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第三十三話 6階層




 〈月狼のオーブ〉の件は一度置いておき、俺たちは小休止を取ることにした。


「…で、玲奈。ボスモンスターを1人で倒せた訳だけど、6階層に行くか?」

「そうですね……まだ時間的に余裕がありますし、見るだけなら行ってみるのも良いかもしれませんね」

「じゃあ、そうするか。俺の予想だけど、6階層はレベル200オーバーのモンスターが出てくるのは確定だろうな。下手したら、レベル500の化け物がいてもおかしくない」


 そうは言ったものの、さすがにレベル500のモンスターが出てくる可能性は低いと考えている。ただし、警戒しすぎるということはないだろう。



~~~



 休憩を終えた俺たちは、6階層へと続く階段を慎重に下っていく。気を張りながら進むせいか、いつもよりも階段が長く感じる。


 降りるにつれて、腐臭のような嫌な臭いが鼻を突き、空気が湿っぽくなっていくのがわかる。階段の下が近づくにつれ、その湿気は肌にまとわりつくほどに増していった。


 ついに6階層と思われる光が見え始める。


「…玲奈、ここからが6階層だ。気を引き締めていくぞ」

「はい」


 俺が先頭を歩き、慎重に進む。そしてついに足を踏み入れたその先には……。


「これは……湿地帯、か?」


 そこに広がっていたのは、緑の靄が漂う広大な湿地帯だった。

 足元を確認するが、地面はぬかるんでいて、歩きにくそうだ。そして、それ以上に問題だったのは……。


「ゴホッ!」


 6階層の空気を吸い込んだ瞬間、反射的に咳き込んでしまった。

 思いがけない体の反応に驚いた俺は、咳を受け止めた右手を見下ろす。


「……血?」


 そこには、少量ながら血が混じっていた。俺は慌てて振り返り、玲奈の様子を確認するが……。


「……玲奈、お前、大丈夫なのか?」

「え?はい、特に問題はありませんよ」


 玲奈は平然とした様子で湿地帯を観察している。


「……ちょっとこれを見てくれ」


 俺は右手を見せる。

 玲奈は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静な目で俺の手を確認した。


「……これは正吾さんの血ですね?咳き込んだ時に出たんですか?」

「ああ、そうだ。だけどお前はなんともないみたいだな?」

「はい、今のところ体調に異常はありません」


 どういうことだ?何故俺だけが血を吐いている?


「……まさか」


 すぐに思い当たる原因を考え、俺はステータスを開いた。


ーーー

種族:エルフ

名前:水橋 正吾(状態異常:毒)

職業:半人半神(0/300)

レベル:498

スキル〈話術(0/10)〉〈鑑定看破(0/10)〉〈偽神偽装(10/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配感知(3/10)〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈状態異常耐性(0/10)〉〈半神(100/100)〉〈神通力(100/100)〉〈精神強化〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈夢幻泡影〉〈一騎当千〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈一樹百穫〉〈輪廻転生〉〈一発必中〉〈信仰信者(使用不可)〉〈神の目〉〈黒幕〉

加護:アリシアの加護

ポイント:85

ーーー


 名前の横に『状態異常:毒』と書かれている。これが血を吐いた原因なのだろう。

 そして、玲奈が何故この毒に影響されていないのかもすぐにわかった。玲奈のスキル〈慈愛の抱擁〉があるからだ。


ーーー

〈慈愛の抱擁〉

