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第六十三話 第三テスト




「さてMr.ジョージ。色々と説明したいところですが…………あなたのレベルは120ですか」


 『レベル120』と言った瞬間、ジョージの顔が一瞬動揺に歪む。

 だが、流石は軍人で、すぐさま状況を理解したジョージは、表面的には軽く返した。


「……さすがですね、Miss.スイキョウ。あなたは鑑定スキルをお持ちのようだ」

「ええ、でも驚きました。120とは……かなりの高レベルですね」


 これは、お世辞ではなく本心だ。


 日本トップの俺らダンジョン冒険隊の平均レベルは85。

 更には、レベル100を超えてからは成長速度が急激に落ちることを考えれば、ジョージの120という数字がどれだけ異常かが分かる。


「さて、早速で恐縮ですが、第三テストに移行してもよろしいでしょうか?」


 正直、世間話で時間を浪費したくはない。

 どうやらジョージも同じ気持ちらしく、即座に頷いた。


「わかりました。ディアノゴスの操縦ですね?」

「はい。事前に生体認証の登録は済ませてあります。手順書通りに操作すれば問題ありません」

「……とはいえ、自信はありませんよ。乗るのは初めてですから」

「大丈夫です。今回のテストでは起動できれば合格です。操縦はできれば嬉しいですが、必須ではありません」


 今回の目的は、俺以外の人間がディアノゴスを起動できるかを確認すること。

 それが第三テストの目的だ。


「なるほど……それなら、試してみましょう」


 ジョージはディアノゴスのハッチに手をかけ、乗り込んでいった。

 他人が操縦席に座る姿を初めて見る。期待と不安が半々だが、ほんの少しワクワクしている自分がいた。


 数分後、ディアノゴスの肩がカクンと動く。


「……起動は成功したみたいですね」


 隣にいた玲奈が静かに言った。

 魔素の流れが見える玲奈にとっては、システムの稼働が目に見えて分かるのだろう。


「……これで、最低ラインは突破です」


 起動できれば、テストとしては合格だ。

 次に進めるかは、ジョージの体力と魔素次第。


「こちらスイキョウ。Mr.ジョージ、起動確認しました」

『……ああ』


 無線から返ってきた声は、どこか息が詰まるような響きだった。

 明らかに大丈夫では無いが、最悪の事態になっても〈死者蘇生〉がある。


 なので、少し無茶な指示を出す。


「では、可能であれば歩行テストをお願いします」

『……了解』


 通信が切れた後、ディアノゴスがゆっくりと立ち上がり、ぎこちないながらも前へと足を踏み出す。

 初心者のジョージでも、プログラムとバランサーシステムが補助してくれるおかげで、何とか動いている。


「歩行、問題なし。……よければ、もう少し加速してみてください」

『……それは無理だ』


 即答した。


『起動の時点で、かなりの魔素を吸われた。体が重くて、気分も悪い。ロボットと意識がつながってる感覚も……正直、気持ち悪い』


 続く声は明らかに不快感と苦痛が滲んでおり、このまま続けることは出来なさそうだ。


「そうですか。では、テストはここで終了とします」

『……助かる』


 ジョージは100メートルほど先でディアノゴスを停止させ、ハッチを開けてふらつきながら降りてきた。

 遠目から見ていても、歩いて戻ってくる余力もなさそうなので、即座に駆け寄りジョージの肩を支える。


「お疲れ様です、Mr.ジョージ」


 玲奈が丁寧に声をかけると、彼は敬礼をしようと片手を上げた瞬間……力が抜けその場に崩れ落ちた。


「……軍医を呼んでください」


 玲奈は落ち着いた声で命じると、軍人たちがすぐにタンカーを持って駆け寄る。

 運ばれていくジョージの姿を見送りながら、玲奈が小さくつぶやいた。


「……改良の余地があるようですね」


 その言葉に、俺は苦笑する。

 俺の魔素が規格外すぎて気づかなかったが、起動時の魔素消費は思った以上に深刻らしい。


「テストデータは既にリョウに送っています。きっと、何とかしてくれますよ」


