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第三十話 リベンジの5階層




 ダンジョンが解放されて1週間が経った。


 あれから一度もダンジョンに潜ることなく、聖女やダンジョン教会の雑事に追われる毎日。

 そのおかげもあって、SNSでのダンジョン教会の信者数は300万人を越え、400万人に届こうとしている。


 しかし、それ以上に驚くのは、ダンジョンで認定されるダンジョン教会の信者数が、なんと1000万人に迫ろうとしていることだ。

 正直何が起こっているのか分からない数字だが、そのおかげで経験値がありえない量入ってきている。


 もはや天の声がほぼ毎時間鳴り続け、耳にタコができそうなくらいだ。玲奈と『流石にこんなにも聞くと、嬉しくないな』と皮肉を言い合ったりしては笑う。


 マジでノイローゼになりそうなほどの状況だが、それも嬉しい悲鳴の一種だろう。


 そしてついに、雑事がひと段落し、ダンジョンに潜れる余裕ができた。


 玲奈もストレスが溜まっていたらしく、朝6時に叩き起こされ、すぐに着替えるように指示されると、午前8時にはダンジョンへ向かっていた。


「ねえ、ちょっと早すぎない? 俺、もう少し寝たいんだけど……」

「そんなことはありませんよ。小学生だって午前8時には学校に登校しています」

「……確かに」


 一発で論破された俺は、眠い体を引きずりながらダンジョン内を進むしかなかった。


 相変わらず、4階層までは玲奈がモンスターを倒してくれたおかげで、楽をさせてもらった。

 玲奈もストレスを発散できるし、俺は楽できる。まさに最高のWin-Winな関係だ。しかし、5階層に挑むとなれば、そうはいかない。


 自分に喝を入れ、眠気を覚ますため、強く頬を叩いた。

 痛みがビリビリと響くが、そのおかげで一発で目が覚める。


「よし、じゃあ5階層に行くか。一旦、事前の確認と装備の整備を行うぞ」


 だらけていた雰囲気から一転、リーダーとしての空気を纏い、カッコよく指示を出す。

 俺はまず、自分のステータスを確認した。


ーーー

種族:エルフ

名前:水橋 正吾

職業:半人半神(0/300)

レベル:495

スキル〈話術(0/10)〉〈鑑定看破(0/10)〉〈偽神偽装(0/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配感知(3/10)〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈状態異常耐性(0/10)〉〈半神(10/100)〉〈神通力(10/100)〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈夢幻泡影〉〈一騎当千〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈一樹百穫〉〈輪廻転生〉〈一発必中〉〈信仰信者(使用不可)〉〈神の目〉

ポイント:272 

省略

ーーー


 ついにレベルが500に届きそうだ。たった1週間で200レベルも上がるなんて、異常としか言いようがない。 それでも、俺にとっては嬉しい悲鳴だ。


 レベル300を超えたあたりから、成長が明らかに遅くなったが、それ以上にダンジョン教会の信者数が爆発的に増えたことで、成長の遅さを完全に相殺した。おかげで、たったの1週間でここまで来たのだ。


