「俺」と金髪少女・春
俺は幻想郷では「外来人」と一般的に呼ばれている人間らしい。
外の世界、つまり幻想郷の外から、なんらかの方法、何か基準があるみたいだけど、それによってこちらの世界に来てしまったというわけだ。
実際俺は山登りに行った際に遭難し、訳もわからぬまま霧の中を歩いているうちに、いつのまにかこの幻想郷に迷い込んだようである。
霧が晴れた時に目の前に広がっていたのはどこか見覚えがあるような木造建築の並ぶ人里だった。
体力的に疲れ切っていた時に人里に来られたのはラッキーだった。
俺はこれまでの事情を話し、人里での保護をしばらくの間受けることとなった。
いきなり幻想郷に来た俺の事を、こちらの世界の人間は大した反応を見せなかった。
好意でもなく敵意でもない、まるで何か、将来のことがわかっているかのような傍観した目で俺を見るのだ。
理由はすぐに知ることになる。
聞けば、人里において外来人というのはあまり待遇が良くないらしい。
現在の里の長の人がそう決めたんだとか。
もちろん反対する声も上がってはいるらしいんだが、それでもしばらくは変わりそうにないとのことだ。
その反対する人たちのおかげで一応は人里でしばらくは面倒をみてもらえたのだから、感謝しなくてはな。
さて人里で保護を受けて1週間ほどで、私に家が振り当てられた。
里の習慣で、外来人はみんなそこに住んだという、町の外れの家だった。
不思議なことに、「みんな」が住んだのに、家は一軒しか存在しないのだ。
これに気づけば、ここに住む者は代々何かがあったのだなと気付き、武器を近くに置くとか、戸締りをしっかりするといった対策を取るだろう。
しかし、家の内装を見るに、それらの対策は既に行われているようであった。
そこで俺は「食べ物で釣る」という方法を思いついた。
私は里の市場でたっぷり砂糖と鶏肉を買い込み、一方では肉をそのまま焼き、また一方では水飴を作った。
家の周りにそれを置いて。妖怪が来た時に見逃してもらおうという寸法だ。
力もなければ人並み以上の知恵もない俺にそれ以上の策は思いつかないのだ。
さて、こんな暮らしを始めて1週間が経ったが、同居人が増えた。
10歳になるかならないかくらいの女の子だ。
短い金髪に赤いリボンをつけている可愛らしい子だ。
彼女との出会いはいきなりだった。
自分が生きるためとはいえ、費用もかかれば手間もかかるし、効果があるのかすらわからないこのような食べ物戦法に飽き飽きしてした頃だった。
今日も腐りかけた肉の入った樽を裏の畑に捨てていたところ、彼女はフラフラとうちにやってきて、「ねぇ、それ、食べてもいい?」と話しかけてきたのだ。
間違いない、彼女も俺と同じ類の者、つまり外来人だと直感で感じた。
そして、同じ悩みを持っている人がいれば助けてやらなければならない。
ましてやこんな小さな女の子が困っているなら尚更だ。
「食事が欲しいのか、用意してやるから上がって待ってなよ」
そう声をかけた上で彼女を家に上がらせる。
初めてのお客様だ。丁寧にもてなさないとな。
「今日も」ご飯は味噌鍋。
肉を消費するにはこれが一番良い。
もう飽きてきたけどね。
ともかく、早速振り分けてやる。
彼女のには鶏肉をたっぷり入れてやった。
驚いた顔をしていたが、たしかにこの量の鶏肉をいきなり目の前に出されては誰もが驚くだろう。
出しすぎかなとも思ったが、仕方ない。
彼女にも、うちの肉の処理に付き合ってもらうとしよう。
「遠慮するなよ、腹減っているだろう、目一杯食べな?」
と声をかけて食事を促してやると彼女は、おずおずと手をつけ始め、そのうちそのスピードは加速度的に上がっていった。
いや、めっちゃ食うじゃん…
俺も新しく肉やら味噌やらお湯やらを追加で入れてやる。
なんと彼女、なんと3日分のものを全て平らげてしまった。
さらに食後の水飴までも3日分。
まぁ、どうせいつかは捨てられるはずだった食料だ。
これだけ食べてもらえれば、作ったこっちとしても作りがいがあるものだ。
彼女も満足そうにしていて、こっちとしても嬉しい。
さて、後片付けしないとな。
食器を全て預かり、流しに向かう。
今日の洗い物も大変そうだ。
…あっそういえば!
外の畑の防獣ネット貼り忘れてんじゃん!
やっちまった。
思わず座り込み頭を抱える。
どじった。
今行ったところでくらいから妖怪に襲われたら終わるし、朝になったら喰われちまってる!
