2.ミラちゃんと召喚石
召喚石ー手のひらサイズの紅い石。そこそこの値段で取引される。
「ジルさん、少しだけ見てもいい?」
小さな体で精一杯背伸びしてミラは言った。
その様子を見たジルは察した様子で室内にミラを招き入れた。
「あぁ良いよ。ほら、お椅子に乗せてあげるから見てご覧。」
ジルはミラの小さな体を持ち上げると椅子の上に座らせて卓上の召喚石を近づけた。
大きな瞳をキラキラさせながらミラは召喚石を見つめる。吸い寄せられるように手を伸ばしその幼い手が真紅の石に触れた瞬間だった。淡い光が石から発せられ室内を紅く照らした。
ミラは驚きながらジルを見た。何か大変な事をしでかしてしまったような申し訳なさと混乱の入り混じった表情の少女を落ち着かせるようにジルは明るく言った。
「大丈夫よミラちゃん。召喚石は魔力がある人が触れるとこんな風に光るらしいのよ。さすがお母さんがエルフだけあってミラちゃんにも魔力があるんだねぇ。」
ジルの笑顔を見てホッとしたミラは召喚石を見つめながら尋ねた。
「じゃあわたしにも召喚獣を召喚できるの?」
「あぁ、できるはずだよ。石が光ったって事はそれだけの魔力があるって事らしいからね。」
石の輝きが落ち着いてきて元の状態に戻ってもミラは石に夢中だった。その様子を見たジルはミラの頭を撫でながら微笑んだ。
「ミラちゃん、良かったらこれ持って帰るかい?魔力の無いウチらじゃあ使えないし、どうせこれも処分しちまおうと思っていたからね。」
「いいの!?」
思わず満面の笑みで返事してしまったが少女の脳裏に先程の母親とのやりとりがよぎった。
「でもママがちゃんとお世話できないだろうからって…」
ジルは以前ミラの母親メリアと話した会話を思い出していた。
ー主人が亡くなってからミラには随分寂しい思いをさせている。普段は口には出さないけど眠るとたまにパパの事を呼んでいる。ーと。
父親のいない寂しさを埋める為に召喚獣を求めているのだろうか…。できる事なら娘の希望を聞いてやりたいが現実問題、母1人子1人の生活にそんな経済的な余裕は無かった。
ジルにとってもミラは赤ん坊の頃から知っている娘のような存在だ。ミラの父親が亡くなってからも互いを支えあう親子の姿を見続けてきた。
可愛い娘の為にしてやれる事があるならしてやりたいとジルも思っている。
「じゃあ家に帰ってお母さんに聞いてみな。ちゃんとお世話するからってお願いしたら許してくれるかもしれないよ?」
「うん!ママにちゃんとお願いしてみる!」
ポーションが入っていたカゴに召喚石をいれてミラは家路を急いだ。頭の中で母親をどう説得しようか考えながら。
家に着くとミラは母親に事情を説明した。
メリアはそんな高価な物を譲ってくれたジルに申し訳ない気持ちでいっぱいになったが一生懸命に自分を説得する愛娘の顔を見ていたらもう折れるしかなかった。
「召喚してもいいけどちゃんとお世話するのよ?」
「うん!ママ大好き!」
「今日はもう遅いから召喚は明日にしなさいね。」
ミラを寝かしつけるとメリアは明日ジルにお礼を言いに行こうと考えた。
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