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第五十六話 8階層




 警戒しながら8階層へと続く階段を降りる。

 緊張のせいなのか、それとも本当に長いのか、いつもよりも確実に時間がかかるように感じていた。


 一体何分ほど下っていたのだろうか?緊張からか、体感時間が長く感じるが、ようやく淡い光が見えてくる。


 徐々に近づくにつれ光量が増して行く。

 そして、淡い光に入ると、第8階層の光が目を眩ませる。


「……っう」


 強い光が目を刺し、思わず顔をしかめる。4階層の時と同じように、一瞬視界が真っ白になった。

 徐々に目が慣れてくるとそこには……。


「……切り立った山……?」


 目に飛び込んできたのは、岩場むき出しの鋭く切り立った山々だった。

 足元は細かな砂利が敷き詰められ、数メートル先には巨大な溝がある。恐る恐る覗き込むと、地面が見えないほど深い崖が冷たい風を運んでいた。


「……玲奈、これ落ちたらどうなると思う?」

「そうですね……生きて下まで落ちたとしても、這い上がる手段がなければ餓死するでしょうね」


 ゾクリとする想像に思わず背筋が震える。こんな場所で戦うことになれば、集中力を欠いてしまう。


「(空でも飛べたらこんな不利な足場で戦わずに済むのに……)」


 そんな考えが脳裏をよぎった瞬間、山の奥で何かが動いた。


「……おい、玲奈。あそこで何か動かなかったか?」

「?どこですか?」

「ほら、あの三つ並んでるトゲトゲした山の……」


 言いかけた言葉が止まる。俺の視線の先、突如として何かが飛び出した。


 太陽のような光源を背に悠然と飛び、宝石の様に綺麗な赤い鱗に覆われた巨体が空を切る。空中でのバランスを取るかの様に揺れている尾は、鋭くしなる鞭のようだ。


「……これ、空飛ぶ戦車なんてもんじゃねえぞ……」


 鑑定スキルを試すが、跳ね返される。情報が全く読めない。辛うじて得られたのは……。


ーーー

種族:エルダードラゴン

名前:鑑定不能

職業:鑑定不能

レベル:1000

スキル:鑑定不能

ーーー


 これだけだ。

 種族名とレベル以外全てが分からない状況では、相手の強さも、弱点も分からない。


 俺が初めてのことに驚いている横で、玲奈も驚きの表情を浮かべていた。

 玲奈が顔を崩すなんて珍しい。だが、それもそのはずで、玲奈からしてみればあり得ない光景を見ていたのだ。


 玲奈は転職したことで、新しく得た生命力と魔素を見る目を手に入れた。そして、その目に映っていたのは、頑丈に練り込まれた生命力と魔力の鎧。

 それこそ、全ての攻撃と魔法を弾くのではないか?と思えるほどに鉄壁の鎧に見えていた。


「……正吾さん。あれはダメです。私の攻撃は一切通じません」

「ああ、俺もその意見には賛成だ。……逃げるぞ!」


 俺たちは振り返り、階段へ向かって全速力で駆け出した。



〜〜〜



「はぁ……はぁ……」


 7階層目前の階段でようやく足を止め、荒い息をつきながら崩れ落ちる。


「……何だったんだ、あのドラゴンは……」


 ある程度化け物が出てくることは予想していたけれども、まさかドラゴンが出てくるとは思ってもいなかった。


 いや、だってよ?ゴブリンとスライムの後に、まさかドラゴンが出てくるとは思えないじゃん。


 なんて言い訳を心の中で言うものの、そんな事で現実が変わる訳では無い。

