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17話 家族はイキッた冒険者に絡まれる

「普段は観光客であふれかえる活気のある街なのですが、湖の赤化と魔物の出没のせいで、今はこの有様です」


 水の都は赤い湖の影響のせいか、観光客も少ない閑散とした地となっていた。


 道行く人々の顔色は暗く、大半の店の戸は固く閉じられている。

 

 リゾート地の面影は皆無であり、形容するならばゴーストタウンという言葉が似つかわしい。 

 

 町の中は水の都の名前の通り、道の真ん中を川のように水が流れ、あちこちに美しい装飾の施された橋がいくつもかかっている。

 つくりは少し色のついたクリスタルでできているのか、日の光を浴びてまるで生きているかのように煌々と輝く。

 

水が赤く染まってさえいなければ、きっとため息が漏れてしまうほど神々しい街並みなのだろうが……町を流れる水が赤く染まってしまっているため、橋にも道にも、撥ねた水が血痕のように町を覆いつくしている。


 リゾート地ではなく処刑場という言葉の方が似合いそうな街並みだ。


「こ、怖いですこの町」


「おいでメルティナ」

 

 怖がるメルティナを僕はそっと抱き寄せる。


「むぅ…………わ、妾も」


「え? 何か言ったセラス?」


「…………な、なんでもない!」


「そう?」


 具合でも悪いのだろうか? 何かを言いかけたセラスは少しだけ顔が赤いようにも見える。 思えばここ数日はずっと馬小屋での寝泊まりだったから、風邪でもひいてしまったのだろうか? 


 そんなことを考えていると。


「あれあれあれー? 聖騎士団様が随分と大きな顔をして町を歩いてるじゃあないのさ」


 町の向こう側、冒険者ギルドと書かれた建物から出てきた男性が、騎士団たちに向かって声をかけてくるのが見える。

 

 派手な紫色のとんがり帽子に金髪をポニーテールに結わえ、さらに全身に白いタイツを身にまとった男性。

 今時のファッションなのだろうか? 頭からはクジャクの羽が垂れ下がっている。


「これは……キホーテさま」


「誰?」


「SSSランク冒険者……次期勇者と名高いキホーテ様でございます」


「次期勇者?」


「ちょっと、俺のこと無視して何こそこそ話しちゃってるわけ?」


「いえ、これは失礼をいたしました」


 カタリナはそう言うと、キホーテと呼ばれた人間に敬礼をする。

 小さく舌打ちをしていたのが聞こえたが、偉そうな人なので僕もメルティナも軽く頭を下げておく。


「聞いたことあるぜ……冒険者キホーテ。有名な魔法剣士だ。なんでも、魔王の落とし子っていうバケモンを退治したとか」


「へぇ……」


 聞いたことのない魔物の名前に僕は首を傾げつつも、面倒くさそうなのでできるだけ顔を合わせないように深く頭を下げておく。


「そうそう、それでいいんだよ。 騎士団ってのは礼儀を知らない奴が多いからあんまり好きじゃないんだけど、さすがはお行儀の良い聖女様の率いた騎士団だよな。まぁ麗しい水の都をこんなになるまで放置する無能っぷりは呆れちゃうけど、礼儀をわきまえているのは好感が持てるよね」


「お褒めにあずかり光栄にございます」


 昔からこういうタイプの人間は一定数はいるんだな……と僕は思いつつも、特に何も言うことなく顔を見ないようにする。

なぜだか分からないがこの手のタイプには昔から目があうと絡まれることが多かった。

 

弱そうに見えるからか? それともなんでも言うことを聞きそうだからかは分からないが、大体金品やリアナをかけて勝負だと言われ、しかもこういう人に限って負けを認めようとしないため、五体不満足になるか殺してしまうかのどちらかになってしまう。

 

SSSランク冒険者と言えば国や世界の希望として【英雄】と呼ばれる人物。

けがをさせてしまっては全国指名手配……なんてことになりかねない。

地位も名誉も興味はないし、彼が代わりに勇者をやってくれるというなら願ってもないこと。だからこそ何も言わずにだまってカタリナの話が終わるのを待つ。


「ふふん、まぁまぁそう怖がらなくていいよ。怒ってるわけじゃないんだ、君たちには頭のいかれた聖女の予言を大事に大事に伝え広めるお役目があるんだから」


 カタリナの言葉に満足げにキホーテは鼻を鳴らすと得意げにそう語るが。

 カタリナは頭のいかれた聖女という言葉に拳を握り締めて反論をする。


「キホーテ様、お言葉ながら聖女様は悠久の魔王の出現を預言したお方でございます」


 自らが信じている存在に対する侮辱に我慢が出来なかったのだろう。僕たちとの会話の時には優しく微笑んでいたカタリナは、獣の唸り声のような低い声でそう忠告をする。 


 正直僕ですら恐怖を覚えるほど凄みのある言葉であったが。

 キホーテはそんなことに気が付く様子もなく逆上をする。


 「はぁ? お前さ、何俺にたてついちゃってるわけ? 頭のいかれた奴をいかれてるって言って何が悪いのさ……勇者の剣を盗んだ反逆者がこの国を救うなんて予言誰が信じるっていうのさ」


「それは違います、魔王を倒したのは本当は勇者様で……」


「それこそ君たちが作り上げた御伽噺だろ? 盗人が救世主だなんて格好がつかないものね? もし本当に勇者が世界を救ったというなら、なんでそのラクレス様は世界の救世主として世界に祭り上げられてないんだろうね? おかしいねえ? 君たちが伝説を勝手に捻じ曲げて解釈するのは勝手だけど、あんまり荒唐無稽だと危ない宗教と変らなくなるから気を付けた方がいいぜ?」


 やれやれとため息をつくキホーテ。

 当然のことながらカタリナも拳に青筋を浮かべながら反論を返す。


「聖女様が頭がいかれてしまっておられるなら、その予言を信じて勇者をがんばって目指している貴方も、頭がいかれておいでなのでしょうね? 勇者の剣がないのに、勇者にどうやってなるのかぜひご教授いただければと、貴方様の空回り勇者願望記を本にすれば、きっと三大陸を超えて二百年以上語り継がれることでしょう、頭のいかれた男が勇者を目指す喜劇としてね」


「お前……女だからって大目に見てたけど随分と生意気じゃないか……僕はみんながバカみたいに信じてる勇者伝説に乗っかってあげてるだけさ。剣を盗んで逃げだした腰抜けに用はないし、お前たちの伝説を信じてあげるんだとしても……毒なんかを盛られて死ぬほど俺はバカじゃないし弱くはない! そんな雑魚一人に殺される魔王もそんな魔王に滅ぼされる世界も……どいつもこいつもバカで雑魚ばっかりさ」


「ほぉ」

 

 ぷちりと、セラスから何かが切れる音がした。


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