レンタル彼女を頼んだら、待ち合わせ場所に義妹が来たんだが!?・短編
大学二年の夏、付き合って一年になる彼女に振られた。
明日は俺の二十歳の誕生日だっていうのに……。
バイト代をためてちょっといいレストランも予約してたのに。
レストランをキャンセルして、誕生日に汚いアパートで一人でカップラーメンをすする未来が見える。
慰めてもらおうと友達に電話したら、全員から「明日は予定がある」と言われた。薄情な奴らだ。
最後の一人に電話したら「寂しいならレンタル彼女でも利用したら」と言われた。
幸いまだレストランのキャンセルをしてない。
レンタル彼女を利用するのもありかもしれない。
検索エンジンを使いに住んでる都道府県名と「レンタル彼女」の文字を入力すると、
「レンタル彼女・スプリング」
というサイトが検索結果の一番上に表示された。
ハンバーガーショップでフィッシュバーガーを食べながら、サイトに登録する。
コーラを飲みながら好みのタイプを入力していく、
「黒髪、ロングヘアー、身長百五十センチ〜百六十五センチ、年齢十九歳〜二十二歳」
までの女の子と。
数秒後検索結果が表示される。
タイプに合う女の子がいるといいけど。
「あれ? 一件しかヒットしない。
そんなに難しい条件を入力したかな?」
表示されたプロフィールと顔写真に目を通す。
【葵、大学一年生、十九歳、身長百六十センチ】
スマホの画面に長い黒髪をツインテールにした美少女が表示された。
清楚なお嬢様っぽい印象を受ける。
こんな可愛い子も登録されてるんだ。
【葵】って名前は源氏名かな?
よしこの子に決めた!
安全上の理由からデート前に相手のSNSのアドレスやメールアドレスを聞くことは禁止されているらしい。
会社宛のメールに条件を入力していく。
「場所は六城河駅前、デート内容はレストランで食事と食後のカラオケ、デート日時は六月十五日の五時から九時までの四時間」と。
条件を入力して送信する。
料金は一時間一万円で四時間で四万円。
別途交通費やデートに行った場所の食事代なんかもかかるようだ……痛い出費だけどしょうがない。
【当日の服装の指定してください】
と返信が来た。
と言われても女の子の服とかよくわからないしな……。
とりあえずレストランで食事するから、それなりの服を着てきてほしいな。
そのとき、白のワンピースを着た女の子が俺の横を通り過ぎて行った。
黒髪ツインテールの女の子が白のワンピースを着ていたら可憐だろうな。
写真で見た葵ちゃんに白のワンピースを着せた姿を想像する。
スマホを見ながらニヤニヤしていたら、隣の席に座っていた小さな子供を連れた母親から、冷たい視線を向けられた。
地味に凹む。
【白のワンピース、スカート丈は短めでお願いします】
と書いて送信した。
スカートの丈まで指定するのはやりすぎかな?
変態だと思われたかな??
デートを断られたりして?
ハラハラしながら返信を待つ。
相手から【了承しました】の返事が来てホッと息をつく。
その後、振り込み先といつまでに振り込むかが書かれたメールが届いた。
俺はすぐにハンバーガーショップから出てATMから料金を振り込んだ。
四万円+交通費実費三千円か、誕生日に女の子とデートするのにもお金がかかるんだな。
レストランをキャンセルした方が、絶対に安かった。
しかし俺の中で二十歳の誕生日を、狭いアパートの中で一人で過ごしたくない気持ちの方が強かった。
料金を払ったのに当日葵ちゃんが来なかったら俺は泣く。
そのときはレストランで二人分の食事をやけ食いしてやる!
明日のことが期待で胸が膨らんでその日は眠れなかった。
そして誕生日当日、待ち合わせの場所に三十分も前についてしまった。
そわそわしながらまっていると、俺の前に一人の少女が現れた。
サイトで見た顔写真の少女と同じ顔をしている。
少女は長い黒髪をツインテールにして白いリボンを結んでいた。
少女の履いている膝上十センチはあるスカートが風にふわふわと揺れ、ミニスカートから生える生足が眩しかった。
清楚でなおかつエレガントだ!
