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第五話 新しい朝が来た




 目が覚める。


 目蓋の裏に残るぼんやりとした朝の光。それに続くのは、天井の見慣れない模様だった。


 刑務所の無機質な天井ではないことに、一瞬困惑する。

 だが、数秒後には自分が出所したこと、そしてラブホテルに泊まっていることを思い出した。


 次に頭をよぎるのは昨日の出来事だ。

 あの長い長い夢のような記憶。


「……夢だったのか?」


 寝ぼけ眼をこすりながら自問してみる。

 何ともリアルだったが、時に夢は現実より鮮烈なものだという。


 それでも、万が一億が一、あれが現実だったとしたら。そんな不安が胸の隅にくすぶる。


「まぁ、試すだけタダだよな……」


 俺は軽く息を吸い、少し恥ずかしい気持ちを抑えながら、そっと口にした。


「ステータス」


ーーー

種族:人

名前:水橋 正吾

職業:宗教詐欺師(13/20)

レベル:27

スキル:〈話術(0/10)〉〈鑑定(2/10)〉〈偽装(5/10)〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈身体強化(0/10)〉〈夢幻泡影〉〈気配感知(0/10)〉〈一騎当千〉

ポイント:7

ーーー


「……うわ、出てきちゃったよ。マジか……」


 画面に浮かび上がる半透明の文字列。

 それは確かに、昨日、何度も目にした『あれ』そのものだった。


 夢だと信じたかった現実に、容赦なく引き戻される。思考が停止するほどの光景に唖然としながらも、時間とともに冷静さを取り戻していく。


「……ふぅ、まあ、危険はもう過ぎたわけだし、慌てる必要もないか」


混乱を振り払うように軽く息をつくと、俺は目の前の画面を改めて見直すことにした。


「さて……これは操作できるんだろうか?」


 昨日と同じように、〈偽装〉の項目を試しにタップしてみる。すると、〈偽装〉の詳細画面が表示された。  

 どうやら昨日と同じ要領で操作できるようだ。


「なるほどな……ってことは、夢じゃないのか。現実なのかよ……」


 未練がましく夢であってほしいと思ったが、現実という事実を突きつけられれば諦めるしかない。


 気を取り直し、今後の計画を立てることにする。まず最初にやるべきは、余っているポイントの振り分けだ。


 画面を見ると、俺には7ポイントが残っている。さらに、職業の〈宗教詐欺師〉をカンストさせるには、ちょうど7ポイント必要なようだ。


 これはもう『振れ』と言われているようなものだろう。神の啓示かもしれない。もっとも俺は、神なんてこれっぽっちも信じちゃいないんだけどな。


「よし、振るか」


 迷いなく7ポイントをすべて〈宗教詐欺師〉に振り分ける。すると画面上の表記が(20/20)に変わり、無機質な声が脳内に響いた。

 

≪確認しました。職業が最大レベルに達しました。転職が可能です≫


「転職……?」


 提示された新たな可能性に興味をそそられ、職業欄をタップしてみる。

 すると、新たな職業候補がズラリと並んでいた。


ーーー

職業:〈盗賊〉〈罪人〉〈☆暗殺者〉〈☆殺人鬼〉〈☆☆巫覡ふげき〉〈☆☆教祖〉

ーーー


「うお、何これ、増えすぎじゃね……?」


 画面に並ぶ職業名を見ているだけで興奮と戸惑いが入り混じる。

 どれも一癖も二癖もありそうな名前ばかりだ。


 俺はまず〈暗殺者〉を選び、詳細を確認する。


ーーー

〈暗殺者〉

スキル:〈窃盗〉〈隠伏〉〈急所突き〉〈付与魔法(毒)〉

ーーー


「魔法…だと……? すげえ、ファンタジーだな」


 ファンタジーの代名詞の魔法に、胸が少し高鳴った。

 やはり男の子。魔法と言う言葉には心躍るのだ。


 そんな気持ちに、ちょっとにやけ面を浮かべながらも、次に〈殺人鬼〉をタップする。


ーーー

〈殺人鬼〉

スキル:〈殺人術〉〈急所看破〉〈死体分解〉〈殺人衝動〉

ーーー


「……やべえ、物騒すぎるだろコレ」


 スキル名を見ただけで背筋がぞわっとする。


 ……すごい危ない能力がずらりと並んでいる。なんだよ〈死体分解〉って、名前では全く内容が分からない。けれども、物騒な事だけは分かる何とも嫌なスキルだ。


 さて、二つとも見たけど〈盗賊〉と〈罪人〉の上位職業である事は間違いない。


 では次に見ていくのは〈巫覡〉と〈教祖〉だ。

 どちらも宗教系の役職から言って〈宗教詐欺師〉の上位職業である事は間違いないだろう。

 続いて、気になる宗教系の上位職業〈巫覡〉と〈教祖〉を確認してみる。


ーーー

〈巫覡〉

スキル:〈鑑定〉〈神託〉〈祈祷〉〈神懸かり〉〈巫祝ふしゅく〉〈巫術〉

デリートスキル:〈偽装〉〈神託(偽)〉

ーーー


「巫覡って……巫女の男版って感じか?」


 確かに魅力的なスキルが揃っている。だが〈偽装〉がデリートされるのは痛すぎる。

 最後に〈教祖〉の詳細を確認する。


ーーー

〈教祖〉

スキル:〈話術〉〈鑑定〉〈偽装〉〈神託(偽)〉〈洗脳〉〈支配〉〈開祖〉〈流転回帰〉

ーーー


「うわ、見た目からしてヤバいスキル多すぎ……」


 〈洗脳〉と〈支配〉という、完全にアウトな能力が目を引く。


 でも、〈教祖〉は〈巫覡〉に比べてスキルが多いな。確かにヤバいスキルが多いが、使い方によってはかなり有用なスキルになりえる。(人間社会でだが)


 さて、どっちにしようかな?〈巫覡〉もかなりいい選択なんだけども、なんか肌に合わない気がする。それに〈教祖〉の方がスキルが多いし、人間社会でも使いやすい能力だ。


 よし!〈教祖〉にしよう!