・自身に受ける状態異常を完全無効化する。

・触れた相手の状態異常を解除する。

ーーー


「玲奈、ちょっと俺の体に触れてみてくれないか?」


 玲奈は俺の指示に素直に従い、俺の肩に手を置いた。

 途端に、全身が軽くなる感覚が走り、呼吸も楽になる。


「ありがとう。やっぱり玲奈のおかげで楽になったよ」

「いえ、それよりも、やはりこのフロア全体が毒の霧に覆われているようですね」


 どうやら、これは初めて受ける『状態異常』と言うヤツなのだろう。

 やはり俺が予想していた通り、5階層で出た〈解毒の指輪〉は6階層で使うから出て来たのだろうな。


「ありがとう、良くなったよ。それよりも、この6階層は毒の霧が充満している様だ。俺にも一応〈状態異常耐性〉はあるものの、玲奈ほど無敵では無い。もしかしたら6階層の攻略には、さらなる時間が掛かるかもしれない」

「そうですね。ですが、とりあえず〈状態異常耐性〉を上げてはどうです?」

「そうだな。っと、その前に、何秒で毒になるのか知っておきたい」


 俺は実験に玲奈から手を離すと、空気を深く吸い込みながらステータスを確認する。

 すると、3回呼吸した時点で、大きくむせた。ステータスにも『状態異常:毒』が表示されている。


 俺は玲奈に直ぐに触れて状態異常を解除すると、次に〈状態異常耐性〉のレベルを1づつ上げていく。

 そして、先ほどと同じように、玲奈から手を離すと、何秒で毒になるのかを調べていった。

 その結果の一覧表がこれだ。


 レベル1。深呼吸数5回。毒になるまでの時間は15秒。

 レベル2。深呼吸数10回。毒になるまでの時間は30秒。

 レベル3。深呼吸数30回。毒になるまでの時間は90秒。

 レベル4。毒にはならなくなった。


 と、こんな感じだ。

 どうやら6階層の毒を無効化するには〈状態異常耐性〉のレベル4相当は必要なようだ。このレベル4を〈解毒の指輪〉の様に装備だけで埋めるとなれば、どれほどの数が必要になるのだろうか?


 手がメリケンサックの様に、ジャラジャラと〈解毒の指輪〉で埋め尽くされるのは勘弁してもらいたい。

 もしも、これが6人パーティーに加え、玲奈の様な回復役がいなければ〈解毒の指輪〉が何個必要になるか想像もしたくない。

 それだけのアイテムを周回して集めると考えると、嫌気がする。一体どれだけの時間が掛かるのか。


 しかし、幸運な事に、俺たちは状態異常に対しての対抗手段を持っている。故に、乱数によって苦痛を味わうボス周回をしなくてもいいのだ。


 ありがたきかな、スキル様。


 それはともかくとして、毒を無効化出来た俺たちは、見物程度に6階層を探索して見る事にした。


 6階層は4階層と同じようにオープンワールドとなっている。

 そのため、階段の場所が確認できる位置までの探索が安全なラインと判断して、近くを重点的に探索することにした。


 歩きずらい沼地を進み、しばらく歩いていると、この6階層であろうモンスターを見る事が出来た。


「あれは…スライム?ですかね」

「だろうな」


 玲奈が指を指した先。その霧が煙る先には、緑色に汚く濁っている粘液生物が居た。

 何十メートルも離れているのにも関わらず、一目で俺たち以上に大きい事が分かる。


 一体何メートルあるのかと思いながらも、俺はすかさず鑑定を使用した。


ーーー

種族:メガポイズンスライム

名前:未設定

職業:七毒術師 

レベル:300

スキル:〈七毒術〉〈状態異常無効〉〈物理攻撃耐性〉〈痛覚無効〉〈物性変化〉〈融合〉〈再生〉〈魔法攻撃弱化〉

ーーー


「……うわぁ」


 俺は、ステータスを見た瞬間に帰りたくなった。


 メガ・ポイズン・スライムか。直訳すれば『大きくて毒を持った粘性生物』と言う事になるのだろう。

 スキルにもポイズンのスキルであろう〈七毒術〉と言う物がある。内容は分からないものの、不穏なニオイがプンプンと臭ってくる。 


