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第十七話 聖女爆誕




「玲奈、お疲れ様」


 俺は何もない空間に向かって声をかけた。

 すると、さっきまで誰もいなかった空間に玲奈の姿がふっと現れる。

 俺はタオルを手渡し、今回の彼女の働きをねぎらった。


「今ネットを見たら、玲奈の話題で持ちきりだぞ。『女神様』だの『聖女様』だのって溢れ返ってる」

「それって私を褒めてます?なんだか『女神様』と『聖女様』に微妙な悪意が混じっているように聞こえたのですが?」


 別に悪意なんてない。ただ、黙っていれば確かに女神や聖女に見えなくもないと思っただけだ。

 ……実際には、サイコパスなんだけどな。


「いや、本気で褒めてる。今回玲奈がやってくれたことは、俺にとって有益だったし、本当に感謝してるよ」

「……本当ですか?でしたら、一つお願いを聞いていただけませんか?」

「………内容次第だな」

「その、…………ちょっと私の頭を撫でてほしいんです」


 俺はどんなお願いをされるのかと内心身構えていたが、意外なお願い過ぎて思考がどっかに吹き飛んでいった。

 が、玲奈の少し上目遣いで手を握ってきたことで強制的に意識が引き戻される。


 ……なんでそんな事を頼むのだろう?もしかして頭を撫でられた手を取って背負い投げとかするのだろうか。


 俺は本当に混乱して、訳の分からない事を考えてしまう。それも仕方ない事で玲奈にこんなお願いをされたのは初めてだからだ。


 俺が混迷の最中に居ると、玲奈が少し手を引っ張って回答を急かしてきた。

 

