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第三十四話 熱海での温泉のハズが……




 5階層の帰還門から地上に戻り、俺たちはいつものように警備員の目を避けながらダンジョンを離れ、ラブホテルへと帰ってきた。


 時刻は午後2時。夏の日差しが強烈で、じっとしていても汗ばむほどだ。

 部屋に入るなりクーラーをつけ、汗ばんだ体を冷気で冷やす。


 何か食べる前にまずはシャワーだ。

 体にまとわりついた汗と、6階層の湿地の臭いを洗い流すために浴室へ向かう。


 冷たいシャワーでさっぱりした俺が浴室から出ると、玲奈も既にシャワーを浴び終え、髪を乾かしているところだった。


 俺もドライヤーを取り、髪を乾かしながらSNSやニュースをチェックする。


 SNSは相変わらずダンジョン関連の話題で持ちきりで、攻略動画や解説動画が無数に投稿されているようだ。


 それに伴い、『聖女セイント』のチャンネル登録者数も増加中。

 とはいえ、俺は広告収入を得ているわけでもないので、あまり興味は湧かない。


 政府の追加発表も特に見当たらず、一通り確認を終えた俺は、スマホをベッドの上に放り投げる。


「玲奈、もう2時だけど昼飯はどうする?」

「そうですね……今日は動き回りましたし、ガッツリとした物が食べたいです」

「ガッツリ系か。肉はどうだ?」

「いいですね、肉!」


 玲奈の即答を受け、俺はスマホで近隣の焼肉店を検索した。

 横浜には高級店も多いが、ちょうど良さそうな店を見つけ、予約の電話を入れる。


「では、その時間でお願いします」


 予約を終えると、支度を終えた玲奈を連れて外へ出た。



~~~



「いやー、美味かったな」

「ちょっと食べすぎちゃいました。夕飯は入らなそうですね」


 俺と玲奈はお腹をさすりながらタクシーから降りると、ラブホテルに戻ってきていた。

 あまりにも日常になりすぎて、ラブホテルとは一切認識していない俺は、すれ違うカップルを無視しながら自室に向かった。


「……はぁ、飯は美味かったけど、そろそろこれを何とかしなくちゃな」


 視線を向けた先には、床を埋め尽くすように散乱したダンジョンアイテムの山。

 あまりにアイテムが多くて、端っこの方の床は見えなくなり始めており、ゴミ屋敷一歩手前みたいな状態になっていた。

 これでも、一部のアイテムはコンテナ倉庫にしまっているのだが、それでも溢れてしまうほどに多い。


 特に場所を取っているのが〈ポーション〉だ。4階層のホブゴブリンが低確率でドロップするこのアイテムだが、膨大な数を狩った結果、部屋はほぼ埋まりかけている。


「まあ、涼太が言っていたオークションサイトがあと1、2週間で完成すれば、少しは片付くか」


 とはいえ、現状はストレスだらけ。隣の玲奈の部屋も同様に物で溢れており、どちらの部屋も「ゴミ屋敷」と表現するのが適切な有り様だ。

 ストレス解消のために、どこかに出かけることを決めた俺は、玲奈を誘う。


「玲奈、俺これから出かけるけど、一緒に行くか?」

「……正吾さんが誘うなんて珍しいですね。でも行きます」


 既に支度を済ませていた玲奈と共にタクシーに乗り込み、行き先を告げる。


 「新横浜駅まで」


 車内でスマホを操作し、新幹線と宿の予約を済ませる。横浜から新横浜までは車で15分ほど。駅に到着すると、予約していた新幹線の切符を受け取り、列車に乗り込む。


「……ところで、これからどこに向かうんですか?」

「言ってなかったっけ。熱海の温泉に行く」

「温泉、ですか。いいですね」


 東海道新幹線で約40分。俺たちは観光地として名高い熱海駅に到着した。

 駅前には人々が行き交い、リゾート地ならではの活気に溢れている。


 先ほど予約した宿へ向かうためタクシーに乗り、山道を進むこと数分。ようやく宿に到着した。


 本当は海に近い宿に泊まりたかったのだが、夏休みシーズン真っ只中、当日予約ができるのは山の上にある宿だけだった。


「さて、早速だけど、俺は温泉に行ってくる。玲奈はどうする?」

「もちろん一緒に行きます。混浴があれば一緒に入りたいですね」


 ……事前に調べておいて良かった。この宿には混浴はない。

 4か月の同居生活で、玲奈がこう言い出すのは想定済みだ。


「残念だけど、ここには混浴はない」

「あら、それは残念ですね」


 玲奈はにこやかにそう言うが、正直俺としては安心だ。

 ラブホテル生活中、玲奈が風呂場に突撃してきたことは一度や二度ではない。そのたびに、色々な意味で大変な思いをしているのだ。


「じゃあ、行ってくる」


 男女別の暖簾をくぐり、俺は広々とした温泉に浸かった。



〜〜〜



 結局1時間ぐらいお風呂に入っていた俺は、ポカポカの体に着物を着た姿で部屋に戻ってきた。

