第四十八話 神へと至る
涼太からロボットを作ると言う話をしてから、1週間ほどが過ぎた。
その間に再度のポーションオークションが開催され、1個30億円で10個が落札された。
1週間ごとに数百億円の利益が出ている現状にホクホクしながらも、ボーナスタイムが長く続かないことは分かっている。
大手企業が同様のオークションサービスを発表しており、リリースまで数ヶ月かかるものの、競合するのは確実だ。
こちらも対抗策として計画通りに店舗の拡大を進め、もうすぐ東京駅と大阪で2店舗を開業できそうだ。
だが、それに従って、俺の仕事は膨大になりつつある。大部分を外注しているとはいえ、1週間ダンジョンに潜れなかった。
そんな俺と同様に、玲奈も忙しい日々を送っていた。
競合との差別化を図るため、イメージアップ施策に動いてもらっているのだ。
配信や東京駅での質疑応答などを開催し、チャンネル登録者数は1000万人目前。国内視聴者が6割、海外視聴者が4割だ。
AI翻訳が普及したことで、外国人視聴者を取り込みやすくなったとはいえ、文化や言葉の壁は厚い。
視聴率に比べて登録者数の割合が少ない所が悩みどころだ。
いずれ海外展開をするなら、この問題を解決しなければならないだろう。
そうした事業のことを考えながらも、今日は久しぶりにダンジョンへ潜りに来た。
前回の探索で〈神通力〉がスライムに劇的に有効であると分かっているため、6階層、7階層も難なく突破。
もしこれがゲームなら速攻で修正される案件だろうが、現実はズルしたもん勝ちだ。
「で、ここが8階層へ続く階段か……」
7階層も広くなかったらしく、たった1日で次の階段を見つけられた。
「正吾さん、8階層はどうします?」
玲奈の問いかけに返事をしようとしたが、脳内に一瞬、不安がよぎる。
「……正吾さん?聞いてます?」
玲奈が不審げに俺を覗き込んできた。完璧な微笑みを浮かべた玲奈の顔を見て、不安の正体に気付く。
「……8階層へ降りるのはやめておこう」
「理由を聞いても?」
「ああ。このダンジョンでは、1階層のゴブリンがレベル1、2階層ではレベル10、3階層で25レベル、5階層では150レベル、7階層はレベル500だ。
階層が上がるたびにレベルが青天井で上がっている。このペースなら8階層ではレベル1000のモンスターが出てもおかしくない。
今のところ苦戦したことはないが、敵のレベルが俺たちを上回り、相性が悪い場合は死にかねない。
俺が死んでも玲奈の〈死者蘇生〉があるが、玲奈が死んでしまった場合はその時点で終了だ。
そういう理由から、8階層に行くのは転職してからがいいと思う」
「……なるほど、わかりました。では、今日はレベル上げをしましょうか」
初めて次の階層へ行く事を避けた俺の判断が正しかった事を知るのは、もう少し先のお話。
~~~
そんなこんなで簡単なスライム狩りを切りのいい所までやった結果、かなりいいステータスになった。
ーーー
種族:セレスティアルエルフ
名前:水橋 正吾
職業:半人半神(0/300)
カルマ:-304
レベル:733
スキル〈話術(0/10)〉〈鑑定看破(0/10)〉〈偽神偽装(10/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配感知(3/10)〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈状態異常耐性(10/10)〉〈半神(100/100)〉〈神通力(100/100)〉〈精神強化〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈夢幻泡影〉〈一騎当千〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈一樹百穫〉〈輪廻転生〉〈一発必中〉〈信仰信者(使用不可)〉〈神の目〉〈黒幕〉〈帰還魔法〉〈十悪五逆〉
ポイント:300
パーティー(2/6):ダンジョン教会パーティー
フレンド:〈一ノ瀬玲奈〉〈二条城涼太〉
種族特性:〈美形〉〈魔法適性〉〈肉体強化〉〈世界樹の翼〉〈眷属強化〉〈#>$%”〉
称号:〈ダンジョン教会教祖〉
情報閲覧権限:1
ーーー
さすがレベル500のテラポイズンスライムだけあって効率が素晴らしい。
仕事が忙しく頻繁には来られないが、これなら1日で十分経験値が稼げる。
「玲奈は転職できそうか?」
「まだですね。あと22ポイント足りません」
玲奈は有用なスキルが多い分、ポイント消費が激しい。今回は俺が先に転職することにした。
「じゃあ転職するから、周囲の警戒をお願い」
「わかりました」
俺は周囲の警戒を全て玲奈に任せ、ステータスを開いた。
そこから職業欄をタップし、転職先を確認する。
ーーー
職業:〈下位神(系統:樹聖霊)〉〈下位神(系統:夢幻)〉〈下位神(系統:精神)〉〈下位神(系統:混沌)〉〈下位神(系統:狂気)〉
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ついに本物の神へとなる職業が出て来た。
種類としてはかなり多いが、そのうちの2つが明かにヤバそうな雰囲気を放っている。
ヤバそうな〈混沌〉と〈狂気〉は後回しにして、〈樹聖霊〉から見ていくことにした。
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〈下位神(系統:樹聖霊)〉
・生まれたての神。まだまだ名も権能も無い神だが、いずれ何かの神になる事だろう。
スキル:〈樹神術〉〈聖霊化〉〈生命吸収〉〈生命譲渡〉
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ほぉ、なかなかいいスキル達だ。〈聖霊化〉のスキル内容は良く分からないものの、〈生命吸収〉と〈生命譲渡〉は分かりやすい。
かなりいいスキル達だが、俺が〈樹聖霊〉を選ぶことは無い。なぜならば、回復役は玲奈がいるからだ。
て、事でNEXT。
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〈下位神(系統:夢幻)〉
・生まれたての神。まだまだ名も権能も無い神だが、いずれ何かの神になる事だろう。
スキル:〈夢幻神術〉〈夢影化〉〈夢幻改竄〉〈夢幻創世〉
ーーー
これは俺の〈夢幻泡影〉から来ているのだろうか?
