第一話 プロローグ
夜の闇を流星が切り裂き、漆黒の大地を黄金の草原が覆う。
フィールドが、世界が書き変わる。
魔力は霊力へ。混沌は秩序へ。
『混沌の王』との戦いは、最終局面へと入っていた。
「チィ、我が世界を書き換えたか!だが、それだけだ!例え、世界を失おうとも、貴様ら如きに取れる命では無い!」
混沌の王が叫び、悍ましい魔力が地面から噴き上がる。
「防御は余が行おう。主は行くがよい」
「おう!」
聖女が手に持つ聖杖を振るい、魔力による攻撃を霊力で相殺する。
それによって発生した僅かな間隙を突き、精霊の剣を携えた少年は混沌の王へと肉薄する。
だがーー。
「ッ!」
剣の鋒が闇の障壁によって阻まれる。残り僅か、指一本よりも短い距離が果てしなく遠い。
「甘いわ」
混沌の濁流が少年を押し流そうと迫る。
精霊の力を全開にして自らの前に霊力の盾を出現させるが、濁流が触れた端から侵食されていく。
「クッ・・・」
指先が冷たくなっていく感覚。
混沌は秩序を破壊する概念だ。そんな物に直接触れれば人は正気を失ってしまう。少年とて、分厚い精霊の盾が無ければとっくに廃人と化してしまっていただろう。
とはいえ、もうそれもーー。
その時、光の斬撃が闇を切り裂いた。
「何!?」
混沌の王の腕が宙に舞う。
それを成したのは、剣を構えた少女。
「ユウリ!今だ!」
彼女の声が背中を押す。
「ッ、オオオ!!」
千載一遇のチャンス、ここを逃せばもう勝ち目は無い。
震える手足を雄叫びで奮い立たせ、精霊の剣を振るう。
果たして、その一撃は王の核を確かに砕いた。
闇の衣が解けていき、微かに残った闇の残滓が少年へと纏わりつく。
「許さん、とは言わん。ただ、貴様達に呪いを残してやる。未来永劫解けぬ、魂を縛る呪いを」
「何を・・・ッ!」
右腕に焼けるような痛みが走り、剣から精霊の苦しむ声が聞こえて来る。
そして、闇が消え去り、痛みが引いた後には真っ黒に染まった右腕と精霊の剣が残った。
「これは・・・」
「大丈夫!?」
少女達が駆け寄って来る。
だが、最早身体も意識も限界だった。
少年は、握りしめていた剣と共に意識を手放し、地面に倒れ込んだ。
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