今朝見た夢
夢見 太郎はいつもの如く帰りの電車に乗っていた。
気づくと電車は空を走っていた。地下鉄の暗いトンネルは
消え去り、電車は宙に浮いたレールの上を走っている。
そして、唐突に線路が途切れた。太郎は目を瞑った。この高さから電車ごと放り出されては太郎も他の乗客も無事ではあるまい。
ところが電車は落ちなかった。電車は空を走り続けた。そして代わりに太郎が落ちた。太郎は電車の床をすり抜けて、電車の腹を見た。
それから下を見渡すと、江戸時代だった。太郎は川の始発にある広場に向かって落ちている。川には小舟が行き交い、橋が架かっている。川沿いの商店は多くの人で賑わっている。
太郎はふわりと着地した。野次馬が集まっている。言葉は通じない。どうしたものかと思って振り向くと川は道になっていた。丁度良かったので車で逃げた。
それにしてもでかい道だ。綺麗なアスファルトが片道三車線も引いてある。そのうち追っ手がかかった。既に並ばれている。武士二人、片方は殿様だ。中央分離帯の向こう、桜の舞うコンクリートの歩道を走っている。
太郎たちは車の間を縫って走る。殿様たちは階段の多い歩道を走る。いつの間にか車は降りた。当たり前だ。これは勝負なのだ。日本橋から京都までの長い長いマラソンなのだ。
やがて太郎たちは脇道に逸れた。市街地を縫って走り山道に着いた。斜面は緩くないが、京都まで行くにはこの峠を越えるしかないのだ。太郎は峠までの道を知っていたが、江戸時代に住む殿様はそうとは行かないだろう。これは大幅なリードだった。
峠に着いた。道は細く、辺りは暗くなっている。不法投棄のゴミの山が満月に照らされて淡く光る。太郎はまだ使えそうな自転車を発見した。
ゴミの先は行き止まりだった。両側に崖がそびえている。左手に家があった。太郎は決意を固めた。この家に侵入し、階段を上がって二階の玄関から出る。
太郎はドアを開けると自転車で階段を登りきり、玄関から外に飛び出した。そこは山に囲まれた街だった。ひんやりした空気に淡い太陽が心地よい。ぼんやりしていると子供たちがやって来たので逃げた。
お腹が空いたので釣りを始めた。街の裏手に池があったのだ。切り立った崖に囲まれた大きな池だった。そこそこ順調に釣れた。そしていつしか4人の子供に見られていた。
変化があったのは太郎が頭のない鱒を釣り上げた時だった。見ていた少年が怒り出した。太郎たちは池を囲うコンクリートの足場に逃げた。
状況はとても悪かった。子供たちは二手に別れてじわじわ迫ってくる。足場は狭く、すれ違って逃げることは不可能だ。太郎は意を決して池に飛びこんだ。
子供たちは追っては来なかった。しかしまだ危機は去っていない。太郎は池から抜け出す事ができない。太郎は池を脱出するべく泳ぎ回った。
そして太郎は激流に襲われた。あっという間に流されて、水面下の穴から地下水道に吸い込まれた。太郎の右頬を何かが掠めた。柱だ。そして太郎は確信した。これはあの古代遺跡だ。この水路は間違いなくあの古代遺跡に通じている。全身が震えた。やがて水路は立体交差を始めた。太郎は体に絡み付くアーチ橋の痛みに悶えながら全てを理解した。主なる意識のこと。主なる意識が覚醒を迎えること。そして、自分が主なる意識から生み出された虚構であること。太郎が最後に何を思ったか、それは太郎にも、主なる意識にも分からない。
やがて主なる意識の目蓋が開き、その意識を自らの器へと切り替えた。太郎は眠っている。その重たい器の中で。主なる意識にその短い生涯の全てを託しながら。