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閑話 面接

短かったので閑話にしました。




 CIAとの会談から2日後の朝。

 朝日が昇るのとほぼ同時に目を覚ました俺は、軽く背中を伸ばし、眠気を追い払った。

 壁掛け時計を見ると、時刻は朝の6時。早い時間ではあるが、清々しい空気に気分は悪くない。


 隣で寝息を立てる玲奈を起こさないよう、慎重にベッドを抜け出す。服を脱ぎ、朝一番のシャワーを浴びるためにバスルームへ向かった。

 9月とはいえ、夏の名残で空気はまだ熱を帯びている。冷たいシャワーが心地よく、体も頭もすっきりする。

シャワーを終え、着替えを済ませると、静かに部屋を後にした。



~~~



 バイク……ではなく、今日は電車に揺られて新宿へ向かう。

 なぜバイクではないのかと言うと、現在バイクは車検に出しているからだ。

 面倒ではあるが、法律を守らないほうがもっと面倒な事態を招く。それを痛いほど学んできた俺は、仕方なく電車での移動を選んだのだった。


「それにしても、相変わらず人が多いな……」


 新宿駅はいつも通りの混雑っぷりだ。人の波が絶え間なく流れ、その勢いに逆らう気力は失せる。仕方なくその流れに乗りながら駅を出る。

 駅を出た後も、さほど人口密度は変わらない。少しうんざりしながらも、俺は人目を避けるように裏路地へと入り、そこで〈黒幕〉を発動して姿を変えた。

 黒いジャージ姿の女へと変わった俺は、目立つことなくダンジョン教会の借りたビルへと向かう。



 ビルに着くと、完全に内装工事が終わり、綺麗なオフィスが広がっていた。

 今日はこの場所で面接を行うため、テーブルや椅子の設置を済ませる必要がある。事前に発注していた備品がすでに届いているため、あとは配置するだけだ。


 ただ、面接開始時刻が10時と迫っているため、準備に追われる形となった。

 時計を見ると、現在の時刻は8時30分。約1時間半で準備を終えなければならない。

 少し焦りながらも、スムーズに作業を進めた結果、30分で面接会場の準備を終わらせることができた。


「よし、これで準備は完了だな」


 ひとまず落ち着いた俺は、カバンからノートパソコンを取り出し、今日の面接者たちの履歴書に目を通す。

 応募者は全部で7人。募集を開始してから2日間という短い期間でこの人数が集まったのは、なかなかの成果だろう。だが、今後のことを考えれば、18人ほどの人員が必要だったのも事実だ。

 仕方なく、まずは1人目の履歴書からチェックを始める。


……


 1時間かけて7人分の履歴書を確認し終わると、全員が20代前後の若者であることに気づく。

まあ、現在仕事をしている大人が条件の良さだけで簡単に転職を決めるわけもない。若い人材が多いのは当然の結果だろう。


「さて、そろそろ時間か」


 時計を見ると、10時まであと5分。

 そろそろ最初の面接者が到着する頃だろう。俺は〈黒幕〉を再度発動し、スーツ姿へと変身する。

 準備していた水を面接者用のテーブルに置いた直後、エレベーターが開き、女性が姿を現した。


「失礼します」


 スーツを着た女性が、少し緊張した面持ちで入ってきた。


「おはようございます。岸辺さんでお間違いないでしょうか?」


 俺は挨拶をしつつ、名前の確認を取る。女性は『はい、そうです』と答えた。

 履歴書に目を通して顔を覚えていたが、一応の確認だ。


「岸辺さん、こちらへどうぞ」


 面接室に案内し、椅子を勧める。


「では改めて。こんにちは、私はスイキョウと申します」


 対面に座りながら自己紹介をすると、岸辺さんは少しぎこちない様子で『こんにちは』と返してきた。

 履歴書によれば、彼女は21歳の大学生だ。おそらく面接の経験は少ないのだろう。緊張で肩が上がっている様子を見ると、確信に変わる。


 だが、私服OKの面接にもかかわらず、しっかりスーツで来ている姿勢は評価できる。俺はこの時点で、彼女を採用する方向で決めていた。


「では、面接を始める前に、少し雑談をしましょうか」


 彼女の緊張をほぐすため、軽い雑談から入ることにした。


「岸辺さんは面接などは初めてですか?」

「い、いえ。一応バイトとか、会社で3回ほど…」

「そうですか。この面接は他の会社とは違い緩い物ですので、あまり緊張せずとも大丈夫ですよ」

「は、はい」