 それ以外にも、〈物理攻撃耐性〉は見るからに厄介そうだ。〈魔法攻撃弱化〉があるから、魔法で攻撃しろと言っているのだろうけれど、魔法は玲奈しか持っていない。

 つまり、6階層で俺は役立たずが決定した。


 ま、まあ。索敵とか…ね?色々あるから……。


 なんて自分を慰めていると、スライムが俺たちに気づいたようだ。のそのそと遅いスピードで、俺たちの方に近づいてきた。


「……玲奈、このスライムは魔法が弱点みたいだ。物理攻撃が効きづらいのと、未知の〈物性変化〉〈融合〉〈再生〉がある。そこら辺を気をつけろ」

「分かりました。じゃあ、まずはジャブとして〈神術魔法〉を使いますね」


 玲奈は返事と共に〈神術魔法〉を使用すると、直径1メートルは在ろうかと言う光の矢を作り出した。

 そして、その巨大な光の矢をメガポイズンスライムに向かって放つ。


 凄まじいスピードで、真っすぐと飛んでいった光の矢。

 それは、のろまな動きをしていたメガポイズンスライムに突き刺さると、大穴をうがった。


 どう見ても致命傷。

 勝ちを確信した俺は、警戒を解こうとした……が、メガポイズンスライムが小さく震えた。


 何事かと思い目を凝らしてみる。

 すると、メガポイズンスライムが一瞬にして膨張したかと思えば、即座に大穴を塞いだ。


「まじか…。治りやがった。……〈再生〉のスキルか」

「それだけじゃありません。あの一撃は、普通の生物ならば致命傷になりうる物でした。それがすぐに再生するのはおかしいです」


 つまり、先ほどの光の矢はスライムにとって一撃で死なないどころか、致命傷にすらなっていないと言う事なのだろう。


 遠距離から観察をしていると、メガポイズンスライムが震えた。まるで水滴が落ちた時の様な波紋がメガポイズンスライムを駆け巡ると、瞬間、何かが飛来してきた。


 飛来物のスピード自体は遅く、余裕を持って躱す。

 しかし、俺たちは危機感を覚えていた。


「……なんだこれは?」


 飛来物が着弾した所は、ドロドロと溶けていたからだ。

 まるで、強酸性の液体のように……。


「……これはすごいな。岩をここまで迅速に溶かすとは」

「何言っているんですか。さっさと倒しますよ」


 途轍もない腐食性を見せる液体に興味津々の俺だが、玲奈は飽きれていた。

 さて、玲奈の言う通り、さっさと倒しますか。


 一見無敵に見え、お手上げ……とはならないのが、俺のスキルである〈半神〉だ。


 このスキルの副産物として、周囲の物を把握できると言う物がある。そのおかげで俺には、スライムの中に核と思われる丸い物質がある事に気が付いていた。


「玲奈、あいつには核がある。3メートルの巨体に対して直径5センチほどの小さな球状が核だ。スライムの体中を縦横無尽に動き回っていて、狙い撃ちをする事は無理だから、範囲攻撃で仕留めろ」

「分かりました」


 玲奈は頭上に無数の小さな光の矢を生成する。

 一つ一つは弱く大したダメージにはならない。しかし、空間を埋め尽くすように展開された光の矢は、メガポイズンスライムを飲み込むように放たれた。


 いくら核が小さくとも、空間を埋め尽くす光の矢の前では逃げ場など無い。必然的に1本の光の矢が核を捉え、貫いた。


 核を貫かれたスライムは、体の再生どころか維持する事も出来ずに、粘性のある液体へと変わる。


「どうやら、やったみたいだな」

「はい、ですが、1体にこれだけの力を使うとなると、少し厳しいかもしれません」


 俺は玲奈の方に振り返ってそう言ったが、玲奈は少し呼吸が乱れ、額に汗が浮いている。


「…どのぐらい持つ?」

「……あと4回が限界ですね」


 その言葉に、俺は探索を切り上げることを決めた。


「よし、今日はここまでだ。帰ろう」

「はい」


 玲奈に肩を貸しながら、俺たちは6階層を後にした。




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