「…まあ、いいぞ」


 俺は何とかそれだけを口にしたが、未だ思考は広い海原で彷徨っている。


 しかしながら、体は不思議と勝手に動くもので、無意識の内に玲奈の頭を撫でていた。

 まるで猛獣の頭を撫でているかの様な気分で撫でている感触などは、一切脳内神経には伝わってこない。


 ただいつ噛みつかれるかも分からない中で、ただただ撫でる。

 結局3分で玲奈は満足したのか、俺から少し距離を離した。


 何もされなかった俺は、一連の流れが何だったのか分からなくなってさらに混乱するが、そんな事をしている余裕が無い事をかろうじて思い出した。


「…玲奈、一旦ここを離れるぞ」

「はい」


 俺は玲奈に頭を覆うバイク用のフルフェイスヘルメットを被せ、その上から〈亡霊のローブ〉を纏わせた。

そしてバイクのキーを回し、裏路地からバイクを走らせる。



~~~



 新宿からバイクを飛ばし、横浜……ではなく銀座にある高級ホテルにたどり着いた。


 近くの駐車場にバイクを止めると〈夢幻泡影〉で自身の姿を変える。

 あくまで幻影なので、実体と見た目で少しずれているが、問題は無い。


 その姿のまま、ホテルに入るとチェックインを済ませる。

 予約は涼太に取ってもらっているおかげで、身バレの心配はない。


 部屋に入ると持参した荷物を置き、折り畳み式の三脚を取り出してカメラをセットする。

 カメラを有線ケーブルでノートパソコンに接続し、OBS(配信ソフト)を立ち上げた。


 一方で玲奈はカメラ映えするように自分の位置や角度を微調整している。


「……正吾さん。準備OKです」

「了解。こっちも配信準備は終わった。何時でも行けるぞ」


 後は配信ボタンを押すだけで、ライブ配信が可能な状態になっている。


「じゃあ、お願いします」


 その声と共に、俺は世界最大の配信プラットフォームでライブ配信を開始した。


「皆さんこんにちは。あるいはこんばんは。

 私のことを見たことがある人も、初めての人もいらっしゃると思いますので、まずは自己紹介をさせていただきます。私の名前はセイントと申し上げます」


 玲奈がカメラに向かって軽く頭を下げた。

 その立ち居振る舞いには上品さがあり、白い綺麗な衣装と相まって、より一層その雰囲気を引き立てている。


「これからダンジョンに関する情報をお伝えします。

 その前に、いくつかの注意点だけお話しさせてください。まず、この配信および動画は、二次利用を許可します。ただし、金銭が多額に発生する場合、コチラに一方の連絡を入れてください。

 次に、この配信中に公的機関が乗り込んできた場合、即座に配信を終了しますので、ご了承ください」


 ここまでは台本通りだ。事前に決めておいた説明文を読み上げている。

 だが、これ以降は大まかな流れだけ伝えており、細かい話の内容は玲奈に全部任せている。


 「では、ダンジョンについてのお話を始めさせていただきます」


 ノートパソコンの画面に映る視聴者数が1万人を超えた。しかも、その数は今もなお増え続けている。


 カメラに映っていない俺の方が緊張で手が震えそうだが、玲奈は堂々としていて、微塵も動揺を感じさせない。


「本日お話しする内容は大きく2つあります。1つ目はダンジョンについての情報。そして2つ目は、ダンジョンに関する重要な忠告です」


 その言葉をきっかけに、コメント欄が勢いを増していくのが分かった。

 

「ではまず1つ目のダンジョンについての情報からお話ししたいと思います。

 ダンジョン、それは1カ月まえの4月9日に発見された『特殊地下構造物』の事をダンジョンと呼びます。

 このダンジョンなのですが政府からの公式発表はされていませんが、新エネルギーたるものが見つかった事はご存じの方は、ご存じでしょう。

 この様にダンジョンには未知の資源がある事が確認されています。

 そして、ダンジョンには新エネルギーたる魔石の他にも『アイテム』と言う物があります。これは政府が存在を知っているかは知りませんが、3階層のボスモンスターを倒すと宝箱と言う形で出現してきます」


 玲奈がそう言った瞬間にコメント欄では『アイテム!』と言う文字が埋め尽くしていく。


 予想通りほとんどの人はアイテムを知らないようだった。


 まあ、それもそのはずで3階層を突破しているのが分かっている所はアメリカと中国、ロシアの3大国だけだからだ。


 この3国は日本とは違い、軍がダンジョンにアタックしている。

 逆に言えばSATとは言えど、軍ほどに装備が充実していない警察部隊では、3階層のホブゴブリンはキツかったのだろう。