まあ、どちらにせよ、幻惑系のスキルと思われる。
結構ありなスキル達だが、他の方が良いかもしれないので保留。
はい、次。
ーーー
〈下級神(系統:精神)〉
・生まれたての神。まだまだ名も権能も無い神だが、いずれ何かの神になる事だろう。
スキル:〈精神神術〉〈神化〉〈魂魄支配〉〈魂魄剥奪〉
ーーー
なるほどね、これは魂に干渉する系のスキル達か…。〈魂魄支配〉と〈魂魄剥奪〉は明らかにヤバい雰囲気を醸し出している。
さっきの〈樹聖霊〉よりかはなる可能性はあるだろう。
て、事でNEXT。
ーーー
〈下級神(系統:混沌)〉
・生まれたての神。まだまだ名も権能も無い神だが、いずれ何かの神になる事だろう。
スキル:〈混沌神術〉〈神化〉〈混沌吸収〉〈混沌伝染〉
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もう、明かにヤバい。何がヤバいかって〈混沌伝染〉ってなんだよ。これ明かにウィルスみたいに広まって行く系のスキルじゃない?
これは…無いな。
はい、次。
ーーー
〈下級神(系統:狂気)〉
・生まれたての神。まだまだ名も権能も無い神だが、いずれ何かの神になる事だろう。
スキル:〈狂気神術〉〈神化〉〈狂気伝染〉〈狂気化〉
ーーー
これはさっきの〈混沌〉よりも、なお悪い。もう明らかにヤバい雰囲気しか感じない。
これは絶対に無いわー。
どう考えてもヤバいわ。よし、〈混沌〉と〈狂気〉は辞めておこう。
〈樹聖霊〉も玲奈がいるから辞めるとして〈夢幻〉と〈精神〉の2つが残った。
俺は正直どっちでも良いので、玲奈に最後の判断を聞いてみるか。
「…玲奈、転職先に〈下位神(系統:夢幻)〉と〈下位神(系統:精神)〉の2つがあるんだけど、どっちが良いと思う?」
「……そうですか。遂に正吾さんは神になるのですね。つまりは、新世界の神になったと言う訳ですね」
「……まあ、そうなるな」
ちくしょう、ギャグを先に潰された!
