閑話 ダークウェブでのスレ
時は少し遡り、玲奈の配信が始まった頃。
とあるダークウェブに存在する裏掲示板は、盛り上がりに盛り上がっていた。
ダークウェブと言う一般には程遠い場所にあるのにも関わらず、今日一日だけで来訪者数が100を超えようとしていた。
1:管理人(匿名)
ここはダンジョンの情報を共有するスレだ。
禁止事項
外部への情報流出。
荒らし。
これら以外だったら何を言ってもOKだ。
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222:匿名
お!お前ら、聖女たんの配信が始まったぞ!
223:匿名
マジか!見に行かなくては!誰かリンク張って!
224:匿名
いや、自分で探せよ。https://www.…
225:匿名
いや、お前が貼るんかよw男のツンデレとかモテないぞ。
226:匿名
うっさいわ。それよりも聖女たんの配信に集中しろ。
227:匿名
やばい、俺、聖女たんに惚れたかもしれん(6回目)
228:匿名
いや、もう何回も惚れてるじゃんw
229:匿名
でも、あの剣を上に掲げての宣言は確かにかっこよかった。女なら惚れていたぜ。男ならなおさら惚れていたぜ。
230:匿名
しかし、なんでだろうな。この聖女は何でこんなにも目を引くんだろうか?
231:匿名
それはお前が惚れているからだろ。
232:匿名
いや、そうじゃないんだよ。なんて言うか演劇の主人公を見ているような感じ?なんだよ。
233:匿名
確かにそう言った印象を受けるのは分かる。しかし、そんなものはテレビを見ればいくらでもある光景だ。
聖女と言ってもあれが素ってわけじゃないだろうしな。あまり期待しない方が良いと思うぞ。
234:匿名
おい、ここに聖女たんの反逆者がいるぞ!殺せ!
235:匿名
聖女たんはあれで素なんだよ!お前らみたいな薄汚れた存在と聖女たんを並べるな!
236:匿名
お前ら…いろいろ怖いわ…。
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310:匿名
聖女たんが…ゴブリンを解体してる。
311:匿名
なんというグロ画像。こんなの流しても良いのかよ…。
312:匿名
聖女はよくこんな淡々とゴブリンを解体出来るな。映像越しだけでも俺はもう吐きそうだぜ。
313:匿名
でも、この聖女が言っている事は正しいと思う。俺も元ダンジョンに潜っていた身としては、ダンジョンはアトラクションとかでは無く、現実であると言う事をまじまじと実感させられる場所だった。
金属バットでゴブリンを殴れば、人間を殴ったときの様な肉を殴る感覚が、しっかりと伝わってくる。
314:匿名
だとしてもこれは…。
315:匿名
グロいけどよ。こんな映像はネットにいくらでも転がっているだろ?特にこんな場所まで来れる奴らだ。人間が解体されている映像ぐらいは見た事はあるだろ。
316:匿名
そう言われてみれば確かに。聖女たんが解体していたからグロいって思っていたけど、そう言えばネットにはいくらでも転がってたわ。
317
そうだな。聖女たんと言うバイアスがかかっていたぜ。
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355:匿名
聖女たんが良い事言ったな。確かに、この映像が無理ならダンジョンなど潜れないな。
356:匿名
そうだな。俺もダンジョンは非現実的でアトラクションと言う認識があった。でも、確かにこれは現実で、命を賭けて戦っているんだよな。
357:匿名
夢から現実へ無理やり引き戻された気分だ。俺もダンジョン武装探索許可書の試験に予約したけど、一回しっかりと考えた方が良いな。
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633:匿名
ついに3階層か。
634:匿名
これが噂の3階層か。
635:匿名
確か、アメリカ陸軍のリーク情報では、3階層のモンスターはホブゴブリンとか言うヤツだったっけか?
636:匿名
んだ。それが日本でも同じなのかは知らないが、SATをハッキングしたヤツが流した情報では、同じだったはず。
637:匿名
お、聖女たんが入るぞ。
638:匿名
さてさて、ボスモンスターは何かな?
