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11話 勇者は裏切り者を制裁する

 おかげさまで一日のPVが1万人を超えましたー! 本当にこんなにたくさんの方に見ていただけてとてもうれしいです! どうかこれからもよろしくお願いします!

(戦闘PART)


 エルドラドがその時抱いたのは後悔であった。


 大楯を用いれば、あるいは彼らに刃を向けなければ……きっとあのお人好しのことだ、笑って見逃してくれたはずなのに。


 刃を向けてしまった、殺そうとしてしまった。

 

 魔王軍を単身で、しかも勇者の剣すらまともに使わずに壊滅させた怪物を敵に回してしまったという後悔が頭の中をぐるぐるとめぐる。


「この魔力は……悠久の魔王?」


大楯越しに感じた魔力により蘇る魔王と対峙したときの記憶。


姿かたちは違えど間違いなく勇者の手を取りこちらに向かってくるのは、かつて初めてエルドラドが恐怖をした存在【悠久の魔王】

 

 なぜ二人が手を取ってこちらに向かってくるのかは分からないが。

 少なくともエルドラドは、自分が勇者と魔王を二人同時に敵に回してしまったことだけは理解する。


「君にとっては久しぶりなのかな? エルドラド、少し老けたかい?」

 

 二百年前に殺したはずの男は、相も変わらず不気味な笑みを浮かべて人間の振りをする。

  

 敵意はないが、それでもその手にはしっかりと勇者の剣が握られており、少し後方で控える魔王に目をやると、殺意をむき出しにしてエルドラドを睨みつけている。


「な、なんでてめぇがここにいやがる……お前は確かに殺したはずだ」


「うん、本当に死ぬかと思ったよ……ひどいじゃないか、仲間だと思ってたのに」


 さらりとそういう勇者に対し、エルドラドは顔を引きつらせる。

 ひどいと言いながら、勇者は全く怒っている様子が見えない。


 殺されかけたというのにあまりにも不気味すぎる。

 

「……復讐にでも来たのか?」


「いやいや知ってるだろ、僕は復讐なんて柄じゃないさ。ここにいるのはどうしてあんなことをしたのかを問いただすためさ。どんな理由でも怒らないから教えてよ」

 

 耳障りの良い言葉は悪魔の誘惑のようであり、何を考えているかよくわからない張り付けたような笑みに耐え兼ねて、エルドラドはとうとう吠える。


「亡霊に語る言葉なんざあるかってんだよ!! 生き返ったのかそこの魔王に生き返らせられたのかは知らねえが……今度こそ四将軍の名においててめぇをきっちりあの世に送ってやる!!」