 俺は即断即決レベルで答えを出した。本来ならもっと悩んでいるハズなのだが、彼もまた異常事態にやけくそ状態になっていたのだ。


 勢いとノリで教祖をクリックすると、相変わらず無機質な音声が脳内に響いた。


≪職業選択を確認しました。職業〈教祖〉へと転職します。…転職を完了しました≫

≪確認しました。世界初の下級上位職業への転職を確認しました。スキル〈状態異常耐性〉を取得しました≫


「またスキルが増えたのかよ……」


 画面を眺めながら、増えすぎたスキルに少し呆れる。すべてのスキルを把握するには時間がかかりそうだ。

俺はステータス画面を開き直し、内容を確認する。


ーーー

種族:人

名前:水橋 正吾

職業:教祖(0/50)

レベル:27

スキル:〈話術(0/10)〉〈鑑定(2/10)〉〈偽装(5/10)〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈身体強化(0/10)〉〈夢幻泡影〉〈気配感知(0/10)〉〈一騎当千〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈状態異常耐性(0/10)〉

ポイント:0

ーーー


 スキルの数が多すぎて頭が混乱する。

 ふと、『もっと見やすくならないか?』と心の中で愚痴をこぼしてみた。すると……。


「おお、動いた!」


 画面が自動的に整理され、スキルがレベル制のものと、それ以外に分類されて表示される。これでだいぶ見やすくなった。


ーーー

〈身体強化〉

・レベルに応じて身体能力を強化する。

ーーー

ーーー

〈夢幻泡影〉

・自分の姿を完全に消すことが出来る。

・自身が思い描く物を幻影として出現させる事が出来る。実態は無い。

・また、偽装のレベルに応じて出せる幻影の数が決まる。

ーーー

ーーー

〈気配感知〉

・近くの気配を感じることが出来る。

・レベルによって感知できる距離が広がる。

ーーー

ーーー

〈一騎当千〉

・自分がソロである時、敵の数に応じてすべての能力に補正が掛かる。

ーーー

ーーー

〈洗脳〉

・相手に強制的に洗脳を施す。

・自分の宗教に入っている生物に無条件で使用可能。

・自分よりもレベルが低い生物に対して洗脳可能。レベル差と洗脳レベルによって左右される。

・また、知性の高い生物には効果が著しく下がる。

ーーー

ーーー

〈支配〉

・相手を強制的に支配下に置く。

・自分の宗教に入っている生物に無条件で使用可能。

・自分よりもレベルが低い生物に対して支配可能。レベル差と支配レベルによって左右される。

・また、知性の高い生物には効果が著しく下がる。

ーーー

ーーー

〈開祖〉

・自分の宗教を創設可能。

ーーー

ーーー

〈流転回帰〉

・自身の宗教に所属している全ての生物に対して、信者のステータスの1割をバフとして常時与える。

・信者は自身の取得した経験値の1割を教祖に献金として譲渡する。

ーーー

ーーー

〈状態異常耐性〉

・すべての状態異常に対して耐性を得る。

ーーー


 …いろいろとすごいな。まず一番に〈夢幻泡影〉だ。どう考えてもヤバいスキルだ。

 俺は犯罪をやってきた身だから分かる。こんなスキルが在れば今の社会秩序と言う物が崩壊する。


 まず初めに思いつく犯罪は窃盗だ。自身が透明になれるのであれば、どんな高級店でもバレずに盗めるだろう。

 そして次に詐欺だ。実態は無いとは言え、自分の思い描くままに幻影を出せるのであれば手口なんていくつでも思いつく。


 それ以外にもたくさんの犯罪に応用できるこのスキルは本当にヤバいスキルだな。


 次は〈一騎当千〉のスキルだが、これに関してはノーコメントだ。効果も単純だし、それ以上でもそれ以下でもない。


 次は〈洗脳〉〈支配〉の二つ。この能力は自分の宗教に入っていれば無条件に洗脳と支配が出来てしまう。それは絶対に裏切る事の無いソルジャーを大量生産することも可能になると言う事だ。


 そして、洗脳と支配をつかさどる〈開祖〉のスキル。このスキルは、土台にして根本のスキルだ。洗脳も支配もこのスキルが無ければ、人間相手に使用することは困難だろう。そう思えばこそ根本で土台のスキルなのだ。


 そして、最後の〈流転回帰〉のスキル。

 これは俺の宗教に入ったものにバフを与えるものだが、このバフ事態に俺のデメリットは一切含まれていない。

 それどころか手足となるソルジャーが強化されると考えれば、有用すぎるスキルだ。

 さらには、そのソルジャーたちがモンスターを倒したときの経験値の1割が俺に自動的に入ってくる。


 もうこの〈流転回帰〉のスキルは俺に宗教を立ち上げさせろと言っているも同然のスキルと言えるだろう。


「すげースキルだけど……うまくやらないとまた刑務所行きだな」


 過去を反省しながら、慎重にどう使うかを考え始める。しかし、そこに腹の音が割り込んできた。


「あ、腹減った……朝飯食ってねぇ」


 俺はスマホを手に取り、ウーバーイーツで適当にハンバーガーを注文する。ポテトとバーガーを頬張りながら、ホテルのベッドの上で自堕落に朝食を済ませる。


「さて、今日は新宿か渋谷にでも行くか……」


シャワーを浴び、軽く支度を済ませると、俺はホテルを後にした。




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