639:匿名
こいつは…ホブゴブリンっぽいな。
640:匿名
こいつがホブゴブリンか。写真は見た事あったが、映像越しに見ると迫力が違うな。
641:匿名
明らかに強そうだな。こんなのに勝てるのかよ。
642:匿名
レベルが上がれば身体能力が上がるらしいし、それを加味すれば……勝てるか?
643:匿名
間違いなく一般人には難しいだろう。ずぶの素人がナイフを持ったとしても、格闘技の選手には勝てないのと同様に、身体能力が上がったからって、上手く戦える訳では無い。
644:匿名
でも、聖女たんが言うには、レベル25で強くは無いらしい。
645:匿名
それは聖女目線だろ。俺たち目線なら十分強いわ。
646:匿名
それにしても、こんな屈強なホブゴブリン相手にも堂々としている聖女たんはマジでかっこ可愛い。
647:匿名
確かにって…え?
648:匿名
は?
649:匿名
はえ?
750:匿名
…マジかよ。ホブゴブリンの一撃を片手で受け止めたぞ。どうなってるんだ。
651:匿名
うそ、どう見てもトラックが衝突したときみたいな音がしたんだけど、何で聖女たんは無傷なの?
652:匿名
これが初心者の登竜門?どう見ても中級者からのモンスターに見えるんだけど……。
653:匿名
これは……一般人は勝てない。
654:匿名
SATが勝てなかったって言うのも納得だ
655:匿名
うそん、あの棍棒を片手で握り潰したって…意味が分からん。
656:匿名
どうやったら棍棒を握り潰すなんて芸当が出来るんだ?
657:匿名
これが聖女たんってことなのだろう。お前ら、考えるのではなく、感じなさい。
658:匿名
だから、聖女たん信仰者は怖いって。なんだよ感じなさいって。
659:匿名
でも、聖女たんはこんなモンスターをダンジョン初日で倒したのか。…最初から持っている物が違う事を思い知らされる気分だ。
660:匿名
実際持っている物が違うのだろうな。運もそうだし、才能も。
661:匿名
…そして、最後の一撃。俺は何をしたのか分からなかった。
662:匿名
本当にアニメや漫画の世界になったな。
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首相官邸の執務室。
そこには現総理大臣である山中総理大臣と、一人の来訪者……ダンジョン大臣の岩田太郎がいた。
山中総理は、岩田からの報告に眉間を押さえながら、大きくため息をついている。
窓の外ではセミが鳴いているものの、執務室の中は重苦しい沈黙に包まれていた。
室内には、山積みの書類が無造作に置かれた机と、議題が書かれたホワイトボード。さらに、官邸内の廊下からは職員たちが慌ただしく行き交う足音が絶え間なく響いている。
そんな中、山中総理は深いため息とともに、沈痛な声で口を開いた。
「岩田大臣。この件をどう見る?」
その声には、苛立ちと困惑が滲んでいた。
ダンジョン大臣である岩田は、同じく深刻な顔をしながら、部下がまとめた資料を映したノートパソコンに目を落としていた。
こめかみを押さえながら、彼もまた悩ましい表情を浮かべている。
「……今回の件については、私の予測が甘かったと言わざるを得ません。正直なところ、ここまで事態が大きくなるとは想定しておりませんでした」
岩田の声にも疲労感と苛立ちがにじみ出ている。
「……なぜこうなったのか。原因は分かっているのか?」
「はい。いくつかの要因が浮かび上がっています」
「では説明しろ」
山中総理の鋭い視線を受けながら、岩田は資料を読み上げるように説明を始めた。
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事の始まりは、ダンジョン解放の準備に追われていた1週間前のことだった。
岩田はダンジョン武装探索許可書の資料を仕上げ、試験会場の確保や関係機関との調整など、喫緊の課題を抱えていた。職員たちも息をつく暇もないほどに、忙しい日々を送っていた。
