第二十七話 ダンジョン開放前夜
今日は作者の誕生日なので、3話投稿させていただきます。
新宿トー横ダンジョン前で行われた聖女配信から6日が経った。
そして、いよいよ明日の12時にダンジョンが解放される。
その『祭り』の始まりを1日後に控えた日本中の高揚感を感じつつ、俺と玲奈はいつものラブホテルの部屋で、とある数字をじっと見ていた。
「これは……すごいですね」
玲奈が驚きと感嘆の入り混じった声を漏らす。俺もその感想には大いに同意だ。
あの日の配信でダンジョン教会への入信を宣伝して以来、信者数を示すメーターは一度たりとも止まることなく回り続けている。
そして、その勢いは留まることなく続き、信者の数は100万を軽く超え、今や130万人に達していた。
「正直、意味が分からない数字だよな……」
目の前の現実を前に、俺も思わずそう呟く。
だが、この数値こそが、世間から俺たちに寄せられている期待値なのだろうと考えると、胸の内が熱くなり、ワクワクしてくる。
ただ、驚きはこれだけでは終わらない。
実は、ダンジョン教会ホームページからの入信者数が130万人である一方、ダンジョンで保証されている『ダンジョン教会』の信者数も別でいる。
ダンジョン内で『ダンジョン教会へ入信』と宣言することで加入できるのだが、その数なんと43万人。
特にダンジョンが解放されているアメリカなどでは、『信者になれば常時ステータスに1割のバフが付く』という話が広まり、日に日に信者が増加している状況だ。
当然、〈流転回帰〉のスキルが発動しているため、信者が得た経験値の1割がお布施として俺に流れ込んでくる仕組みだ。
43万人分の経験値はすさまじい量で、俺のレベルは日々、爆発的に上昇している。
そして現在のステータスがこちらだ。
ーーー
種族:エルフ
名前:水橋 正吾
職業:偽神(0/100)
レベル:288
スキル〈話術(0/10)〉〈鑑定看破(0/10)〉〈偽神偽装(0/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配感知(3/10)〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈状態異常耐性(0/10)〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈夢幻泡影〉〈一騎当千〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈一樹百穫〉〈輪廻転生〉〈偽神〉〈一発必中〉
ポイント:185
パーティー(2/6):玲奈と忠実なワンちゃん
フレンド:〈一ノ瀬玲奈〉
種族特性:〈美形〉〈魔法適性〉〈肉体弱化〉
称号:〈ダンジョン教会教祖〉
情報閲覧権限:1
ーーー
スキルポイントはまだ振り分けていないが、〈偽神〉のレベルを最大にするのはもちろん、他のスキルの強化も余裕で行えるほどのポイントが溜まっている。
こうなると、スキルの振り方によっては、本当に『神』と呼べる存在になるのではないか、と思えてしまうほどだ。
ちなみに、俺とパーティーを組んでいる玲奈のレベルも同様に爆上がりしている。
ーーー
種族:獣人(狼)
名前:一ノ瀬 玲奈
職業:殺戮聖女(0/100)
レベル:287
スキル〈再生(0/10)〉〈浄化(1/10)〉〈啓示(1/10)〉〈異端審問〉〈身体強化(10/10)〉〈気配探知(1/10)〉〈慈愛の抱擁〉〈神懸かり〉〈神術魔法(0/10)〉〈神の加護(0/10)〉〈輪廻転生〉〈殺戮の病(0/10)〉
ポイント:174
パーティー(2/6):玲奈と忠実なワンちゃん
フレンド:〈水橋正吾〉
種族特性:〈獣化(狼)〉〈肉体強化〉〈発情期〉
称号:〈ダンジョン教会幹部〉
ーーー
玲奈も自分のステータス画面を見て、目を見開いている。その表情を見る限り、彼女もこの成長速度には驚きを隠せないらしい。
俺も同じ気持ちなので、玲奈の顔は特に気にしないことにする。
それはともかく、ここまでレベルが上がったのなら、スキルポイントを振っても良い頃合いだ。
特に今日は1日オフを取っているため、やることもない。この機会に一気にポイントを振り分けておくことにした。
まず手を付けるのは〈偽神〉の職業だ。
迷うことなくポイントを振り切ると、予想通り、新たな転職先が表示された。
ーーー
職業:〈☆☆☆☆半人半神〉
ーーー
候補はたった1つだったが、その内容を確認してみる。
ーーー
〈半人半神〉
スキル〈半神〉〈神通力〉〈信仰信者〉
ーーー
「……これは……本当に神に近づく感じだな」
スキル名を見るだけでも神の力を感じさせる。少し迷ったが、選択肢が1つしかない以上、悩む必要はなかった。俺は躊躇なく〈半人半神〉に転職することを決めた。
≪職業選択を確認しました。職業〈半人半神〉へと転職します……転職を完了しました≫
システム音が響き渡るが、転職した感覚は特にない。ただ、これで本当に神に片足を踏み入れたことになるのだろうか?