本当に白のミニスカワンピを着てきてくれたんだ。嬉しいな。思わず顔がほころんでしまう。
葵ちゃんは胸は少し小さいけどウエストが細くて足がとても長かった。サイトの写真は顔写真だけだからスタイルはわからなかったんだよな。
モデルさんみたいだなぁ。実物の方が写真の百倍は秀麗だ。
というよりそのへんのアイドルより千倍は可憐だ。
こんなに愛らしい子と四万円で四時間もデートできるの? 凄い時代だな。令和に生まれてよかった!
「もしかして葵ちゃん……ですか?」
俺が尋ねると少女はこくんとうなずいた。
「えっと俺、デートを依頼した寺橋翔といいます」
俺が自己紹介したら女の子は驚いた顔をしていた。
「はじめまして、これから四時間よろしくお願いします」
と言ったら葵ちゃんに冷たい視線で睨まれた。
あれ? もしかして怒ってる?
だが、美少女になら睨まれてもいい! 美少女は怒った顔もキュートだ!
葵ちゃんをエスコートしてレストランに向かう。
利用規約に手を繋いだり腕を組むぐらいならしてもいいと書いてあったけど、葵ちゃんが怒ってるみたいだから辞めておこう。
手を繋ぐために事前にウェットティッシュで入念に手を拭いていたことは内緒だ。
食事の最中、葵ちゃんは一言も喋ってくれなかった。
食事の後はカラオケに行く予定なんだけど……もしかして俺が一人で歌うことになるのかな??
二時間後、現在カラオケの真っ最中。
カラオケルームに入ってからずっと俺が一人で歌ってます。
葵ちゃんは歌うどころか一言も話さない。
何曲か歌ったあと、リクエスト曲が途切れた。
この機会に葵ちゃんにどうして一言も話さないのか理由を聞いてみよう。
もしかしたら葵ちゃんは具合が悪いのかもしれない。
「会ってから一言も話さないけど何か理由があるの?
もしかして葵ちゃん、口内炎ができてるとか?」
葵ちゃんは一言も話さない。
物凄く口下手なのかな?
そのとき俺はあることに気づいた。
もしかして会話オプションは別料金なのか??
外国のホテルやレストランに行ったらウェイターにチップを払うのが常識みたいに、レンタル彼女にもチップを払う習慣があるのか??
もしかしてカラオケで歌うのも別料金?! 一曲歌うのに千円かかるとか??
レンタル彼女を利用したのが初めてだから知らなかった!
だから彼女はずっと不機嫌だったんだな! ようやく理解できた!
「すみません、会話するのにもカラオケで歌うのにも別途料金がかかるんですね。
俺、レンタル彼女を利用したの初めてだから知りませんでした」
葵ちゃんは俺の話を聞いてキョトンとした顔をしていた。
そのあと葵ちゃんは顔をぷくっと膨らませ、上目遣いで睨んできた。
美少女の上目遣いやばい! 顔をぷくっと膨らませる仕草もチャーミングだ!
「………か」
葵ちゃんが初めて喋った。でも声が小さくてよく聞こえない。
「えっ?」
「翔兄の馬鹿!」
「ええっ?」
翔兄……俺をこう呼ぶのは一人しかいない。
「もしかして……陽葵か?」
陽葵の一字をとって源氏名が葵……そういうことか。
「そうだよ! 陽葵だよ! どうして気づいてくれなかったの!」
陽葵は七年前まで俺の義妹だった。
俺が十一歳のとき俺の母親と陽葵の父親が再婚。
そして俺が十三歳のときに二人は離婚した。
それ以来陽葵とは会っていない。
つまり陽葵とは七年ぶりに再会した。
うわー……誕生日にレンタル彼女を利用して義妹をレンタルしてしまった。
きっと明日には誕生日にレンタル彼女を利用したことが陽葵の家族に知られてしまう。
陽葵の父親を通じて俺の母親や親族にそのことが話されたら……!
恥ずかしい、恥ずかしすぎる! 恥ずかしくて死ねる!
「翔兄どうしたの?」
俯いたまま無言でスマホを操作していたら、陽葵が心配そうに声をかけてきた。
「いや……どうやって自殺しようか検索を……」
「馬鹿なの! どうして翔兄が自殺しなくちゃいけないのよ!」
「だって誕生日にレンタル彼女を利用して義妹とデートしてたなんて恥ずかしすぎるだろ!
このことを親族に知られたら死ぬまで馬鹿にされる!
