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35話 幸せになるために

セラスの驚愕の声が上がるヴェルネセチラ。


何だかんだ勇者と魔王として旅をしていた僕たちであったが、その全てが自称であった事実に僕は過去の言動等を思い出して急に恥ずかしくなる。


「なるほどね、セラスのお父さんが何度も復活して世界を危機に陥れていたわけじゃなかったんだね」


「妾もそれ始めて知ったぞ」


キョトンとした表情をうかべるセラスは本心から驚いているようだ。


その様子にエミリアはくすくすと笑みをうかべると。


「ええ、悠久の魔王とは、永遠の命を与える「悠久の力」にとりつかれた存在を指します。

失われてもまた新たな宿主を探し虚ろうその力こそ魔王の元凶。 いわば呪いのようなもの……その呪いを解ける唯一の武器。それこそがリアナなのです」


「なるほどね、リアナは勇者にしか使えない。 だからこそ魔王は勇者にしか倒せないはずと」


「ええ、リアナが勝手なことをしなければですが」


ぼふんともう一度リアナが爆発をした。


「……そうせめるでないエミリア……リアナとて女の子? なのだ、ラクレスほどの男が前に現れれば恋に落ちるのも無理のない話よ」


ふふんと鼻を鳴らして胸を張るセラス。

嬉しいのだがそんなに自信満々に言われると恥ずかしくて耳がこそばゆい。


「でもそうなると、魔王はもしかして……」


「ええ、元ゼラスティリア王国国王。 太陽王オーマ……それが今世の魔王の名前です」


「やはりか」


セラスは退屈そうに呟くと、エミリアはすみませんと小さく声を漏らす。


「でもなんで……魔王と戦ってきた王様がどうして悠久の魔王なんかに」


「戦ってきたからであろう? 他を圧倒する絶大な力に、決して老いぬ体。戦い、身近で感じていたからこそ……その力を欲した」


「おっしゃる通りです。 確かに初めは、純粋に世界を救うために王は魔王と戦っておりました。しかし、研究により悠久の力は手に入れることができるものだと知った時……王は変わってしまった。世界を救うことではなく、悠久の力を手に入れることが、戦争の目的になってしまっていたのです」


「……それはいつから?」


民を守ると、勇者の剣を抜いた僕に語ったオーマ王の言葉が僕のなかで思い起こされる。


あの言葉さえも嘘だったのだろうか?


「いつから王が変わってしまったのかは定かではありません。ですがただ一つ言えることは、悠久の力に対抗できるのは、リアナと勇者のみ……魔王軍を殲滅するあなたの力を、王が恐れるのは自然な流れと言えるでしょう」


「勝手な話よ……その結末が裏切りか」


「ええ、リアナが居なくなった世界で、王はそのまま魔王となりました。永遠の命に神聖武器。エルドラドはその情欲のままに色欲の限りを尽くし、ケイロンは己を上回る魔術師の登場を嫌い魔法の独占を行った。

リカールはそんな王国を憂いて姿を消しました……今はどこにいるのかもわかりません」


「そんな」


「だからこそ、あなた方はこの世界に呼ばれたのかもしれない。 もはや王城にかつてのゼラスティリア王国はなければ、王を止めるものもいません。今はまだしばらくは平穏が続くでしょうが……それでも間違いなくオーマは世界の脅威となっています」


「それを止めるのが勇者、リアナだと」


「ええ……古からの予言が正しければ。そしてあなた方は、その勇者を育てるために遣わされた存在」


「……魔王の娘である妾を差し向けるとは……神というやつも嫌味なことをするものよ」


不愉快そうに悪態をつくセラスではあるが。


早くも異空間から初歩魔術の教本などを取り出しているところから、ノリノリであるのは間違いない。


「メルティナを育てる……ていうのには異論はないけれど。 魔王が脅威だというなら、別に今から僕が殴り込んで行ってもいい気がするんだけど」


身もふたもない話だが、勇者を育てる……なんて面倒なことをしなくても、二百年前のように僕が単身乗り込んで行って倒してしまえばそれで万事解決なのではないだろうか?


「確かにな……そこのところどうなのだエミリア?」


納得したように語るセラス。

しかしその言葉にエミリアは首を振る。


「……確かにそうすれば王城は1日も持たないでしょう……悠久の魔王すら及ばぬその力に、抵抗できるものはありません。 間違いなくあなたのその拳には神が宿っていますから」


「……じゃあ」


「ですが、そうすればラクレス……あなたはもはや新婚旅行を楽しむことはできなくなります」


「え?」


「まぁそうだろうの……魔王としての頭角を現しておらぬ国王を、今の民にとってどこの誰ともわからぬお前様が滅ぼしたとしても民の目には「侵略」よくて「復讐」としかうつらんだろうて」


「そうなればセラス様もメルティナ様も晴れてお尋ね者。旅はかろうじて続けられるかもしれませんが」


「メルティナにはちと辛い旅路となるやもしれぬな」


セラスの言葉に、僕はなるほどと一つ納得をする。


「そうだよね……」


「あぁ……だがお前様がどのような決断を下そうが妾だけはお前様の味方だぞ」


「私も、あなたが魔王の討伐を望むならば、私がラクレスとセラス様、そしてメルティナ様の旅が無事なものになるように最善を尽くします」


エミリアの言葉に僕は少し考える。


かつて世界は僕を必要としなかった。

ならば、おせっかいを焼いてやる必要も義理もない。

どんなにいいことをしても、望まれなければ余計なことにしかならないのだ。


そうやって裏切られて、恐れられて捨てられた。

人間はどこまでも自分勝手。


だけど、そんな人たちのことばかりを考えて。

僕のことを見守ってくれていたエミリアに気づかず苦しめたのも僕の勝手によるものだ。


「ううん……今の平和を壊してまで動く必要はないよ。新婚旅行を続けようセラス」


きっと今ここで、僕が王城へと乗り込んでも彼女たちは笑って味方をしてくれるだろう。

だけどそれは、同じあやまちだ。


セラスと夫婦になった時、僕はセラスだけの勇者になることを決めた。

ならば答えは簡単だ。

顔も知らない誰かのためではなく、僕は僕の幸せのために拳を振ろう。


大いなる力には責任が伴うなんて言うけれど。

その責任は十分に果たした後は自由が与えられて然るべき。


「……そうか。 ふふっそうかそうか。 それはそうよな、まだ妾達の新居すら見つけていないのだからなぁ!」


嬉しそうに顔を緩めながら喜ぶセラスに。


「………………よかった」


小さく胸をなでおろすエミリア。


その二人の言葉が、この選択は間違いではなかったことをおしえてくれた。



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