あぁあ、やっちまったよ…
頭の中でドンガラガッシャンとなにかが崩れる音がする。
さよなら私の1ヶ月分のお野菜ちゃん。
はぁ。また生活費が減るよ。
これからの事を呪って顔をあげた時、
目の前で、1ヶ月分の肉樽がドンガラガッシャンしていた。
「食べ物を食べた後は手を合わせてご馳走さましなくてはダメでしょう!」ガミガミ。
「まずそもそもいただきますもしていないでしょう!」ガミガミガミ。
「確かに今までと違う環境に戸惑うことはわかるけど最低限のルールぐらい!」ガミガミガミガミ。
「まず食事が終わった後に暴れるなって教わらなかったのかい!」ガミガミガミガミガー。
彼女を正座させ、説教をたれる。
どうやら説教を受けたくないらしく暴れたけど、全部見切る。
だって全身肉まみれなんだから。
大人しくお縄につけよ、全く。
そのうち大人しくなったので、改めて正座させて説教を再開する。
そりゃそうさ。
1ヶ月の食料をダメにしたんだからそれくらい受けてもらわなきゃ困る。
彼女は目を丸くして、今までそんな事を教えられたことがないというような顔をしている。
しかしそんな事は関係ない。
知らないならまず意味から教える。
大切なことだ。うん。
さて、一通り食事のルールについて教えた。
ふぅ。すっきりしたぜ。
やはり教育は大切だ。
「…!」
彼女がうなだれている。
見れば、目には涙が浮かんでいる。
しまった。
我を忘れて少し言いすぎたらしい。
食糧のことで頭に血が上がっていた。
俺の悪い癖である。
確かに彼女は悪い事をしたとはいえ、年相応の少女なのだ。
「ごめんな、ちょっと言いすぎたな、」
素直に謝り、彼女の頭を撫でてやる。
肉にまみれて、にちゃっとしていた。
彼女は涙ぐんでいるが、「うん…」と頷いている。
よしよし、反省できる良い子だ。
俺も少し言いすぎたよ、ごめんな。
でも、この調子なら、これからもうまく生活していけるだろう。
さて、彼女だが、この後帰ろうとするもんだからさあ大変だ。
こんな小さい子が日のくれた夜に外に出てはなにをされるかわかったもんじゃない。
もしかしたら妖怪に食べられるかもしれない。
さらにこの子、家を出たとしてどこに行くんだと聞いたら、「適当!」と言うではないか!
聞けば今まで木の下とかで寝ていたらしい。
これは意地でも今夜は家の外に出してはいけない。
いや、今夜どころか今後も怪しいぞ、これ。
…保護してやらなければ。
この子の身の安全のために。
この子の未来の為に。
「ダメだそんなこと!君みたいな可愛い子が外に出たら!瞬く間に妖怪に食べられてしまう!そんなことさせない!今日からここに住め!今日からお前も家族だ!」
ふう…宣言してやった。
見たか里の人間たちよ、これが思いやりだ。
全く、俺の態度を煎じて飲ませてやりたいところだ。
「そうすればお前もこれからは寝床に困ることもねぇし、食料に困ることもない。二人の方が妖怪に襲われる可能性も減るしさ、どうかな、二人で住まないかい?」
彼女はしばらく固まっていたけど、最後には頷いた。
決まりだ。
しかし、顔が真っ赤だったけど、何でだろう。
まぁともかくしてこうして幻想郷・外来人2人での共同生活がはじまったのだ。
お父さんお母さん。不肖あなたの息子はこの幻想郷でも妖怪に食われないよう強く生きていきます。
また、彼女のお父さんお母さん。
幻想郷に来てしまった彼女のことはお任せください。
生活に不自由はさせません。
彼女はよく飛びかかってくるけど、その度に避けて、危ないからやめなさい注意している。
それでもやめてくれそうにないけど。
外では桜が咲き始めている。
外の世界ももう暖かくなり始めていたけど、幻想郷でも春は来るらしい。
もっと彼女と壁をなくす為に今度彼女とお花見にでも行こうかな。
早速誘ってみると、
『いいけど!私がこれぐらいで落ちると思わないことね!ただ美味しいお弁当が食べたいだけだから!』
と返してきた。
落ちるって、よくわからないが。
素直じゃない子だなぁ。
彼女の名前を知らないと流石に不便なので聞いてみたら「ルーミア」と答えた。
やっぱり金髪だし外国人かなぁとは思っていたけれど、やっぱりそうっぽい。
「日本語が上手だね」というと目を細めて睨みつけてくる。
この恥ずかしがり屋さんめ。
ちょっと書いてみたかったんですよね、ルーミア。