もうお正月とお盆におじいちゃんとおばあちゃんの家に行けない!」
さよならおじいちゃん、おばあちゃん。おじいちゃんが家庭菜園した野菜が好きだったよ。おばあちゃんの作ってくれたおはぎも美味しかったよ。
「もう、翔兄は考え過ぎだよ!」
「つうか陽葵はなんでレンタル彼女なんかで働いているんだ!
待ち合わせ場所にどんな男が来るか分からないんだぞ!」
確かレンタル彼女は手を繋ぐとか腕を組むぐらいの接触はOKだったはず。
俺はひよって手も握れなかったけど。
「強引に個室に連れ込まれて無理やりキスとか、い……いかがわしいことされたらどうするんだ!
危険だ! 今すぐこんな仕事辞めなさい!」
他人が働いているのは構わないが、妹は別だ。
「翔兄、説教くさ〜〜い。パパみたい」
まさかこの年で一つ下の陽葵におじさん扱いされるとは思わなかった。
「お兄ちゃん、大好き」と言って俺の後ろをついてまわっていた純真で無垢な陽葵はいなくなってしまったのか?
俺ちょっと泣きそうなんだけど。
「もしかして陽葵はレンタル彼女の仕事以外にも……援助交際とか、パパ活とか、金持ちの愛人との密会とか……」
ピュアだった陽葵のイメージががらがらと音を立てて崩れていく。
「もう違うよ。
私そんなことしてないもん。
翔兄が登録したレンタル彼女の名前覚えてる?」
「確かレンタル彼女、スプリング」
「私とパパの名字は?」
「確か春野」
一時期は俺も名乗っていた名字だ。当然覚えている。
「またわからないの、春は英語で?」
「スプリング……えっ? もしかしてレンタル彼女スプリングって……?!」
「パパが経営している会社よ」
「お義父さんは何を考えてるんだ!
成人したばかりの娘をレンタル彼女で働かせるなんて!」
「もう、違うよ翔兄。
私がパパにお願いしたの。
もし翔兄が登録することがあったら、私のプロフィール以外検索結果に表示されないようにしてって。
翔兄に私以外の人は絶対に紹介しないでって」
「はっ? ちょっと話についていけないんだけど」
検索したとき葵ちゃん(陽葵)しか表示されなかったのって、陽葵に仕組まれたことだったのか??
「でも、翔兄ってば私の顔を見ても全然気づかないんだもん。
ムカついた」
「もしかして俺が待ち合わせ場所で自己紹介したとき陽葵が怒ってたのって……?」
「翔兄に『はじめまして』って言われたときショックだったんだよ。
可愛い妹の顔を覚えてないなんて酷い」
「ごめん」
まさかレンタル彼女を利用して、義理の妹が来るとは思わないだろう。
「翔兄が私からのプレゼントを受け取ってくれたら許してあげる」
「プレゼント?」
「翔兄、今日はお誕生日だよね。
プレゼントに私の初めてを上げる」
「ええっ……!?」
陽葵が瞳をとじて顔を近づけてくる。
顔ちっちゃいな。まつ毛長いな。お肌ピチピチだな。唇にリップを塗っているのかな? 唇が艶艶してるな。
初めてってキスのことかな?
それとももっと他の……?
心臓がバクバクと音を立てている。
陽葵の唇と俺の唇の距離はあと数センチ。
この俺が何もしなければ陽葵と……キス。
いやいやそれはだめだろ義兄として!
「陽葵! お遊びでこんなことをしてはいけません!」
悪ふざけにもほどがあるだろ!
このあと俺は陽葵をソファーの上に正座させ、二時間みっちり説教した。
二時間後陽葵に、
「翔兄説教長いよ〜〜。
おじいちゃんみたい」
と言われ地味にメンタルにダメージを受けたのはまた別の話だ。
――終わり――
【後書き】
※最初はレンタル彼女を利用したら同居中の義理の妹(地味)が、メイクして髪型と服装を変えて美人になって現れた。
だけどアホな義兄はその正体に気づかない……という話を書く予定でした。
「同じ家に住んでる義妹が、髪型とメイクを変えた位で気づかないものかな??」という疑問にぶつかり、「何年も会っていない義妹」という設定に変えました。
両親が離婚しているから法律上は義妹ではないんですが、主人公の感覚としては妹のままということで。
※主人公が誕生日前日に彼女に振られたのにも、主人公が友達に連絡したとき全員に「明日は予定がある」って言われたのも、友人に「レンタル彼女でも利用したら」って言われたのも、実はヒロインが裏で糸を引いていたりします。
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