005 HEROは転生する
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チュンチュン。
小鳥のさえずりが聴こえて、私は眠たい目をこする。一体どれくらい眠ってたんだろう。体がポカポカ暖かくて、風がそよそよと気持ちいい。
微かに薄目を開けると床は背の低くて柔らかい草花が、フサフサと柔らかい毛布のように咲いていて、ほんのり香水の様な甘くていい匂いがする。
まだ少しだけ体が重たくて、私は二度寝の誘惑にふたたび目を閉じる。
スースーと眠りながら両手をあげて、背伸びをしたり、横にうたた寝して、手足を伸ばしたりを繰り返した。
「フ、ファアア〜」
んーーーーーーーーっ、
背伸びって気持ちイイーーっ。…フゥ〜。
大きなあくびをして、
ゴロゴロンと横に1~2回転してみた。
…パチ。
私は真っ青な青空を見つめている。
なんて青い空なんだろう。まるで海が目の前に広がってるみたいに青々としている。
ちょっと眩しい。
ちょうど木陰だった木の傍から、転がったせいで日向に出てしまい、私は右手の甲をおでこに当てて、光を遮った。
そのままゆっくりと上半身だけ起こしていく。チュンチュン、バサバサッと先程の小鳥たちが青空へ飛び立って行った。
そっか。私は転生したんだ。
しばらくボーーっとしている私。
目の前には大草原の丘が広がっており、緑の草原に赤、青、ピンク、オレンジの花々が色鮮やかに咲いていて、まるで自然で出来た絨毯の様だった。朝日が昇るあの丘の向こう側には何が見えるんだろう
「わぁ、キレイ。ここが異世界なんだ」
周りを見渡すと、私が寝転んでいた辺りには1本の木が立っていて、小鳥たちが食べた後の桃がなっていた。よく見ると美味しそうな桃がたくさんなっている。
ぐるるるる…
あ、お腹空いた。私は久しぶりの空腹を感じながら、現状把握をしようと周りを見渡す。
丘の上に立つ桃の木。
そして、私が眠っていた草花の絨毯。
少し離れた所に土が盛り上がった場所があり、誰が作ったのか、緑の苔にまみれた岩の噴水が流れていた。長い間、誰も使ってない様だった。とても幻想的で、一枚の絵になりそうな景色だとエリスは思った。
ウーン、喉がカラカラ。
エリスは眠い目をこすりながら、喉の乾きを訴える本能のままに噴水の方に歩いていった。
すごく透き通った水が流れている。
両手を広げてその水をすくい上げ、ゴクゴクゴク…ゴクゴクゴクと飲み干した。
「ぷはーーー!!!」
何これ、すごく美味しい水!
体に染み渡る久しぶりの水が気持ちいい。
寝ぼけた体も一気に目が覚めて来た。
顔をパシャパシと洗い…異変に気がついた。
胸や太ももに水が当たる感覚にビクッとした。
えっ!!!?
…裸じゃん!!???
ええっ!!???
えええええーーー!!!
ウソぉ!?そんなことある!???
ちょっ、ヤバッ!エェ〜〜〜!!!
思わず赤面した私はすぐに顔の水を払い、胸と股に手を当てて隠した。幸い周りには誰もいる気配はない。そして、近くにタオルなどの拭くものがない現実に絶望した。ここが自分のよく知る場所ではないことに改めて気づく。
フツー…服とかくれないの!???
アテナ様…どれだけドSなんですか…!!!
こんな大草原に素っ裸で放り出されるなんて!Oh my God!!!アテナ様…のばか!!!
と、叫んでみても
虚しい時間だけが過ぎていく。
困った。何かないかな…
全身がスースーする。顔もびちゃびちゃだ。
あ!あの羽衣は!??
一緒に巻いてきたよね!???
ない!?巻いてない!
腰や背中に手を回すが、残念なことに身につけていなかった。私は周りを警戒しながら、中腰にかがんだままの姿で、桃の木を見据えて高速移動を開始する。
「えっと、えっと。確かこの辺に寝てたはず」
色の透ける布だった為、目を凝らしてよーーく見ると、太陽の光を反射してキラキラっと光る物体を見つけた。
これだっ!!!
良かった!!あったよぉ〜〜!!!
手を伸ばしてキラキラの物体に指が触れたその瞬間、目の前に文字が浮かび、頭の中にアナウンスが響き渡った。その瞬間、私は光に包まれた。
--- [女神ヘスティア]の"転生サポート①自動情報収集・開示"による直接介入を承諾しますか?はい、いいえ ---
へ?なになに??
