006 HEROは魔力を得る
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「ガサガサ、パキ、ピキ」
あとちょっと…!
太めの枝に左手をかけて、右手を思い切り伸ばす。桃の実を掴み、くるくると回しながらもぎ取って行く。あと少し…取れた!
「あっ!きゃあああ」
どっしーーーん!
「うぅぅ…痛ぁい」
地面は柔らかかったものの、お尻を強く打ってしまい、桃を掴んだままエリスは尻もちをついた。その瞬間、アナウンスが浮かび上がった。
「イタタタ…ん?」
--- テロレロリン ♪ ---
[知恵の霊桃]
聖域にしか実らない不思議な桃。
1つ食べれば若さを保ち、体力・魔力・精力が回復する。智力向上や破邪の力を持ち、様々な病気や怪我を治すことが出来る。
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へ〜!体に良さそう!美容にも良いんだ。色もいいし、美味しそうだしね。聖域にしか実らない…貴重な品なのかな??ん?ここは聖域って事?
何はともあれ、お腹が空いては戦はできない。水で洗って、皮をむいて、ツルんとピンク色の果実が露わになった。
「いただきます♪」
ハム!美味しい!!
口の中に桃の甘味がジュワッと広がり、桃の香りとともに爽やかな口溶けで、口の中が幸せになった。何やら力が湧いてくる。視界や聴覚、小鳥や木々の騒めきなど、良く聞き取れる様になった気がする。
異世界で初めての朝食だっただけに感動が大きかった。甘いものって最高に幸せ。木にはまだまだ沢山の桃が実っていて、桃だけで良ければ、当分は食糧に困らないと思った。
朝食が終わり、エリスはふーっと一息つく。
そして、真剣な顔をしてスッと目を閉じた。
『魔力』
何はともあれ…チャレンジあるのみ。体に巻き付けた『天女の羽衣』に意識を集中させながら思考を重ねる。
魔力も何かの力だと思う。筋肉はバネの様に伸縮する事で、エネルギーに変えている。なら、魔力はなんだろう?どんなイメージだろう?
エリスは直感的に、小学校の理科の授業がイメージに近いのではないかと思った。目に見えないエネルギーとして一番身近だったのが『電気』や『磁力』、『光』や『熱』のエネルギーだったからである。
また、エリスの頭にイメージし易かったのが、ゲームや漫画で良く出てくる『ファイヤーボール』や、HEROの必殺技に良く出てくる『◯◯ビーム』といった破壊光線だった。メジャーな魔法や、必殺技は何も無い所から火や光線が生み出されていた。
そんな事もあり、エリスは魔法といえば何かと一般的でイメージしやすい『火』をイメージしてみる事にした。小さなロウソクの火から、徐々に暖炉で燃えている薪を想像した。
頭で強くイメージしてみる。頭の中のキャンバスに具体的に、細かい動きまで、あたかも現実に存在するかの様に、絵の神様になった気分で描いてみる。
少女時代に絵が好きだった自分がいた頃を思い出して、エリスはフフっと笑顔になった。何だか、地球で生活していた頃よりも、鮮明に、よりリアルにイメージ像が描けている気がする。何故だろう。
「あ…アレ!?」
それは小さな変化だった。集中していなければ、気づかなかったと思う。
「ちょっと温かい…?」
目を開けて天女の羽衣を確認すると、全体的に僅かだが『熱』を帯びていた。弱い電気ストーブにも満たない熱量だったが、確実に人体以外の『温かさ』を感じていた。
『こ、これだッ!!!』
エリスは続けた。この感覚だ。
エリスはダンスやフィギュアスケート、テコンドーで培ったある種の感覚を思い出す。今まで出来なかった事が『出来る様になった瞬間』の時の事だ。練習を重ねる中で、突然起こる、あの『閃き』だ。
偶然か必然か、その気づきは起きた。フツーではあり得ない現象が起きた。後はその感覚を研ぎ澄まして深く追求するのみ。エリスは再び目を閉じて思考を続けた。
思考を続けるにつれ、天女の羽衣はどんどん熱量が増して行く。ポカポカと温かくなり、徐々に湯気が周囲に立ち込める。エリス自身も汗をかき始めた。アゴ先にツーっと汗が流れ、ポトリと落ちた。
それでもエリスはやめる事なく思考を続けた。この感覚を追い求めた先には何があるんだろう?もっと知りたかった。
エリス自身はこれが『魔力操作』だと気づいてはおらず、地球よりも鮮明にイメージできる事がただ単純に楽しかった。
エリスがこの世界で初めて『魔法』という学問に触れた瞬間だった。頭の中で『強く、細かく、具体的にイメージを描く事』それが、エリスの魔法に対する最初の理解だった。
まるで、お絵描きに没頭する子供の様に、変化が顕著になる事が楽しくて仕方がなかった。エリスは目を閉じたまま、さらに思考を続けた。
不思議と疲れない。何百本、何千本でもロウソクの火を描ける気がする。それも同時に描いたり消したりできる。さらには並行して別な形を描く事もできる。不思議だ。もしかして、得意な方かも知れない。
何百、何千本のロウソクの火をイメージしただろう。何百本、何千本の薪を火にくべただらう。エリスは全身から大量の汗をかいていた。
…あ、アツい…
さらに強い炎をイメージし始めて、人が感じられる熱さが限界を迎えた頃、エリスの体に異変が起きた。
薄いベールのような白い気流が、発光しながらエリスの皮膚を覆い始めたのだ。その白い気流はみるみるうちにエリスの全身を覆い、それとともに熱さが急激に常温に戻っていた。不思議なことに、快適な適温に包まれている状態となった。
突如、アナウンスが浮かび上がる。
--- テロレロリン ♪ ---
[魔法:オーラ LV.1]を習得しました。
[天女の羽衣]の
[スキル:魔力操作 LV.1]を習得しました。
[スキル:色彩変化 LV.1]を習得しました。
[スキル:伸縮自在 LV.1]を習得しました。
[スキル:形状記憶 LV.1]を習得しました。
[スキル:自動クリーニング LV.1]を習得しました。
[スキル:オートロック LV.1]を習得しました。
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汗だくになりながら、エリスがうっすらと目を開くと、体に巻き付けていた『天女の羽衣』が端から端まで真っ赤な炎の模様に変わっていた。
その変化を見た時に、エリスは満面の笑みでニッコリと微笑んだ。
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