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13話 勇者は万事屋を助ける

日間ランキング 34位!! 随分と上位まで上がってきました! 本当にありがとうございます!

 これからもよろしくお願いします!

その後ダークエルフの村を出た僕たちは、メルティナに案内をされながら草原を抜けて馬車が一台通れるかどうかの舗装すらされていない小さな道にたどり着く。

 辺境という言葉に嘘はなかったようで、地図を見てもこの辺りにある道はこれ一つ。

 しかも、朝早く出発をしたというのにもう太陽はてっぺんまで上ってしまっている。


道は申し訳程度に魔物除けの灯篭はあるが、もう何年も誰も手入れをしていないのだろう。石はぼろぼろで苔むしており、久しぶりの客人に驚いたのか触れてみるとその身が崩れ落ちてしまう。


そんな誰も通る気配のない忘れられた道。

 しかしながら旅を楽しむにはぴったりな状況に僕たちの心は自然と弾んでいた。


見晴らしもいいしお腹もすいたから御昼にしようと言い出したのはセラスであり。

ぐぅとお腹を鳴らしたのはメルティナだった。


そんなこんなでちょうどいいので、現在僕たちは軽食をとりながら、次の目的地について相談をしている最中である。


「ふむ、この辺りで一番近い都市となると……エルドラドの奴が治めていたアナスターシャになるが、四肢をもがれた兵士たちをみな転移魔法で飛ばしたゆえ、今頃は大混乱だからやめた方がよいだろうな」


「……うわぁ、えげつない」


 地図を広げながら、僕は先日のエルドラドの部下のことを思い出し思わず声を漏らす。

突如として町に四肢をもがれた兵士たちが降ってくるのだ。

 その場に居合わせていたら僕だって悲鳴の一つや二つはあげてしまうだろう。


「えげつないとか言わないの! 見てくれは確かに悪いが、最短時間で町まで帰れたのだ。今頃は全員腕と足がつながって歩けるようになってるはずだぞ……妾のおかげ!」


 僕の言葉に気分を害したのか、セラスはぷんすこと怒りながらそう主張をする。


「確かにそれはその通りだね……ありがとうセラス」


「ふふん、わかればよい」


「転移魔法? 転移魔法って何ですかセラス様」


 僕たちの会話に入ってこれないことが詰まらなかったのか、それとも純粋な好奇心か。

 メルティナはそう僕たちの会話に入ってきて質問をしてくると、セラスは嬉しそうに瞳をかがやかせる。


「メルティナは魔法に興味があるのか? 良いぞ良いぞ、どんな魔法を教えようか。重力を操り敵をぺしゃんこにするか? それとも魔界より魔獣を召喚するか?」


 子供になんという魔法を教えようとしているのか……と思った僕は止めようかと悩むが、セラスの真剣な表情はきっとこれからの長旅を考慮してメルティナにも最低限の護身術を教えようという魂胆なのだろうと気づく。

 

 確かに無理やりに剣を持たせて武術を教えるよりも、興味を持ったことから護身につなげていく方が効率が良い。

 

 身に着ける魔法は物騒かもしれないが、重力魔法も召喚魔法も応用が利き早い段階でマスターすれば幅広い運用ができる魔法だし、子供が使うには物騒すぎるというが、考えればメルティナもいつかは大人になる。

 魔法は使いよう……物騒で危険な魔法だからこそ、早い段階から正しい使い方というのを身に着けさせることの重要性をセラスはわかっているからこそ、その二つをメルティナに提示したのだ。


 僕はそんな彼女に感心し、やり取りを黙って見守る。


「んーと……私、勇者様みたいに雷とか炎とか操れるようになりたい!」


 しかし親の心子知らず……そんな考えをつゆ知らず正直で残酷な返答がセラスを貫く音が聞こえる。

 いやセラス、睨まれても僕のせいじゃないからね、そもそも勇者信仰の村で育ったならそうなるのはある程度見えてたじゃないですか。


「セラス様? どうしたんです?」


「いや、何でもない……そうか、雷と炎か。くぅ……闇ではだめなのか闇では」


 落ち込むようにその場にうなだれるセラスに、ようやくメルティナも彼女がその二つの魔法が使えないことを察したのか、慌てふためく。


「あ、あわわ……ごめんなさいセラス様、私、私そんなつもりじゃ」


「よい、よいのだメルティナ……すべては妾の力不足ゆえだ……ふがいない妾を許してくれ」


「あ、あわわわわ、ラクレス様どうしようセラス様が……」


「どうしようって言われても……」


 落ち込むセラスをどう励まそうか僕は考えるが……。


【ピーーーッピー――ッピーーーーッ】


 遠くの方から、懐かしい笛の音が鳴り響く。


「な、なんだ? 魔物か?」


「安心してセラス、あれは魔物笛だよ。 二百年たっても変わらないものは変わらないんだねぇ」


 警戒するようにあたりを見回すセラスに、僕はそう言うと、メルティナとセラスは全く同じ角度に首をかしげる。


「魔物笛? 魔物笛って何ですかラクレス様?」


「魔物笛っていうのは、冒険者や行商人の間で連絡を取り合うために使われてる笛で、鳴らした回数で今の状況を伝えるんだ。 例えば、一回だけなら魔物と戦闘状態に入ったっていう意味だし、二回だと魔物討伐が終了したって言う具合にね」


