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14話 家族は水の都へ向かう

ランキング35位! ありがとうございます。 一日一投稿と言いましたが、うれしすぎたので投稿します!

「俺ぁいろんなやつ見てきたが、お前さんみたいな奇特な人間は初めてだぁな。 新婚旅行であんな辺鄙なところうろつくか普通?」


「まぁ、訳ありというか。 ある意味不時着というか」


「何、世界を巡る旅なのだ。 時折はああいう自然に囲まれた場所を歩くも旅の華というものぞ?」


「へぇ……そういうもんかねぇ。 まぁ当人が納得してるのに口挟むほど、俺も野暮じゃあねえから何も言わんが、水の都で美しさに驚いて気ぃ失うんじゃねぇぞ?」


 冗談めかしてそういうタクリボーに苦笑を漏らし、僕は地図を広げて次の目的地を確認する。


 彼を助けた後に少し話を聞くと、タクリボーは水の都に向かう途中であったらしく、ちょうどいいので助けたお礼として次の目的地まで同行をさせてもらうことにした。


 荷台を引く魔物は、固い甲羅を持つ【ジャイアントタートル】と呼ばれる魔物であったため狼たちも手を出さなかったのだろう、傷一つないまま移動に支障をきたすことなくのんびりと細い道を歩いている。


 タクリボーの話では、水の都はこの世界で最も美しい都とされており、リゾート地としても有名なんだとか。


「リゾート地か……水の都とは夫婦の旅路にぴったりな名所ではないか」


「でも、この地図によるとここって世界で大きな湖があるヨヴ湖の場所だよね…ここって確か巨大な魔物リヴァイアサンが住処にしていて危険地帯って言われてたような……」


「……なんだお前、水の都については知らないのにリヴァイアサン伝説は知ってるのか。 変な奴だな……二百年前からタイムスリップでもしてきたのか?」


 僕の発言に冗談めかして笑うタクリボー。 それに僕は苦笑いを浮かべながら、この二百年の間にリヴァイアサンはいなくなったのだと悟る。


「……田舎では昔話が多いもので」


「そうか。 そういうもんか。 まぁ知っての通りその湖は昔、リヴァイアサンって言う魔物が住んでとても人の住める環境じゃなかった。 しかし、200年前魔王討伐をなした四将軍の一人、聖女エミリアさまは暴れるリヴァイアサンを退治してくれたんだ。平和になったヨヴ湖に、エミリア様を称えて作られたのが水の都ヴェルネセチラだ」


「……四将軍」

 

 その言葉にセラスは一瞬眉を顰めるが……すぐに元の表情に戻る。


「なるほどね……水の都ということは、本当に湖の上に浮かんだ水上都市なんだ」


「まぁな、湖の四方に橋が四つかかっていて、夜になると橋と町は切り離されて橋は湖に沈む。 街の中は言わずもがなだが、湖のほとりで眺めてるだけでもきれいだぜ? 特に夜は、ぽつりと浮いたヴェルネセチラの姿が湖面に反射してそれはそれは美しい夜景を拝ませてくれるもんさ」


「……それは何とも」


「素敵ですねぇ、セラス様」


 想像をしてうっとりとするセラスとメルティナ。

 

 どうやら次の目的地に不満は無いらしく、僕はとりあえず地図をたたんでしまう。


 荷台の屋根の上は心地よく風が通り抜け、空は雲一つない快晴。


 きっと湖も空の色を吸い込んで青々と輝いているだろう。


「……それに、お前さんたちは運がいい」


「運がいい? どうして?」


「この季節にはな、ちょうど湖の水が一斉に桃色に染まる【聖女の祝福】の季節なんだ。空の色を吸い込んで青く輝いていた湖面が一斉に桃色にそまってな、それは幻想的な風景が町を包み込む」


「桃色に……なんと面妖な」


「すっごい綺麗そーですね! セラス様!」


「あぁ、しかもその水を飲むと一年病気もなく過ごすことができると評判でな、この時期は観光客でひっきりなし……美肌効果もあるとかないとかってんで、特に金持ちの女たちがあの町に集まるってわけよ」