 すぐさま感情と理性を切り分けて、勝てるかどうかを考える。


「玲奈、あのドラゴンに勝てると思うか?」

「……現状では勝つのは不可能ですね。防御面だけを見ても、鉄壁そのものでした」

「だよな……」


 俺は頭を抱える。もともと化け物級の敵が出ることは予想していたが、あのエルダードラゴンは想像以上だった。


「ですが……少し気になることがあります」


 玲奈の言葉に顔を上げる。


「気になること?」

「ええ。あのドラゴンの防御……生命力と魔素を鎧のように固めていたのですが、あれはスキルによるものではない気がします」

「どういうことだ?」

「これは感覚的な事で説明しずらいのですが、あの生命力と魔素の鎧の再現が出来そうな気がします。…実際に……ほら」


 玲奈は指先に魔素を集中させて固めてみせる。魔素の姿は見えないが、指を触ると確かに何か固い感触が伝わってきた。


「……つまりは、この鎧を何とかしなければ、俺たちはドラゴンには勝てないって事か」

「そうですね。あの鎧を突破しないと、まともにダメージは通らないと思っても良いでしょう」

「……それでは勝てないじゃないか」


 絶望的な状況に頭を抱えそうになる俺だったが、玲奈が解決策を簡単に言ってのけた。


「まあ、『今』は勝てないと思います。ですが、ドラゴンと同じ技術を身に付ければ、同じステージに昇る事は出来ます。

 これは私たちの弱点と言って良い事なのですが、あまりにも成長するスピードが早すぎて、スキルを十分に扱う訓練が出来ないでいました。

 そこで、基礎訓練を兼ねた練習をするのはどうでしょうか?」


 玲奈の提案は意外だった。

 なるほど、確かにその通りだ。正直、俺も薄々思っていたことではある。


 しかし、玲奈の口から出るとは予想外だった。もっと『7階層のモンスターを狩り尽くしてレベルを上げましょう』とか言い出すタイプだと思っていたからな。


「その通りだな。俺たちはあまりにも駆け足、どころか音速のスピードでここまで来た。確かに一度立ち止まって足場を固めるのはいい案だ」


 そうして俺たちは帰還魔法で地上に帰ったのだが……問題はすぐに発生した。


 俺たちのスキルを試せる場所が圧倒的に不足しているのだ。

 レベル753のスキルとなると、その威力はとんでもない。うっかり使えばクレーターがいくつもできる。

 当然、そんな訓練を都心でできるわけがない。


 なので俺は、涼太の元に向かった。


 前のお話で作ったロボットの秘密基地で、ロボットの改良にいそしんでいる涼太の元に訪れた俺は、それまでの経緯を話す。


「……と言う訳なんだ」

「なるほどね。つまりは広い訓練場が必要と言う訳だね」

「そうなる。でも、人目に触れる事は避けたいから室内。できれば地下施設が良いかな?」

「OK、作れば良いのね」

「俺も手伝うから……頼めるか?」

「うん。いいよ」


 と言った会話をしたのが2日前の事。


 俺が準備した新たな地下施設を立てる場所は、ロボット秘密基地からほど近い場所にある山の中にポツンとある空き地。

 広さとしては、縦100メートル、横400メートルの木々が茂った場所だ。

 斜面もかなりキツく、何かを立てるのには全く適していない場所だ。


 しかし、俺たちのスキルがあれば、あっという間に居住区を兼ねた訓練場が出来上った。


 マジでスキルに感謝してもしきれない。この世界を作ったあのクソ女神は別だぞ!……死ね!