そう思っていると、突然新たなシステム音が耳に入った。
≪確認しました。……人類初の神職業への転職を確認しました。スキル〈神の目〉を取得しました≫
≪……エラー。現在のバージョンがβであることを確認しました。βでの神スキル〈信仰信者〉は使用できません≫
「……なんだと?」
久しぶりに耳にした『エラー』の言葉に、思わず眉をひそめる。
最初のダンジョン探索以来、めったに聞くことのなかったエラー通知だが、この〈信仰信者〉とやらのスキルはβバージョンゆえに使用できないらしい。
「とはいえ、他にも気になるスキルがいくつかあるな……」
早速ステータス画面を確認する。
ーーー
種族:エルフ
名前:水橋 正吾
職業:半人半神(0/300)
レベル:288
スキル〈話術(0/10)〉〈鑑定看破(0/10)〉〈偽神偽装(0/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配感知(3/10)〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈状態異常耐性(0/10)〉〈半神(0/100)〉〈神通力(0/100)〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈夢幻泡影〉〈一騎当千〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈一樹百穫〉〈輪廻転生〉〈一発必中〉〈信仰信者(使用不可)〉〈神の目〉
ポイント:85
省略
ーーー
スキルの中で目を引くのは、新たに加わった〈半神〉と〈神通力〉、そして〈神の目〉だ。
特に〈半神〉と〈神通力〉は、通常のスキルと異なり、レベル上限が100に設定されている。今までのスキルは基本的に上限が10だったため、この違いには思わず目を見張る。
「〈偽神〉も消えている……。やっぱり『偽』の神は卒業ってことか」
職業が『偽り』から『半分本物』に昇格したことで、〈偽神〉スキルが消滅したのだろう。これで俺は、文字通り神への第一歩を踏み出したことになる。
ただし、ここまで来てもまだ『本物の神』ではなく『半人半神』。それでも、普通の人間とは一線を画する存在になりつつあるのを実感する。
「さて、スキルを確認するか……」
俺は新たに加わったスキルたちの詳細を一つずつ確認した。
ーーー
〈半神〉
・肉体、精神、魔素を神域の次元へと引き上げる。
・一定範囲内の情報を『感覚』として、得られる。
・全スキルの効果をn%上昇させる。(nはレベル依存)
〈神通力〉
・物質、エネルギーを操作する力を持つ。
・発動には魔素を消費する。
・レベル上昇により、出力と操作範囲が上昇する。
〈信仰信者(使用不可)〉
・信者の信仰によるステータス上昇を得る。
〈神の目〉
・あらゆる対象の寿命を視認できる。
ーーー
「……ほう」
スキル説明を読み込んで、思わず感心する。
中でも〈半神〉と〈神通力〉は、強力なスキルであることがすぐに分かった。〈半神〉の『肉体、精神、魔力を神域へ引き上げる』という説明は漠然としているが、言葉からして明らかにとんでもない力だ。
さらに、『一定範囲内の情報を感覚として得られる』という効果は、〈気配感知〉を大幅に強化したようなものだろう。
〈神通力〉についても、『物質、空間、エネルギーを操作する』という説明にはワクワクせざるを得ない。これが超能力ならば、いわゆる念動力や重力操作など、ほぼ万能に近い力を使えるはずだ。
