皮肉な決意
生きる希望が無かった。
物心がついた時から周りの物に興味を示せず、そのせいで周囲の人間とも話が合わずいつも独りで漫然と時間を浪費する毎日。自発的な行動など何一つせず、ただ言われるがままに勉強や家事をして過ごす日々。小学校、中学校、高校と時間が流れ、周りの人や景色、世界の情勢が日進月歩の変化を幾度となく繰り返す中でさえ、自分の中身は変わらない。成長したのは身体だけで、人間にとっての一番大切な部分である思考能力が培われなかった。生きながらにして死んでいるような、まるでファンタジーの世界に出てくるスケルトンのような人間が自分だった。
――うんざりだ。
この先もずっとこんな人生を歩むぐらいなら、なんの生産性もない自分自身に価値を見出せず、ただの生きる屍として余生を過ごさなければならないくらいなら、いっそ自分という存在を葬ったほうがマシな選択なのだと思った。
そして俺は生まれて初めて決意した。
自決をすることを、決意した。
◆◇◆◇◆◇
眠りから覚める感覚は人生の中で何百、何千と繰り返してきたが、幾度経験しても慣れることのない奇妙な感覚だった。まるで水の中から静かに浮かび上がるかのように、朧げな意識が徐々に覚醒していき時間がある程度経過していることに気づき起床する。ほぼ毎日欠かさずに行われる不思議な日課。
だが、今回は違った。眠りから覚める一つ前の段階から進まないのだ。ずっと水中を漂っているだけで一向に水面から顔を出せないような、そんな曖昧な状態のまま時が止まってしまったような感覚に包まれていた。
「――聞こえますか?」
唐突に無機質な女の声が頭の中に響き、時間の停滞が切り裂かれる。脳を直接殴られたような強い衝撃を受け、思わず顔を顰め呻き声を上げる。
「失礼、出力が強すぎたようですね。調整します」
再度強い衝撃が頭の中を駆け巡る。予想外の二撃目を浴びせられ激しく悶絶する。どうやら調整とやらが終わる前に話しかけたせいで味わう必要のない一撃をお見舞いされたようだ。
「……重ねての非礼、どうかお許しください」