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第四十六話 転職と転生




 ダンジョンから帰還した俺と涼太は、その足で玲奈の元へ向かった。


 彼女の周りには人だかりができていて、歩道は人波で埋め尽くされている。


 街中を歩く人々は、何か特別なイベントでもあったのかと思い足を止める。それが連鎖的に起こったようで、小さな広場を埋め尽くす人が集まったようだ。


「(いや、人集まり過ぎだろ)」


 マイクも無く、奥の方まで声が届かないのに、何故こんなにも人が集まっているのだろうか?

 その事が本気で分からなく、ちょっと知的好奇心が湧き出てくるが、そんな疑問は一度よそに置き、俺は人混みをかき分け玲奈の元へ行く。


「セイント様」


 そう声をかけただけで、玲奈は察してくれる。

 こういったやり取りが楽な所が玲奈の良い所だ。


 玲奈は、軽くトークを終わらせると、俺たちは人混みをかき分け、タクシーに乗り込み涼太の家まで向かう。

 熱心なファンが後ろでタクシーを捕まえて追いかけてくるが、何回か公共交通機関を挟むことで巻くことができた。


 最近は追っ手をまくだけでも一苦労だ。そろそろ自前の移動手段を考えなければならないな。


 涼太の家に着けば、涼太は体の疲れと心の疲れからかベッドに倒れ込んでしまう。

 この調子ではしばらく動けそうもないので、俺が涼太のダンジョンでの出来事を玲奈に話した。


「ってわけだ」

「なるほど、涼太さんは戦闘向きではなかったんですね」


 戦闘向きではないが、涼太は素で優秀な男だ。スキルがなくても俺たちよりすごい部分が多い。


「ああ、今はな。ただ将来的には分からん。理由は説明できないが、俺の勘がそう言っている」


 これは本当に感覚的な話なのだが、涼太のスキル構成を見ていると、今後化けそうな気配があるのだ。


「さて、現状報告はこれくらいでいいだろう。次は涼太のポイント振り分けだ」


 そう言いつつ倒れ込んだ涼太を見れば、ベッドに寝そべりながらペットボトルをグビグビと飲んでいた。

 そして、空になったペットボトルをそこらに投げ捨てた涼太は、会話に入ってくる。


 ……こういう所があるから、涼太の家はゴミ屋敷になるのだろう。


「……うん。で、そのポイントって何に振ればいいの?」

「まずは〈ITエンジニア〉に20ポイント振ってみてくれ」

「分かった……えっと、転職可能って出てきたけど?」

「じゃあ、職業欄をタップして、転職先とそのスキルを書き出してみてくれ」

「分かった」


 約5分後、書き出した転職先は以下の4つだった。


ーーー

〈☆電子エンジニア〉

スキル〈機械工学〉〈電子工学〉〈電気回路工学〉〈プログラミング〉

〈☆機械エンジニア〉

スキル〈機械工学〉〈電子工学〉〈ロボット工学〉〈プログラミング〉

〈☆☆AIエンジニア〉

スキル〈機械工学〉〈電子工学〉〈AI工学〉〈プログラミング〉〈疑似ニューラルネットワーク〉〈シミュレーション〉

〈☆☆電機魔道エンジニア〉

スキル〈機械工学〉〈電子工学〉〈ロボット工学〉〈魔道工学〉〈プログラミング〉〈工作技術〉〈魔道眼〉〈設計図〉〈回路図〉

ーーー


「で、正吾どっちがいいかな?」

「俺から言わせてもらえば〈電機魔道エンジニア〉一択かな。〈AIエンジニア〉なんて、涼太が元々持っているスキルで何とかなるじゃん」

「確かにそうだね。じゃあ〈電機魔道エンジニア〉になるね」


 そう言って躊躇なくステータス画面を操作した涼太はすぐに〈電機魔道エンジニア〉に転職した。そのステータスがこちら。


ーーー

種族:人

名前:二条城 涼太

職業:電機魔道エンジニア(0/50)