ただ、まだレベルが0なので、どの程度のことが可能なのかは分からない。
「とりあえず試してみるか……」
俺はまず、〈半神〉と〈神通力〉に10ポイントずつ振ることにした。
「お……おおぉ……?」
スキルポイントを割り振った瞬間、全身が変化する感覚を得た。これまでに何度か経験しているが、今回は〈身体強化〉のレベルを上げた時以上の変化だ。
「……なんだこれ。すごいな」
周囲の様子が見なくても分かるようになり、どこに何があるのかが感覚として伝わってくる。この感覚は、まさに〈気配感知〉を大幅に強化したものだ。
ただし、気配だけではなく、物体の位置や大きさ、質感など、物理的な情報までもが知覚できる。
「これが〈半神〉の効果か……。〈神通力〉の方はどうだろう?」
試しに目の前に置いてあったペットボトルを意識してみると、それがふわりと宙に浮き上がった。
さらに意識をペットボトルに集中させる。瞬間、空に近かったペットボトルが押しつぶされた。
破裂した水がまき散らされ、部屋を汚す。
「……なるほど。操作は意外と簡単だな」
魔力を少しずつ消費する感覚があるが、精密なコントロールも可能そうだ。
「正吾さん?」
玲奈がこちらをじっと見つめながら声を掛けてくる。
「なんだ?」
「本当に神になったんですね?」
玲奈の問いに、俺は迷わずこう答えた。
「そうだ。俺は新世界の神になった」
決め顔で堂々と言い放つと、玲奈は口元を抑えて笑い始めた。
「ふふ、本当に神になったなんて……まるでどこかの中二病みたいですね」
「うるせえ。だが本当に神だ。しかも、〈神の目〉も手に入れたぞ。効果は死神の目だ」
「死神の目……。ということは、私の寿命が見えるんですか?」
「そうだな。見えているぞ」
俺はふと目を凝らして、玲奈の頭上に表示されている寿命を確認する。
その数字は秒数で表記してあり、直感的には分かりにくかったが、脳内で暗算すると大体の年数を導き出した。
「あと71年だな」
「71年……。案外長いんですね。ということは、私は88歳で天寿を全うするんですね」
「そんなところだな」
玲奈との会話をしていたら、ふと自分の寿命が気になった俺は、洗面台の鏡の前に立ってみた。
「…やっぱりか」
俺を映す鏡の向こう側には俺の姿だけがあった。
予想はしていたものの、改めて何も見えないのを確認すると、少しだけ残念な気持ちになる。
自分の寿命を知ることができないのは、神になりかけているせいなのか、それとも別の理由があるのかは分からない。
「正吾さん、自分の寿命は見えました?」
玲奈がベッドの上から興味深そうに聞いてくる。
俺は鏡越しに自分の姿を眺めながら、肩をすくめて答えた。
「いや、自分の寿命は見えないみたいだ。俺には名前も寿命も何も表示されてない」
「そうなんですか……。でも、ある意味それって『神』っぽいじゃないですか?」
玲奈は小さく笑う。
確かに、死という概念から外れることは神らしいと言えばそうだが、何とも釈然としない。
「まあ、自分の寿命を知ったところでどうしようもないし、気にしても仕方ないな」
気を取り直し、俺はその話題を切り上げることにした。
「それより、玲奈。お前も転職するんだろ?」
「はい、そうですね。正吾さんが転職したのなら、私もそろそろしておくべきだと思います」
玲奈は立ち上がると、自分のステータス画面を開き、転職先の確認を始めた。