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「1+1=」の答え

「はっはー、僕は立派な先生なんかじゃありませんよ。だって1+1を2と教えるのが嫌いですからね」 

 

 リチャードはパンをかじりながら陽気に語る。


「あらまあ!本当にたいした先生ですこと。1+1を2と教えるのが嫌いですって?ご冗談がお好きとは思いましたけど、ここまでくると私の耳を疑ってしまいますわ」


 ロゼッタは眉間を押さえて文句を言った後、口をへの字に結んだ。


「どうして先生は1+1は2がお嫌いで?常識ですよね。それを先生の立場であるリチャードさんが嫌いだなどと言われると、私も理解に苦しみます」


 バレンも妻に続いた。リチャードはさもありなんという表情でうなずいている。


「確かにバレンさんの意見はごもっともです。ではこんなことを考えたことはありませんか?1+1が2になるとは限らないのではないかと」


 リチャードの言葉にドレスタ一家は首をかしげる。


「1+1が2になるのは当然ではないですか?1人と1人が2人になる。リンゴが1個あって、もう1個増えれば2個になる。なにも疑問に感じませんが……」


 反論するバレンにリチャードが言葉をかぶせた。


「なるほど。では1皿のあたたかいスープがあります。そこに1本のブドウ酒を注ぎます。これは2になりますか?」


 そう言い、リチャードは半分飲みほしたスープの皿にブドウ酒を注いだ。スープの皿から液体がこぼれる寸前にブドウ酒のビンは空になった。


「本当になにをおっしゃいたいの?突然訪れたかと思えば不可解なことを言い、意味不明な行動をとる。スープとブドウ酒は別のものですよ。1+1は同質のものにしか使えません」


 ロゼッタが再び口をはさんだ。リチャードは冷静に話を続ける。


「では夫人。先ほどバレンさんが1人と1人が2人になるといいましたが、それは人が同質であるから2であると……」


「ええ、そうですわ。1人と1人が2人になる。当然のことでしょ」


 ロゼッタの言葉にリチャードはふむふむとうなずいて、少し間をあけた。


「夫人、僕は少しひねくれた見方をしてしまうだけなのです。単純に数値の上でいったら確かに2人かもしれません。でも同質かときかれると同じ人というのは存在するのでしょうか?リンゴもしかりです。少しずつ大きさが異なります。それが合わさったところで2という絶対的な数字に置き換えるのはどうかと」


「本当に何がおっしゃいたいのですか!クドクドとまどろっこしい!」 


 ロゼッタは我慢しきれずに立ち上がって声を荒げた。ジャミールは完全に蚊帳の外だった。


「つまりはこうです。1人1人違うのに、どうして『2』という型にはめてしまうのか?あ、この場合の型は『1+1は2の型』ですよ。1+1は必ずしも2である必要はないのです。例えば僕とジャミール君が組めば5にも10にも力を発揮できるかもしれない」


 リチャードは言いたいことを言ってしまうと、満足してグラスを口に運んだ。


「はあ!本当に立派な先生ですこと!口が上手いとはこのことですね。なにか途中で論理のすり替えをされた気分ですわ」


 ロゼッタは苛立ったまま顔をそむけた。


「はっはー、確かにその通りです。もちろん『1+1=2』も大切な考え方のひとつだと思います。ただ、今の学校教育はその答えしか認めないような教え方をしていて、それが気にくわないだけです。気に触ったのなら謝ります」


 リチャードは笑いながら答えて、先ほどのコーンスープとブドウ酒の合わさったものを一口飲んだ。


「あー、うまい。これは最高の1+1だ!」


 ロゼッタはあきれかえり、ジャミールは無表情で黙りこくっている。ただバレンだけがリチャードという個性を認めたようだ。


「まあ、そういう考え方もありかもしれないですね」


「あなた!……リチャードさん、酔いもまわってきたころでしょうし、夜もふけてまいりましたわ。帰り道は大丈夫かしら?」


 ロゼッタはこの訪問者を早く帰したいようだ。


「おお、こんな酔っ払いの身を案じてくださるとは!優しいお心をお持ちのあなたを神は見逃さないでしょう!さらなる祝福があなたに訪れることでしょう。主の御心のままに!」


 リチャードは深くお辞儀をして、スープを飲みほした。赤くなったほおはまたロゼッタを不快にしたが、バレンは気にとめなかった。ジャミールは何も言わない。リチャードは「ジャミールまた会おう」とだけ言い残し、よろよろとふらつきながら帰路に着いた。

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