002 HEROは異世界を学ぶ
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『事態は深刻よ。直に…魔王が復活する。美月ちゃんには魔王の陰謀を阻止して世界を救う為に異世界へ転生して貰いたいの』
「え…?魔王?陰謀?異世界?転生?」
『そうよ』
一つ一つのキーワードを言葉に出すたびに、私のココロは震えた。ゾクゾクと。いや、今は魂そのものだから、薄いピンク色の魂がプルプルって震えた感じだけかも知れないけど。
ラノベやゲームの知識でしかなかったキーワードをリアルな言葉にしている人が目の前にいる。
絶対に日常会話に出てこないような、誰にも信じて貰えないような異世界のキーワードが、この天界とやら?では生きてる言葉として存在しており、誰かの口から実在する言葉として明確に聞くことができた、という衝撃だった。
そんな気持ちを感じ取ったのか、女神アテナは左手で顎をつき、一瞬何やら思案した顔をして、左の指をパチン!と鳴らした。
『いでよ!4代目ピュアハート計測器!』
ピカッと光が発せられ、ボヨヨーンっと目の前に近未来的デザインの?天秤の様な機械が飛び出した。3桁の0が表示されたディスプレイらしきものが見える。
『さ、善は急げよ。美月ちゃんのピュアハートを測って貰える?』
「あ、アテナ様!あっしの出番でゲスね?リョーカイでありやんす!そ〜れッ!」
「え?なになに?きゃ、きゃーー!!!」
突如喋りだす計測器とやら。何やらクネクネと伸びてくる2本のC字アームで掴まれたと思ったら、すごい力で宙に放り出され、視界がグルッと3回転ほど回り、そのままコロコロと天秤の様な機械の片方の皿に乗せられてしまった。
「ソレでは、アテナ様〜。ピュアハート吸引を開始するでやんす!キュウイイイーーン!」
真上に設置された吸い込み口のようなものが、何やら私からピュアハートなるエネルギーを吸い取り始めたらしい。
反対側の天秤皿に、眩い光の玉が形成され、徐々に大きくなっていく。光の玉の大きさに伴い、3桁のディスプレイの数値がグングン上昇していく。
5…9…13…20…33…50…67…94…138、と100を超えた当たりで女神アテナの目じりがピクリと動いた。
そして、一気に数値が駆け上がり…211…358…564…772…961…999、ビビィーーーーー…とけたたましいブザー音が鳴り響いた。
その瞬間、女神アテナは目を見開き、驚いた様子で立ち上がった。と、同時にブブスン!という音と煙をモクモクさせながら、4代目ピュアハート計測器さん?は故障してしまったらしい。
『どういうこと?素の魂の状態でピュアハート値が上限値を超えるなんて…勇者、大賢者、大聖母の3人以外で?』
女神アテナは驚いた目をしていたが、しばらく数字を見つめたあと、その顔にニヤリと笑顔を浮かべた。
「…あ、あのう!何がどうなったんでしょうか!?」
考察にひたる女神アテナに対して、私はいい加減説明が欲しかった。時間がないと聞かされていたとは言え、理解できないことが多すぎた。
『あぁ、ごめんなさい。あまりに予想外な出来事が起きたのよ。分かりやすく一言で言うなら、そうね。…私は今ドリーム宝くじの一等賞に当選した様な感覚だってこと。この勝負、天界の勝ちかも知れない、という事かしら?』
「…ぐぬぬ、女神様とはいえ、そんな説明じゃ分かりませーーん!!」
女神アテナは、ピョンピョンと跳ねながら叫ぶ魂コロ(略:魂のコロコロ)=私をヒョイっと右手で拾い上げると、軽くヨシヨシとなでた後に、左手で魂コロのコメカミ?辺りに手を添えた。するとその直後、目の前に文字が浮かび上がり、頭の中で声が響いた。
--- [女神アテナ]からの直接介入スキルを承諾しますか?はい、いいえ ---
『メッセージが見えるでしょ?"直接介入スキル"を承諾しなさい。自動で説明が始まるわ』
何コレ!?ゲーム!?頭に直接響くメッセージと目の前に浮かび上がる文字に驚いたが、取り急ぎ、頭の中で「はい」を念じた所、無事に承諾する事ができた様だった。
フロアの空間が闇に包まれ、上下左右に立体的な映像が映し出される。
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…地球の銀河系から遥か彼方。億光年先へ進むと、そこには神族がすむ天界と呼ばれる世界が存在する。その天界から更に億光年先へ進むと、天と魔が入り混じる混沌とした中立世界である『異世界アストロンダム銀河系』が存在する。そして更に億光年先へ進むと、そこは魔族・魔神がすむ魔界と呼ばれる世界が存在する。
私が住んでいた『地球』とは、どうやら神々が意図的に創り出した惑星らしい。『強い魂を生み出すための、養成所の様な場所』であり、地球上で弱い魂としての成長しか出来ないまま死んだものは、更なる魂の錬成のため、同じ地球上で時代を変えて輪廻転生を繰り返す。
逆に強い魂として死んだものは、女神アテナ直々に魂の鑑定を行い、その中でも特に強い力を持つ個体の魂に対しては、神々の神託と加護を与え、異世界アストロンダム銀河系の住民として転生をお願いしている実情だと言う。