 大楯を構え、クレイモアを抜くエルドラド。


 勇者が死んでから二百年……エルドラドとて何もしていなかったわけではない。

 戦争に明け暮れた百年と、反乱を鎮圧してきた五十年。


 戦いと研鑽の日々は魔王軍との戦いの日々よりも過酷であり、何よりも今は二百年前とは違いエルドラドには力がある。


 人には到達できない、魔王の秘宝による【悠久】の力が。


「っ!?」


「俺たちが何もしないで二百年を過ごしてたと思うか!? お前を排除した後、俺たちは悠久の魔王の力を手に入れたのさ!」


 叫ぶエルドラド。それと同時にクレイモアの周りに黒色の渦のようなものが纏わりつく。


「この力は……まさか魔王」


 勇者が見せる驚愕の表情はエルドラドを安心させる。

 いかに歴代最強の勇者であろうが、勇者の剣と同等の魔力を帯びた大楯に魔王の力が加わるのだ……負けるはずがない。

 勇者が強かったのは二百年も前のこと。

 逃げられないなら、敵対してしまったのなら……二百年前と同じように殺すしかない。


 そう考え、エルドラドはクレイモアを振り上げ構えをとり、十メートル以上離れた距離から勇者に向かい魔法を放つ。


「死ねぇ! ラクレス!!」


「ラクレス!!」


 隣にいた魔王の心配するような声はさらにエルドラドを安堵させる。

 この攻撃は勇者にとって有効である……その裏付けにエルドラドは魔王の力の全てを解放させて勇者に一閃を振るう。


【第十階位魔法・黒刃弾ダークブラスト!】


 クレイモアにたまった魔王の力は刃となって勇者を包み込む。

 逃げることなどできず放たれた魔法に、草原の草花は一斉にその命を吸われて枯れ果て、竜巻のような斬撃が勇者の体を無数に切り刻む。


「はっはははははははぁ!! 見たかラクレス! これが俺の新しい力だ……って、あれ?」


「あーーうん、終わり?」


 放たれた第十階位魔法は確かにラクレスに命中をした。

 しかしながらその魔法の直撃を受けてもなおラクレスの体には傷一つ付いておらず、あっさりと魔法の中から抜け出すと困ったような表情でほほを掻く。


「な、な、なんで、そんな……第十階位魔法なのに、なんで無傷?」


「いや無傷じゃないよ、耳とかひりひりするし」


「ひりひりって……これが勇者の力?」


「というわけでもないぞ……こやつ妾を魔法の余波から守るために、リアナを放り投げたからの。 まったく、魔法の余波程度でどうこうなる妾ではないというに」


 呆れたようにそう言いながら微笑む魔王に、エルドラドは絶望する。

 確かに勇者の剣は魔王を守るように、魔王の前で防護障壁を展開している。


 つまり、ラクレス・ザ・ハーキュリーは己の肉体の頑健さだけで第十階位魔法を耐えたというのだ。


「ありえない……やはりお前は化け物だ」


 盾を構えてエルドラドは勇者に嫌悪に近い憎悪を向ける。

 改めて目の当たりにするその人間離れした在り方に、魔王が倒された夜に自分たちが下した決断が間違いでなかったことを改めて確信し、すがるように大楯を構えて剣を握り締める。


 まったく効いていないわけで無いなら、同じ階位の魔法を何度もぶつければ、いずれは倒せるはず……もしかしたら次で倒せるかもしれない。


 そんなおめでたい奇跡に縋りつくように、エルドラドはまたも闇の魔力を練り上げるが。


「もうそれは良いよ……」


 勇者は一足でエルドラドの間合いへと詰め寄る。


「ひっ!? はやっ!」


 あまりの速さに、迎撃は間に合わず、エルドラドはとっさにアイギスの大楯にその身を隠す。


 反撃の糸口を見つけるためではない。

 

 神の祝福により魔法に対する耐性を持ち、世界で最も固いとされるヒヒイロカネで作られたアイギスの大楯。

 幾度も自分の命を守り救ってきたその楯なら、この窮地も救ってくれる。

 

 そんなすがるような思いで楯に隠れたのだ。


 だが。


「……話もできないから、それ壊すね」


 勇者はそうなんでもないといったように呟くと、拳を振りかぶって……大楯を殴った。


【ゴイン……】


 鈍い音が草原に響き渡り、しばらくして何かがばらばらと崩れ落ちる音がする。


「あ……あぁ……うそ……うそだ」


 エルドラドはその光景にその場に崩れ落ち失禁する。


 無理もない……勇者の剣と比肩される神具を、目前の化け物は拳一つで破壊して見せたのだから。


 勝てるわけがないという絶望が楯の破壊と同時にエルドラドを包み込む。


「あ、やばっ……これ国宝だったんだっけ? まぁいいよね、君も僕のこと殺そうとしたし」


「ひっひいいぃ!? 化け物! 近づくな……いや、こ、殺さないでくれ!? 仕方なかったんだ! 王様が、王様が殺せって。 勇者を殺したら永遠の命を約束するって……ただの奴隷剣闘士だった俺に、魔王を倒したって栄光も名誉も女も金もくれるって言うから、だから仕方なく……」


