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エピローグ 君を信じて良かった

「ではラクレス……今度はちゃんとクッキーを焼いてまっていますから、いつでも帰ってきてくださいね?」


復旧が進むヴェルネセチラの街の出口で、エミリアは名残惜しそうにそんな別れの言葉を僕にくれる。


「世話になったなエミリア」


「いえ、セラス様には感謝をしても仕切れません」


「堅苦しいことを言うでない。 また必ずくるゆえな」


「ええ、お待ちしております。メルティナ様もお元気で」


「うん‼︎ エミリア様も‼︎」


「リアナも、三人のことをしっかり守ってね」


「‼︎‼︎」


すっかりメルティナもエミリアに懐いたようで、別れを惜しむようにエミリアに抱きついて頬ずりをする。

その姿に微笑ましさを感じながら、僕はタクリボーへと視線を移す。


「タクリボーもありがとう。 仕事で忙しいだろうに、わざわざ見送りに来てくれて」


「なぁに、このでかい商談はおまえがくれたようなもんだからな。 思えば狼に襲われた時からお前には助けられてばっかりだ。 そんな恩人の見送りにも行かねえなんてなったら、商人として終わっちまう。 気をつけろなんて言葉、お前さんには不要なもんだろうからな、せいぜいお幸せにとだけ言っておくぜ」


そう言ってタクリボーは僕に手を差し出し、僕はその手を一瞬躊躇しながらも取る。


思えば、だれかから握手を求められたのは久しぶりだ。


「なんだか、こうしてると友達みたいだね」


「心外だな、おれぁもうダチだと思ってたんだが?」


「‼︎ あ、あぁごめん。 そうだよね、うん……タクリボーは僕の友だちだ」


「へへへっ」


満足げに笑うタクリボー。

はじめての友達に僕は負けじと笑いかえし、ヴェルネセチラの街を去る。


……………。


「噂に違わぬいい街だったなぁ……お前様」


ヴェルネセチラの街が早くも遠くなったそんなころ。

ふと思い出すかのようにセラスはそう呟く。


その表情は嬉しそうで、僕はメルティナと手をつないでいる反対側の手でなんとなくセラスの手を絡めて握る。


「そうだね……次はどこいこうか?」


「私、海が見たいです‼︎ エミリア様が、海にはおっきいお船があるって」


僕の質問に、メルティナが元気よく声を上げる。


「海か……タクリボーがくれた地図によると、南に向かえばビーチがあるね」


「ビーチとな……ふぅむ。 そんなに妾の水着姿が見たいかラクレス。えっちな奴よ」


「なっ‼︎? ぼ、僕はそんな意味で言ったわけじゃ……いや、その、すごい見たいんだけど」


「ふふふっ正直者だのラクレスは。 よろしい、であれば妾の美しさで惚れ直させてやろうではないか‼︎ 行くぞメルティナー‼︎」


「おー、です‼︎」


「わっ、ちょっちょっと‼︎?」


二人に手を引かれ、ついでにリアナに背中を押され、僕たちは青空の下何もない道をわけもなく駆け出す。


急ぐ必要もないが、ゆっくりする必要もない。


使命も、義務も、責任もなく。

それでも空っぽの心は、大切なもので今までで一番埋められている。


――――君を信じて良かった。


腕を引きながら満面の笑顔をうかべる最愛の人に僕は心の中でそんな感謝を響かせる。


新婚旅行はまだ、始まったばかりである。


FIN


応援ありがとうございました。

この話で新婚無双は一旦完結します。

要望が多ければ短編という形で、セラスとラクレスがいちゃつくだけの甘い話を追加していこうかなと思います。

やってほしいシチュとか要望に乗せてくれれば、もしかしたら書くかもです。(必ずとは言ってない)

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