 僕の説明にセラスとメルティナは納得したようにほぉと頷く。

「……じゃあ、三回はどういう意味なのだ?」


「えーと三回は確か……あぁそうだ、救援求む……」


 一瞬の沈黙の後。


「いってらっしゃい、ラクレス様」


 手を振って送り出してくれるメルティナの言葉と、いそいそとリアナを手渡してくれるセラス。

そんな二人に送り出されて、僕は急いで音の方へと駆け出した。


                   ■

「たすけてええええぇ!?」


 音の方へ走っていくと、道の先で行商人だろうか、馬車と魔物の群れを発見する。


「あれは……シャドウウルフ?」


 襲われている人は少しぽっちゃりとしたハーフリングの男性は馬車の荷台の上に登って必死に剣を振り回しているが、威嚇にすらなっていないようだ。


 襲っているのは影狼シャドウウルフと呼ばれる低ランクの魔物。

 低ランクとはいえ知識が高く群れるとランクの高い冒険者でさえも手を焼く魔物であり、行商人ではとてもではないが手に負えない相手であろう。


 普段は夜行性で、基本は魔物除けのある道にはめったに表れない魔物なのだが……。


「まぁ、そんな事気にしてる場合じゃないよね!」


 疑問を振り払い僕はリアナを抜き、魔物の群れへと投げつける。


「ぎゃん!?」


 投げつけられたリアナはシャドウウルフの背中に突き刺さり肺を貫き、すぐさま刀身を引き抜くとすぐさま隣の狼へと切りかかる。

「―――!?」


 突然の来訪者に、シャドウウルフの一匹がリアナへと攻撃対象を変更して飛び掛かるが。


「っぎゃんっ!?」

 

リアナにとびかかった狼の牙をリアナはすらりと回避すると、そのまま狼の首を跳ね飛ばす。


 一匹、二匹。


 歴代勇者の剣術の記憶を保有するリアナにとって、たかだか狼程度はもはや赤子の手をひねるよりも容易く、逃げ出そうが、攻撃を仕掛けようが回避行動をとろうが容赦なくリアナは狼を両断していく。


「お待たせリアナ……って、もう終わっちゃったか」


 僕が到着するころには、すでに十体以上の狼の死体が転がっており。


 逃げ出そうとする最後の狼をリアナは【火炎】の魔法で焼き払うと、自慢げに僕のもとへともどり、鞘に収まりおとなしくなる。

 あとは僕がやれということだろう。


「……た、助かった?」


 茫然とその光景を眺めていた行商人は狐につままれたような表情でそんなことを呟き、信じられないといった表情のまま荷台から降りてこちらに歩いてくる。


「けがはないですか? 救援の魔物笛を聞いたもので」


「あ、あぁおかげさまで助かったぜ。ありがとよあんちゃん。 だけどすげえな、剣がひとりでにびゅんびゅーんって……あれは魔法なのかい?」


「え、あぁまぁそんなところかな、詳しくは教えられないんだけど……ってあいて!?」


 突然の男の質問に僕はしどろもどろに適当なことを言うと、気に障ったのかリアナは僕のわき腹を柄でつついてくる。


「? まぁどんな魔法か説明されてもわからねえから構わねえが、助かったよありがとう。 これからおっきな街でデカい仕事があるってのに、オオカミの餌になっちまうところだった」


 バンバンと荷台を叩いて男は気持ちよく笑う。


「……随分と大きな荷物だけど」


「まぁな、俺は万事屋を営んでてな……おっきな仕事があるときはいっつもこんな大荷物になっちまうのさ。 いつもは冒険者を雇って護衛をつけるんだが、こんな辺境の田舎だからって油断しちまったわけさ」


「万事屋?」


 聞きなれない単語に僕は首をかしげると。。


「おっといけねえ、俺としたことが店の宣伝を忘れるとはな」


 慌てたようにポンと手を打つと男は慌てて荷台のひもを引く。


「なっ!?」


どういう仕掛けか、男がひもを引くと、荷台は音を立てて形を変えていき、屋台のような形になって荷台の中をさらけ出す。


 荷台の中は剣や防具があるかと思えば、食料や魔鉱石、何に使うのか狐のお面なんかが棚に並んだりぶら下がったりせわしなく、僕は万事屋という言葉の意味に納得して思わずうなってしまう。


「ようこそ万事屋へ。俺の名前はタクリボーってんだ。人以外なら何でも取引するが、何か入用なものはあるかい? あんちゃん」


 自慢げに笑い握手を求めてくる男(この誤字だからこそ名前と分かりますが、現状は店名か人名かも不明のはずです)。


 これが、これから長く続く僕と男(以前の理由と同じ正式に名乗って下さい)の最初の出会いであった。


           ■


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