 魔王との戦いより、己をずっと守ってきてくれた存在が破壊されたことでエルドラドは大粒の涙を流しながら命乞いをする。

 攻撃を仕掛けたのもエルドラドならば、もともと勇者を殺そうとしたのもエルドラド。

 命乞いなど自らの行いを鑑みれば全く意味のない行動であり、さらにはその命乞いの内容もすべてが手前勝手な言い分ばかり。

 魔王は怒りにエルドラドを串刺しにする魔法を唱えようかと魔力を練るが。


「……うん、いいよ。 その代わり、お願いを聞いてくれるかい?」


 それよりも早く勇者はあっさりと裏切り者を許してしまう。


「へ? あ、え? ゆ、許してくれるの? 殺そうとしたのに?」


「戦意が無い人間までは殺さないよ……それに、殺されかけたのは悲しかったけど、おかげでセラスと一緒になれたからね」


「今回も、今回も殺そうとしたのに?」


「まぁそれは大切な楯を壊しちゃったからお互い様……っていうとまたセラスに怒られるから……一つだけお願いを聞いてほしい」


「聞く……何でも聞く!! 金か? 女か!?」


「いいや、僕はセラスだけいればいいからいらないよ……そんな大層なものじゃなくて、もうあの村を襲わないでほしいってだけ。勇者信仰は君たちにとって都合が悪いのかもしれないけど、彼女たちは王国に歯向かおうだなんて思ってない、ただ毎日をつつましく一生懸命生きてるだけなんだ……だから、その平穏をもう壊さないで上げてほしい。四将軍の一人の君なら、それぐらい簡単だろう?」


「襲わない! もうあの村は襲わない! 約束するから!」


「ありがとう……」


 懇願するエルドラドにラクレスは満足げに微笑むと立ち上がり、背を向けて魔王の元まで戻っていく。


 だが。


「っ!? いかん、ラクレス!」


「!」


「っなあんて! 言うと思ったかよ化け物野郎!!」


 その背後から、エルドラドは胸元から筒状の武器を取り出す。

 勇者が消えてから二百年の間に開発された【銃】と呼ばれる兵器。

 

 高速で弾丸を発射する、勇者の知らない武器。


 それをエルドラドは魔王に向けて放つ。

 魔王の魔力と、ヒドラの毒を鉛玉に仕込ませて。


【───!!】


 鳴り響く銃声は三つ。


 殺意を込めて放たれた銃弾はすべて魔王へと音速を超えて迫り。


 そのすべてを伸ばされた勇者の腕により受け止められ、勇者は腕から血を吹き出す。  


「……やっぱりかばったな!! お人好しのお前のことだ、女を狙えばその身を絶対に楯にする、危険な奴だと思ってたが、まさか魔王なんかにほだされるなんてな!! もう一度、ヒドラの毒であの世に戻りやがれ!!」


 狂いながら叫ぶエルドラドはもはや正気ではなく、叫びながらさらに銃弾をラクレスに放つ。


 二つ、三つ……魔力によりつくられた弾丸は尽きることなく勇者を幾度も貫き。

 ヒドラの毒は容赦なく勇者に牙をむく。


 だが。


「……………あ……あれ?」


 勇者は倒れない。


 かつては倒れた毒を受けても、銃弾により体を幾度も貫かれても、倒れることなくただただその場で立ち尽くしており。


「エルドラド……決めた、君は殺すよ」


 そう呟いて勇者は振り返る。


 魔王にすら向けたことのない、明確な【怒り】を孕んだ瞳をエルドラドに向けて。


「え、なんで! なんで、なんでなんでなんで死なないの!?」


 声を上げるエルドラドは祈るようにさらに引き金を引くが。


「リアナ……」


 勇者の言葉と同時にリアナは勇者の前へと現れると、その全てをエルドラドへとはじき返した。


「あっ!? あっ! あぎゃああああああぁああ!? ど、毒! 毒が、毒がぁ!」


 腕と足に銃弾を受けたエルドラドは、全身に焼けるような痛みに悲鳴を上げる。


「エルドラド、僕の命を狙うのは良い。 殺されかけたって君は偽りでも僕に居場所をくれた……だから何をされたって怒ったりしない……けどな?」


 毒と勇者、二つの死を前にエルドラドは恐怖し涙を流す。


 だがもはや救済はない。

 

 拳一つで神の大楯を破壊し、肉体一つで第十階位魔法を耐えきり、たった一人で魔王軍を壊滅させた歴代最強の勇者……。


 そんな怪物の逆鱗に触れて、生き残れるはずがない。


「僕の女に手ぇ出すな」

     

 勇者の剣は雷をまとい、ラクレス・ザ・ハーキュリーは生まれて初めて明確な殺意をもって敵を貫く。


巨人穿ティタノ(マキ)()


 振るわれた刃は雷となり、毒で悶えるエルドラドを貫き発火させる。


「あああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 毒の痛み、皮膚が焼けただれる痛みその全てを絶叫に変えながら、エルドラドは絶命する。


 悶える兵士……消炭となった裏切り者。


 勇者は血だまりの中でそんな光景をしばらく見つめた後。

「村に戻ろうかセラス」


 勇者はそう、最愛の妻に笑いかけたのであった。

                       


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