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28話 必殺 ジャイアントコメット

建物の屋上を超えてさらに巨大化する魔法陣……其の後足もとから這い出るように巨大な柱のようなものが伸びて僕たちを天高く持ち上げる。

 建物の屋上を超え空の果てまで超えてしまうのではないかと僕は一度錯覚をするがそんなことはなく、すぐ上昇は止まる。

 

岩盤のようにごつごつとした足場はほんのりと温かく、踏みしめると意外とやらわドクンドクンと何かが足もとを脈打つように振動する。


ごきりという鈍い音と共に、僕たちを取り囲むように五本の柱がゆっくりと起き上がったとき。

ようやくこれが何かの手のひらであることに僕は気が付く。


「あ、あれ……もしかしてこれって」


「な、何々!? 何ですかこれーー!?」


 揺れた拍子にメルティナは眼を開いてしまったのか、唐突に表れた巨大な手に驚愕の声をあげている。

 

「むぅ……目を開けないように言っていたのだが、まぁこの状況では閉じていた方が恐怖が勝るか。仕方あるまい、怖い思いをせぬようにさっさと終わらせるとしようかの」


 どうやらメルティナに目を閉じているように命令したのはセラスであったようで、はしゃぐメルティナを怒るではなく、困ったような表情を見せ、同時に再度手を叩くと、呼応するように魔法陣より這い出た存在が全貌を表す。


 黒い肌に、黄金の入れ墨をまとった男。

 炎のように燃える赤い目はまるで星のようにらんらんと輝き、むき出しにした歯からは春だというのに真っ白な吐息が煙突の煙のように吐き出されている。


 巨人……アイスジャイアントやタイタン族なら見たことがあるが、彼らよりもはるかに巨大な存在は、セラスと僕たちを肩に乗せるとぎろりとリヴァイアサンを睨みつける。


「があああああああああああ!」


 暴風のような敵意を感じたのか、リヴァイアサンは威嚇するように巨人に向かい吠え。

 

「ぶるううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 巨人も負けじと声を上げる。


 リヴァイアサンの声を風と例えるならば。

 巨大な存在の咆哮は嵐に近い。


 湖は海のように波たち、リヴァイアサンはその声に気おされるように後ずさりをすると。


「ふん……恐れて引いたが負けよ……アンゴルモア!」


「ぶるああ!」

 

 セラスはにやりと笑みを零して巨人に命令を下すと。


 一瞬の浮遊感の後、距離にして二キロ弱を巨人は一足でゼロにした。


「おっ!? おおおおおおおおお!」


 絶叫に近い声を上げたのは僕であり、そんな声を誰も気にすることもなく巨人は後ずさりをしたリヴァイアサンの首を乱暴につかむ。

 

 僕たちの感覚ですれば十メートルを一瞬で移動するような移動距離。

 

 はるか昔の勇者の記憶に刻まれていた移動歩法。

 確か【縮地】と呼ばれる武術の一種であるとは思うのだが……詳しくはわからない。

 だがこの移動だけで、この巨人には武術の心得があるのだということは理解できた。


「そのまま放り出せい!」


 街に被害を出さないようにというセラスの配慮を読み取ったのか、アンゴルモアは一つうなずくように首を振ると、リヴァイアサンの首根っこを掴んだまま体を回転。


 そのまま遠心力を利用し、円盤投げの要領でリヴァイアサンを町の外まで放り投げる。


「がっ!? があぁ???」


 街を囲い込めそうなほど巨大な体。

 そんなリヴァイアサンにとって放り投げられるなど想像すらしたこともない事態であったのか似つかわしくない呆けた声と共に、湖の外側へと容易く放り投げられ、高原へとその身を落とす。


「さぁて見せ所よな!」


 ノリノリなセラスは巨人の肩の上で虚空をなぞる。

 その魔法陣は見慣れた転移魔法のものであり、陣を掻き終えると同時に黒い影が巨人事僕たちを包み込み。


「わっ!?」


「お空!?」


 一瞬にして巨人と僕たちはリヴァイアサンの真上に瞬間移動をする。

 目を丸くし声を上げる僕とメルティナ。 

 

 しかし、勝手知ったると言わんばかりに巨人は眼下のリヴァイアサンに向かい拳を振り上げ、セラスも満足げに、く、と口角を上げる。


 なんだかぴったりな息の合いように僕は少しだけ嫉妬を覚えたのは内緒の話だ。



「ぶるうううあああああああああああああ!」


 ゼラスティリアの王城に等しい体躯を持つ巨人による、高度三十メートル弱から振り下ろされる鉄拳は、空から降り落ちる隕石といかほどの違いがあろうか?


 セラスが先ほど言った通り、魔術に頼らぬ純粋な物理攻撃。

 故にリヴァイアサンの体の周りに張り巡らされた魔術障壁や魔法効果妨害の加護のような小手先の防御はすべて無意味と帰す。


 単純……故に凶悪。


 それに加え。


「夫の前ゆえ特別サービスだ、喜べ海蛇。 三倍ましよ!」


 セラスは指をパチンと鳴らし、アンゴルモアの拳に重力魔法をかける。


 三倍まし……という言葉の通りかけられた魔法は三倍の重力をかける第三階位魔法。

 それにより拳は重みを増し……破壊力はさらに増強される。


「ひぎっ……」


 逃げ出そうとリヴァイアサンは身をよじらせるが間に合わない。


【必殺! ジャイアント・コメット!】


 ノリノリなセラスの可愛らしい声とは裏腹に。


 同情したくなるような巨腕の一撃がリヴァイアサンへと振り下ろされ、辺り一帯に地割れと引き起こしながら、水龍であったものの肉片が比喩表現なしに四方三里へと飛び散らせた。


 これのどこが共同作業なのだろう。

 

 そんな疑問が脳裏に一瞬浮かびはしたが。


「いやっほーーう!」


 楽しそうに上がるセラスの歓喜の声が、そんなどうでもいいことは吹き飛ばしてくれた。


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