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第百一話 新世界への国連会議1




 アルカディア革命戦争から2日後。


 J-20ステルス戦闘機を撃墜した昨日から、依然として中国からのアクションは何一つとしてない。

 俺の予想ではあるが、俺たちがどのように対応するのかと、アマテラスの情報が欲しくて行った行為なのだろう。


 人の命を何だと思っているのかは知らないが、コミーらしい作戦と言える。


 それはさておきとして、俺は今日も今日とて休日を返済して働く。


 玲奈は今日も東京の視察という名目の休日を満喫中で、涼太はステータスに物を言わせて三徹目に突入しているようだ。

 そんな2人とは違い、俺はこれから国連会議に挑もうとしていた。


 今回はアメリカが議案を持ち出し開催される国連会議だが、その議題の中心たる俺も参加することになる。


 本来は玲奈がセイントとして参加するのが妥当だろうが、急遽決まったがために対策も何もできていない。

 それでも玲奈ならば大丈夫だとは思うが、万が一のことを考えて俺が参加することにしたのだ。


「さてと、やりますか。……オーディン、カメラを起動してくれ」

『了解しました』


 AI『オーディン』に命令を出しつつ、俺は〈黒幕〉を使用して姿をスイキョウのモノへと変える。

 目の前にある大画面モニターが起動され、黒髪ポニーテール姿のスイキョウが、気だるげな表情で写り込んだ。


 いつものジャージ姿と相まって、ニートにしか見えないが、これでも国家を動かしている。

 そして、国家を背負う者である以上、それ相応の格好をしなければならない。


 だからこそ、嫌だと分かっていても俺は〈黒幕〉を使用してスーツ姿へと切り替える。


「……しかし、スーツかぁ。あんま好きじゃないんだよな」


 俺がスーツ姿を嫌う理由。それは、高校生時代の失敗に原因がある。


 俺がまだ高校生時代の時、宗教詐欺を始めるにあたり、俺はまず見た目からと言う事で数十万もするスーツを買ったのだ。


 しかし、だ。そのスーツが絶望的なまでに似合わなかった。


 いや、似合わなかったわけでは無い。

 逆なのだ。ある意味似合い過ぎてしまった。


 元々高身長で痩せ型だった上に、生まれつきクマができやすく、それを隠すために伊達メガネをしていた。

 その結果、スーツと相まって、完全に詐欺師っぽい見た目になってしまったのだ。


 真っ当な人が詐欺師っぽくなる分には問題は無い。

 しかし、詐欺師が詐欺師っぽい見た目になってしまうのは、問題だらけなのは言うまでもないだろう。


「……でも、まあ、今はスイキョウの姿だし、……詐欺師っぽくは無い……よね?」


 カメラ越しに映る自分の姿は、出来る女上司か秘書と言った感じだ。

 しかし、その目に映る陰鬱とした雰囲気は顕在で、俺と言う人間性を隠し切れてはいない。


「……こういう時、他人になりたいって本気で思うんだよな」


 姿がどれだけ変わろうとも、自分が変わる事は無い。

 それを突き付けられた俺は、複雑な気持ちのまま国連会議の開始を待つのだった。



~~~



 アメリカ合衆国・ホワイトハウスの大統領執務室。


 そこには、アメリカ大統領のレイモンド・アンダーソンが、静かにアルカディアに関するレポートをめくっていた。


「……中国も馬鹿な事をするものだ」


 すべてのレポートを読み終えた私は老眼鏡を外し、凝り切った目をほぐすように目頭を揉む。

 最近は老眼鏡を付けても文字が見ずらく、自身の身体の衰えをヒシヒシと感じる。


「……ふぅ」


 疲れを体から吐き出すようにため息を吐く。


 窓の外を見れば、もうとっくの遠に日は落ちており、ワシントンD.Cの街並みは暗い。

 目を閉じて耳を澄ませてみても、人々のざわめきどころか、雑音すらほとんど聞こえてこない。


 それもそのはずで、日本時間にして14時から開始される国連会議は、ワシントンD.Cでの時間はAM1時にあたる。

 それ故に、人々は眠りにつき、街は静けさに包まれているのだ。


 だが、国民が寝ているからといって、大統領として寝る訳にはいかない。

 この世界は、常に24時間稼働しており、その激動の波に乗り遅れないためにも、老骨に鞭を打ってでも国のために働かなければならない。


「……そろそろ時間か」


 時計を見れば、もうそろそろ1時になろうとしていた。

 私は机に備え付けられているボタンを押す。瞬間、わずか数秒で執務室扉がノックされた。


「レイモンド大統領、失礼します」


 そう言って入ってきたのは、私の秘書であるソフィアだった。