 おっと、思わず口悪い言葉が出てしまった。やっぱりスキルに感謝するのは辞めておこう。


「さてと、……さっそく中を見に行きますか」

「そうだね」


 俺は、木々の間に溶け込むように設けられた岩壁の一部。そこに擬装された巨大扉の前に立った。


 俺が手をかざすと、赤外線によって感知され、隠されていた0から9のボタンが出現する。

 そこに6桁のパスワードを入力した後に、指紋認証、網膜認証までもクリアすると、地下施設へと続く扉が開かれた。


 地下施設へと続く階段に薄暗い光が灯る。

 光が弱いせいか、それとも50メートルも続く階段のせいか、奥が鮮明に見えない。


 そんな構造に、俺……いや、涼太もゾクゾクして鳥肌が立った。

 その鳥肌は決して恐怖からくるものではなく、興奮からくるものだ。


「……やばい、この秘密基地感…震えるほど興奮するね」


 涼太の言葉に、俺は無言で同意した。


 俺たちは、ゆっくりと階段を下っていくと、その奥には、まるで別世界のような光景が広がっていた。


「……これは」


 思わず声が漏れる。


 地下に広がるその空間。

 そこには、縦100メートル、横350メートル、高さ50メートルにもなる巨大な訓練場が広がっていた。


 すべてが金属製になっており、膨大な重量を支えるため、天井はアーチを描いている。

 そして、電線が全く通っていないここには、魔素をエネルギ―として取り出せる魔石純エネルギー炉が3機あり、電気に困る事は無い。


 地面、壁、天井の素材には、アダマンタイトとミスリルの複層構造からなる防壁があり、対物理、対魔法が完璧に施されている。

 そして、何よりもすごいのが、この施設全体を覆うように展開された物質強化の魔法だ。


 ディアノゴスに搭載されている『制御・強化魔法』の応用とのことだが、細かい原理は俺には分からん。


 そう言ったこれまでの成果の集大成とも言えるこの施設なのだが、唯一にして最大のデメリットも存在する。


 遠いのだ。


 奥多摩の山道から1キロメートルも離れた山奥と言う事もあり、アクセスが途轍もなく悪い。

 簡単に空を飛べれば良いのだが、生憎俺の背中に禍々しく生えている〈世界樹の翼〉は、飛行性能は付いていない。


 俺が地上を本気で走れば、F1並みのスピードを出せるけれども、そんな事をすれば目立ってしょうがない。

 バイクで通うとなると、片道2時間以上はかかる。もちろんだが、急がしい俺にそんな時間的余裕はない……のだが。


 そんな俺の心配事は、涼太の持ってきた物で解決された。


「で、これが移動用のナウシカ(仮)ね」


 そう言って渡されたのは、風の谷のナウシカの主人公が使用していた、あの白い飛行機みたいなヤツ。それにジェットエンジンみたいなぶっとい推進器をくっつけた見た目の物。


 男の子ならロマンを感じる見た目だが、どっからどう見ても座席どころか、人が乗るための操縦席も無い。


「……なあ、座席ないんだけど、……これどうやって乗るの?」


 完全に人間が乗る事を考えられていない見た目だが、涼太は問題ないという。なぜならば……。


「〈神通力〉でしがみつけばいいじゃん」


 とのことだ。

 確かに〈神通力〉で体の相対位置を固定化すれば、載れない事は無い。しかし、それはロケットに縛られて飛んでいくのと変わらない事を意味する。


「つまり涼太は、魔道少佐でも、エレニウム95式も持っていない俺に、V1ロケットに乗って吹き飛べと?」

「それは幼女戦記だね。でも、その比喩表現だと僕がドクトルになるんだけど……」

「マッドの部分しか違わないだろ」


 いや、こんな安全性もクソもない物を開発した時点で、涼太もマッドか?


「でもさ、このナウシカ(仮)はどうやって離着陸するんだ?ジェットエンジンなら滑走路が必要だろ?」

「それは大丈夫でしょ?正吾の〈神通力〉で離着陸ぐらいできるよね?」


 涼太は気がついているだろうか?言っている事がドクトルと同じであることを……。

 まあ、気がついていないんだろうな。


「はぁ、わかった。離着陸は人力ね」


 でも、ここまで色々やってくれた涼太に文句を言うことはしない。

 それに、この人力でも出来ないわけでもないし、移動手段を手に入れられたのは大きい。


「まあ、問題はあるが、色々とありがとな」


 俺はドクトル化している涼太から少し目線を逸らしつつ、感謝を伝えるのであった。




『幼女戦記』

最初はアニメで知った。あまりにハマりすぎて小説を買ったぐらい好き。


『ドクトル』

幼女戦記に登場するマッド科学者。エレニウム95式やV1を開発した人物。

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