 とは言ったものの、未だ緊張は抜けきってはいない。まあ、ここで緊張を抜けきられても困るのだが。


「ふふ、肩がまだ上がっていますよ」

「…はは、申し訳ありません」

「いや、謝る事はありません。変にこなれているよりかは好印象ですから」


 そうやってゆっくりと緊張をほぐしていく。過去に宗教をやったときに身に着けた『懐に入る話し方』だが、こういった時に役に立つ。


「さて、そろそろ面接の話に入りましょうか。まずは岸辺さんの自己PR…となるのが普通の面接なのでしょうが、生憎として、ダンジョン教会はステータスが大事です。私は〈鑑定〉を所持しているので、今から岸辺さんを鑑定します。よろしいでしょうか?」

「はい」

「では、〈鑑定〉」


 声を出さずとも〈鑑定〉は使えるのだが、一種のマナーとして鑑定と言った。

 そして、その鑑定結果がこれだ。


ーーー

種族:人

名前:岸辺 里香

職業:商人(0/10)

レベル:9

スキル:〈鑑定(9/10)〉〈話術(0/10)〉

ポイント:0

ーーー


 まあ、平凡なステータスだ。レベルも9だし、ダンジョンに行ったのも1、2回程度なのだろう。それでも〈鑑定〉のレベルが9ある。多分だが、玲奈の『正社員の場合には〈鑑定〉のスキルがレベル10の条件を満たしている事』を聞いてレベルを振ったのだろう。21歳ってことは大学3年生だろう。で、あれば、そろそろ就職を考える時期だな。


「なるほど。〈鑑定〉がレベル9ですか」

「はい」

「それで、ですが。岸辺さんはダンジョン教会の正社員になる事を考えているのでしょうか?」

「は、はい。そうです。大学在籍中はアルバイトとして勤めようと思いますが、ゆくゆくはダンジョン教会に就職を、と考えています」


 なるほどね。今の所〈鑑定〉を持っていう人材は貴重だ。それが大学卒業後に就職してくれると考えれば嬉しい。


「そうですか。一応ですが、ダンジョン教会の正社員になるためには〈鑑定〉のレベルが10必要です。それは分かっていますよね?」

「はい」

「では、あと1レベルを上げる必要がありますね。大学卒業までに〈鑑定〉のレベルを10にしてきてくださいね」

「分かりました」


 それから細かな面接事項を聞いていった。

 面接時間は1人30分を取っていたが、何ら支障なく終わり、結局20分そこらで終わった。


「契約事項は先ほど確認した通りです。では岸辺さん、翌日からお願いしますね」

「はい!」


 こうして1人目の面接が終わった。

 ………

 ……

 …

 それから6時間後の午後5時。やっと7人目の面接が終わり、一息つける。

 まだ夏が続いていると言う事もあり、窓の外から見える景色は昼の様に明るい。

 本当に午後5時かと疑いたくなるが、時計はしっかりと5時を指していた。


「はぁ、やっと終わった。予定より少なかったとは言え疲れたな」


 本当ならば10人の面接を予定していたと考えれば、少なくて良かったと思う。


「さて、と。今日は豪勢な夕食でも買って帰ろうか」


 今日の面接を振り返りながら、自分へのご褒美に豪勢な夕食を買って帰ることにした。



~~~



 1時間半の電車移動を経て横浜駅に到着し、高級肉店でテイクアウトを購入した俺は、ラブホテルへと戻った。

 時計を見ると、すでに午後7時を過ぎている。外は茜色の空が広がり、子供たちの声やカラスの鳴き声が響いている。


「ただいま」


 部屋に戻ると……目の前に立っていたのは、裸エプロン姿の玲奈だった。


「……一応聞くが、何故裸エプロンなんだ?」

「え?……突然思いついて」


 玲奈は手に持っている漫画を隠しもせず、照れ笑いを浮かべる。どうせまた、古典的なシーンに影響されたのだろう。


「正吾さん、ごはん……」

「それ以上言わなくていい。風呂に入る」

「あれ?ここはテンプレが……」


 玲奈のテンプレ発言を遮り、俺は風呂場へ直行した。


 シャワーを浴び、湯船に浸かると、一日の疲れが溶けていくようだった。

 だが、その穏やかな時間も長くは続かない。


「入りますねー」


 玲奈が呑気な声を上げながら侵入してきた。

 裸で入ってくる玲奈を、俺は慣れた様子でジト目で見つめる。

 ため息が自然と漏れた。


「はぁ……」


 ……今日は勘弁してくれ。


 


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