そんな中、突然の電話が岩田のスマートフォンにかかってくる。画面には『浅野公明党議員』の名前が表示されている。
『突然の連絡、失礼します。岩田大臣ですよね? 私、公明党の浅野です。』
浅野の名前を聞いた瞬間、岩田は顔をしかめた。
「浅野か……」
浅野。大学の後輩であり、選挙でも5年後輩だったな。
岩田にとって浅野は、政治の場で何度か接点があった程度の存在。そんな浅野が、このタイミングで電話をかけてくることに、嫌な予感が走った。
『実は緊急でお伝えしたいことがありまして……』
「こっちはダンジョン解放の準備で忙しいんだ。要点を手短に頼む」
『承知しました。要点を言います。都知事が『聖女セイント』と会談し、ダンジョン解放日に彼女がライブ配信を行う許可を出したようです』
聖女セイントがダンジョン内部でライブ配信を行う……その内容を聞いた岩田は、思わず硬直した。
「……ライブ配信だと?」
『ええ、私も聞いた話なので、確実ではありません。ただ、事前にSNSで告知される可能性もありますので、ご注意ください』
岩田の頭の中で、瞬く間に最悪のシナリオが描かれた。
政府としては、ダンジョン解放を契機に、より多くの人々を探索者として送り出し、経済の活性化とダンジョン研究の発展を図る計画を進めていた。
聖女セイントも同じ目的を持っていると見ていた岩田だが、ダンジョン内部の様子をリアルタイムで配信するとなれば、その危険性が視覚的に伝わり、躊躇する人々が増える可能性がある。
「……詳しい情報をもう少し調べてくれ。私は引き続き対応を考えるが、最悪のケースも想定しておかなければならないだろう」
『分かりました』
私は、受話器をそっと戻すと、次の瞬間、机を思いっきり殴った。
その怒りは、あのセイントとか言う訳の分からない女が、さらに訳の分からない行動をとったからだ。
私は色々な人間と接してきたが、一番怖いのは、何をしてくるのか分からない、訳の分からない奴らだった。
その気配をセイントからも感じるのと同時に、そんな女が力を持っているのが無性に許せなかった。
しかし、だからと言って私がセイントをどうこう出来る訳では無い。まさに苦渋を飲むとはこの事だ。
「っち、あの女がどんな行動に出るのかは分からないが、せいぜいめんどくさい事は起こしてくれるなよ」
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岩田は、1週間前のその電話から続いた一連の出来事を思い返しながら、総理に提案を行った。
「総理、今回の件については私の責任があるのは事実です。しかし、だからと言って何の対策も講じないのは愚策です。むしろ、この配信を逆手に取って利用するべきだと考えます」
「利用だと?」
山中総理が怪訝そうに眉を上げると、岩田は自信を持って続けた。
「今回の配信は、確かにダンジョンの危険性をリアルに伝え、躊躇する人間を増やす可能性があります。しかし、その映像を逆に、ダンジョンの適性を測るための教材として活用すれば、死傷者を減らすことが可能です。セイントの発言には正論も多く含まれています。それを試験プログラムに取り入れることで、探索者への教育効果を高められるでしょう」
「なるほど……。確かに一理あるな」
総理の表情がわずかに緩む。
「それで、試験に組み込むためにはどれくらい時間がかかる?」
「動画の編集と試験プログラムへの組み込みで、1週間ほどあれば対応可能です」
「思ったより早いな」
「ダンジョン省が全権を持っているため、私の一存で調整が可能なので……」
岩田は続けてこう述べた。
「また、この件はSNSやメディアで大きな注目を集めています。試験に取り入れた場合、その意義を世論に説明すれば、政権への信頼回復にもつながるかと思われます」
総理は少しの間、天井を見つめた後、深く頷いた。
「分かった。その案で進めてくれ」
岩田は一礼すると、執務室を後にした。




