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裁縫師  作者: 佐藤謙羊


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10 いきなりランクアップ

10 いきなりランクアップ


 ふたりの主張はともかくとして、トレントデッドを倒した功績が認められ、シャレオはランクアップを果たす。

 ギルドというのは独自の階級制を持っており、Fランクから始まるのだが、それがEランクとなる。

 これにはエナナだけでなく、居合わせた他の冒険者たちも手放しで褒めていた。


「ランクアップおめでとうございます! シャレオさん!」


「たった1回のクエストでランクアップとは、すげぇ嬢ちゃんだなぁ!」


「聖女は浄化があるとはいえ、あのトレントデッドを浄化するとは相当な腕前だぞ!」


 むくつけき男たちに囲まれてパチパチと祝福されるシャレオ。

 しかし彼女は両手をぶんぶんさせ、顔を真っ赤にして言い返していた。


「ですから違うんです! わたくしはなにもやっておりません! ただ応援していただけです! やっつけてくださったのはダサスさんとジニーさんで……!」


 肩のジニーはとうとうしびれを切らしたのか、冒険者たちを「シャーッ!」と威嚇する始末。

 しかしいくらムキになっても誰からも信じてくれなかったので、とうとう半泣きで俺のところまでやってきた。


「だ……ダサスさんからもおっしゃってください! トレントデッドさんをやっつけたって! ダサスさんはとってもすごい方なのに、みなさんわかってくださらないのです!」「ニャーン!」


「俺はべつにわかってもらえなくてもいいよ。俺だってまだ信じられないくらいなんだからな」


「そんな……!?」「ニャーッ!?」


 そろって愕然とするシャレオとジニー。

 たまにふたりが双子みたいに見える時があるが、いまがそうだ。


「ふたりがわかってくれてるなら、俺はそれでじゅうぶんだよ」


 ジニーが三角の耳をぺたんと倒して残念そうにしていたので頭を撫でてやる。

 余ったほうの手でつい、シャレオの頭もなでなでしてしまう。


 しまった、流れとはいえやりすぎたかなと思ったが、嫌ではなさそうだった。


「そ……そこまでおっしゃるのでしたら……仕方がありませんね……」「ニャーン……」


 シャレオは嬉しさと恥ずかしさが入り交じったような表情でうつむく。

 ジニーは「もっとなでろ」と言わんばかりに背伸びをして俺の手に頭をこすりつけてきた。


 シャレオの髪はすべすべで柔らかく、シルクみたいな触り心地。

 ずっと触っていたかったが、ハツラツとした声によって中断させられた。


「おまたせしましたシャレオさん、清算がおわりました!」


 ギルドカウンターのほうを見やると、けっこうな金が詰まってそうな袋が置かれていた。


「クエストの報酬と、モンスターを倒したぶんのボーナス、そしてドロップアイテムの額をあわせて、しめて100万(エンダー)です!」


 100万(エンダー)というと、俺の前世なら100万円ぶん。

 見習い冒険者が得る初回の報酬としては破格といえるだろう。


 シャレオは「ありがとうございます」とエナナに丁寧に礼を言ってから受け取ろうとしたが、


「いやいや、おかしくないですか?」


 軽薄そのものといった声が割り込んでくる。

 視線を移した俺は、血が凍りそうになった。


 その顔は忘れもしない。

 『職業授与の儀式』のあと絡んできたチンピラども。


 有り金や持ち物を奪ったばかりか、瀕死寸前まで俺をリンチしたヤツら……!


 ヤツらは3人組で、その全員が戦闘職。

 声を掛けてきたのは、リーダー格の剣士だった。


 剣士なのにインテリぶったいけすかない優男で、俺のことなどすっかり忘れているのか一瞥すらくれない。


「ひどいなぁ、シャレオくん。手柄をひとりじめして逃げちゃうなんて」


 気づくと、シャレオは俺の背中に隠れていた。

 俺の腕をしっかりと握りしめた手から、震えが伝わってくる。


 それだけで俺は、すべてを察した。


 コイツらが、シャレオを襲ったチンピラどもだ……!