カルマ:68

レベル:381

スキル:〈機械工学(0/10)〉〈電子工学(0/10)〉〈ロボット工学(0/10)〉〈魔道工学(0/10)〉〈プログラミング(0/10)〉〈工作技術(0/10)〉〈魔道眼〉〈設計図〉〈回路図〉〈早熟〉

ポイント361

パーティー(2/6):ダンジョン教会パーティー

フレンド:〈水橋正吾〉〈一ノ瀬玲奈〉

ーーー


 ……あれ?なんか知らん内に〈玲奈と忠実なワンちゃん〉と言うパーティー名から〈ダンジョン教会パーティー〉と言う真っ当な名前に変更されている。


 いつ変わったのかは分からないが、気にしても仕方がない。

 それよりも、涼太はちゃんと転職できているな。


「OKだ。じゃあ涼太、また転職しようか」

「え?また転職するの?」

「ああ、まだまだポイントは残っているからな。出来る限り職業を上げておいて損はない」


 と言う訳で、涼太の職業を上げていくのだが、あまりにも情報が多くなるので、ダイジェスト気味でお送りする。


「次、〈電機魔道エンジニア〉に50ポイント振ってみてくれ」

「えっと……うん、できた。お、また転職可能って出たよ」

「じゃあ、表示された職業を出してくれ」


 涼太が端末を操作し、新たな職業リストを表示する。


ーーー

〈☆☆☆電機魔道エキスパート〉

スキル〈機械工学エキスパート〉〈電子工学エキスパート〉〈ロボット工学エキスパート〉〈魔道工学エキスパート〉〈プログラミングエキスパート〉〈工作技術エキスパート〉〈魔道真眼〉〈疑似シミュレーション設計図〉〈疑似シミュレーション回路図〉〈疑似空間〉

ーーー


「おお……?なんか、一気にスキルが増えた」

「だな。でも専門性が高くて、名前だけでは何が何だか分からんな?」

「確かにね。僕はある程度分かるけど、難しい事には変わりない。……で、この職業に転職しちゃうよ?」

「ああ、いいぞ」


 と言う訳で、100ポイントを〈電機魔道エキスパート〉に振り、転職をした。


 そして、次の転職先が出て来たのだが……。


ーーー

〈☆☆☆☆マキナ〉

スキル〈人造機械〉〈人造生命〉〈物質創造〉

ーーー


「は?」


 涼太の横から覗き見た俺は、あまりのスキルにぽかんと間抜けな顔になってしまった。


 まさかの天地創造系。新たな神話が始まりそうな予感をビンビンと感じる。


「……何だかズルした気分」


 しかし、涼太は複雑そうな顔で苦笑する。


 確かに、ほとんど時間を置かずにここまで来たらズルしている気分と言いたいのは分かる。

 だけども……。


「そんなことないぞ。涼太がオークションサイトを作ったり、いろいろ手伝ってくれなければ俺たちもここまでは来れてなかった」

「そうですね。涼太さんは一番の功労者と言っていいでしょう」


 俺たちに褒められた涼太は、嬉しいというより羞恥心が先に来たのか、顔を真っ赤にしていた。


「そ、そんなことより僕のステータス見ない?」


 涼太は、恥ずかしさを隠すようにステータスをこちらに見せてきた。


ーーー

種族:人

名前:二条城 涼太

職業:マキナ(0/300)

カルマ:68

レベル:381

スキル:〈機械工学(0/10)〉〈電子工学(0/10)〉〈ロボット工学(0/10)〉〈魔道工学(0/10)〉〈プログラミング(0/10)〉〈工作技術(0/10)〉〈人造機械(0/100)〉〈人造生命(0/100)〉〈物質創造(0/100)〉〈魔道眼〉〈設計図〉〈回路図〉〈疑似空間〉〈早熟〉