 その結果得たポイントをどう使うか……これが最近の悩みの種だった。


 〈半神〉と〈神通力〉に90ポイントずつ振るべきか。それとも、ポイントを貯めて〈半人半神〉に300ポイント全振りするべきか…。


 いろいろ考えた末、俺は〈半神〉と〈神通力〉にそれぞれ90ポイント振ることにした。

〈半神〉は身体能力を大幅に強化してくれるスキルで、〈神通力〉は念力のような万能スキル。どちらも有用すぎて、レベル100の効果を試さずにはいられなかった。


 〈半神〉がレベル100になった瞬間、体の中から力が湧き上がる感覚に圧倒された。


 自分の体がまるで別物のなった様に感じる。知覚範囲も広がり、今では100メートル先の物まで手に取るように分かる。


 思わずその場で軽くジャンプしてみれば、10メートル近く飛び上がっていた。

 少し走ってみれば、あまりの加速に思考が追い付けない。

 体からあふれ出る力に任せてダンジョンの壁を殴ってみれば、轟音と共に壁が抉れた。


「……すげーな」

「……正吾さん。どこの怪獣ですか?」


 流石『神』を冠するスキルだ。


 じゃあ、もう1つの神を冠する〈神通力〉はどのようになるのだろうか。

 恐怖心半分と好奇心半分で、俺は〈神通力〉をレベル100にした。


 するとどうだろうか。〈半神〉とは違った方向で力の漲りを感じる。

 そう、なんでも持ち上げられそうな、何でも潰せそうに感じる力は、全てを破壊できると誤認させる。


「……マジで、レベル100スキル、やべーな」


 流石10倍のコストを払うだけのスキルだ。それに見合った価値は十分にある。


 その後、それ以外にも、〈偽神偽装〉のスキルを試しにレベル10まで上げてみた。ポイントに余裕があったため、『お試し』のつもりだったが、このスキルの真価を試すのは、また別の機会になりそうだ。


≪確認しました。一定量の魔素の吸収を確認しました。レベルアップを実行します……確認しました。レベルアップしました≫


 天の声は相変わらず耳に届く。モンスターを倒さずともレベルが上がり続ける、いわば『放置ゲーム』のような状態だ。


 この現実がゲームなら、間違いなく『バランス崩壊』として修正パッチが当てられていただろう。

 しかし、この世界はゲームではない。やった者勝ち。チートじみたことも、この現実ではそのまま通るのだ。


 ……なんて、自分の成長に浸っていたが、目の前の玲奈のほうが、さらに規格外なのだ。


「ん? 何ですか正吾さん。もしかして私に惚れました?」


 玲奈がにやにやと笑いながら覗き込んでくる。

 そんなバカな事をほざいている玲奈だが、こいつのステータスがこれだ。


ーーー

種族:獣人(狼)

名前:一ノ瀬 玲奈

職業:メシア(0/300) 

レベル:495

スキル〈再生(10/10)〉〈浄化(1/10)〉〈啓示(1/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配探知(1/10)〉〈神術魔法(10/10)〉〈神の加護(10/10)〉〈殺戮の病(10/10)〉〈死者蘇生(100/100)〉〈救世主(100/100)〉〈異端審問〉〈慈愛の抱擁〉〈神懸かり〉〈輪廻転生〉〈奇跡〉

ポイント:42

パーティー(2/6):玲奈と忠実なワンちゃん

フレンド:〈水橋正吾〉

種族特性:〈獣化(狼)〉〈肉体強化〉〈発情期〉

称号:〈ダンジョン教会幹部〉

ーーー


 いつの間にかレベルが俺と並んでいる。いや、ステータスを見る限り、下手をすれば俺を超えている。

 しかも、〈死者蘇生〉や〈救世主〉といったスキルがレベル100になっている時点で、もはや別格だ。これらの効果を試す機会はまだ訪れていないが、上げて損することは絶対にない。


 さらに、〈殺戮の病〉のスキルを10まで上げている。

 何とも贅沢なポイントの使い方だが、10ポイントなんて、1、2日で回収できてしまう。『誤差』に過ぎない。


 そんな目の前の天才に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「正吾さん、何か言いたげな顔をしていますね。失礼ですよ?」

「……いや、なんでもない」


 内心では、俺と玲奈が戦えば、引き分けか、あるいは玲奈が勝つだろうと確信している。

 目の前のこの獣人は、アタッカーとして圧倒的な実力を持ちながら、ヒーラーとしての役割も同時にこなせる。しかも自分にバフを重ねがけしながら戦うのだ。勝てるわけがない。


