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第三十一話 嫉妬?恋心?




≪確認しました。一定量の魔素の吸収を確認しました。レベルアップを実行します。……確認しました。レベルアップしました≫

≪確認しました。初めての5階層ダンジョンボス討伐を達成しました。スキル〈精神強化〉を取得しました≫

≪確認しました。世界初の5階層ダンジョンボス討伐を確認しました。…これまでの行動を解析中…スキル〈黒幕〉を取得しました≫

≪確認しました。ダンジョンボス討伐により中級宝箱を出現させます≫

≪確認しました。ダンジョンボスクリアにより、地上への帰還門を開放します≫


 天の声が淡々と告げる通知音が、静かな空間に響き渡った。

 3階層のボスを倒したときと似たようなメッセージだが、今回は報酬が段違いに豪華だ。


 だが、それよりも先に言うべきことがある。


「玲奈、お疲れ様」


 俺は自然と笑みを浮かべながら、玲奈に向かって手を差し出す。

 玲奈は嬉しそうに頷くと、その手に自分の手を合わせ、乾いた音を響かせた。


「最後の一撃、助かったよ。さすがだな」

「えへへ、ありがとうございます!」


 玲奈の頭に手を置き、軽く撫でる。


 こんなやりとりは何度もしてきたはずなのに、今日の玲奈はどこか違って見えた。いつもよりも眩しく、そして可愛い。

 そんな自分の心臓の鼓動に気づき、慌てて話題を切り替えることにする。


「さて、まずは取得したスキルを確認するか」

「そうですね!」


 玲奈の頭から手を離し、俺は自身のステータスを開いた。


ーーー

種族:エルフ

名前:水橋 正吾

職業:半人半神(0/300)

レベル:497

スキル〈話術(0/10)〉〈鑑定看破(0/10)〉〈偽神偽装(10/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配感知(3/10)〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈状態異常耐性(0/10)〉〈半神(100/100)〉〈神通力(100/100)〉〈精神強化〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈夢幻泡影〉〈一騎当千〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈一樹百穫〉〈輪廻転生〉〈一発必中〉〈信仰信者(使用不可)〉〈神の目〉〈黒幕〉

ポイント:84

ーーー


 増えたスキルは2つ〈精神強化〉と〈黒幕〉だ。

 玲奈に聞いた所、〈精神強化〉を持っていた。どうやらこれは〈身体強化〉と同じで、固定でもらえるものなのだろう。

 ちなみにだが、スキル効果はこんな感じだ。


ーーー

〈精神強化〉

・レベルに応じて精神体を強化する。

〈黒幕〉

・自身のステータス、姿を自由自在に変化させる事ができる。

・このスキルはあらゆる鑑定看破スキルに見破られない。

ーーー


「……〈精神強化〉はともかく、この〈黒幕〉って……」


 俺の心中を察したのか、玲奈が苦笑いを浮かべながら覗き込んでくる。


「正吾さんに似合っている気がしますけど?」

「似合ってないだろ!俺はそんな悪そうな奴じゃない!」

「ふふっ、そうですか?」


 玲奈が肩をすくめながら、今度は自分のステータスを開いて見せてきた。


ーーー

種族:獣人(狼)

名前:一ノ瀬 玲奈

職業:メシア(0/300) 

レベル:497

スキル〈再生(10/10)〉〈浄化(1/10)〉〈啓示(1/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配探知(1/10)〉〈神術魔法(10/10)〉〈神の加護(10/10)〉〈殺戮の病(10/10)〉〈死者蘇生(100/100)〉〈救世主(100/100)〉〈精神強化〉〈異端審問〉〈慈愛の抱擁〉〈神懸かり〉〈輪廻転生〉〈奇跡〉〈アイドル〉

ポイント:44

ーーー


 ……?アイドル?……誰が?玲奈が?アイドル?


