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第五十八話 仲が悪かった同級生と出会ったときって気まずいよね




 高級焼肉店の個室から出た廊下で、俺と玲奈は5人組と鉢合わせた。

 女が3人、男が2人。よりによって、最悪の顔ぶれだった。


 もし叶うのであれば、一生会いたくなかった面々。せっかくの楽しい昼食が一気に台無しになった気分だ。


「ねえ、水橋くんだよね! こんなとこで会うなんて、偶然だね!」


 ツインテールを揺らして声をかけてきたのは鳴瀬怜美。高校時代のクラスメイトで、妙にテンションの高い女だ。

 皆からは愛称として『レミ』と呼ばれていた。


「こんな場所で会うとはな。お前、刑務所に入ったって聞いてたけど?」


 秋だというのにアロハシャツを着て、ピアスに金髪という季節外れな格好をしているのは藥井俊介。高校時代、ムードメーカーという名のうるさいバカだった。


「……本当に。不運ですね、こんなところで会うなんて」


 皮肉気に笑いながらそう言ったのは、地味なメガネ女の目野咲子。無表情気取りだが、俺に敵意を向けるのは昔から変わらない。


 そして、無言でその後ろに立っているのは、天光光輝と柳生雫の二人。

 高校時代、誰もが注目した『美男美女ペア』が控えていた。


 天光光輝は、絵に描いたような爽やかイケメン。

 顔よし、運動よし、勉強よし。柳生家の古武術もたしなんでおり、文武両道の代表格みたいな存在だ。


 隣にいる柳生雫も、また異質な存在だった。

 男顔負けの長身に、端正な顔立ち。腰まで伸びた髪を高く結び、涼やかな眼差しが常に鋭さを帯びている。


 冷静沈着、強い意志を感じさせるその立ち振る舞いは、まさに『現代の大和撫子』といって差し支えないだろう。


 そんな彼らは、アニメやラノベならば、異世界に勇者召喚されてもおかしくないレベルで、主人公をしていた。


 当時の俺たちは、そんな連中の事を比喩して『勇者パーティー』だの『勇者様御一行』なんて呼んで揶揄っていた。


 高校3年生の時なんて、光輝を中心とする生徒会が発足し、咲子が秘書、俊介が庶務、怜美が広報と、生徒会の主要ポストを独占。

 雫だけは何故か風紀委員長だったが、それすら彼女のキャラにぴったりだった。


 対する俺はといえば、悪ふざけばかりしていた。

 たとえば、プールの水をヘリで校内に撒いたり、修学旅行中に勢いで一軒家を買ったり。教師には目の敵にされ、クラスでも浮いた存在だった。


 ……いや、一応弁解させてもらうと、あの38℃の猛暑日、校内に水を撒いたのはサプライズのつもりだった。やり方を間違えただけだ。

 閑話休題。


 当然、俺と『勇者ご一行』が仲良くなるなんてことはなかったし、とりわけ雫とは顔を合わせるたびに衝突していた。


 言い争いは日常茶飯事。雫は容赦なく手が出るタイプで、そのくせ絶妙に痛い力加減を心得ていたから余計に腹が立ったのを覚えている。


「……正吾さん? この人たち、知り合いなんですか?」


 玲奈が俺の様子に気づいて耳打ちしてくる。


「……最悪の知り合いだよ」


 俺は舌打ちしながら答えた。


 正直な話、マジで今すぐ逃げ出したい。だけども、どう見てもあいつらの視線がそれを許してくれない雰囲気を放っている。


 そして、この雰囲気の中心人物でもあり、主人公と言わんばかりに前に出て来たのは天光光輝だ。

 無駄に爽やかな笑顔が鼻に着く。心の奥からイライラとした感情があふれ出てくるが、俺はその感情を抑えこんだ。


