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裁縫師  作者: 佐藤謙羊
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06 はじめてのレベルアップ

06 はじめてのレベルアップ


 赤き崖から森に戻ると、シャレオはまた深々と頭を下げる。


「ダサスさん、ジニーさん、本当にありがとうございました」


 今日一日で、彼女の白くてキレイなつむじを何度見たことだろう、そして何度見ても飽きないな、なんて俺は思う。

 そして、もう少しだけ彼女といっしょにいたいと思った。


「せっかくだから街まで送ってくよ。シャレオを襲ったヤツらがいたら危ないしな」


「お気遣いありがとうございます。でも、それには及びません。わたくしはクエストを続けたいと思います」


「えっ、聖女ひとりでか? いったい、どんなクエストなんだ?」


「森を見回って、トレントさんを見かけたらギルドに報告するクエストです」


 『トレント』とは、魔王の邪悪な瘴気によって樹木がモンスター化したもの。

 強さは樹木の大きさによるが、この森ならレベル5程度だろうか。

 見習い冒険者だとパーティを組まないと倒せない相手だが、発見するだけなら単独(ソロ)でもできるだろう。


「はじめてお受けしたクエストですので、できれば達成しておきたいと思いまして」


 かわいい顔をキリリとさせ、さらにかわいくなるシャレオ。かわいい。

 どうやら彼女は真面目な天使のようだ。


「わかった、そういうことなら俺も付き合うよ」


「えっ、よろしいのですか?」


「ああ、どうせこの森でもうひと狩りするつもりだったからな。なっ、ジニー?」


「ニャーン」


 というわけで俺は、生まれて初めて……。あ、いや、パーティなら、すでにジニーと組んでいたな。

 なら、俺は生まれて初めて、女の子とパーティを組むことになった。


 それは、ぼっちの俺にとってはかなりの快挙といえよう。

 初めてのクエストでもあるが、見習い冒険者のシャレオが受けたものだから、たぶんそれほど難しくないはず。


 俺は初めてのデートに臨むような気分で、ソワソワと森のなかを歩いていたんだが……。


「ギャーッ!」


 突然、目の前の茂みからゴブリンが飛びだしてきて、行く手を阻まれる。


 『ゴブリン』とは、尖った耳に緑色の肌をしている小さな人型のモンスターで、強さはレベル3程度。

 これまでのウサギに比べると、戦闘力も知能も高めだ。


 そして俺のほうはまだレベル1だが、やれるか……!?

 いや、聖女がふたりもいるんだから、当たって砕けろだっ!


「俺に任せろ!」


 抜刀しつつ挑みかかり、クロスブレイドのスキルを放つ。

 十字架のような剣閃が、緑の胸を断罪のごとく切り裂いた。


「ギャァァァーーーッ!?」


 ゴブリンは苦悶の表情を浮かべながらヒザから崩れ落ち、前のめりに倒れた。


 やった、のか……?