ポイント211 

ーーー


「……うわぁ」


 涼太のステータスに、俺は思わず引いてしまう。


 確かに戦闘系ではないスキル達だが、そんな事を気にならない程に優秀なスキル達。

 そして何よりも……。


「〈人造機械〉に〈人造生命〉に〈物質創造〉ですか。正吾さんよりも神らしいですね」

「おい、それは言わないお約束だろう。禁句だぞ禁句」

「ふふ、」


 俺が心の中で思った事を玲奈が言いやがった。


 でも、確かに涼太のスキル達は俺以上に神らしいスキルだ。正直嫉妬しない気持ちも無いわけでは無いが、これからの涼太の成長ぶりが楽しみだ。


「さて、これからが本番だな涼太」

「うん」

「じゃあスキルにポイントを振って行こうか」


 軽い雑談をしながらもスキルにポイントを振っていく。


 所々、和やかな会話が俺たちの間で弾み、楽しい時間が流れていく。

 涼太も玲奈に慣れてきた様で、緊張無しに話せるようになってきているし、これならば3人仲良くやっていけそうだ。



~~~



 と、ここで終わると思ったか、バカ者めが!まだ転生というビックイベントが残っておるわ!


 なんて脳内で考えながらも、俺は涼太に転生について話した。


「涼太、次は転生をしようか」

「転生?」


 そう、あまりに早すぎて忘れているかと思うが、涼太はレベル100を超えている。つまりは転生が出来る訳だ。


「転生とは、転職の人種版だと思えばいい」

「……それって大丈夫なの?」

「現に俺たちが大丈夫だったわけだから、大丈夫だ」


 まあ、例が2つしか無いから、断言はできないんだけどね。


「……ってことは、正吾と玲奈さんは人間じゃないって事かな?」

「ああ、そうだ。俺はエルフだし、玲奈は獣人だ」

「……エルフに……獣人??どう見ても正吾には長い耳は無いし、玲奈さんは獣らしき耳は無いんだけど…」

「そのことか……」


 俺は〈黒幕〉を解き、本来の姿であるセレスティアルエルフに戻る。


 黒幕を解いた瞬間、俺は異様とも異形とも言える姿へと変わった。


 黄色人種の平均値である肌の色が、まるで白魚の様な肌へと変わる。

 エルフの象徴たる長い耳は、20センチ以上と巨大だ。その耳の重さは相当なもので、重力に引かれ、垂れ耳になっている。

 視線を落として行けば、まがまがしくも美しい木の根のような翼が、今にも羽ばたくのを準備しているかのように広がっていた。


 涼太は一種異様な俺の姿を見て固まってしまい、目の前で手を振っても返事が返ってこない。


「おーい、大丈夫か涼太?」

「………え?っあ、うん。大丈夫だけど……。その姿、本当に人間じゃないんだね」

「まあな。でも、遺伝子的に変わってるのかも分からないし、俺が本当に人間をやめたのかは分からないんだけどね」


 正直、自分でも遺伝子調査をするのが怖かったりする。別に人間に未練やこだわりは無いが、21年間の人間生活に幕を下ろしたと考えれば、何だか切ない気持ちになってしまう気がする。


「でも、正吾がこれなら、玲奈さんは耳が生えたり……するの?」

「はい、姿を戻せば耳と尻尾が生えますね」

「…それはちょっと見てみたいかも」


 涼太は、アニメやネット文化に深く触れている為に、ケモミミと言うヤツに興味津々だ。しかし、それを見せろと言われた玲奈は嫌そうな顔を涼太…にでは無く、俺の方に向けてきた。


「え?何玲奈?」

「いえ、涼太さんには別にいいのですが、正吾さんには……」


 どうやら俺は玲奈に嫌われてしまったらしい。まあ、しょうがないと言えばしょうがない。あのモフモフが全部悪いのだ。俺は悪くない。


 責任を玲奈のモフモフに押し付けながらも、玲奈はケモミミと尻尾をはやした。……一瞬だけ。


「見せるだけならこれだけでいいでしょう」

「「えー」」