 シャレオが怯えて言い返せないことをいいことに、チンピラ剣士はいけしゃあしゃあと言った。


「みなさん聞いてくださいよ。俺たちは敵と戦って負傷したんです。それなのにシャレオくんは僕らを見捨てて自分だけ帰ったんですよ」


「あっ、そういえばシャレオさんがクエストを受諾したときは、あなたたちもいましたね!」


 周囲の冒険者たちは最初は信じられないような顔をしていたが、エナナの証言によってざわめきはじめる。


「なんだって……!? だとしたら、とんでもねぇことだぞ……!」


「聖女ひとりでなんて、おかしいと思ってたんだよ……!」


「あの嬢ちゃん、かわいい顔してやることがえげつねぇなぁ……!」


 まわりを味方に付けたとわかるや、チンピラ剣士はさらに調子に乗った。


「シャレオくん、クエスト中に仲間を見捨てたりしたら、どれだけ重いペナルティが科せられるか、わかってる?」


 チンピラ剣士はカウンターにあった報酬の入った袋を掴むと「報酬はもちろん没収」と笑む。

 さらに、シャレオにいやらしい笑みを向けた。


「そして、キミも没収……! 僕の従者になるんだ……! そうすればパパに頼んで、今回のことは帳消しにしてあげてもいいかなぁ……!」


 シャレオの肩に向かって無遠慮に伸ばされたその手を、俺は無言で掴む。

 チンピラ剣士は片眉を吊り上げ、怪訝そうな顔で俺を見た。


「……はぁ? なんだい、キミは?」


 俺は震えていた。シャレオとは違う感情によって。

 さっきまで凍りついていた血は、いまや爆発寸前まで沸騰している。


「クソ野郎……! 汚ぇ手で、シャレオに触るんじゃねぇ……!」


 クソ野郎は俺の手を振りほどくと、その手で髪をかきあげて笑った。


「ははっ! どうやらこの裁縫師クンは、シャレオくんにいい所を見せたいらしい! 僕らみたいに、騙されているとも知らずに!」


 この野郎、俺のことを覚えてやがったのか……!


 いますぐぶちのめしてやりたかった。

 相手が5対1だろうがかまわずに。


 だがここで感情にまかせて力に訴えたところで、シャレオがますます不利になるだけだ。

 シャレオはさっきまで力いっぱい言い返していたのに、いまはカミナリを怖がる子供みたいに俺の背中に引っ込んでいる。


 だが無理もない。襲われたのがよほどトラウマになっているのだろう。

 だから、今度は俺がかわりに反論する番だ。


「おいクソ野郎、30分……いや、15分待て。そしたらシャレオの無実を証明してやる」


「……はぁ? なにそれ、そんなことできるわけないのに……。あっ、わかったぞ。いいとこを見せようとしたけど僕には通用しなかったから、シッポを巻いて逃げるんだ」


「そうじゃない。エナナ、ギルドの空きスペースを15分ほど借りられないか?」


「はぁ、でしたらあそこの囲いの向こうを使ってください」


 エナナが指さした先はギルドの隅っこ、木のパーテーションで覆われた簡易的な打ち合わせスペースだった。

 俺にしがみついて離れないシャレオを連れていくと、彼女は血の気を失った顔をあげる。


「ひくっ……あ……あの……そのっ……ひっく……わたくし……あのっ……」


 ショック状態に陥っているのか、その声はしゃくりあげていて、言葉にならない。

 表情は親からはぐれた迷子のようで、さまよう瞳は水を張ったように潤んでいる。

 頭を撫でてやると、少しは気分が落ち着いたようだった。


「あの……いったい、どうなさるおつもりですか……?」


「まあ任せとけって、あのクソ野郎をギャフンと言わせてやるからな」


 俺は決意とともに両手を前に出し、あの言葉をつぶやく。


「……我は紡ぐ、衣紋(えもん)の緒を……!」


 思わぬ追加作業はあったが、俺はそれから15分キッカリにパーテーションから出た。

 それだけで、「おおおっ……!?」と驚嘆の声がおこる。


 俺は剣士の練習着から、黒いロングコートに着替えていた。

 やや威圧感があるデザインなので、チンピラ剣士も眉をひそめていたが、強気を装っている。


「……はぁ? なにそれ」


「待たせたな、ツィン・ピラ・クーソプレッピー」


 名を告げると、チンピラ剣士はにわかに動揺を見せた。


「なぜ、僕の名前を?」


「お前の質問は受付けられない。なぜならば、質問するのは俺だからだ。」


 問答無用とばかりに、手をかざし唱える。


「我は問う、汝は(とげ)か、それとも(とが)か……!」


 すると、俺とチンピラの間に魔法陣が現われ、波紋のように広がる。

 波紋は俺とチンピラを囲む大きさで静止すると、光をたちのぼらせた。

 驚愕はさらに大きくなる。


「おおおっ……!? こ……これは……!? 『強制尋問』の魔法陣……!?」


 チンピラの強気の仮面は剥がれ、「なっ……!?」と後ずさった。


「お……お前……裁縫師のはずじゃ……!?」


「いいや……いまの俺は、『尋問官』だ……!」

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