「おいおい、そんな言い方ないだろう?」


 その声を無視して、俺は視線を雫へ向ける。


「雫、こいつを早く黙らせろ。そして、さっさと帰れ」


 雫の言葉なら光輝も大人しくなるはずだ。


「……」


 しかし、雫に話を振ったのだが、全く返事が無い。

 不思議に思い雫の方を見ると、そこには唖然として動かない雫の姿があった。


 こいつがこんな反応を見せるなんて珍しいが、まずはうざったい光輝をどうにかしないといけない。


「おい、レミ。こいつを黙らせろ。そうじゃ無いと手が出そうだ」

「ごめんね水橋くん。……光輝くん。一旦下がろっか」


 怜美は、光輝の腕を軽く引いて出口の方へと誘導していった。


 なぜ怜美が俺の言葉に素直に従って光輝を連れて行ったのかと言うと、それは、高校時代の『事件』に理由がある。


 あれは俺たちが高校3年生の頃のことだ。


 当時、俺は宗教事業でお金を稼いでいた。

 あの当時はグレー寄りの黒の行為で稼いでいた俺だが、なぜかその事を光輝に知られてしまったのだ。

 もちろんだが、強い正義感を持っている光輝が怒らないハズもなく、激怒した光輝が突っかかってくるのは自明の事だった。


 確かに、俺がやっていたことはグレー寄りの黒だった。それに関しては、否定はしない。

 しかし、それを糾弾するのは教師か、あるいは司法の役目だ。

 いくら相手が悪いからと言って、自分の価値観だけで他人を殴る権利は、誰にもない。


 だけども、その理屈が正義バカに通じるかどうかは別のお話だ。


 とある日の朝。

 登校中だった俺の背中に、不意打ちの拳が叩き込まれた。


「……なっ!?」


 殴られた衝撃でぐらつきながらも振り返る。

 するとそこには、顔を真っ赤にした光輝が、拳を強く握りしめながら立っていたのだ。


 いきなり殴りかかるとは、まったくもって『現代人』らしくないと内心思いながらも、俺は『常識人』として対話を試みようとしたのだ。

 しかし、光輝は怒りに我を忘れ、言い分も聞かず、殴りかかってくる。


 当然のことながら、言葉の通じない原始人には暴力で分からせるしかない。

 そして、相手が売ってきた喧嘩である以上、俺が買ったとしても悪いのは相手だ。


 と言う訳で、相手を分からせる為に、原初の言語でやさしく語りかけてやることにした。


「ふぅ……」


 俺はため息を一つ吐くと、……思いっきりこぶしを握り込み光輝に殴りかかった。


 登校中と言う事もあり、同じ学校の生徒も沢山いた。

 すぐに、騒ぎは大きくなり、教師たちが飛んでくるのは時間の問題。


 教師たちが、双方の間に入って喧嘩の仲裁に入ったのだが、あまりにも双方の言い分が食い違いすぎて、最終的には警察まで呼ばれた。

 幸い、傷害事件としての立件までは至らなかったが、学校中に知れ渡る騒ぎとなったのは言うまでもない。


 それ以降、俺と光輝の関係は最悪になった。

 顔を合わせるたびに冷たい視線。言葉も交わさない。


 そして、怜美はそれを知っていた。正義感と暴走が紙一重であることを。

 だから、光輝を静かに引き離したのだ。


 光輝が居なくなったことで、無駄に突っかかってくるバカはもういないだろう。


「……やっと行ったか。じゃあ帰るわ。話すことなんてないしな」


 踵を返そうとした瞬間、肩を掴まれた。


「おいおい、それはないだろ?」


 声の主は藥井俊介。筋肉質でゴリラのような体型をした男だ。肩を掴む手にも容赦がない。