 ほんと、才能の塊みたいな存在を目の前にすると虚しく思えてくるな。


「はあ……。玲奈、準備は終わったか?」

「え? 今、人の顔をじっと見ながらため息つきませんでした?」


 俺のため息に驚きながらも、玲奈はにこやかに階段を降りていく。その姿を追う形で、俺も階段を下り始めた。



〜〜〜



 5階層へ続く階段を降り切ると、豪奢な岩の門が目の前に現れた。


 10メートル以上の高さを誇るその門は、これまで何度見ても息を呑むほどの迫力を放っている。

 俺たちは、門の前で最後の確認を行う。


「玲奈。順序は朝話した通りだな」

「最初に私のバフ、それと同時にフラッシュバンですね」

「そうだ」


 今回は前回の失敗を踏まえ、洞窟性生物に効果的なフラッシュバンを準備してきた。

 万が一を考え、準備は万全にしておくべきだ。


「俺が最初に攻撃を仕掛ける。玲奈は追撃を頼む。もし俺にヘイトが集中していなかったら、一度立て直して再攻撃だ」

「了解です」


 2人で段取りを確認し合い、門に手を添える。

 その瞬間、門がゆっくりと開き、現れたのは……前回と同じ、ジェネラルゴブリンだった。


 3メートルを超える巨体、青黒い肌、鋭い牙と、戦意をむき出しにした真紅の瞳。すべてが威圧感に満ちている。


ーーー

種族:ジェネラルゴブリン

名前:未設定

職業:狂戦士

レベル:150

スキル:〈痛覚無効〉〈物理攻撃耐性〉〈魔法攻撃耐性〉〈身体狂化〉〈防御力上昇〉〈バーサーカー〉

ーーー


 鑑定結果は前回と変わらず、防御に偏重したスキル構成。相変わらず厄介だが、今回は俺たちも準備を整えてきた。


 前回の敗北の教訓を胸に、慎重に動くべきだ……いや、油断する余地など初めからない。


 目の前のゴブリンに目配せをしながら、俺は玲奈に軽く手信号を送った。


 玲奈がフラッシュバンの安全ピンを抜き、力強く投げ込む。

 放物線を描いて飛んでいったフラッシュバンは、見事にジェネラルゴブリンの眼前で炸裂した。閃光と爆音が洞窟内に響き渡る。


 光に目を焼かれたジェネラルゴブリンは、一瞬動きを止める。その隙を見逃すわけにはいかない。


「行くぞ!」


 掛け声と共に駆け出す。手にした〈蠱毒の短刀〉を振り抜き、ジェネラルゴブリンの右腕を狙った。

 突撃の勢いと体重を乗せた一撃は、ジェネラルゴブリンの関節と関節の間に突き刺さる。

 鋭い刃が、肘関節の隙間を貫き、右腕を切り飛ばすことに成功する。


 前回とは明らかに違う感触に俺は『勝てる!』と言おうとしたが……。


「っ!」


 ジェネラルゴブリンは右手を切り飛ばされても痛みを感じていないのか、怯むことなく下段蹴りを放ってきた。

 その蹴りの勢いは、空気を圧縮し、小規模な衝撃波を発生させる。


 何とかギリギリで避けると、素早く後退して、次の攻撃に備える。……と同時に、背後から玲奈の声が響いた。


「〈神術魔法〉」


 〈神の加護〉〈神懸かり〉のバフを重ねがけした玲奈が、溜め込んでいた魔法を放つ。


 膨大な光とエネルギーを放出しながら放たれた光の矢。

 それは、仏教用語の刹那(65分の1)秒の時間にも匹敵するスピードは、一瞬にしてジェネラルゴブリンに直撃する。


 炸裂する光。あまりの閃光に目を開けるのがやっとな中、俺は徐々に失われて行く光の光源を凝視した。


 そして、光が収まるのと同時に、ジェネラルゴブリンの姿が露になる。

 光に肌は焼かれ、爛れた肉がむき出しになり、所々骨すら見えている。しかし、それでもジェネラルゴブリンは倒れていない。


「っち!」


 異様なまでの生命力に舌打ちをしながらも、俺は即座に駆け出した。


 今の一撃で倒れなかったのは拙い。もしも玲奈にヘイトが向いてしまうと作戦のすべてが崩れかねない。