 各長官たちや官僚たちはハッピーニューイヤーの休み中だというのに、ソフィアだけは仕事に明け暮れている。


 その根性を他の人達に分けてほしいと本気で思うが、ソフィアが異常なのであって、彼らにそれを強要していいわけでは無い。


「……すまないな。こんな時間まで」


 だからこそ、感謝を忘れない。それが、私のモットーだ。


「いえ、大丈夫です。それよりご用件は何でしょうか?」

「あぁ、そろそろ国連会議が始まる。カメラのセッティングをしてくれ」

「かしこまりました」


 元々その要件だと分かっていたかのように、ソフィアは素早い手つきで準備を始める。

 その手つきは流石と言うべきで、5人いた秘書の中で唯一残った人物だ。


 そして、それからたったの10分と言う短い時間で、カメラのセッティングを含めた設定や、私の身だしなみを整えてくれる。


「……ありがとな」


 そう言った時には全てが終わり、国連会議が始まるのを待つだけとなった。


「いえ、これが私の仕事ですので……」


 仕事ができ、気前が良く、顔だってモデル並みに良い。

 なのにも関わらず、結婚どころか彼氏もいないようだ。


 もう孫のようにも思っているソフィアの男事情を、他人ながら気を揉んでしまうこと自体、私が年を取った証なのだろう。


「そうか……たまには休んでクラブにでも……」


 私がそこまで言ったところで、ソフィアは不思議そうな顔をした。


「はて……なぜ私がクラブになど行かなければならないのですか?」


 その一言を聞いた私は、心の中でソフィアの結婚は無理そうだと感じた。


「……そうか……まあ、頑張りたまえ」


 急な励ましにソフィアは不思議そうな顔を強める。

 それにさらに不安になる私だったが、あと数分で国連会議が開催されることを思い出し、意識を切り替えるのだった。



〜〜〜



『……皆さま、ご集まりいただきありがとうございます。本日ここに、国際連合安全保障理事会・特別臨時会合を招集できましたことを、心より感謝申し上げます』


 P5(常任理事国)と国際連合事務総長、そしてこの議題の中心人物であるスイキョウが大統領執務室のモニターに映し出される。


『今回の国連安全保障委員会では、日本政府に代わり日本を統治することになった『アルカディア政府』をお招きし、これからの事案について話し合い、これからの国際秩序と平和、ならびに人類全体の未来に関わる議題について、対話と理解を深めるための会議です』


 国際連合事務総長が国連会議の始まりの音頭を取る。

 しかし、私は事務総長ではなく、スイキョウと名乗るポニーテール姿の女だけを注視していた。


(なぜ、セイントでは無くスイキョウがこの場に居る?)


 本来、国連会議には国の象徴たる人物が出席するのが望ましい。

 特に場所的制約のないオンライン開催であればなおさらだ。


 だというのに、この場に姿を現したのはセイントでは無くスイキョウだ。

 それ自体を非難するわけでは無いが、アチラ側に何らかの意図か問題があった事がそれだけで分かる。


 そして、その違和感に気付いているのは私だけではない。

 ロシアのウラジーミル・プーチンも、イギリス首相レベッカ・ケインも、同じ視線を送っているのが一目で分かる。


『……それでは議題に入ります』


 私がそんな事を考えている間にも、事務総長の事務的な挨拶が終わり、本題へと入っていく。


『第一議題は、アルカディアを国家として国連が正式認定するかどうか、です』


 その議題に、私も含めた5人の首脳陣は、誰しもが口を開こうとはしなかった。


 この場に居る誰しもが理解しているのだ。

 アルカディアは国民の支持を得て日本政府を武力で制し、国家としての最低限の正当性を確保している。


 そして、なによりもアルカディアは『宇宙兵器』を所有している。

 それ故に、今や彼らの危険性を問いただして敵に回すよりも、自分たちの陣営に引き込むことを最優先に考えているのだ。


 そう言う私もその一人なのは言うまでもない。


 しかし、他のP5と私が違うのは、過去にディアノゴスに関して交流があり、良好な関係を築いているという点だ。

 その上で、他国とアルカディアとの間に交流がないことは調べがついている。


 つまり、この場において、私が中立的主導権を握っているという訳だ。

 故に、私が一番最初に口を開くのは当然のことだった。


「……我々アメリカ合衆国は、アルカディアを国家承認する方向で検討している」


 そして、世界の覇権国たるアメリカのその言葉は、国際社会において桁違いの意味と重みをもつ。


