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黒碧白曜譚  作者: 鏑木澪
1/15

きっかけ

 白き者、他者の心に染まりて真実を見誤る

 赤き者、その心奥深くにて劔を盾とし己が心を覆い隠さんとす

 青き者、その心に他者の心を映して悟らんとす

 黒き者、底知れぬ闇の底から真実を見守る

 忘れ去られし者、秘めたる力の行先を知らず



 頭の屋敷の壁に彫られた文章を見上げる。

 幼いころから目にしてきたが、はたしてこれが詩なのか、歌なのか、教訓なのか、私は知らない。

 頭というのは、私の父のことであり、もうじき二十二になる兄は近いうちにその座をもらい受けるであろう。私にとっては頼りない兄だが、民からは信頼も厚い。

 私は、頭の家で何不自由なく育てられたが、この家の子供ではない。

 父とも、母とも、兄とも、誰とも血はつながっていない。

 燃えるような赤毛に、赤い瞳は、まるで私がこの頭の家系の生まれであるかのように見せてくれるが、実際は、私はただの孤児なのだ。

 この国に住む大抵の人間は、赤い髪と瞳を持っているが燃えるほど赤味を帯びているのは、本来頭の家系だけなのだ。

 私の両親は、どこの誰か。

 頭の家系のものではないかという話もあるが、屋敷の外に暮らす家系の者など存在しない。

 問い詰めれば、誰か答えを知っている者がいるかもしれないが、今ある幸せな暮らしを壊してまで手に入れたい過去など、私にはない。


 明日は、祭りだ。

 この祭りは、神を招いての宴である。

 神というのは、私たちの頭の上、つまりは空に住んでいる白き神であり、一年に何度かその神が地上におり立ち、この土地の邪気を払い、病を消し、実りをもたらしてくださる。

 その際、いくつか言の葉を落とされていくことがあり、そこに書かれていることには必ず従わなければならないというのが、ここ赤翼の国の習わしである。

 白き神の使いは、白曜鷲と呼ばれる白金の翼に炎の瞳を持った鷲のような姿をしており、常に私たちを見ている。

 道を歩いて何かの影が横切ったら、必ずお辞儀をするようにと子供たちは幼いころから言い聞かされる。

 しかし、実際にその姿を見た者はいない。

「アキ! 何してるの?」

 幼馴染の季彦が両手を大きく振りながら前方から迫っていた。

 ここで勘違いのないように一つ訂正しておきたいのは、私の名前はアキではないということだ。本当は、亮と書いてリョウなのだが、なぜか多くの人が私のことをアキと呼ぶ。

「タカ、ヤッホー!」

 もう近くに来ているのに手を振って答えると、まだ子供のように季彦はニッコリ笑った。

「もう十八だっていうのに、タカはちっとも変わらないね」

「そんなことないよ! 今、何しているの?」

「何もしてないけど……」

「それじゃあ、山へ行こう」

「昨日も行ったよ?」

「昔は何も考えずに毎日山に行ってたのに、いったいアキはどうしてしまったのさ」

「どうもしないけど。たまには違うことしたいと思わない?」

 季彦は考えるように一瞬首を傾げたものの、その答えはすでに決まっているようだった。

「山へ行くより楽しいことがあるのかい?」

「……そういうと思ったよ」

 こうして、私たちはいつも通り山に遊びに行った。

 いつも通りでないことなんて何もなくて、何かいつもと違うことが起こりそうな気配なんて微塵もなかった。

 そんな私たちの頭の上を大きな影が通り過ぎていった。

 

 

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