5.シェインの告白
「・・というわけなの」
ため息と共にリアは話を終えた。じっと聞いていたシェインは、
頭痛でもするかのように額に手を当てている。
「・・カーサ・・やりやがったな・・」
「え?シェインどうしたの?」
シェインは普段汚い言葉を使ったりしないので、リアはびっくりして目を向ける。
顔を上げたシェインは真剣な顔でリアを見た。
「リア・・カーサのこと、本当に好きじゃないんだな?」
リアは真っ赤になって反論する。
「すっ、好きじゃないわよ!カーサ様はもう1人の兄のような存在だもの。
だけど、とてもそんなこと言える空気じゃなかったのよ・・」
リアの言葉を聞いてシェインはさらに複雑な表情になったが、思い切ったように口を開く。
「リア・・僕のこともお兄ちゃんみたいってよく言っていたな?」
「え?ええ、そうよ、シェインだって私には優しいお兄ちゃんみたいだし・・」
リアはそう言いつつも、その想いがカーサに対する時とは違っていることに気づいていた。何だろう。カーサの時と違ってためらいなくお兄ちゃんと言い切れない。
「お兄ちゃんとしてだけ・・か?」
それを見透かしたようにシェインが重ねて尋ねる。
「男としては見られないか・・?」
「シェイン・・?」
シェインは意を決したように続けた。
「こんなこと言うべきじゃないんだろうけど、・・僕は幼い頃からリアを妹と呼んで可愛がってきた。でも、正直に言えば、お前を妹だと思ったことは1度もない」
リアは目を見開く。
私はシェインにとって大事な存在じゃなかったということ・・?
リアの動揺を知ったかのように、シェインはリアの頭に手を伸ばし宥めるようになでる。その手を外し、一歩下がり、そして、リアを見つめ、言った。
「・・いつもどんな時も、僕にとってお前は世界で一番大切で、命がけで守りたい女性だった。リア。・・お前がずっと好きだったんだ」
カーサ様だけじゃなく、シェインまで・・?これまでそんな素振りを微塵も感じさせなかった2人の男性から立て続けに想いを打ち明けられたことは、リアに大きな衝撃を与えた。たちまち感情の嵐に呑み込まれる。だが、その瞬間、稲妻のように、リアにある閃きが落ちてきた。それが、リアの内側の嵐を急速に鎮めていく。
(・・そうだったんだ私・・)
そして呆然と見開いた瞳から、涙が一筋頬を流れ落ちる。それを見たシェインは、その端正な顔を苦しそうに歪めた。
「泣くほど嫌なのか・・」
「違うの!」
泣きながらリアは反射的に叫んだ。違う。嫌なんかじゃない。ただびっくりしただけ。むしろ・・今初めて自分の本心に気が付いたことへのショックの涙だった。もうごまかしきれない。
「私も・・シェインが好き。今わかったの。シェインはお兄ちゃんなんかじゃない」
シェインはいつだってリアの一番の理解者で、困ったときはいつも助けてくれた。
他の男性が傍に来ると身体が強ばってしまうのに、シェインの隣だけは安心できた。近づいた時にふわっと香るシェインの香りが大好きだった。その香りが今も鼻をくすぐる。
それは兄のような従兄への信頼感だとばかり思って来た。でも、違っていた。1人の男性として慕っていたのだ。ようやく自覚した自分の気持ち。顔が熱い。
勇気を出して視線を上げると、シェインがいつの間にか思いがけないほど近くにいた。又頬に手を伸ばし、涙を拭ってくれる。近すぎて恥ずかしくなり思わず顔を背けるが、シェインの両手がリアの顔を包み、それを許さない。
「リア、本当か?お前も僕のことを・・?」
信じられないという表情でリアを見つめてくる。リアはうなずきながら真っ赤になって目をそらした。
「お前は巫女だから誰とも結婚できない。お前が神殿に入った時は内心絶望した。それでも、他の男にリアを奪われることもないと考えることで、なんとか自分を抑えてきたんだ。でもカーサの奴、来世での約束をさせるなんて・・そんな姑息な手を使ってまでリアを、と思ったら思わず自分の気持ちをお前にぶつけてしまった。余計混乱させてしまって・・悪かった。でも嬉しいよ・・」
そう言ってリアを強く抱きしめた。リアは、その言葉と、シェインに初めて抱きしめられたことで、昨夜からの緊張から一気に気が緩み、大泣きしてしまい、さらにシェインを慌てさせた。