黒い悪魔は二度笑う
レ・ミゼラブルに影響されて書きました。
私は無実の罪で投獄された。
いわゆる冤罪というやつだ。
その当時は、法の規制も緩かったから、濡れ衣を着せられる人も少なくなかった。
私もその被害者のひとりだったというわけだ。
弁護人を雇うと金がかかる。
だから裁判では国選弁護人を雇うつもりだった。
しかしそのための条件が厳しかったため、結局は私選弁護人を立てて、法廷で争うことになった。
第一審の判決では有罪となり、私は迷わず控訴を求めた。
第二審の判決でも有罪となり、すがる思いで訴訟手続きをした。
日本の司法制度は三審制だ。最高裁判所の決定がくつがえることはない。
最後の審判は、有罪判決をくだした。
私はもうこの世に神などいないことを知った。
法廷で争ったせいもあるが、私が出所する頃には白髪になっていた。
ずいぶんと長い時間を、せまく薄暗い牢屋の中で過ごした。
青春と朱夏は戻ってこないが、まだ白秋と玄冬が残っている。
外の空気は新鮮で毒気がなかった。
解放感から大きく伸びをする。
「長年の懲役、お疲れ様でした」
新人の刑務官が笑顔であいさつに来る。
「おう、頑張れよ!」
私が去ろうとすると、刑務所での労働代金を渡された。
「今後の生活の足しにしてください」
「わかった。ありがとう」
分厚い封筒だった。
中身が気になった私は角を曲がったところで金額を確認する。
それは社会復帰に十分なものだった。
私は涙を流して喜んだ。
この時代の物価が、ひどく値上がりしていることも知らずに。
ジャン・バルジャンのように、頑張るじゃん!