「でも、〈夢幻〉と〈精神〉ですか。そうですね、私からしてみれば〈夢幻〉一択ですね」
「理由を聞いても?」
「それは簡単ですよ。だって人の心を操るなんて簡単じゃないですか」
「……」
俺も人のことは言えないが、玲奈、お前がナンバーワンだ。
でも、確かに人の心を操るのは難しいことではない。もちろん、ファンタジー上の催眠術のように完全に他人を操るなんて無理だが、欲望を刺激したり恐怖をちらつかせれば、ある程度人の行動は動かせる。
そう考えると、玲奈の言ったことは理にかなっている。
「…言い方は気になるが、確かにその通りだな。分かった、じゃあ〈夢幻〉にするわ」
玲奈の助言通り、俺は〈夢幻〉を選択した。
≪職業選択を確認しました。職業〈下位神(系統:夢幻)〉へと転職します…転職を完了しました≫
≪確認しました。…神への転職を確認しました。……スキル〈夢影化〉を適用します≫
そう天の声が聞こえてきたのと同時に、不思議な感覚が全身を襲った。
全身に電流が走るような感覚。呼吸の仕方すら忘れるほど、脳がノイズに包まれていく。
体の輪郭が溶け、意識がどこか遠くへ引きずられていくような錯覚。
目の前の景色が……いや、『現実』そのものが、ひび割れて溶けていく。
音も、色も、時間さえも、すべてが解体され、再構築される感覚。
やがて、真っ白な空間に意識だけが浮かび上がった。
何もないのに、すべてがある。そんな矛盾した世界。
そこにいたのは、俺自身。だが、同時に『それ以外』の何かにもなっていた。
「(これが、〈夢幻〉の神か……)」
思考が、深く、遠く、どこまでも拡張していく。
俺は人間だった。半神にもなった。だが今は、世界に干渉できる存在になったと感じる。
大規模な集団幻覚を起こせるような。
言葉一つだけで、現実の一部を塗り替えられるような。
相手の記憶を書き換えることさえ、人を操ることが出来るような。
自分の力が、『現実』と『幻想』の境界を曖昧にしていくのが、はっきりと分かった。
「……っ」
目の前が再びゆらいだ。世界が戻ってくる。
目の前には玲奈がいて、こちらを不安げに見つめていた。
「正吾さん、大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ。なんかすごい事が……」
俺が今起こった事を玲奈に話そうとした時、天の声が響いてきて言葉を妨害した。
≪確認しました。世界初の神へと至った者が現れました。……エラー、βテストである事を確認しました。世界に満ちるエーテル、魔素が足りません≫
≪エーテル、魔素が足りない為、一部スキルが制限されます≫
≪確認しました。神へと至った事を確認しました。スキル『?#L』……ザ…ザザ……『やっほー!聞こえてる?』≫
……何だ、急に割り込んだ甘ったるい女の声は?
全く聞き覚えが無いが、俺が幻聴を起こしている訳では無いだろう。
〈夢幻〉の神が幻聴とか笑えるが、この声は生理的に無理だ。
肌がゾクゾクとして鳥肌が立つが、声だけで判断するのも良くない。手始めとして名前を聞いてみるか。
「なあ、まずは名を…」
≪『まあ、聞こえてるとは思うけど、最初に言っておきます。この通信は一方通行です。ねえ、今私の名前を聞こうとした?聞こうとしたでしょー???でも、残念でしたー!もう一度言うけど、これは一方通行でーす(笑)』≫
……うざい。うざすぎる。ただでさえ生理的に無理な声をしているのに、性格的にも最悪だ。
もしも天の声を切れるとしたならば、今すぐにでもぶちぎりたいが、やり方が分からない。……最悪だ。
≪『これは私からでしか切れないですー。残念でしたねー?』≫
コイツ絶対に俺の心の声を聞いているだろう。じゃなきゃこんなにもピンポイントな回答は無理なはずだ。
……いや?待てよ。確かにうざい声だが、無視していれば何の支障も無いわ。…よし、無視しよう!
「…………」
≪『ちょ!ちょっと待ってよ!』≫
「…………」
≪『え?本当に無視?ま、まって、ごめん、ごめん』≫
っち!どうせこうやって連絡を取っていきた以上、何か言いたい事があるんだろ。早くそれだけ言って失せろ。
≪『せっかちさんだな。いや?人の話も聞けないような折衝無しだから、君は隣にいる好きな子にも手を出せないんだね。ハハハ!(笑)』≫
……死ね!
よし、もうコイツの言う事は全部無視しよう。
≪『あれー?言い返せないのかな?え?ほらほら?』≫
うざい、うざすぎる。
≪『はは!言い返せてないじゃんw。これだから意気地なしはw』≫
……やばい、今すぐコイツを殺したい。
≪『まあ、意気地なし君をからかうのはこれぐらいにして、本題に入ろうと思うよ』≫
……。
≪『で、今回君に話しかけた理由は他でもない。君が僕たちが予想していたよりも遥かに速く神へ至ったからだよ。そもそも君が今潜っているβダンジョンは、7階層まで潜ることは予定されてなかったんだよね?普通なら5階層が限界のはずなんだけど……。ああ、なるほどね。君、教祖で宗教を作り上げたのか。しかも、この規模で……』≫
……。
≪『君、色々な意味ですごいね。今も私に何も悟らせない様に脳みそを空っぽにしている。そんなの常人にはできないよ』≫
……。
≪『でも残念。私は表面的な思考だけじゃなく、奥深くの記憶すら覗く事が出来るのだ!どうだ凄いだろ!』≫
いちいち自慢してくるのがうざすぎるが、それならば脳みそを空っぽにしても意味が無いな。
で、話を戻せ。俺は少しでもお前の声を聞きたくない。
≪『そうだったね。で、話しを戻すけど、君が神に至ったので、今の現状の状況を君に伝えるためだよ。
私も暇なわけじゃないから単刀直入に話すね。まずだけど、2つの世界が衝突しそうになっているのは知ってるよね?』≫
ああ、スタンピードの時に渡された『情報閲覧権限:1』に書いてあったな。
確か『世界:融合度29%:2つの世界が融合している。ダンジョンとは、2つの世界を繋ぐ架け橋であり、門である』とだけ書いてあった。
今『情報閲覧権限:1』を見てみると、融合度が56%になっている。
≪『で、なんで2つの世界が衝突しそうになっているのかと言うと、原因は我々アーシリア世界が原因なんですよね』≫
つまりはお前らの不祥事で俺たちの世界とぶつかりそうになっているって事か?