 あまりに呆気なさに拍子抜けしていると、背後から驚きに満ちあふれた声がした。


「ゴブリンさんを簡単にやっつけてしまうなんて……!? ダサスさんは手練れの剣士さんだったのですね!?」


 シャレオにいいところ見せられたようで、俺はちょっとテンションがあがる。

 この流れなら憧れのハイタッチができるかなと思い、手を挙げて振り向いたら、


「ギョワーッ!」


 シャレオの肩越しに、迫り来るゴブリンを見た。


 しかも普通のゴブリンじゃない。

 喉が潰れた鳴き声で、目はにごった膜に覆われ、肌はくさったような紫色。

 足どりは酔っ払っているようにフラついているが、剥がれかけた爪先は俺たちのほうを狙っている。


「アンデッドゴブリンだ! 俺の後ろへ、シャレオ!」


 しかし彼女は退かなかった。

 戦天使のように勇ましく振り返り、アンデッドゴブリンと対峙する。


「ここは、シャレオにおまかせくださいっ!」


 シャレオは両手を胸に当て、唱えた。


「ねんねんころりよ、おころりよ……! よい子は、おやすみなさい……!」


 アンデッドゴブリンの動きが止まり、足元から立ち上ってきた光に包まれる。

 見えない天使たちに引き上げられているかのようにゆっくりと空中に浮いたあと、安らかな顔のゴブリンの魂が抜け出す。

 やがて、抜け殻のようになった身体だけが、ぐしゃりと地面に落ちた。


 これは、聖女のレベル2スキル『浄化』。

 アンデッドモンスターの魂を天に還すというスキルだ。


 しかしレベルが上の相手には通用しにくく、場合によっては何度も重ねがけする必要がある。

 それを、一発で浄化するなんて……。


「すごいじゃないか、シャレオ! 実は手練れの聖女だったんだな!」


「ニャーン!」


 俺とジニーは大いに喜んだが、当のシャレオはポカンとしていた。


「そんな……? アンデッドゴブリンさんは、何回もやらないと浄化させられなかったのに……?」


 シャレオはかわいく小首をかしげていたが、やがて真実に気づいたかのようにハッと俺を見る。


「やっぱり、ダサスさんはすごいです!」


「どうした急に」


「このお召し物です! このお召し物を身に着けてから、明らかに浄化の力が上がりました!」


「そうなのか? まあ、いちおう職業専用装備だからな」


 そういえば俺も、格上のゴブリンをクロスブレイドで簡単に仕留められた。

 レベル1の剣士なら、4~5発は食らわしてやらなくちゃいけないはずなのに……。


「ご自身がお強いだけでなく、至らぬわたくしまで、立派な聖女にしてくださるなんて……! ダサスさんは、すごすぎます……!」


 感激でうるんだシャレオの瞳が、ひときわキラキラと輝く。

 何かと思ったら、俺の身体から出ている光だった。


「あ……レベルアップされましたね、おめでとうございます!」


「ニャーン!」


「あっ、ジニーさんもレベルアップしております! おふたり同時でレベルアップなんて、なんておめでたいのでしょう!」


「ニャニャーン!」


 胸に飛び込んできたジニーを抱きしめ、頬ずりしあうシャレオ。

 他人のレベルアップも自分のことのように喜んでくれるなんて、やっぱり天使だ。


「あ、そうでした」


 シャレオはなにかを思いだしたような声とともにしゃがみこむと、ジニーを肩に乗せたまま地面に向かって祈りを捧げる。

 その後おもむろに、なにかを拾いあげていた。


「なにやってんだ?」


「アンデッドゴブリンさんの残したドロップアイテムを拾っております」


「そういや、そんなのもあったな」


 振り返ると、俺が倒したゴブリンの死体はもうない。

 かわりに、薄汚れた牙が残されていた。


 モンスターは倒されると瘴気となり、ドロップアイテムを残して消える。

 俺の初陣のラビッツノもおそらく何か落としたと思うんだが、初勝利の嬉しさで拾うのをすっかり忘れていた。


 しっかり者のシャレオは忘れることはないようで、ちょこまかと俺の横を通り過ぎていくと、ゴブリンの牙も拾いあげていた。

 しかも腰を折って拾うのではなく、きちんとヒザを折ってしゃがみこみ、丁寧に祈りを捧げるあたりは育ちの良さをうかがわせる。


「ダサスさんはおカバンをお持ちでないようですので、かわりにわたくしが持たせていただきます。クエストが終わったときにお返ししますね」


 そしてこの笑顔。


 彼女はこの世界の聖女のイメージとは、およそかけ離れている。

 聖女というのは上級職なので、お高くとまっているヤツらばかりだ。

 治癒を見ず知らずの人間に施したりしないし、汚いドロップアイテムを拾ったりなんかしない。

 ましてや荷物持ちを進んで買って出るなんて……。


「やっぱり天使、やぱ天だな……」


「えっ、なにかおっしゃいましたか?」


「いや、なんでもない、見回りを続けようか」


「はい!」「ニャーン!」

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