「このアイテムと言う物なのですが職業で入手できる〈鑑定〉を使用すると特殊な効果がある事が分かります」


 この情報は本当は公開するつもりは無かった情報だ。もしも〈鑑定〉の事を政府が知らなければ交渉のカードとして仕えた内容だからだ。


 しかしながら、それ以上に貴重な情報を持っている俺からしてみれば、いつかは知りうる情報をカードとして早々に使う事で、より多くの人に認知を広げてもらえる。

 情報は鮮度がなんぼの物だからな。


「例えば、今私が持っているこのアイテムは〈ポーション(下級)〉と言うアイテムです」


 玲奈がカバンから取り出したアイテムをカメラに見えやすい様に持った。


 このアイテムは4階層のホブゴブリンを倒すと低確率で入手できるアイテムだ。

 俺たちも100体以上は倒したが、1個しか持っていない。


 このことからして1%か、それ未満であろうドロップアイテム。

 もちろん低確率だけあって、効果は絶大。それこそ、世界を震撼させうる代物だ。


「この〈ポーション〉と言うアイテムの効果は飲むことにより、内部の傷もしくは病気を治し、外傷が出来たところにかければ後も残らず治癒させる事ができます」


 玲奈はそう言いながらナイフを取り出すと、自分の腕を躊躇なく切った。

 ベットに血が飛び散り、腕からはツーと赤い雫が零れ落ちる。


 ベッドやシーツに赤いシミが散乱し、痛々しい光景がレンズを通して視聴者へと届けられる。

 悲鳴にも似たコメントが流れるが、それも次の瞬間には驚きへと変わる事だろう。


 玲奈は、痛みを感じていないかのように両手でポーションの蓋を開けると、自分の腕に振りかけた。


 フラスコの瓶に入っているポーションは、水のようにサラサラだ。

 だけども、傷口に振りかけた瞬間、まるで張り付くように吸い付くと、傷口へとポーションが集まっていく。


 まるでスライムのように動くポーションは、気持ち悪いと思う人も居るだろう。

 しかし、その見た目とは反して、効果は抜群だ。


 その一連の行動を見ていた俺は、ポーションの見た目に引いていた。

 と言うのも、これまでポーションなんて使った事が無い。ドロップしたポーションは今使った1つだけで、試す機会が無かったからだ。


 もちろん鑑定結果だけでは、その内容を正確に知る事は出来ないので、今ポーションの効果と見た目を知ったのだ。


 でも、ポーションで傷を治せるとは分かっていても、玲奈は自分の腕を躊躇なく切れたモノだ。


 まあ、玲奈は自分で〈治癒〉すれば大丈夫って判断で行ったのだろうな。

 それでも自分の腕を無表情で切るのは、怖いけど……。


「見ての通り不思議な力で、さっきまであった傷が完全に無くなっています」


 玲奈がカメラに良く見えるように手を映すと、コメント欄が一気に流れた。

 その中には『セイント様の手……ふんス』と言ったキモいコメントも散乱している。


「この様にアイテムには様々な不思議な効果があります。

 これらは現代科学で再現不可能なものが多くあり、それだけでダンジョンと言う物に価値があります。

 さらには、知っている人もいるかと思いますがダンジョンでモンスターを倒すとステータスと言う物を得れます。それと同時に職業と言う物に着けるようになり、様々なスキルを得る事が出来るのです」


 玲奈がそう言うとコメント欄では『知ってる』や『そうなんだ』と言ったコメントが大半を占めていた。どうやら知っている割合は多めで7割強といった所か。


「そして、このステータスにあるレベルが上昇すると、それにつれて身体能力も同時に上がっていきます」


 そう言った瞬間にコメント欄は『まじで?』と言った感じのコメントで埋まっていく。


 こんな配信に来る人達だからダンジョンに詳しい人も居るだろうに、そのほとんどが知らないってことはレベルを高く上げれている人は居ないのかな?確かに実感できるレベルは20程だと考えれば、少ないか。


 もしも知ってたとしても、わざわざバラす事では無いから黙っているのだろう。


「それ以外にもレベルアップによる恩恵は沢山あります。いちいち説明する事はしませんが、様々な恩恵があると思っていただければ結構です」


 ……うまいな。今のは身体能力アップを前面に押し出してスキルの危険性を全く言っていない。流石は玲奈としか言いようがない。

 

「さて、次に話すのは私から皆様への忠告です。まず一般市民の皆様に向けて、お話します。

 皆様がダンジョンをどのように思っているかは知りませんが、皆様が遊び半分の気持ちでダンジョンの事を思っているならば、その考えは改めた方が良いでしょう。