 俺と涼太の残念な声が重なったが、玲奈はこれ以上ケモミミと尻尾を見せる気はないらしい。

 まあ、仕方ないか。

 ちょっと残念な思いは残るが、それよりも話を進めるのが先か。


「ごほん。少し話が逸れたな。転生は見た目が変わる以外に種族特性を得られる」

「……ちょっと思ったんだけど、見た目が変わるって大丈夫なの?2人みたいに、一発で分かるほどの変化は困るんだけど…」

「それは大丈夫だ〈姿変化の指輪〉を持っているからな」


 結構レアなアイテムの〈姿変化の指輪〉だが、沢山数を狩れば結構手に入るもので、結局7つも持っている。


「だから、見た目に関しては大丈夫だ」

「なるほどね。じゃあやってみようかな。…で、どうすればいいの?」

「まずは…」


 それから簡単な転生のレクチャーをした。


「と、なる訳だ。……で、涼太は何の転生先が出てきた?」

「えっと……〈ヒューマン〉と〈ドワーフ〉かな」


 ドワーフと言えば、ファンタジー世界の鍛冶職人と言ったイメージ。

 そう言う意味ならば、涼太にピッタリな種族だ。


「ヒューマンは微妙だから、ドワーフでいいんじゃないか?」

「………………そう……だね」


 なんか、めちゃくちゃ間が開いて返事が返ってきた。

 涼太は何か思うところがあるようだが、自身の中で何かを納得させたのか、転生を開始したようだ。


 いつ見ても眩い光を発しながら転生するところは、プリキュアの変身シーンに見えてならない。

 これで魔法のステッキでも持って登場すれば完璧なのだが、光が収まった所にいた涼太はいつもと変わらない姿だった。


 いや、少し背が低くなっているか?


「……まあ、ほとんど変わらんな」

「ほんと?〈ドワーフ〉って言うぐらいだから……身長とか…変わってない?」


 ……これは、言って良いのだろうか?涼太は154センチの身長だが、見た目的には10センチぐらい縮んでいる気がする。


 これは俺の気のせいかもしれないが、ただでさえ身長を気にしている涼太に言って良いのだろうか?

 そんな事を思っている俺とは違い、涼太が身長で気にしている事を知らない玲奈が真実を言ってしまった。


「目分でしかありませんが、10センチぐらい縮んでいますね」

「……だよね。だって明らかに視点が下がっているもん」


 どうやら涼太は気づいていたらしい。でも自分で確認するのが怖く、俺たちに聞いてきたのだろうな。でも、その落ち込み具合はとてつもなく、ふらふらと洗面台まで歩いて行った涼太は、鏡を見た瞬間に倒れてしまった。


「だ、大丈夫か?」

「……」

「だめだ。玲奈、衛生兵を呼べ!」


 なんて冗談を言ってみたが、涼太の反応は無い。どうやら大ダメージを負ったようだ。


 玲奈は俺の行動に苦笑しながらも、涼太に〈再生〉を使っているが、もちろん精神的ダメージなので効果は無い。

 それからしばらく放心していたが、ようやく再起動したようで、ぽつぽつと喋り始めた。


「……分かってはいた。分かってはいたんだ。ドワーフと言うぐらいだから、身長が縮む可能性があるのは…。でも、まさか本当に縮むとは……」


 虚ろな瞳でそう言う涼太はちょっと可哀そうだ。でも、俺からすれば、144センチでジャニーズに居そうな顔をしているとなれば、いろいろな需要があるとは思う。


 まあ、その需要の内容は想像しない事にしよう。それに今の時代はLGBTQだ。


「ま、まあ、大丈夫だよ。身長が低くなったからって涼太は涼太だし、そこで価値が落ちる事なんて万が一もないよ」

「ほんとかな?」

「本当だよ」


 ナイーブになって、ちょっとだるい女みたいになっているが、これも一時の事。それから励まして1時間もすれば、いつも通りの涼太に戻った。




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