≪『そうなんだよねー。私たちの世界では過去に大きな戦争があってさ。それは大陸どころか星を丸ごと焦土とするほどの対戦だったんだよ。ヤバくね?
様々な種族と力ある個人が参戦した事で、戦果はどんどん拡大していき、最終的には私たちの主たる神のオースと、魔族の王たる魔王シエルとの一騎打ちになった訳さ。熱い展開!
その2人の戦いは三日三晩続き、星を割るほどの力の衝突は、神々全員の力を集めてやっと防げるほどの戦いだったんだよね。いやー、あの時は怖かったわ。
そんな力同士のぶつかり合いの最後は、全ての力を振り絞った両者の一撃で幕を下ろしたんだよ。結果としては、辛うじて主神オースが勝ったものの、最後の一撃同士は途轍もなく、世界軸を微量ながらずらしてしまったのだよ。……世界軸をずらす一撃ってなんだよ……。この神たる私でも出来るとは思えん…。
どんなに近くても絶対に交わる事の無い世界軸。それが少し傾いたことで、極近くに存在していた貴方たちの世界へと近づいちゃったってわけ。
このままでは衝突して2つの世界が対消滅を起こしてしまう。そこで、この世界一やさしい私が2つの世界を融合させる事にしたのです。私、えらい』≫
いちいち最後に着く言葉がうざい。が、…なるほどな。つまりはお前たちの不祥事が、今のダンジョン騒動に繋がっていると言う訳か。
≪『ええ、そうなんだよねー。君たちには悪いとは…思っていませんが、一応主神オースからは謝るように言われていますので、すみませんでした』≫
いや、それ全然誤って無くね。
まあ、俺からしてみれば、ダンジョンが出来た事で楽しい毎日を過ごせているから良いのだけれど。
≪『ですよね!いやー、謝るのとか正直嫌だったんですよ!』≫
コイツ、クズだな。
≪『まあ、2つの世界が完全に融合するのは、ダンジョンが出来てから丁度1年になるから。
ああ、今現在はダンジョンだけの融合となっていますが、2つの世界が完全に交わった後は、私でもどうなるのかが分かんないんだよねー。
それと、言い忘れていたんだけど、君たちの世界には神がいないっぽいんだよね。過去には居た痕跡があるんだけど、今は君が世界で唯一の神だから、そのところは、よろしくねー……ブツ』≫
……なんだコイツは?本当に神か?邪神の類じゃない?
て言うか最後にとてつもない情報を言っていたような気もするが、そんな事をいちいち気にしていたら精神が持ちそうにもない。
でも、『情報閲覧権限:1』で疑問だった事が色々解消された。正直な話、俺からしてみれば2つの世界が融合しても何ら不都合はない。
いや、それどころか、既存の支配層が世界の変質で一変すると考えれば、好都合だ。
しかしながら、融合した世界の予想が立てられないと言う事は、様々な可能性を予想して準備しておく必要がある。
流石に人類滅亡などは望んでいない為、いろんな国々への警告をしなければならない。
……はぁ、やっと仕事が一段落ついたと思ったのに…。また仕事が増えたよ。
〈夢幻神術〉
・精神の認知に作用し幻を作り出す神術。現実の教会をあいまいにし、見る者の感覚や精神に干渉する。単なる幻覚だけでなく、時間感覚・重力・物理法則などの主観的現実も書き換えることが可能。
・レベルに応じて、幻を作り出す規模と精度が向上する。
〈夢影化〉
・魂の性質を変える。
〈夢幻改竄〉
・〈夢幻神術〉で生み出した幻を自在に編集・再構成・操作できる能力。現実との見分けが極端に困難になるため、神であっても本物と区別できなくなることがある。
〈夢幻創世〉
・夢と幻を基盤とした独自の精神世界を構築するスキル。
・この空間内では、使用者がすべての法則を支配でき、時間・重力・地形・知覚の構造などを任意に設定可能。
・また〈夢幻神術〉のレベルで構築できる世界の規模が変化する。