 ……そう言えば、正義バカでは無いものの、純粋バカは他に居た。っち……これだから原始人は嫌になる。


「……痛い。離せ」

「あ、ああ。悪ぃな。でもさ、いきなり帰るとか薄情じゃねえか?」


 話す気なんて毛頭ねーよ。お前らと過ごす時間なんて、苦痛以外の何物でもないんだよ。


 心底うんざりしながら、ため息をひとつ。そして、皮肉交じりの言葉を口にした。


「はぁ、……お前が昔からバカな事は知っていた。しかし、空気まで読めないやつだとは思っていなかったよ。唯一の取り柄だと俺は思っていたのだがな」

「ぷ」


 俺がそう言うと、眼鏡をかけてクールぶっている目野咲子が吹き出した。

 しかし、俺が放った皮肉は、咲子には分かっても、俊介には分からなかったらしい。


「はぁぁぁ。ほんと馬鹿だな。おい咲子、こいつに意味を教えてやれ」

「いやよ。それ私が割を食うじゃない」


 しらねーよ。

 ッチ!、どんどんと口が悪くなっていく。それに伴い気分も最悪だ。

 早く別れないとストレス値がマッハで上がっていく。


「じゃあな。俺はもう帰るから。お前らみたいに暇じゃないものでね」

「……ふ、また刑務所に戻らないといいわね」


 嫌味を言ってきた咲子を無視して、俺は玲奈を連れて店を出た。



~~~



「……正吾さんがあそこまでイラつくなんて、珍しいですね」


 店を出た直後、玲奈が静かに言った。


「はぁ……俺もな、ひとりふたりくらいならまだ耐えられる。でも五人同時に出てくりゃ、そりゃストレスも五倍になるだろ。さすがに勘弁してほしいわ」


 心の中ではまだ毒が渦巻いている。

 けれども、玲奈と話しているうちに、少しずつ気が紛れてきた。

 そう思っていたのに……。


「でも、正吾さんが『俺らダンジョン冒険隊』の人たちとお知り合いだったなんて……なんとも世間は狭いですね」


 その言葉で、俺の思考は音を立てて崩れ落ちた。


「…………はぁ?」


 間抜けな声が漏れた。


 ……まさか、今のが『俺らダンジョン冒険隊』?

 いや、冗談だろ。名前も顔も確認してなかった俺も悪いけど、よりによって、あのメンツかよ。

 ふざけんな、もっと別の誰かであってくれよ……!


 全身から力が抜ける。

 さっきまでのストレスが、さらに倍になって返ってきた気分だ。


「……玲奈、帰るぞ」

「はい」


 最悪の感情に最悪の事実が上乗せされ、もうまともに物事を考える気力すら湧いてこない。


 ホテルに戻る道すがら、思考が止まりそうになりながらも、俺の役目としてこれからの対応を考えなければならなかった。

 ……これが俺の立場で俺の仕事である以上、逃げられない現実だ。


「はぁ……非常に気が重いが、『俺らダンジョン冒険隊』に連絡を取っておいてくれ」

「……分かりました」


 本来なら俺が連絡すべきなんだが、今回は玲奈に任せた。どうにも精神的に引き受ける余裕がなかった。


 もちろん、これで今日の業務が終わるはずもない。

 連絡対応に調整作業、関係各所からの問い合わせも山積みだし、アメリカからの連絡も控えている。

 本音を言えば、今すぐベッドに飛び込んで、丸一日死んだように眠りたい。


 だが、現実はそう甘くない。


「……はぁ。ちょっと、涼太のところに行ってくる。残りは任せた」

「はい。お気をつけて」


 ため息と共に重たい身体をバイクに乗せる。

 向かう先は、涼太がこもっている山奥の地下施設。


 なお、そこまでの道のりは片道2時間。泣きたくなる距離だ。