 その直後、案の定、涼太から連絡が入った。


『起動時の魔素消費?それは直ぐに治せるから問題ないよ』


 その頼もしすぎる言葉に、また違う意味で苦笑が漏れる。


「……リョウからの返信です。特に問題ないそうです」

「それなら安心ですね。あら、お迎えが来たようです」


 彼女の視線の先には、遠方から砂煙を巻き上げてやってくる黒塗りの車。

 数秒後、車が目の前で停止し、運転手がドアを開ける。


「Miss.セイント、スイキョウ。大統領の元までお連れします」


 大佐の階級章を肩に付けた軍人が、車のドアを開けてエスコートしてくれる。

 そのエスコートぶりは、もしもここが草も生えない荒野で無ければ、きっとレッドカーペットが引かれていた事だろう。


「ありがとうございます」


 玲奈は軽く感謝の意を伝えると車に乗り込む。

 すぐさま車のドアが閉まると、大統領の待つシェルターへと向かって走り出した。



~~~



 核シェルターの中へと案内された俺たちは、入り組んだ通路をいくつも抜け、やがて重厚な扉の前で足を止めた。

 警備兵が認証を済ませると、金属音を立てて扉が開き、豪奢な応接室が姿を現す。


 分厚い絨毯、高級そうな革張りのソファ、壁にはアメリカ国旗と歴代大統領の肖像画。

 到底ここが地下深くのシェルター内とは思えない。しかし、この世界一偉い人物がひと時でも過ごすと考えれば、不思議でもない。


「Miss.セイント、こちらへ」


 秘書のソフィアが先導し、玲奈を部屋の中央のソファに案内すると、俺はそのすぐ後ろに立ち、警護と補佐役に徹する。


「お飲み物は何になさいますか?」

「水でお願いします」


 ソフィアはすぐに玲奈へグラスを、そして俺にもさりげなくペットボトルを差し出してくれた。


 完璧な立ち振る舞いに、感心すら覚えるな。


「では、始めましょうか、Miss.セイント」


 ソフィアの言葉に続いて、既に部屋に入っていたレイモンド大統領が笑顔で口を開いた。


「ええ、お願いします。レイモンド大統領、まずは本日のテスト、いかがでしたか?」

「素晴らしかったよ。子供の頃に見ていたガンダ○を思い出した。まさか本物が目の前に現れるとはな」


 大統領は上機嫌に笑う。

 玲奈も微笑みを浮かべながら、話を続けた。


「今回のディアノゴス02は、試作品というよりもほぼ完成形に近い状態です。細かな調整点こそありますが、設計自体は完成に近いでしょう」

「……となると、次は我々の出番というわけだ」

「はい。ここから先の量産と運用は、アメリカの技術と資本力にお任せします」


 この流れは、以前の会談で取り決めた通りだ。

 アメリカ国内でのディアノゴス量産体制はすでに動き始めており、関連工場の建設もあと1〜2か月で完了予定となっている。


「……ところで……だ」


 レイモンド大統領は、話しを切り替えるように一拍置くと、体を少し傾けながら声を小さくして囁く様に言う。


「君たち、また面白い物を作ったそうだね」


 曖昧に濁す大統領の言葉に、玲奈はわざとらしく首をかしげる。


「……と言いますと?」


 とは言った物の、玲奈も内心では検討は付いているのだろう。


「キャサリンから話は聞いているよ。『俺らダンジョン冒険隊』が使っていた、あの携帯武器のことだ」


 やはりそれか。


 玲奈も同様の気持ちなのか、俺の方をチラリとみる。

 その目からは『説明を変わって欲しい』と言っているように見えた。


 すぐにそれを察した俺は軽くうなずき、代わって説明する。


「おっしゃっているのは、個人用の携帯武器のことですね」

「ああ、それだ。我が国でも、あれをぜひ配備したい」


 率直な要求だ。

 ディアノゴスは強力だが、コスト・大きさ・運用性といった点では限定的にならざるを得ない。

 その点、冒険隊に支給した個人武器は、コンパクトで強力、コストも比較的安価とくれば、軍用装備として極めて魅力的だろう。


 だが……。


「……その件ですが、いくつか問題点があります」


 『問題』そう言った瞬間、大統領の表情が、ほんの少しだけ歪む。

 それが、不満からなのか、不安からなのかは分からない。