「成程、だからタクリボーはヴェルネセチラに向かっているんだね?」


「そういうことだ……金持ち相手に在庫を売りさばいて、大量の水を仕入れて帰る。 どうだ? 完璧な作戦だろう?」


 気前よく笑いながら葉巻にマッチで火をともすタクリボー。

 生き生きとした表情は人生と仕事を心底楽しんでいることが伝わってきて、僕は正直羨ましささえ覚えてしまう。


「しかし、完璧な作戦を立てるのは良いが迂闊過ぎぬかおぬし? 護衛もつけずにこのような大荷物……襲ってくれと言っているようなものではないか」


「この辺りはあまりにも辺境過ぎて魔物も盗賊も出やしねぇんだよ。 ヴェルネセチラにはもう何度も行ってるが、魔物に襲われたのなんて今日が初めてさ。まったくついてねえ」


 魔物が出ない地域があるという話は、魔王と戦っていたころにはにわかには信じられない発言であり、僕は確認を兼ねてメルティナに「そうなの?」と聞いてみると。


「私も、生まれてから一度も魔物を見たことはありませんね」


 メルティナもそう短くうなずいて肯定する。

 

 そう考えると、魔物除けの灯篭がボロボロになっているのもうなずけるし、それだけ安全な地域ならば護衛もつけないのも納得だ。


「平和になったんだねぇ」


 風が通り抜ける草原は穏やかで……僕ははにかんで、自分の救った世界を満喫する。


 誰にも認められなかったけれど、自分のやったことは間違いじゃなかったんだと……この世界は僕を肯定してくれて居心地がいい。


「ところでお前さんたち、水の都まで行くのはいいんだが路銀の方は大丈夫なのか?」


「路銀? ある程度ならあるけれど」


「あぁ、田舎もんならそれを先に説明するべきだったか……さっきも言った通りヴェルネセチラは金持ち御用達のリゾート地だ、だからその分物価が死ぬほどたけえ。晩飯一回に金貨とられるなんてざらなぐらいだからな……貧乏人は飯粒一つ買えねえぞ」


「き、金貨!?」


 メルティナは驚いたように耳をぴくぴくと動かして目を丸くする。

 確かに彼女の村では金貨はどうやっても用意ができないと言っていた。


 そう考えれば水の都の物価がどれほど高いのかが伺える。


「そうか、それは困ったの。 ある程度の路銀はエルド……コホン、あの男からくすねはしたが、それでも金貨が数枚ある程度だ」


「俺もそんなに貯えがあるわけじゃねえからよ、悪いが恩人とはいえ金は貸せねぇぞ?」


「大丈夫だよタクリボー、こっちもお金を借りても返す当てがないからね……結構な距離を送ってもらってるし、そこまでお世話になるわけにはいかないさ」


「何、魔物が出ない地域ならば最悪観光までにとどめて、夜は夜景を眺めながら湖のほとりで天幕を張ればよいだけだ……のぉメルティナ?」


「はい! お二人と一緒ならどこでも楽しいです!」


「うそ、妾の子いい子過ぎじゃないかの?」


 セラスの膝の上で元気よく返事をするメルティナと、親ばかを炸裂させるセラス。


「ということなので……ただ旅に必要なものだけ、タクリボーと取引させてもらえれば問題なさそうです」


「新婚旅行は気ままでいいねぇ……」


 そんな光景を祝福するように微笑むタクリボー。

 触角のように二手に伸びる髭を一つなでると、遠見の眼鏡を使って行き先を見る。

 と。


「お、見えて来たぜ? 水の都ヴェルネセチラ……だがなんだ? 様子が変だし……なんか向かって……」


「ラクレス!」


 タクリボーの不穏なつぶやきに呼応するかのように、セラスはメルティナをかばうように抱いてそう叫ぶ。


 振り返るとセラスの瞳は琥珀色に輝いており、何か良くないものが向かっていることを告げている。


目を凝らしてヴェルネセチラの方を見ると。


「……あれは、ドラゴン!?」


 赤い血のような液体を滴らせながら、ドラゴンがものすごい勢いでこちらに向かって飛んでくるのが見えた。


面白かった、続きが読みたいと思っていただけましたら! 評価、ブクマお願いします! 

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