神々と魔神達の争いは太鼓の昔から続いており、中立地点の最前線である異世界アストロンダム銀河系の『惑星べリタス』では、今現在も激しい戦いが続いている。
天界と魔界の力は拮抗していたが、この数千年の間で、魔神達は『魔王』というユニークな超生命体をつくりだし、異世界アストロンダムへ送り込んできた。神々も対抗して『勇者』というユニークな超生命体をつくりだし、異世界アストロンダムへ送り込んだ。
数千年の時の中で、歴史を紡ぎながら魔王と勇者は命を賭して戦った。神の加護を持つ勇者が勝ち、魔王を封印する。魔王は時代を変えて再び転生して復活しようとする。魔王復活を阻止するのために勇者は子孫を育てる。復活と封印を繰り返しながら。世代を繰り返しながら。
とある世代に魔界から『魔女』が召喚されれば、天界から『大賢者』を送り出した。とある世代に魔界から『大魔導師』が召喚されれば、神々は天界から『大聖母』を送り出した。
やがて、それぞれの王国ができ、それぞれの子孫ができ、魔界と天界のエネルギーがぶつかり合う影響を受けてできた魔力溜まりや聖域の出現、引き起こされる超常現象によって、数多の超魔生物や霊獣精霊の類いが突然変異で自然発生し、更には自我を持ち始め、多種多様な種族の生命体が共存する混沌とした惑星、それがべリタスと呼ばれる地球によく似た水の惑星だった。
…な、なるほどぉ。
簡単に要約すると、べリタスって言う中立地帯で神様の部下と、魔神の部下がいざこざしてるって感じの話だった。
じゃあ、神様と魔神が直接対決すれば話が早かったりするのかな?現実はそんなに簡単な話ではなかったらしい。
…
神々と魔神が過去に鉢合わせしたケースは多数ある。どのケースも例外なく神々と魔神の両方が、戦いの最中に自我を失い暴走し、その時空間一帯を巻き込んで消滅する。自我を失ったその空間のエネルギーは予測不可能な様々な超常現象を引き起こし、魔力溜まりや聖域としてエネルギー化してしまう。
これらの天界と魔界の力の両方がぶつかり合い、光と闇の力が拮抗する事で混沌が生まれ、『聖戦のジハード(神々の消滅現象)』と呼ばれる現象が発生することが確認されており、両陣営ともにメリットがない話になっている。
異世界アストロンダムに神々の名前がついた空や海があったり、魔神の名のついた森や洞窟があるのは、太古の昔に神々と魔神が鉢合わせた『ジハード』によって発生した特殊区域(魔力溜まり、聖域、その他)だそうだ。
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…20分ほど説明を受けただろうか。映像が終わり、フロアに明るさが戻って来た。内容が衝撃的すぎて、プシュー…プスプス…と私(魂コロ)のおでこ辺りからは、モクモクと煙が上がっている。フツーのSF映画だったら楽しい展開なんだけど…これって現実なんだよね?ウーン複雑。
一呼吸おいて女神が話し出す。
『そんな事情もあって、強き魂には例外なくべリタスへ転生をお願いしているわ。もちろん、平和な地域もあるとはいえ、戦地に向かう事になる以上、私たちから特別な"加護"を与えているわ。単なる無茶ぶりに巻き込まれて、命を落とすことはないから安心して』
「は、はぁ。…"加護"?とは魔族と戦うチカラでしょうか?」
女神様の加護。ラノベやゲームでよく聞くキーワードが出てきて、ついつい気になってしまって質問を挟んでしまう。
『
戦うチカラもそうだけど、もっと根本的なものかしらね。私が与えている加護について説明すると、
①新しい肉体を与える(魂は変わらないから、貴方の記憶や意志はそのままだから安心して。地球と違うのは心身を磨けば磨く程、老いや病気から解放されることね)
②その魂に合った"職業"と"スキル"を与える(戦闘スキルや生産スキルとか…異世界を生き抜いて行く、暮らしを豊かにする為に必要なスキルって感じかしら)
③スキル・ステータスの自己成長を加速する(何かしら経験を積む事で、己を強める事や、物事を極める事が出来るわ。ゲームで言う所のレベルアップやスキルアップ、ステータス向上と同じ様なものね)
④異世界ライフのスタートアップサポート(多種多様な異世界言語の自動変換、不明なキーワードに対する情報検索、必要があれば神託を介して天界と交信とか…色々あるんだけど、この辺りは妹の女神ヘスティアのチカラね)
ざっとこんな感じよ。
』
「おぉー…すごい」
何だか面白そう…まるでゲームの様な内容に、私は少しドキドキしてしまう。地球でゲームやラノベが流行ってたのは、死後のこの世界にスムーズに慣れていく為のものだったり?などと、ふと思った。
『論より証拠。試すのが早いわ。さっそく貴方のアバターをつくりましょう。貴方に合った職業やスキルも当然気になるでしょ??あ、もちろん、転生する・しないの返事は後からでも全然大丈夫よ』
自分に合った職業にスキル…ズルい。そんな事言われたら…気になるに決まってるじゃないですか、アテナ様。
「…た、試します」
好奇心をそそる女神の誘惑に、私はアッサリと身を委ねたのであった。
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