 レベルと〈身体強化〉〈半神〉のスキルによって強化された肉体で翔ける。そのスピードは、先ほどの〈神術魔法〉と同じスピードに至っていた。


 しかし、刹那にも匹敵するスピードの俺を、ジェネラルゴブリンのその赤い瞳は、確実に捉えていた。

 一瞬にして危険を察知した俺は、〈神通力〉で力場の足場を作り出し、すぐさま方向転換する。


 それが功を奏したようだ。

 爛れたジェネラルゴブリンの右手が振り抜かれており、あのまま突っ込んでいたら、確実にカウンターを喰らっていた。


 冷や汗をかきながらも、〈神通力〉で力場の足場を各所に展開させる。その足場を利用して、3次元的に移動しながらも、ジェネラルゴブリンに浅い傷を入れていく。


 立体的に動く俺を捉えるのが無理だと悟ったのか、ジェネラルゴブリンは、頭と心臓だけは集中的に守る。


 一瞬でも止まればジェネラルゴブリンに捉えられる。しかし、この高速移動中の攻撃では、深い傷を入れる事が難しい。

 このままでは致命傷を入れられない。だが、それでいいのだ。


「玲奈!」

「はい!」


 名前を呼ぶと、玲奈は待ってましたと言わんばかりに駆け出した。


 各種のバフと〈神聖魔法〉のエネルギー噴出による加速。

 それはまさしく光と評すべき一撃だ。


 レベル500の俺ですら、追うのがやっとのスピードは、ジェネラルゴブリンからしたら認識する事すらできなかった事だろう。


 あまりに速すぎて、気が付いた時には胸に〈断罪の細剣〉が刺さっていた。


 どれだけ防御を固めていようとも、ただ一点を貫く一撃は、スキルによって強化されたジェネラルゴブリンの肉を貫き、骨を砕き、遂には心臓までもを貫いていた。


 しかし、流石はジェネラルゴブリンだ。

 心臓が貫かれてもなお、最後の力を振り絞り玲奈に攻撃を与えようとする。


 拳のサイズだけで人ほどもあるパンチが玲奈に迫る。だが、玲奈は力なく〈断罪の細剣〉を手放すと、華麗に避けて見せた。


 ジェネラルゴブリンは、さらに追撃しようと体に力を籠めるが……それが最後だった。

 次の瞬間、急激に力が抜けたジェネラルゴブリンは、その巨体が崩れ落ちた。


「「……」」


 ジェネラルゴブリンが倒れてから数秒間。俺と玲奈は警戒を解かずにジェネラルゴブリンを見つめる。

 しかし、動く気配が無い事を悟った俺は、大きなため息を吐いた。


「はぁーーーー。かったぁー」


 その場に崩れ落ちるように座り込むと、体から力を抜いていく。


 今回の戦闘は被害は無かったものの、精神的にクる物があった。

 それこそ一歩間違えれば死ぬかもしれない戦闘は、精神的に削られる。


 そんな俺とは違い、玲奈はホブゴブリンから剣を抜き取り、付着した血を布で拭うと鞘に納める。


 まるで疲れを見せない玲奈に感心しながらも、カロリーを消耗したくない体は、自動的に玲奈を追っていた。


 だからだろうか?

 疲れすぎていて無防備になっていた思考が悪かったのだろうか?だから……。


 彼女が振り返った時に見えた、冷たい目に、わずかに上気した頬。白い肌に返り血の付いた顔。

 そして、その唇が、どこか楽しげに弧を描いていた。


 ……それを見た瞬間、俺の胸が一瞬高鳴る。


 異様な光景だ。残酷さすら感じさせる状況で、彼女の微笑みは天使のように美しかった。血塗れの天使……そんな矛盾した言葉が頭をよぎる。


「正吾さん?」


 玲奈が不思議そうに俺を見つめる。その声でハッと我に返った。


「あ、ああ。ナイスだ玲奈」


 俺は取り繕うように返事を返す。玲奈の目は普段通りの優しさを取り戻している。

 だけど、あの一瞬の笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。




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