3.魔族の王様がきちゃった
まだ日も昇りきらない早朝。
ミラはベッドから飛び起き母親を起こすのだった。
「ママー朝ですよー。」
「あらあら、今日はとっても早起きね。」
いつも以上に元気の良い愛娘の可愛いらしい笑顔により一層ジルへの感謝が深まる。
パパッと朝食を済ませて召喚石の入ったカゴを抱き抱えながらミラは母親の元に駆け寄る。
「ママ、もう召喚してもいい?」
「ちょっと待ってあなた召喚の仕方分かるの?
「あ……」
母親のメリアはエルフの里出身のエルフだ。
エルフは皆魔力を持っている。
里の外からも召喚依頼等で召喚石が持ち込まれたりした事もあり、里では頻繁に召喚石を使用する光景が見られた。メリアはミラに優しく語りかける。
「目をつむって両手で召喚石を持って。魔力で召喚石が暖かく光ってきたら心の中で召喚獣に呼びかけるの。」
母親に言われた通りに心の中で呼びかける。
ー召喚獣さん。わたしの所に来てください。わたしの所に来てください。わたしの所に来てください!ー
ミラが心の中で強く呼びかけると召喚石は眩い光りを放ち宙に浮かび上がった。その光は幾度となく召喚を見てきたメリアから見ても特別強い光りだった。異変を感じ咄嗟にミラを抱き抱え後ろにさがる。
「ミラ!離れなさい!」
目も眩む程の激しい光りを放った後、召喚石を中心に風が巻き起こりメリアはミラを抱き抱えながら倒れ込んだ。
激しい風が巻き起こした砂埃で周囲が見えない。
「ミ、ミラ…大丈夫?」
「ケホッ…ケホッ…う、うん平気だよ。」
ミラの顔を撫でながら怪我がないか確認してメリアは気を失ってしまった。
周囲の砂埃が徐々に治まってきた。
すると先程まで召喚石の浮いていた場所の辺りに何やら影が見えてくる。
「少女よ…我を召喚したのはお前か?」
中から出てきたのはどう見ても人間だった。
いや、正確には非常に人間に近い見た目をした異形の男性だった。
「我はゲオルギス=ゲンナギオス。魔族の王にして世界に破壊と混乱をもたらす者だ。」
「げほげす?げんなりおす?」
「くくく…ゲオルギス=ゲンナギオスだ。」
「…?ゲオちゃん…?」
「ほう…我に対してずいぶんと馴れ馴れしい小娘だ。我を召喚しただけあって剛気な事よ…褒めてやろう。」
魔族の王を名乗る異形の者は不敵な笑みを崩す事無くミラの頭を撫でた。母親よりも大きく逞しい手にミラは父親の影を重ねた。
「古の時代より召喚した者の願いを叶えてやるのが魔族の習わしだ。もちろん相応の対価をいただくがな。さぁ貴様の欲望の限りを尽くした願いを言うがいい。」
魔族の王ゲオルギス=ゲンナギオスの周囲を禍々しい空気が取り巻き空は暗雲が立ち込めていた。
願い事…ミラはそう言われてすぐに一つの答えを思い浮かべた。しかし、誰だって本当の心からの願いを人に言うのは憚られるものだ。まして7歳の少女…ミラはスカートの裾を掴みながらうつむいた。
少女は知っていた。自分の願いは叶わないと。もしその願いを聞いたら大好きなママが困ったように悲しそうな顔をすると。
「どうした?我が力を持ってすれば世界を手にする事もたやすい。我が魔力の一部を与えれば脆弱な人間だろうと究極の力を手にする事もできるのだぞ?」
ー違う…そんなモノよりも…召喚獣を連れた男の子と道ですれ違った時も本当は召喚獣よりも…でもそれは絶対無理だから…だからせめて召喚獣がいたら寂しくないかなって…ー
ミラは顔を赤く染めながら魔族の王を見つめた。
「ミラ…パパが欲しいの。お願いします。ミラのパパになってください。」
辺りに稲妻が鳴り響いた。
顔を赤くし目を潤ませた少女と相変わらず不敵な笑みを浮かべた魔族の王は見つめあったままだ。
「くくく…はーっはっはっは!たやすい!いいだろう。貴様の願い叶えてやろう!さぁ、契約を結ぼうではないか。」
「いいの…?本当にゲオちゃんがミラのパパになってくれるの?」
「くくく…ゲオちゃんではない。我の事はパパと呼ぶがいい!」
「うん!パパ!」
気がつけば辺りは晴れ渡っていた。
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