~~~



 目的地に着いた俺は、〈神通力〉を使ってバイクを軽やかに浮かせ、そのまま地下施設の収納ポートへと格納した。


 ヘルメットを脱ぎ、ブーツの泥を軽く払ってから、涼太が作業している部屋へと足を運ぶが、扉を開けた瞬間、目を疑うような光景が広がっていた。


 そこは、まるでゴミ屋敷だった。


 床は完全に見えず、使用済みのパーツ、配線コード、空になったエナジードリンクの缶や菓子の包装紙が山のように積み重なっている。

 もはや足の踏み場もなく、ロボット工学の秘密基地というより、文明崩壊後の廃墟に近い。


 正直、プロの家政婦を呼んででも清掃したくなるが……ここは極秘施設。しかも山奥。そんな都合の良い手段は存在しない。


 仕方なく、〈神通力〉で周囲のゴミをまとめながら、部屋の奥に目をやると、涼太は相変わらず開発作業に没頭していた。

 その集中力は凄まじく、俺の入室にもまったく気づかないレベルの状態だ。


 声をかけるか迷ったが、用事がある以上、遠慮している場合じゃない。


「涼太、ちょっといいか?」


 肩を軽く叩くと、ようやく彼がこちらを振り向いた。


 ……その顔は、ゾンビそのものだった。

 脂ぎった髪はぼさぼさで、目の下には深く落ち込んだクマ。目の焦点もやや合っていない。


「……ああ、正吾か。いらっしゃい」


 これはまずいと直感した俺は、さっそく問いかける。


「涼太、お前……最後に寝たの、いつだ?」

「えっと……二日は寝てないかな?」


 案の定だった。

 48時間もぶっ続けで働けば、普通の人間なら倒れる。ましてや思考をフル回転させる開発作業だ。

 完全に『過集中』のゾーンに入ってやがる。


「はぁ……俺が帰ったら、絶対寝ろよ。今のお前、ゾンビよりひどい顔してるぞ」

「そうかな? ……まあ、確かに限界かも。ひと段落したら寝るよ」

「その前に、今の進捗を教えてくれ。アメリカ側が情報を求めてる」

「了解。正吾も開発に関わってるし、細かい工程は飛ばして説明するね」

「頼む」


 涼太はパソコンを操作し、部屋に設置された大型モニターへと設計図を映し出す。

 その指先には、いつの間にか手にしたレーザーポインターが握られていた。


「じゃあ説明するね。今回、主に改良したのは4つ。まず1つ目はエンジンだよ」


 涼太はギンギンに見開いた瞳のまま、淡々と説明を開始した。

 それが一種異様な雰囲気を醸し出しており、見ていてちょっと怖い。


「前回の実験じゃ、たった1分走るだけで魔素の30%を消費してたんだ。だから燃費改善のために、使う魔石を変更して、エネルギー効率も見直したんだ」

「魔石を変えたのか?」

「うん。これまでは5階層の魔石を使ってたけど、今回は7階層のスライム核を使ったよ。こっちの方が魔素の安定性も高くて出力効率がいいんだ。その代わりゴブリンの魔石と互換性は無くなっちゃったけどね」


 涼太が『互換性』と言っているのは、旧エンジンは5階層の魔石を使っていた事が要因だ。

 このエンジンの最大のメリットは、出力は落ちるものの、4階層の魔石でも動かせる、と言う点だ。

 しかし、7階層の魔石を使用した場合、出力は簡単に上がるものの燃料となる魔石の入手手段が限られてしまう点が問題になるのだ。


「……まあ、それは仕方が無いな。5分しか動けないロボットは問題だ。俺たちはエ〇ンゲリオンを作っている訳じゃない」

「そうだね。でもその代わりと言っては何だけど、エンジンの小型化には成功してる」


 互換性を捨ててでも燃費とサイズを取った。合理的だが大胆な判断だ。


「2つ目は、魔道演算スクリプトの最適化。従来は100%出力が必要だったけど、今回のは80%で同じパフォーマンスを発揮できるようになってるよ」

「演算スクリプトでそこまで変わるのか?」

「うん。あと、風よけ用の魔道演算も追加してあって、これが走行時の抵抗を減らしてくれるから、実質的な燃費改善にもつながってる」


 話を聞けば聞くほど、微細な工夫の積み重ねだと分かる。


「ただ、魔道演算の最適化は、もうこれ以上は厳しいね。今回でほぼ限界だよ」

「了解。十分だよ、これは」


 実際、少しの改善にも見えるが、魔素効率の改善は大きな成果だ。

 20%も燃費を抑えられる効果は、俺が思っている以上に大きいだろう。


「3つ目は機体構造の見直しだよ。全体のフォルムを空力を意識したフォルムにして、受ける空気抵抗を最小限に出来るようにした」


 大型モニターに映し出される設計図は、確かに前のディアノゴスよりも流線形をしている。

 全体的に細くなり丸みを帯びているシルエットは、人間に近いようにも見えた。


「さらには、ミスリル金繊維の構成も変えた。結果、全長は14メートルに伸びたけど、装甲を薄くしたおかげで重量は35トンにまで減ったよ」


 前のディアノゴスの重量は42トンだった。それを思えば、7トンの減量に成功している。


 だけども、俺には懸念点があった。


「軽くなったのは良いんだが、バランスは大丈夫なのか?身長も高くしたって事は、バランスを取るのが難しくなるって事だぞ?」


 背を高くして重量を減らす。

 それは燃費の面では良いのかもしれないが、バランスと言う観点で言うならば、悪手とも取れる。


 しかし、そんな事は涼太も重々承知だ。


「それは大丈夫だよ。前回の実践テストで、バランスシステムは想像以上の成果を出した。そのデータから逆算して、18メートルまでならば十分にバランスを保てることが分かったんだ」

