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閑話 とある大学生のオークション




 地上に戻った俺たちは、昼食を済ませ、一息ついたあと、ダンジョン教会の行列に並ぶ準備を整えた。


「……水に氷、スポーツドリンクに冷えピタ……よし、準備OKだ」


 持ち物を確認し終え、俺たちは『ダンジョン教会最前列』と掲げられた看板の前の列に並ぶ。

 今は午後3時。暑さのピークは過ぎたが、それでも気温は34度。

 そんなバカみたいな暑さにもかかわらず、ダンジョン教会は相変わらずの行列で、待ち時間は1時間半らしい。


「……それにしても、あっちぃなぁ」


 俊介が冷えピタを額や首に何枚も貼りながらぼやく。さっきまで大けがを負っていたとは思えないほど元気だ。


「俊介、怪我は大丈夫?」

「ああ、問題ないぜ! この通り無傷だ!」


 左手に力こぶを作って白い歯を見せる俊介。

 いつも通りの彼の姿に、俺は安心した。


「それならよかったよ。雫もあの時動いてくれて助かったよ」

「……そんなことないわ。当たり前のことよ」


 キリっとした声で言う雫だが、暑さにはめっぽう弱い。氷袋を頭に乗せ、茹だっている。

 いつもはクールでかっこいい雫だが、こういう姿が後輩女子に人気らしい。俺としても全肯定するのはやぶさかではない。


「しかし、この列……エグいな。咲子は飽きれて帰っちまったな」

「そうだね。でも、咲子ちゃん、いろいろ忙しいから仕方がないよ」


 俺たちは大学3年生。来年には就職活動があるし、院に進むならそのための勉強も必要だ。

 特に咲子は頭が良く、本人も院進学を目指している。


「……それにしても、この列……」


 暑さに茹だりながら、進まない列にうんざりする。

 もう少しなんとかならないものか――。



~~~



 並び始めてから1時間後。

 話しているうちに時間は過ぎ、気づけば列はだいぶ進んでいた。

 ようやく俺たちの番が回ってきたらしく、受付のスタッフが手を挙げる。


「次の方、どうぞ」


 1人の受付が手を上げて次の人を呼んだ。俺たちはそれに促されるままに進むと、用意されていた椅子に座った。


「いらっしゃいませ。今回担当させていただきます岸辺と申します。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 スーツを着た綺麗なお姉さんが慣れた笑顔で対応してくれる。


「では、鑑定品を見せていただけますか?」

「はい」


 俺はバッグから指輪を取り出し、渡した。


「はい、お預かりしますね。…〈鑑定〉…はい、ダンジョン産アイテムですね」


 岸辺さんは手慣れた動作で〈鑑定〉を行い、結果をパソコンに記入していく。

 その鑑定内容はコチラにも見える様に出来ており、ここで指輪の名前と効果が分かった。


ーーー

〈雷光の指輪(中級)〉

・雷属性の魔法攻撃力が20%上昇する。

ーーー


「……雷光の指輪、か。雷属性魔法の威力が上がるんだな」


 俺たちのパーティーに雷魔法を使う奴はいない。売ってしまっても問題なさそうだ。


「お客様、こちらのアイテムはオークションに出品なさいますか?」

「え? ああ……えっと、みんなどうする?」


 パーティーリーダーとして勝手に決めるわけにもいかず、みんなに確認する。


「誰も雷魔法なんて使わねぇだろ。売っちまおうぜ」

「そうね。売っていいと思うわ」

「うん、私も賛成」


 全員一致で売ることに決まった。

 魔法使いで、一番使う可能性のある咲子が居ないが、ここに居る全員は売ることに賛成の様だ。


「……じゃあ、売ります」

「かしこまりました。では、ダンジョン教会のアカウントをご提示ください」

「え? アカウント…ですか?」

「はい、こちらの紙に手順が書かれた案内がありますので、ご確認ください」


 机の上には丁寧に画像と細かい手順が記された紙が置いてあった。

 それに従い、たった10分でアカウント作成と個人認証のQLコード表示が完了した。


 しかし、ここで俺は一つの疑問が生じた。


「……えっと、出来たんですけど、これって、俺の銀行口座に全額振り込まれるんですか?」


 登録したのは俺の口座だ。他のメンバーには金が分配されないことに気づく。


「そうですね。今登録した銀行口座に入金されます。これは、私たちが推奨している事なのですが、パーティーの場合、共同口座の開設を推奨しております」

「……これはミスったかもな。…すみません、今から中断できますか?」


 このままだと俺が全額を受け取り、分配する際に税金の問題が発生する。

 共同口座を作ってからの方が賢明だ。


「…可能です。ですが、一度出品した後に再度ダンジョン教会に来ていただければ、銀行口座の変更が出来ます。一応注意事項ですが、今登録した本人じゃなければ銀行口座の変更は出来ません」


 …なるほど、それが出来るなら、出品してしまっても構わないか。


「…ではそれでお願いします」

「かしこまりました。では、オークションの開始金額と期間の設定をしてください」

「……すみません。無知で申し訳ないのですが、どの程度が良いのでしょうか?」


 一応俺もオークションの事を調べてきていたが、プロが目の前に居るのだから聞いた方が良いだろう。


「そうですね。下級アイテムの場合、1万円スタートの1週間がスタンダードですね。中級アイテムですと、100万円スタートの10日から20日程度が多いです」


 ……え?俺は今聞き間違えたのだろうか?今100万円スタートって言わなかった?

 俺は後ろに居る3人に目線を向ければ、俺と同じように唖然としていた。

 あまりにも信じられない俺は、岸部さんに聞き返してしまった。


「…えっと、100万円ですか?」

「ええ、そうです。100万円ですね」


 どうやら聞き間違いじゃないらしい。

 って事は5人で割っても1人20万円……。


「……それはすごいですね」

「フフ、」


 俺の反応がおかしかったのか、岸部さんは上品に笑った。


「いえいえ、100万円とは言いましたが、これはあくまで開始金額です。もちろんオークションですので金額は高くなっていきます」


 ……そっか、オークションだから高くなるのか。あまりに高い金額のせいで頭から抜けていた。


「それで、開始金額と期間はどうなさいますか」

「じゃあ、先ほど言った100万円スタートの20日でお願いします」

「かしこまりました。……では、最後に利用規約の方にサインしてください」


 俺のスマホにオークション情報と利用規約が送られてきて、それにチェックを入れた。


「はい、ありがとうございます。これでオークションへの出品が終了いたしました。アイテムの方はご自身で管理してください。落札後、指定の日時までにアイテムを持ってきてください。

 もしも無くされた場合やオークションを取りやめたい時には、出品したアカウントから操作できます。

 また、指定の日時を超えても連絡が無かった場合、1日おきに1万円の損害賠償を落札者が訴える権利が発生します。その所は注意してください」

「わ、分かりました」


 こんな時、咲子が居れば安心なのだが、今は居ない。

 後で情報を確認し合う必要があるな。特に俊介には。


「では、これにて終了です。ご足労ありがとうございました」

「いえ、コチラこそ丁寧にありがとうございます」


 こうして、初めてのオークション出品は終了した。


 それから20日後、オークションの落札価格が500万円を超え、最終的に550万円で落札された。


 あまりの金額に、俺たちは数字を見ながらあたふたして、安いブリキのおもちゃみたいになったのは、内緒なお話。




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