 だからこそ、イギリス首相レベッカ・ケインとフランス大統領ジャン・リュック・ドモンの表情が僅かに崩れた。

 なぜならば、ロシアと中国はもとより、同盟関係にある英仏にすら事前通知はしていない。


 理由としては、アルカディア関連の動きが速すぎたのが一つ。

 もう一つの理由としては、議論の主導権をアメリカが優位的に握るためだ。


 だが、しかし、と言うべきだろうか。

 イギリスとフランスが口を挟む前に、二の手を打ったのはロシアのウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチンだった。


「国家承認の件については、我が国としても異論はない。だが……」


 プーチンの目が細くなる。


「……あの宇宙兵器の件については看過できん」


 低く抑えた声から、画面越しにも冷気のような圧が伝わる。

 齢76の老体からでもなお、滲む威圧感は健在だ。


「軌道上から地上を狙える兵器……。それは、これまでの軍事バランスを根本から覆す存在だ」


 その言葉は私も同感だった。


 あの兵器が存在する限り、既存の戦略は無意味になる。

 ICBMは宇宙で迎撃され、マッハの戦闘機すら撃ち落とされる。


 しかも宇宙空間にあるため、攻撃側からも手出しが難しい。


 撃墜できる可能性があるのは、自爆覚悟の核攻撃ぐらいだろう。

 だが、EMP被害は計り知れず、私の休日が数か月単位で消える未来が容易に目に浮かぶ。


 もちろん、それはプーチンも良く理解している。だからこそ、まず言葉で抗議をしてきたのだ。


「……スイキョウと言ったか。あの宇宙兵器の放棄をし、使用条件や安全装置の共有、その上で国際管理下への移譲を我々は望む」


 プーチンの言葉に、中国最高指導者たる習近平も同意するように頷いた。


「我々もロシアの意見に賛同する。宇宙からの兵器行使は、我々の安全保障に直接関わる問題だ。透明性のないまま運用されることは許されない」


 その意見には、私を含むP5全員が内心で頷く。

 しかし、当のスイキョウは………………笑っていた。


「フフ、……いえ、失礼しました。いや、まさか中国からその言葉を聞けるとは……いえ、本当にすみません。ですが、ツボに入ってしまったもので……」


 未だ笑い続けるスイキョウからは、一切申し訳なさを感じられない。


 それに不快げな表情をする習近平とプーチンだったが、笑いから立ち直ったスイキョウは目元の涙を拭いながらも、明快な回答をした。


「……そうですね。プーチン大統領と習近平国家主席の発言ですが、我々アルカディアとしては到底受け入れることのできない事だと宣言させていただきます。その上で、一部の情報開示については可能です。ただし、それはアルカディアの判断であり、国際社会に委ねられるものではありません」


 イギリスのケイン首相も、フランスのドモン大統領も顔を顰めざる得ない。

 なぜならば、譲歩ゼロに近い拒絶。しかもテーマは安全保障の根幹だ。簡単に流せる話ではない。


 そして、この回答でこの会議の着地点を完全に見失ってしまう。


 各国は安全保障上、宇宙兵器を許容することは出来ない。だが、アルカディアは譲歩をしない。

 結果、意見は衝突し合い、合意点が無くなる。最悪の場合、武力衝突の原因になりかねない。


 だからこそ、この場で唯一中間地点にいる私が仲裁に入るしかない。


「両者とも落ち着きたまえ」


 私は片手を軽く上げて、この場を制した。


「今は対立を深める場ではない。むしろ、アルカディアが正式な国家として国際秩序に加わるかどうかと言うのが議題であるはずだ。その第一歩から、いきなり衝突を起こしてどうする?」

「「……」」


 私の言葉に、プーチンも習近平も一旦矛先を収め、元の議題に戻る姿勢を見せた。

 それを確認した上で、私はスイキョウにも注意を促す。


「スイキョウくんも冷静に考えてほしい。我らとて安全保障を第一に考えなければならない。それ故に、決して宇宙兵器の独断使用を許容できないことを頭に入れておいてくれたまえ」


 そう言いながらスイキョウの顔を見れば、分かっていますよと言わんばかりの仕草で手を振っている。

 本当に分かっているのか疑いたくなるが、話が進まないので議題を進めるよう事務総長に目線で訴えかけた。


『……では、第一議題については、アルカディアを国家として国連が正式に認定する方向で合意ということでよろしいですか?』


 国際連合事務総長の確認に、P5は順に頷いていく。

 この瞬間、アルカディアは国際社会に認められた『国家』となったのだった。




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