「なるほどな」


 それならば安心だ。


「魔道演算で補助すれば、総合重量を12トンほどまで落とせる試算も出ている。実際に試してみるまでは分からないけど、かなりの燃費向上になっていると思うよ」


 涼太がそこまで言うのであれば、俺は期待せざる負えない。


「そして、最後になるんだけど、僕が一番手を入れたのがエンジンだ」

「エンジン?さっき話していなかったか?7階層の魔石を使うって……?」

「そうだね。でもそれだけじゃないんだ。さっき話した通り、エンジンのサイズが小さくなったって言ったよね」

「ああ……」

「具体的に言えば、エンジンのサイズは2分の1ぐらいまで小さくなったんだよね」

「…………まさか!」


 その瞬間、涼太が言いたいことが分かった。


「エンジンを4機積んだのか!」


 マジか!さっきの話でエンジンの出力自体が上がった事は分かったが、それが4つも搭載しているのか!


 俺はあまりの驚きに顔を強張らせ、マヌケにも口を閉じる事を忘れていた。

 そんな俺の反応に、涼太は満足げに頷く。


「そう。エンジンを4機積んだんだよ。小型化したおかげで、腹部にメイン2機、頭部にサブ2機って構成にできた」

「マジか!……それトータル出力は、どのくらいまで跳ね上がってるんだ?」

「理論上は、前のディアノゴスの5倍から20倍。魔道演算での補助を含めれば、最大で従来比の22倍まで届く可能性もあるよ」


 言葉が出なかった。

 それはもう別の機体だ。前の機体を土台にした改良なんてレベルじゃない。ほぼ新型と言っていい。


「もちろん、これはあくまで理論上の数値だから、実機テストを経てどうなるかはまだ分からないけどね」


 涼太は謙遜したように笑うが、その目には明確な自信があった。


 そんな涼太に俺は苦笑するしかない。


「……しかし、お前、本当に変わらねぇな」

「ん? どういう意味?」

「いや、めちゃくちゃ凄い物を作っているのに、謙遜する姿勢が。もっと胸を張っていいんだぞ」


 普通の人ならば悪い癖では無いのだが、涼太は謙遜しすぎる節がある。

 しかし、その謙遜があるからこそ、涼太は世界トップの技術を得れたのかもしれない。


「……おっと、もう時間だ。涼太すまないが、コア技術を抜いた機体の設計図をくれないか?前に連絡していたヤツ」

「うん、もう準備してある。はい、これ」


 涼太は作業台の引き出しからUSBメモリを取り出し、俺に手渡してくれる。

 それを無言で受け取ると、俺はそれを堅牢なケースに収め、鞄へとしまった。


「じゃあ、俺はこの後アメリカ大使館に行く。お前は……絶対に寝ろよ」

「分かった。正吾も気をつけて」

「あと、起きたら風呂に入れ。お前、今、犬の匂いと廃油が混ざったみたいな臭いがするからな……」

「……スンスン? あんまり臭わないけど?」

「それはな、自分の臭いに慣れてるだけだ。周りは地獄だぞ」

「そういうものかな……気をつけるよ」


 相変わらずのマイペースさに、苦笑しながら背を向けた。


「じゃあ、行くわ」

「うん、気をつけてね」


 涼太に別れを告げて、俺は格納庫へ戻る。


 〈神通力〉でナウシカ(仮)を浮かせて収納ポートから引き出すと、エンジンを始動させる。

 〈神通力〉で宙高くにナウシカ(仮)を運び、スロットルを全開まで回した。


 次の瞬間、とてつもない加速とGが身体に襲い掛かる。

 必死に〈神通力〉で体を固定して、耐え続けながらアメリカ大使館へと向かった。




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