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家族会議

 リチャードが帰ったあと3人はリビングに向かった。ロゼッタは苛立ちを全面に出していた。無表情のジャミールも不安と恐怖が汗となってにじみでていた。先頭を歩くバレンは疲れた顔をしていた。

 3人はリビングに着くと何も話すことなく椅子に座り、それぞれの顔色をうかがった。


「さて、どうしたものか……」


 5分ほど経って、バレンが重い口を開いた。ジャミールはドキっとして目が泳いだ。ロゼッタはため息をついた。


「どうするも何も私は反対だわ。勉強が遅れるのは問題だとしても、あの先生とは仲良くできそうにないわ」


 ロゼッタはリチャードの第一印象の悪さをまだ引きずっていた。なかなか拭えそうにない。ジャミールはいつも通り黙り込んでいた。バレンはしばらく息子の様子を見たあとに質問した。


「ジャミールもやっぱり家庭教師はいらないか?」


 ジャミールはただ黙った。


「じゃあもう少し学校に行かないか?週に1回くらいしか行っていないだろう」


 今度はゴクッと唾を呑み込んだが、何も言わなかった。バレンは大きく息を吸い込んで吐いた。


「ジャミール、これから生きていくうえで知識や教養といったものは必ず必要となってくるものなんだよ。いま学校を仮病を使って休んでいるよね?人とのつきあいが苦手なのは父さんも母さんもよくわかっているつもりだ。だからいままで大目にも見てきたが、いつまでも学校に行かないというのは少々問題なんだ」


 ジャミールは暗い顔で下を見ている。というより顔を上げることができなかった。


 「そうね。家庭教師は反対だけど、ジャミールが学校に行くようになればそれも必要ないわ。どう?もっと学校に行けば家庭教師を雇わなくてもいいのよ。ジャミール、学校に行きましょうよ!」


 ロゼッタはここぞとばかりに隠していた気持ちを表にだした。ジャミールはどんどん逃げ場が無くなっていくのを感じ身体が震えた。バレンが2人を交互に見て話す。


「父さんはできればジャミールに無理はさせたくない。でも生きていくうえで最低限のことはしてほしい。だから本当はもっと学校に行ってもらいたい。我慢することも大切だからだ。それが無理なら週1でも家庭教師を頼みたいと考えている。これはどう思う?」


 ジャミールは苦しくてうめきたくなった。学校を休みがちなことに後ろめたい気持ちもあったからだ。しかしその気持ち以上に学校が怖かった。そこに行くといやおうなく孤独がつきまとう。集団の中の孤独は何よりもつらかった。

 友達ができたとしても離れていくかもしれないという恐怖がある。その恐怖に耐えられないから学校を休んでいるのだ。ジャミールは無言の抵抗を続けた。


「どうする?もっと学校に行くか家庭教師を頼むかジャミールが決めなさい」


 バレンはいつになく真剣な面持ちで言った。もうジャミールの望む選択肢は無くなっていた。このピンチを切り抜ける手段を思いつかない。


「ジャミール、簡単なことよ。毎日学校に行けばいいのよ。今は楽しくないかもしれないけどいずれ慣れるわ。そういうものよ」


 ロゼッタは笑顔で言うがジャミールにはその笑顔が怒られるより怖かった。


「週に1回でいいなら……家庭教師のほうがいい」


 ジャミールは元気のない口調で答えた。毎日学校に通うよりはマシだと思えたからだ。ロゼッタは明らかに残念そうな顔つきになった。バレンは息子の様子を見届けて答える。


「答えを出してくれてありがとう、ジャミール。今は辛いかもしれないがいずれ人と関わって良かったと思える日がくる。だから耐えてくれ」




 それから2日後、リチャードの元へ1通の手紙が届く。ドレスタ家からの正式な家庭教師の依頼状だった。リチャードはポストの前でガッツポーズをつくり天を仰いだ。部屋に戻りベッドに飛び込んで雄叫びを上げた。そしてウイスキーを取りだしてちびちびと飲みはじめた。どうやら嬉しくてしかたないようだ。

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