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第十九話 玲奈の転生




 スタンピードが起こった日から1週間ほどが経過した。


 その間、聖女を売り出すために何度もライブ配信を行い、SNSでの発信も欠かさず行った結果、ほとんどダンジョンには潜れていなかった。


 確かに今が聖女を売り出す最大のチャンスであることは間違いないのだが、仮面をかぶってライブ配信を続けている玲奈は、日に日にストレスを溜め込んでいる様子だった。


 そして、ついに今日、玲奈が静かにキレた。


 子どものように駄々をこねるわけではなく、そっと俺の隣に来ると、満面の笑みを浮かべて言った。


「正吾さん。私、限界です」


 テレビアニメの氷菓の千反田えるの『私、気になります』の文言を玲奈風に言い換えればこういう風になるのか。


 千反田えるの場合だと可愛らしいが、玲奈の場合だと俺にはこう聞こえる『私、最近殺してないからストレスが限界です』っと。


 ちなみにだが、玲奈は帰宅部らしい。ッち、古典部だったら面白かったのに。

 閑話休題。


 それはともかくとして玲奈のストレス値が限界らしいので、久しぶりにダンジョンに行くことにした。


 一応、SNSの方では、今日は配信しない事を呟いてダンジョンに向かう。


 いつも以上に勢いづいた玲奈が先陣を切り、3階層のボスを3秒で蹴散らす。

 数舜前までは、生物として存在していたホブゴブリンが、ピクピクと痙攣するミンチと早変わりした。そんな姿を気にせず、宝箱ですらスルーして、玲奈は4階層へ突撃していく。