「玲奈、お前いつからアイドルになったんだよ」

「なってませんよ!」


 でも、まあ、玲奈がアイドルと言われても納得してしまう自分がいる。

 そこらのモデル以上に可愛い玲奈は、アイドルとしても第一線をやっていける素質を持っている。


「玲奈がアイドルなのは分かったけど、スキルの効果はなんだ?」

「アイドルにはなっていませんけど、スキル内容はこうです」


ーーー

〈アイドル〉

・推しの数×0.01の身体強化バフを受ける。

・バフの上限50%。

ーーー


 ほお、名前で舐めていたが、スキル自体は優秀だ。

 このスキルの計算式で言えば100万人の推しがいれば、スキルのマックス値に達する事ができる。そして、今現在の人気を考えれば…。


「玲奈、今の推しの数はいくつだ?」

「70万人ちょっとですね」


 と、100万人まであと一歩と言える数になっている。

 時間経過と共に、話題が広がれば、さらに推しの数は増えるだろう。こちらが何かしなくても、100万人にはいずれ達することだろう。


「…なあ、玲奈。一ついいか」

「なんでしょう?」

「毎度思うのだが、なんで玲奈の方が戦闘に向いているスキルばっかあるんだ?」


 そう、なぜか玲奈の方ばかりに、戦闘に特化しているスキルが生えてくる。

 俺のはほとんど戦闘とは関係がなく、後衛職にすら着けないスキルばかりだ。それを加味すれば不公平と言わざるおえない。


「それは……素質、じゃないでしょうか?」

「それ、マイルドに言っているけど、才能の差って言っているも同然だよね!」

「そんな事は……ないですよ?」

「……はぁ、そうですよ。所詮俺なんて玲奈に負ける情けない男さ」

「なんですか?急にいじけて?正吾さんらしくありませんね」


 玲奈はそう言ったが、やはり才能のある人間には、才能がない人間の気持ちなどわからないのだろう。

 俺がどれだけ仕事の合間で自己鍛錬して、どれだけ考え抜いたとしても、天才はそれを容易に超えてゆく。


 玲奈の最後の一撃。あれは、今の俺では絶対にまねの出来ない物だった。

 チーターの様にしなやかで、ヘビの様に飛びつき、カワセミの様にジェネラルゴブリンの心臓を貫いた。

 一連の動作のどれを見ても、完璧で完成されていた。


 あれはどんなに練習しても、たどり着けない一種の領域。

 それに俺は悔しいが嫉妬していた。


「ちょっとトイレしてくるわ」


 俺は1人になりたくて、完全に嘘だと分かる言い訳を口にし、その場を離れた。

 門の外に出て壁にもたれかかると、胸に燻るこの感情の正体を探るべく、内面に意識を向けた。


 俺はこれまで、『劣等感』というものを感じたことがなかった。

 いや、正確に言えば、『妬み』や『嫉妬』という感情を抱いた経験がなかった。


 俺は勉強も運動も人並み以上にでき、ルックスにもそこそこ自信があった。


 当然、自分より優秀な人間はいる。俺より頭のいい奴も、運動神経抜群の奴も、イケメンも見てきた。だが、そんな連中を目の当たりにしても、自分の価値が揺らいだことは一瞬もなかった。


『俺は俺』


 どんな状況でも、自分が一番だ。家族ですら二番手にすら入っていない。……今までは。

 気持ち的には認めたくないが、無意識の内に玲奈の価値は嫉妬を抱くほどに上がっていた。


 ……いや、自分の内心だ。素直に言おう。

 俺は命を懸けてでも玲奈を守りたいと、心のどこかで思っている。

 だからこそ、玲奈よりも弱い自分と言うのが許せないのだ。


「はぁー。我ながら情けない」


 男として、人として情けないと思うが、こんな感情になったのは初めてで、自分でどう処理すればいいのかが分からない。

 吐き出せば楽になれるとは思うのだが、こんなところを玲奈に見られたくない。


 ……??


 なぜ俺は今、玲奈に見られたくない、と思ったのだろうか?