 ダンジョンのモンスターは貴方達の命を本気で狙ってきます。もしも遊び半分でダンジョンに入れば命を落とすことになるでしょう」


 表には出せない話だが、ダンジョンの1階層、2階層程度で死ぬならば、その人はダンジョンどころか、人間社会と言うモノに向いていない。

 ちゃんと準備をしていけば、1階層、2階層で躓く事は絶対に無いと断言できる。


 もちろんだが、準備も出来ない無能が支払うのは自分の命だ。


「……ではダンジョンを真剣に考えている人たちに向けて、お話します。

 ダンジョンは貴方達が思っているよりかは安全です。さっきと矛盾している様に聞こえるかもしれませんが、ダンジョンにしっかりとした準備をしていけば十分に安全と言えるでしょう。

 ですが、ここで一つだけ忠告があります。ダンジョンは戦いが必ず発生する場所です。戦う意志が無い人や、生物を殺せない人にはダンジョンはお勧めできません」


 まあ、これは言うまでもないが、口に出すことに意味があるのだ。

 後で『なんで言ってくれなかった!』って言う理不尽なクレーム対策である事は言うまでもない。


「……さて、ここまで話して来ましたが、ダンジョンはしっかりと準備して、戦う覚悟のある人には、比較的安全な所になります」


 玲奈は言葉を区切り、先ほどまでとは違う重々しい声に切り替えた。

 その気配を感じ取ったのか、コメント欄も少し勢いが減り、静かになる。


「では最後に政府、……いや、この国のお偉い様方に向けて話します。

 ダンジョンとは貴方達が考える様な物では決してありません。

 今回のスタンピードを始めとする異常事態は、これからも起こる物だと覚悟しておいた方が良いでしょう。今回はゴブリンしか出てきていないそうですが、ホブゴブリンが出て来た時点で一般人が対処できなくなるのは明白です」


 ホブゴブリン。

 今の俺たちからしてみれば、3階層のホブゴブリンは雑魚も雑魚だが、それは俺たちの話だ。

 SATが攻略できていない時点で、MP5では効果が薄い事が分かる。その情報だけで、日本の警察組織での対応は完全に不可能になる事を意味している。


 自衛隊が出て来たとしても、ホブゴブリン相手に小銃が効くか怪しいものだ。

 それこそ、M2機関砲でも引っ張り出してこないと、勝てないかもしれない。


 故に……。


「一刻も早い組織編制を行った方が良いでしょう。そして、それと並行してダンジョンを民間に開放するべきと私は考えます。その理由は職業の多様性があるためです」


 これは、『群衆の知恵』とも『遺伝子の多様性』とでも言えるだろうか?


 どんなに優れた専門家が居ようとも、群衆が出した回答の中央値の方が正確なように。

 優れた遺伝子よりも、より多くの遺伝子の方が、種の生存率が高いように。


 生物とは、多様性の上に成り立っている。もちろんだが、人間社会もホモ・サピエンスと言う動物が作っている以上、多様性は重要なファクターとなりうるのだ。


「私は実際には知りえませんが、軍人の中で職業を得た場合、ほとんどが同じような職業になるはずです」


 もちろん、ダンジョンの危機管理的に、職業の多様性は重要だ。

 その事を日本の無能な首脳陣が理解できるかは分からないが、警告を出した。その事実が重要なのだ。


「これは職業の多様性を奪い、いざと言う時の対応が出来なくなる可能性があります。もちろんの事、治安上の問題があると思いますので、ある程度の時間はかかると思いますが、一刻も早くダンジョンを開放しなければ日本と言う国が保てなくなる可能性があるので、ご注意してください」


 玲奈が少し頭を下げて話が終わった事を視聴者に知らせる。


 その時タイミングが良いのか悪いのかは分からないが、俺の〈気配感知〉に10人以上を超える人がこのホテルに入ってきた事を認知した。


 俺は元々決めてあった合図で、玲奈に公的機関が来たことを知らせる。


「おっと、すみません。どうやら公的機関が来たようですね。残念ながらこの後予定していた話は打ち止めとさせていただきます。では皆さま、ごきげんよう」


 玲奈が小さく手を振って別れを告げる。俺はそれに合わせて配信終了ボタンを押した。


 まだコメント欄は生きていて、残念がる声が多数見える。

 だが、俺たちは自分たちの荷物だけ回収すると、透明化をして窓から飛び降りた。


 それから10秒後。

 警察がマスターキーでドアを開けて入ってきたが、そこには配信用機材だけが、空しく存在するだけだった。


 警察官たちの動揺する気配を感じながらも、俺達は近くの路地裏に隠してあったバイクに乗り込む。

 キーを捻るだけでエンジンがつく現代のバイクに感謝しながら、港区の涼太の家までバイクを走らせた。



