困惑
翌日からジャミールはさらに学校に行かなくなった。リチャードにどう対応したらいいのかわからずに会うのが怖くなったのだ。でもまたリチャードが家にくると困るので、1週間に1、2回のペースでは登校した。
リチャードはジャミールが登校してくると笑顔であいさつしたが、ジャミールは無表情でうなずくだけだった。それでもジャミールは自然に振る舞えていると思っていたし、周りから見てもいつも通りだった。
この距離を保ち続ければ、先生も不審に思わないだろう。……ところがジャミールの思惑は外れる。リチャードがまた家にきたのだ。しかも突然とんでもないことを言いだした。
「こんばんは。ドレスタ夫人、僕をジャミール君の家庭教師にしてくれませんか?」
「バタン!」ドアはすぐさま閉められた。
しかし、彼がジャミールの担任の先生であることと、息子が学校を休みがちであることには負い目があり、ロゼッタは結局すぐにドアを開いた。バレンも呼び鈴に気づいて玄関まできた。
「どうしていきなり家庭教師が必要なのですか?」
ロゼッタが玄関でイライラしながら尋ねた。
「僕はジャミール君の友達ですよ。その友達が学校を休みがちで勉強が遅れてしまうのは悲しいことです」
リチャードはウイスキーをポケットにしまいこんでいたが、酒臭かったので、アルコールを飲みながらきたのは明白だった。
「たしかに学校の勉強が遅れるのは問題ですけど、ご心配は無用です。非常識な方にジャミールを任せたくありませんわ」
ロゼッタはリチャードのことを良く思ってはいない。だから断る姿勢をみせた。しかし、側に居合わせたバレンは違った。
「うーん、リチャード先生が家庭教師になるのも面白いかもしれませんね。ジャミールにも友達が必要だと思っていたところです」
なにやら声が聞こえるので玄関にきたジャミールは驚いた。いきなりリチャードが家庭教師になるかもしれないという話が出ていたのだ。しかもジャミールの意見も聞かずにだ。ジャミールは父親が自分のことを大切に思ってくれていないのではないかと、悲しくなった。それでも彼には断る勇気も話に割り込む勇気もなかった。
「なにを言い出すのあなたは!こんな型破りな先生は学校だけで十分です。酔っ払いの友達ができるくらいなら、いないほうがいいわ!」
ロゼッタは血相を変えてバレンにくってかかった。
「はっはー、確かに僕はお酒がすきです。でもジャミール君のことはもっとすきなんですよ。だから大丈夫です。神はいつでも貴方の味方ですよ」
リチャードは笑いながらロゼッタの肩を叩いた。
「きぃー!本当になんて非常識なお方でしょう。あなた見ましたか?まだ2度しか会ってない人の肩に気安く触って!たやすく神、神っておっしゃるし!リチャードさんは主を軽んじているようにしか思えません。最低です!」
ロゼッタは目の色を変え、リチャードをにらみつけた。リチャードは笑顔で両手を前にだして「落ちついてください」のジェスチャーをしている。
ジャミールは母が勝つことを祈った。そのくらいしかできることがなかったからだ。ジャミールの心臓はバクバクしていた。
「僕が主を軽んじている?そんなことはありませんよ。人と同じくらい信じています」
さらにロゼッタの頭に血がのぼる。