 別にいつも一緒にいる玲奈に感情を吐き出すのが一番合理的なはず。

 これまで過ごしてきた感覚から言って、この程度で玲奈が俺を嫌う事は絶対に無いと断言できる。


 しかし、それが分かっていても、なぜか玲奈にこの感情を曝け出したく無かった。


 答えの出ない思考が頭の中を堂々巡りする。どれだけ考えても結論に至らず、ただ時間だけが過ぎていった。


「正吾さん?トイレにしては長すぎません?」


 突然、玲奈の声が門の隅から聞こえてきた。

 考え事に集中していた俺は驚いて、思わず身を固くする。


「れ、玲奈!」

「何でそんなに驚いているんです?」


 玲奈がひょこりと顔を出してきた。俺の状態を確認するように、少し首を傾げている。

 そして、ズボンすら下ろしていない俺を見て、不審そうな目を向けてきた。


「正吾さん?トイレしていたんじゃないんですか?」

「あ、ああ、トイレした後に考え事をしていたんだ」


 苦しい言い訳をしてみたが、玲奈は目にも止まらない速さで俺の胸ぐらを掴むと、顔をグッと近づけてきた。


「正吾さん、トイレは嘘ですよね?」

「い、いや」

「私に嘘は通じませんよ」

「う、嘘じゃないが?」


 玲奈の目は冷たく鋭い。逃げ道などないことを理解した俺は、ただ口ごもるしかなかった。


「はぁ、いつもならすぐに嘘を認める正吾さんが、ここまで認めないとは……何かあったのですか?」

「……」

「言いたくない、……ですか。まあ、正吾さんにも色々ある事ですし、今回は聞かないであげます」

「ああ、ありがとう」


 玲奈は俺の胸ぐらを放すと、軽くため息をつきながら歩き出した。

 俺は心臓の鼓動を抑えながら、その小さな背中を見つめていた。


「ところでですけど、この宝箱開けていいですか?さっきから気になっていたんですよ」


 玲奈が小さくしゃがみ込むと、床に転がっている中級宝箱を指さした。

 考え事をしていた俺はすっかり忘れていたが、そういえばそんなのがあったな。


「ああ、そうだな。開けてみてくれ」


 玲奈が蓋を開けると、中から指輪がひとつ現れた。


「これ……指輪でしょうか?」


 玲奈はそれを摘み上げて俺に見せる。鑑定しろと言っているのだろう。俺は静かにスキルを発動させた。


ーーー

〈解毒の指輪〉

・毒物を常に解毒する。

・解毒以上に毒を摂取した場合、毒の効果は表れる。

ーーー


「〈解毒の指輪〉だそうだ。説明するまでもないだろう?」

「なるほど。毒を解毒してくれる指輪ですか。政治家や独裁者が欲しがりそうな品ですね。高く売れそうです」


 玲奈がにこやかにそう言い放つ。最初に『売る』という発想が出てくるあたり、すっかり金銭感覚も鍛えられたようだ。


「売るのもいいが、この指輪……なんだか引っかかるんだよな」

「引っかかる、とは?」

「3階層の宝箱では、状態異常に対応するアイテムなんて出なかっただろう?それが急にここで出てきた。つまり、これから先、毒が関係する何かがある可能性が高い」


 俺の説明に納得したのか、玲奈は少し考えた。


「……確かに、保険として取っておくべきかもしれませんね。売るとしても販売ルートが整うまでは時間がかかりますし」

「そういうことだな」


 そうだな。今頼んでいる涼太のオークションサイトの他に、色々と準備を進めている。

 ああ、帰ったらそっちの連絡や事務作業を終わらせなければ…。……鬱になりそう。




なぜ玲奈がトイレしていた事を嘘だと断定できたか?理由は2つある。

一つ目は、臭い。トイレしたはずなのに、トイレ特有のにおいがしなかった事。

二つ目は、もしもトイレをしたとしても、下水道が無い為に、臭いがある場所で考え事をする人など一人もいないという理由。


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