとのつながりを得る。
へえ、下位の精霊なら発氣と魔力でつながりが出来るようだ。
発氣とは生命力、身体強化だけではなく生きとし生けるものとリンクして周囲すべてを把握する。
流石に力を抑えていると時間が・・って、おいトンボ!?
トンボから明確な闘気が消え、しかも私に対して呆れたような、残念なものを見るような、そんな私を見下した雰囲気を感じる。
「・・・おい、なんでやる気を無くしている」
『お前・・闇消えた・・お前、弱い・・失望、さばらだ』
その言葉を残して消えていった。
はぁ〜!?私が弱いだと!?・・って、慣れない鎧を使ってたからそう思われても仕方がないか・・だけど!
「お前が【私が弱い】なんて思い違いしたまま逃がすわけないでしょう」
瞬時に紅蓮色の特攻服にドレスチェンジして立ち去ったトンボを追撃するために移動する。
もちろん、つい先程覚えたての【大空の覇者】で、だ。
瞬時に伊月も消失。その場に残ったのは、殺意の暴風のみ。
「こっわ〜!伊月、激おこだったね」
ミラが身をすくめて呟いた。
「あのトンボは命知らずだよね、イツキを弱いなんてさ」
ケインは呆れている。
「ですが、おかげで私はムースどん達と一緒です♡」
伊月の娘達の避難先であるリサだけはホクホクだ。
『紅蓮の特攻服を着た伊月には接近禁止、覚えておいて』
『あの怒気は無理なのじゃ!』
『あいが母様ん怒気。おじか。じゃっどん、やっぱい母様は素晴らしか』
そうは言いつつも、皆は伊月の無事と、ついでに可哀想な目に遭うだろう敵の安息を女神様に祈るのだ。
<ヒューサイド>
興ざめだ・・強烈な闇の波動感じ期待して来てみれば。
確かに私の能力に反応出来ていたがそれだけだ。
やつはそれなりに強くはあったが・・あの程度ならいつでも殺せるだろう。
私が欲するものは闇の力を喰らい取り込むことだ。
それを取り込んでより強くなり、主神にこの天界を献上するのだ!
そしていずれはそのすべてを飲み込んで・・・くくく、神に奪われはしたが、私こそが魔族の王なのだ!
そのためには力がいるのだ、闇の至上の力をな。
さて、手下にしたゾンビ共の調教を進めて・・む!?
がはっ!?・・超速移動しているヒューの首を掴む感触を感じ、気がつけば地面に叩きつけられていた。
顔を上げ、敵を視認すると・・・そこには底の見えない深い深い暗き深淵が存在していた。
これだ!この闇を取り込めば!・・私は神にも勝てる!
「なに?この力が欲しいの?なら、欲しいだけあげるよ」
その言葉に期待と感謝を!だが・・流れてきたものは闇ではあるのだが、使い慣れた怨嗟の泥のようなものではなく、身を焦がすような眩く高貴な至上の力だった。
なんだこれは!?私が欲しいのはこのような力ではない!
もっと薄汚くドロドロと腐臭のする汚泥のような怨嗟の力なのだ!
「ははははっ!どうだ!?これが真の闇、暗黒の力だ!人のせいにしてネチネチ恨みがましく布に付いたシミのようなチンケで臭いお前の力とは違うだろう?永劫なる暗黒をさまよいながらも、心を乱さず自分の信念に違わず突き進む、真の強者のみが得られる力だ。さあ、至上のご馳走を腹が膨れてその体が砕け散るまで存分に堪能しろ!」
「おー、ソンビ共!お前らにもくれてやるぞ!」
主のピンチに迫ってきた、ゴブリンゾンビ共にも暗黒の力を振りまいている。
気が狂う程の苦痛の中、意識を失う前に最後にヒューが見たものは・・・周囲の阿鼻叫喚を心地よい表情で見つめる、おぞましい程の闇を纏いながらも黒く眩く高貴な美しき女神の姿だった。
ああ、黒き女神様。深淵の闇とはこのような・・気高く美しきものだったとは。
私が真に仕えるべきだったのは・・・いや、布に付いたシミ程度の無能な私には・・今更ですね。