 しかしながら、レベル100近いレベルの玲奈でも、4階層のソロ攻略は危険だ。

 故に、先走る玲奈を制止する声を発しながら、俺も急いで彼女の後を追いかけた。



~~~



 それから3時間。玲奈は休むこと無く暴れに暴れ、4階層のホブゴブリンを狩り尽くす勢いで虐殺していった。


 結果、フラストレーションをすっかり発散した玲奈は上機嫌になり、俺たちは休憩のため3階層に戻ってきていた。


「…そういえば正吾さん。私、レベル100になりました」


 玲奈はサブウェポンであるナイフを器用にくるくると回しながら、軽い口調でそう報告してきた。


 ついに玲奈もレベル100に到達したか。

 前回のダンジョン探索はスタンピード発生で早々に引き返すことになったが、その時点で玲奈のレベルは92だった。今日、レベル100に上がったのも当然といえば当然だろう。


 そして、レベル100になったら『転生』が可能になるのは俺も経験済みだ。一体玲奈にはどんな転生先が現れるのだろうか。少し興味が湧いてくる。


「玲奈も転生できるのか?」

「はい、転生の選択肢が出てきました」

「ちなみにどんな種族が出てきた?」

「私の場合は〈ヒューマン〉と〈獣人(狼)〉が候補です」

「〈ヒューマン〉はまあ分かるが、〈獣人(狼)〉を教えてくれ」

「はい、〈獣人(狼)〉の説明はこちらです」


ーーー

〈獣人(狼)〉

・身体能力に優れ、魔法も使いこなす。

ーーー


 え?強くない?俺のエルフの時なんて『身体能力は劣るが魔法適性が高い』とはっきり弱点を言われてしまっている。スキルにも〈肉体弱化〉と言うスキルが追加されていた。

 でも、この説明からして〈獣人〉一択だろう。

 

「強いな。〈獣人〉で良いんじゃないか?」

「…そう、ですよね。でも、一つ問題があるんです」

「問題?」

「もし、正吾さんのように身体的変化が起きるなら、私の頭に狼耳が生えてくる可能性がありますよね。そうなったら、私、どうやって日常生活を送れば良いんですか?正吾さんみたいに〈偽装〉で耳の形を誤魔化すスキルを、私は持っていませんよ?」


 確かに、玲奈の言う通りだ。

 俺の長い耳は〈偽装〉で外見だけは隠せているものの、実体としては存在する。だから何度も耳をドアに挟んで痛い思いをしていたりする。


 それに、もし狼耳が生えた場合、外見を隠せたとしても、帽子やフードを被るのは難しくなるだろう。


 聖女としての衣装には、フードに顔を隠すレースが付いているため、フード着用は必須だ。狼耳がある状態でフードを被れるかは疑問だ。


「…そうだな。一旦、姿を変えられるアイテムか何かを手に入れてからにするか」

「そうですね。それが良いと思います」


 っと、転生の話が流れたのだが…どうやら世界はご都合主義で回っているらしい。


 物欲センサーが働いたのか、それとも働かなかったのかは分からないが、3階層のホブゴブリンを倒したときに宝箱から出て来たアイテムが、問題を全て解決した。


ーーー

〈姿変化の指輪〉

・スキル〈変化〉を使用できるようになる。

ーーー


「正吾さん。このアイテム、ダンジョンが『転生しろ』って私に言ってるんですかね?」

「さあな。でも、そう思えてくるよな」


 世界のご都合主義は置いておいて、〈姿変化の指輪〉の効果内容を見ていこう。


 この〈変化〉と言う能力なのだが、肉体の20%に当たる部分を変える事が出来るスキルの様だ。

 20%と言われても分かりずらいだろうから、具体的な数値を出すと腕2本を〈変化〉の対象にできる。

 これならば玲奈の〈獣人〉も大丈夫だろう。流石に体の20%を超える外見の変化なんて起こるまい。


「…で、玲奈は転生するのか?」

「んー、どうしましょう」


 どうやら玲奈はあまり乗り気では無いらしい。

 別にデメリットも〈姿変化の指輪〉でどうにかなることだし、メリットしかない様に思えるのだが……。


「デメリットが無いんだし、転生してみれば?」

「…確かにそうですね。では、転生します」


 玲奈はステータスを操作して転生を開始した。

 転生が始まると、玲奈の体全体が眩く光り出した。

 目がつぶれるほどに明るくは無いが、目を細めないと、まともに見られない程の光量はある。


 それから1分ほどで徐々に光が無くなっていくと玲奈の姿が露となった。


「…どう…ですかね?」


 玲奈は自分の手足を見て変化があるかどうかを確認しているが、俺はその玲奈の顔から眼が離せなかった。


 いや、正確に言うならば、それは玲奈の顔の上に生えている2つのモフモフ。ピコピコと動いている可愛らしい黒色のケモミミから目が離せない。


 それだけでは無く、玲奈の腰のあたりから一本の長くふわふわした黒色の尻尾が、左右に振られている。


『マリアージュ』


 どこかの漫画家が書いた、何とかは告らせたいで出て来たワンシーン。

 女の子と猫耳はマリアージュと言うが、それはオオカミ耳でも変わらない。


 俺はあまりの可愛さに、自然と玲奈のケモミミに手が伸びていた。


「っ!。正吾さん!何するんですか!」


 俺がケモミミに触れると玲奈は一瞬飛び跳ねて俺の事をキッと睨んできた。


 玲奈がこんな反応するなんて珍しい。一瞬跳ね上がった事から敏感なのかもしれないな。これは気を付けよう。

 でも、あのもふもふしっぽ、触ってみたいな。頼み込んだら触らせてくれるかな?


「……玲奈、ちょっとその尻尾、触らせてくれないか?」