 既に玲奈は上がっていたようで、クーラーの下で涼みながら休んでいた。


 俺も冷たい物を求めて玲奈の隣に座り、クーラーから出る涼しい風を全身で受け止めた。


「はぁ、気持ちよかった」

「…ですねー」


 いつもとは違い玲奈の反応が遅いが、それも仕方が無いのだろう。


 今日は朝からダンジョンに潜り、5階層のボスモンスターを倒した後に6階層を探索している。運動量で言えば4階層のホブゴブリン狩りの方が高いが、精神的な疲労は圧倒的に今日の方が高かった。


 それもあって、人一倍お風呂を楽しめた面もあるから、決して悪いモノでは無い。


 なんて考えていると、隣に座っている玲奈が俺の方に倒れてきて、膝の上に頭を乗せてきた。

 いわゆる膝枕という体勢なのだが、玲奈は撫でてほしそうな目で俺を見てくる。


 昔ならばぎこちなくも頭を撫でていたのだろうが、今は当たり前の様に撫でる事が出来る。

 さらさらの髪の毛に、暖かい体温に、何故だか安心感を覚えてしまう。


「玲奈……ちょっと、ケモミミと尻尾、出してくれないか?」


 俺のリクエストに、玲奈は一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、渋々〈姿変化の指輪〉を外してくれた。

 指輪を外した瞬間、玲奈の頭には狼の耳が、そして腰にはふさふさの尻尾が現れる。


 転生から音沙汰が無かったから忘れていたと思うが、玲奈は種族が〈獣人(狼)〉なのだ。


 あの〈姿変化の指輪〉の指輪はお風呂の時以外は外さず、なかなか触らせてくれない。一緒にお風呂に入る時には、玲奈は素っ裸と言う事もあり、俺も触りたくても触れない状況だった。


 しかし、今日は熱海と言う温泉街に来て、温泉に入った事で気分が上がっている今ならば触らせてくれると思ったのだ。

 その予想は的中して、今現在ふわふわの尻尾を堪能している。


「はぁ、やっぱ玲奈の尻尾は良いな」

「…っんぁ。……あんまり触りすぎないでくださいね。正吾さんが思っている以上に敏感なので……」


 玲奈の抗議は耳に入らず、俺は夢中で尻尾を撫でる。ふわふわの毛並みは、まさに至福そのものだ。

 だが、調子に乗りすぎたのか、玲奈が不機嫌そうに距離を取られてしまった。


「ちょっと、正吾さん触りすぎです」

「あぁ、モフモフが……」


 名残惜しい両手が、尻尾を触っていた形で動いている。その手を見た玲奈は、さらに距離を取ってしまった。


 玲奈はポケットから〈姿変化の指輪〉を取り出すと、指に装着してしまう。そのせいで、ケモミミと尻尾が消えてしまった。


「あぁ、モフモフが……」

「正吾さん。もう終わりです。って、なんでそんなに悲しそうな顔をしているのですか?」


 それはもちろんモフモフが無くなったからだ。

 でも、流石にこれ以上やったら玲奈に嫌われるだろう事を察した俺は、素直に諦めるとベッドに横になった。


 大の字でベッドに寝転がれば、力が抜け、体中の疲労がベッド側に吸収されていく。

 目を閉じればこのまま寝れそうだったが、それを遮ったのは、……大量の天の声だった。


≪確認しました。一定量の魔素の吸収を確認しました。レベルアップを実行します。……確認しました。レベルアップしました≫

≪確認しました。レベル500に到達したことで転生が出来るようになりました。転生はステータスから可能です≫

≪……確認しました。レベル500に到達した事を確認しました。スキル〈帰還魔法〉を取得しました≫

≪……世界初のレベル500に到達した事を確認しました。スキル〈十悪五逆〉を取得しました≫

≪確認しました。〈十悪五逆〉を取得した事により、全人類のステータスにカルマ値が表示される様になりました≫


 さっきまでは寝れそうだったのに、今の点の声を聞いて完全に目が覚めてしまった。

 そして、隣を見れば時間差をおいて玲奈もレベル500になった様で、俺の方に目線を向けてきていた。


「玲奈もレベル500になったか」

「はい、色々と通知が来ました」


 もしも、この通知が旅行以外だったら嬉しかったが、今は全てを忘れて温泉に来ているのだ。

 現実に戻される様な通知は嫌気がしてくる。


「はぁ、全くタイミングと言うものを考えて欲しいよ」


 そう愚痴を言いながらも体勢を起こすと、頭を動かすためにコーヒーを買いに部屋を出た。


 自販機でコーヒーを買うと、一気に体に流し込む。苦い風味が鼻から抜けていくが、その香りが体の眠気を覚ましていく。


「嫌だが、確認だけはしておくか」


 俺はそう自分に気合を入れると、自室へと戻っていった。




この時、ちょうど熱海に行っていました。そう言った個人的な事から熱海に2人を連れて行きました。

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