~~~



 銀座から港区。その距離間は物凄く近く、それこそ、徒歩でも行ける距離だ。

 もちろんだが、バイクに乗れば、数分と言う時間で涼太の家に着く。


 エントランスのインターホンを押せば、直ぐに涼太が扉を開けてくれる。


 事前連絡していたおかげで、すぐさま開けてくれたのは良かった。もしも、寝ていたらエントランスで永遠と待つ間抜けな光景になっていたところだ。


 エレベーターに乗って、涼太の家の前まで着くと、インターフォンを押すことなく扉を開ける。


「涼太、お邪魔するぞ」

「お邪魔します」


 そう言いながら入れば、ハウスキーパーによって綺麗になった玄関がお出迎えしてくれる。

 前来た時は、ゴミが多すぎて狭い部屋だと思っていたが、ゴミが片付けば3LDK本来の広さを実感できる。


 そして、最奥の涼太のメイン生活スペースにつけば、ハウスキーパーが来たはずなのに、汚れ始めている部屋が広がっていた。

 相変わらず暗い部屋が好きなようで、光源はモニターの光だけだ。


 俺はそんな涼太に呆れながらも、部屋の電気をつける。それで俺たちの存在に気がついた亮太はヘッドフォンを外した。


 ゲーミングチェアをクルッと回して振り返った涼太は、俺と知らない人が一緒にいることに驚く。


「正吾と…えっと、誰でしたっけ?」


 まだ玲奈のことを紹介していないから、この反応も当然だろう。


「玲奈って名前だ。まあ、こいつの名前はあんま覚えなくても良い」

「酷い事を言うのですね、正吾さんは」


 どうせ、玲奈との付き合いは長くなるのだ。そのうち覚えるだろう。

 それに、玲奈の名前よりも、今は大事な話がある。


「じゃあ、約束通り話そうかな。まず涼太はどこから聞きたい?」

「…最初からお願いできるかな」

「分かった、じゃあ一番最初から話すよ。まず俺が刑務所から出所した日に戻る……」


 俺はそれから2時間かけてこれまでの出来事を語った。




 涼太は静かに聞いていたが、その顔は少し寂しそうだった。


「ねえ、1つ聞いてい良いかな?……なんで僕にはその事を伝えてくれなかったの?」


 友達に悲しい思いをさせてしまったのは、教科書の道徳的に申し訳ないと思う。

 しかし、善悪感情が分からない俺からしたら、本心で何処に誤れば良いのかが分からない。


「……涼太は感情的な回答よりも合理的な回答の方が良いよね」

「うん」


 故に、合理的な理由からでしか、俺は謝れない。


「じゃあ合理的に話すけど、まず大前提として情報の拡散防止には、なるべく少ない人数の方が良い事は知ってるよね」

「うん」

「その前提で言うと、涼太にダンジョンの情報を言う機会がなかったって言うのが、一番かな?」


 機密情報は、知る人間が少ければ少ないほどいい。逆に、増えれば増えるほど、指数関数的に情報漏洩のリスクが高まっていく。

 だが……。


「これは言い訳になるかもしれないけど、ある程度耐性が整ったら、涼太にも話そうと思っていた。でも、それが整う前に今回の事件が起こってしまった。そう言うわけなんだ」

「そっか……なるほどね」


 涼太は俺の説明に納得の色を見せる。だが、……それでも誠意は見せるべきだろう。


「でも、涼太に教えなかったのは、本当に申し訳ないと思っている。本当にごめん」


 何事も誠意だ。

 特に、挨拶や謝罪はタダ。無料なのだ。それで人間関係が良好に回るのであれば、やっておいて損はない。


「いや、いいよ。正吾のことは知っているから。それに、本当はどこが悪かったのかも分かってないんでしょう?」


 グキ。

 長い付き合いだから、内心は分かられていると言うわけか。


「ありがとう?って言うのおかしいか。……でも、涼太には本当に助かっている。ありがとう」

「そう真正面から言われると、ちょっと照れる」


 これで仲直り。と言うほど激しい喧嘩ではないが、蟠りが解けたのは確かだ。


「……ところでですけど、正吾さん、涼太さん。私はいつまで男同士のBLを見せられるのですか?私にそっちの趣味は無いのですが?」


 …………。

 俺と涼太はそっと距離を離した。




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