「……ダメです。このしっぽ思った以上に敏感なんです。それと同じで、この耳もしっかりと音が聞こえるせいか、音に敏感……って言っている傍から触ろうとしないでくれます」

「いや、その…ぴこぴこと動いていて、つい触りたくなってしまうんだ。ごめん、ごめん」


 俺は残念ながらも伸ばしていた手を引っ込める。

 しかし、あのケモミミとしっぽは破壊的な可愛さがあったな。

 どんなにサイコパスが相手だろうと、少女にケモミミは正義なようだ。


 ちょっと残念な気持ちながらも気を改めて玲奈のスキル確認をすることにした。


ーーー

種族:獣人(狼)

名前:一ノ瀬 玲奈

職業:聖女(0/50)

レベル:100

スキル〈治癒(10/10)〉〈浄化(1/10)〉〈啓示(1/10)〉〈異端審問〉〈身体強化(10/10)〉〈気配探知(1/10)〉〈慈愛の抱擁〉〈神懸かり〉〈神聖魔法(10/10)〉〈神の息吹(10/10)〉〈輪廻転生〉

ポイント:37

パーティー(2/6):玲奈と忠実なワンちゃん

フレンド:〈水橋正吾〉

種族特性:〈獣化(狼)〉〈肉体強化〉〈発情期〉

ーーー


 変化したのは種族と、追加された種族特性の部分だ。

 その中でも一段と不穏な〈発情期〉と言うスキルが追加されている。たぶんだが、このスキルは俺の〈肉体弱化〉に当たるスキルなのだろう。


「……正吾さん。この〈発情期〉って不意打ち過ぎません?」

「……」


 俺は玲奈に無言で同意した。

 だが、触れたくない話題でもあったため、そっと話を逸らすことにする。


 うん、いったん〈発情期〉は忘れようか。


ーーー

〈獣化(狼)〉

・身体を獣人族にする。

ーーー

ーーー

〈肉体強化〉

・全ての肉体能力を向上させる。

ーーー

ーーー

〈発情期〉

・月に一回、排卵に合わせて発情する。

ーーー


 ……まあ、なんというべきか。…うん!見なかったことにしよう!


「かなりいいスキルだな。特に〈肉体強化〉は万能のスキルっぽいし、使い勝手もいいだろう」

「……ねえ、正吾さん。わざとですか?わざと〈発情期〉について触れないんですか?!ねえ!」


 玲奈は俺の肩をつかみ、ぐらぐらと揺さぶってきた。だが、俺は一切気にせず、徹底的にスルーする。


 だって、あんな地雷スキルをわざわざ話題に上げる必要性が無い。

 ここは男として完全無視が正解だ。


「それはともあれ、かなり有用な種族だな」

「……分かりました。正吾さんがその態度なら、〈発情期〉の責任は正吾さんに取ってもらいますよ」

「いや、怖いわ!」


 本当に怖いわ!なんだよ、その怖い発言は!


 ま、まあ、〈発情期〉の時は俺は他のホテルに泊まる事にしよう。そうすれば何とかなる……だろうか?

 俺は未来の自分に丸投げをしつつ、今度は自分のステータスを確認する。

 玲奈のレベルが上がった様に俺のレベルも上がっていた。


ーーー

種族:エルフ

名前:水橋 正吾

職業:教祖(0/50)

レベル:103 

スキル〈話術(0/10)〉〈鑑定(10/10)〉〈偽装(10/10)〉〈身体強化(10/10)〉〈気配感知(3/10)〉〈洗脳(0/10)〉〈支配(0/10)〉〈状態異常耐性(0/10)〉〈神託(偽)〉〈ラッキースター〉〈夢幻泡影〉〈一騎当千〉〈開祖〉〈流転回帰〉〈一樹百穫〉〈輪廻転生〉

ポイント:50

パーティー(2/6):玲奈と忠実なワンちゃん

フレンド:〈一ノ瀬玲奈〉

種族特性:〈美形〉〈魔法適性〉〈肉体弱化〉

情報閲覧権限:1

ーーー

 

 と、これが現在のステータスだ。玲奈のレベルが8も上昇したのに、俺のレベルは3しか上がらなかった。どうやらレベル100を超えるとレベルが上がりずらくなるらしい。


 そして、前の転生の時にスキルがいくつか増えていたが、色々あって見るのを忘れていた。数も多くないのでダイジェストでスキル内容を流す。


ーーー

〈一樹百穫〉

・自身のパーティーメンバーに自身の魔素を分け与えることが出来る。

・分け与えた魔素は戻すことが出来ない。

〈輪廻転生〉

・魂のレベルを1段上げる。

〈美形〉

・顔が少し良くなる。

〈魔法適性〉

・魔法への適性値が大幅に上がる。

〈肉体弱化〉

・肉体能力が低下する。

ーーー


 これらのスキルの中で一番有用なのは〈一樹百穫〉だろう。これは説明不要なくらい分かりやすく強力だ。


 一方、〈美形〉や〈輪廻転生〉は戦闘では意味を成さないスキルだろう。また、俺は魔法を使えるスキルを持っていないため、〈魔法適性〉も実質死にスキルになっている。


 そして最後の〈肉体弱化〉。これは純粋にデメリットだ。

 今回の4階層でも少し感じたのだが、動きが悪くなっている。


 総じて思った感想だが、〈エルフ〉は魔法職がなる種族で、近接戦メインの俺が成るべきではない種族だ。

 まあ、もう取り返しがつかないから文句は言わないが、ちょっと後悔。でも、過去の後悔を引きずっていても仕方がない。気を切り替えていこう。


「…さて、ポイントが50になったな。転職しますか」


 そう、気づいた人も居るかと思うが、俺のポイントがついに50になった。これによって〈教祖〉のレベルを50まで一気にあげれる。

 そして、俺は2度目の転職をした。




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