ヘスティアさん??
周囲をキョロキョロと見渡すが、誰1人いる様な気配はなかった。急なアナウンスに驚きつつも、私は頭の中で「はい」を念じる。
おねがいします、服をください。
ついでにリアルな悩みを念じる私。
--- テロレロリン ♪ ---
[天女の羽衣]
女神の加護が込められた魔法の羽衣。
一定の魔力を消費する事で、伸縮自在、形状記憶、色彩変化、自動クリーニング、オートロック、魔力操作向上、空中浮遊などの効果がある。
---
ほ、ほおぉおおーーーーー!!??
何この説明、すごくありがたい。
とりあえずこの羽衣で顔と体が拭けます!!
教えてくれてありがとう!ヘスティア様!!!
---
[天女の羽衣]を装備しますか?
はい、いいえ
---
急にメッセージが現れるので、驚きまくる私がいた。
そっか。ゲームみたいに装備しないといけないんだ。…もちろん装備します!!!
エリスは急いで「はい」を選択する。特に変わった様子は見られなかったが、「はい」を選んだのだから装備出来たのだと思った。
にしても…
伸縮自在!?
形状記憶!?
色彩変化!?
自動クリーニング!?
オートロック!?
空中浮遊!?
これってもしかして、裸を回避できるスーパーアイテムじゃない!!!??伸ばせば洋服になるんじゃ!??色も変えられるっぽいし!!きっとそうだよね!?嬉しくて泣きそう…!!!!!!
しかも、空も飛べるハイスペック!!レアアイテム過ぎませんか!やったーーー!!アテナ様ありがとうございます!!
…
……
あっ、でも……魔力を消費って、どうやるんだろう。
問題はそこだった。
私は急いで顔と体を拭き、天女の羽衣と向き合った。
魔力って言うくらいだから力を込めるのかな??
試しに拳を握りしめて羽衣を引っ張って伸ばしてみたが、長い縦長のタオルの様に、何の変化も訪れなかった。物理的な力じゃダメみたい。大人しく原寸大サイズのまま、体に巻き付ける。シースルー生地で透けてるけど…ないよりはマシだよね。
『魔力』
魔法のチカラかぁ。
10年以上続けてた習い事のフィギュアスケートなら柔軟力と回転力、ダンスならリズム力と体の部位のコントロール力、あとは共通して笑顔や表現力が競技に必要なチカラだった。
格闘技のテコンドーなら柔軟力と回転力と、相手との相関力、瞬発的な判断力かなって思う。
エリスは、天野美月だった頃を思い出していた。大会で貰ったトロフィーの数々は、数えきれないが、全部偽名使ってエントリーしていた事。さらに包帯グルグルで顔を隠してた事を思い出していた。
魔力って、なんだろう。
さすがに異世界なら子供が出来て当たり前の様なチカラなんだと思うけど。ウーーン。
「伸びてください!」
辺りはシーーーンと静まりかえっている。
ウーーン。
「伸びて!」
「我命じる!伸びよ!」
「ハゴロモちゃん!」
「1m伸びて!」
「お餅のように伸びてごらーん!」
「ほーら、おっきくなって」
「エロイムエッサイム!」
…etc
「ダメかな…」
ウーーン。なんだろう。
魔法って呪文とか合言葉に反応するものじゃないのかな。呪文が間違ってる?っていうか、そもそも呪文なんて知らないし…
もしかして座禅とか??
星や大地からエネルギーを貰う精霊魔法的なアレかな。私の過去のHERO知識や、ゲーム、ラノベ知識が思い出される。
私は地面に座り、親指と人差し指で丸をつくり、両手を広げて、静かに座禅を組んだ。
そして、大きく息を吸い込んで、周りの空気を吸い込み、吐き出す息吹とともに、それっぽく叫んだ。
「ハァー!」
「フーーっ…ハァ!」
「ヤアー!」
「フーっ、フーっ…」
辺りはシーーーンと静まりかえっている。
「ダメかぁ」
ぐるるるるる…
あ、お腹が空いてきた。
魔力を使うにはきっと何かが足りないのかも。そういえば食糧も何も無い。
異世界転生したはいいけど、
分からない事だらけだし、
けっこうピンチな状況だったり???
異世界の夜とかどうなるんだろう???
魔物とか出たらヤバくない!??
サバイバルじゃん!!
迫る身の危険を感じながら、
明るい朝のうちに色々やらなきゃ、と思うエリスだった。
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