 しかし、それが決してポジティブな感情を表していない事だけは分かる。


「まず一点目は、法的リスクです」


 だけども、どんなに不都合な事でも説明は必要だ。


「あの武器は日本国内では非常にグレーな立場にあります。ダンジョン特別措置法の下で、あくまで個人装備として正当化していますが『製造』や『流通経路』は、ペーパーカンパニーを複数経由させて合法に見せかけている状態です」


 日本には『銃刀法』がある。中でも『武器等製造法』や『銃砲刀剣類所持等取締法』が絡む。

 ダンジョン特別措置法には『ダンジョン武装探索許可書』が含まれ、刀剣の購入・所持は許可されている。


 だが製造は別問題だ。『ダンジョン武装探索許可書』では許可されていないため、違法になってしまう。


 そのため、俺たちはペーパーカンパニーを複数通して偽の売買を作り上げ、合法的に所持している体裁を整えていた。


「アメリカに正式に売却するとなると、製造元の情報が露見する可能性が高く、組織としての存在が公になる危険があります」


 アメリカに武器を売る場合は『防衛装備移転三原則』に抵触するリスクもある。

 ディアノゴスのブラックボックスだけならば、法的に武器として認定されずらいが、刃物は完全にアウトだろう。


 それに問題はこれだけではない。


「二点目は、人的リソースの問題です。ダンジョン教会は資金こそ潤沢ですが、技術者・製造スタッフの数が圧倒的に足りません。ディアノゴスの開発ですら、ほんの数人で進めていたほどです」


 この説明に、ソフィアが小さく目を見開いたが、大統領はそのことを知っていたか推測していたのだろう。全く驚いていない。


「……つまり、製品としての量産は難しいが、設計の提供なら可能……そういうことかい?」


 レイモンド大統領が、やや含みをもたせて問いかける。


「設計図の提供はしません。ですが、試作品を一式お渡しします。それを研究し、製造は貴国で進めてください」

「流石にそこまで美味しい話はないか……」


 大統領は軽く肩をすくめる。

 だが、その表情には、先ほどまでとは違い、満足げな色が浮かんでいた。


 そんな大統領の様子を見て、ソフィアがやれやれという顔をしていたのも印象的だった。


「Miss.セイント、今回の訪問には感謝する。ディアノゴスの量産、そして個人武器の件も、我々で責任を持って進めよう」

「はい、よろしくお願いします」

「では、私は次の予定があるので、ここで失礼させてもらおう」


 そう言って立ち上がると、大統領は軽く手を振りながら部屋を後にした。

 ソフィアも一礼して後に続き、部屋には俺と玲奈だけが残される。


「……案内、来るのかしらね?」


 玲奈がぼそりと呟いた。

 まさかこのまま放置……ということはないと思いたいが……。しばらく様子を見るしかなさそうだ。




これにて三章が終わりました。四章は基本的に1日1話投降でいきますが、山場となる時には、1日2話投稿に切り替えていこうと思っています。



『銃刀法』

銃、刀剣類(日本刀、ナイフ、火薬式の銃器など)を一般人が所持することを規制・制限する法律。


『銃砲刀剣類所持等取締法』

銃火器・刀剣などの武器の製造行為を規制する法律。


『ダンジョン武装探索許可書』

ダンジョン探索を行う者に対して発行される、特別な武装携行許可証。

上の2つの法律を無効化するのが、これ。

ちなみにだが『武器等製造法』は無効化されない。あくまで所持と売買が可能になるだけ。


『防衛装備移転三原則』

日本からの武器・防衛装備の国際輸出に関する三原則。一定の条件下でのみ移転が許される。


『ペーパーカンパニーを活用した流通偽装』

ダンジョン教会が武器を作ってしまうと『武器等製造法』に違反してしまう。なので、ペーパーカンパニー(書類上だけの企業)を複数通す事で、武器の製造もとや流通経路を偽装している。


こうすることで『あくまで武器の売買をしているだけで、製造はしていない』と言い訳ができるようになる。


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