52.最後の通信
印象的なのは目だった。吸い込まれそうに美しいスカイブルーの瞳。
そしてプラチナブロンド色の少し長めの髪。綺麗に整った彫りの深い顔立ち。明るくて天真爛漫そう。年齢はかなり若そうだ。30歳になっているかどうかってところか。中性的で、何となく、人間というより妖精って言っても信じてしまいそうな雰囲気。
たった数秒のビジョンだったのに、これだけの情報を受け取るくらい、強く印象に残るルックスの男性だった。一言で言えば、好みのタイプど真ん中だったのだ。
「すごいカッコよかった~!超~タイプ!」
うたた寝中に見た一瞬の夢、というのはよくわかっているけれど、なんかすごいリアルで本当にそういう人が存在していそうに感じるくらい。
んー、何だったんだろう。でも、関西で見た最後の夢が最高にカッコいい男の夢なんてなんだかすごく幸先がいいよね。なぜかこの時、それ以外のことは考え付かなかった。
*
そして、私は駅にいる。
全ては終了した。後は東京行きの夜行バスに乗り込むだけ。
そのバスの出るターミナル駅に私は来ていた。まだあと1時間以上あるので、構内のベンチに座って人の往来をぼんやり眺めている。
(本当に終わったんだなぁ。もう2度とここに戻って来なくていいんだ・・。)
そう思うと言葉にならない解放感がこみ上げる。振り返ると、凄まじい1年だった。「凄まじい」なんて形容詞使うこと、今までに無かったと思う。それくらいこの日々は、ハードだった。でも、だからこその得難い体験と気づきを手にすることができた。
私があのまま関東にいても、きっと1年という短期間でここまで到達することはできなかっただろう。この異常な状況下だったから可能だった。起こったことに、心から感謝できるようになるには、もう少し時間が必要だとは思うけれど・・。
私はもう自分に嘘はつかないと決めたから。ごまかしはしない。今はとにかく、ここを離れられることが嬉しい。それだけだ。
ここに来て得られたことの筆頭はもちろん・・。私は視線を胸元に落とす。そこには今や私が肌身離さず着けているスカイブルーの古代ガラスのペンダントが光っている。今日はそれにリアのインカローズとシェインのムーンストーンも下げていて、ジャラジャラ首から下げている怪しげな人になってしまっているが、ここを離れる時は彼らとも別れる時だから、着けておきたかった。
(ラドゥ、ナイーシャ、ありがとう。私、頑張ってみるよ)
古代ガラスを握りしめて心の中で話しかける。返事は期待していなかったのに、
(瑠璃子、こちらこそ、ありがとう。あなたはもう大丈夫。幸せを祈っています)
思いがけなく、ラドゥの返事が入って来た。最後の通信だ。
(瑠璃子、僕たちはいつも繋がっていることを忘れないで。必ず、又会えるよ。それも、君が思うよりずっと早く。だから別れの挨拶はなしだ。愛しているよ。瑠璃子)
ナイーシャも入って来た。だめだ。又泣きそうになる。1人で駅のベンチでスーツケース持って泣く女なんて意味深すぎる。
私は本当はずっと幸せだったんだな・・。涙がにじみ出てくるのをこらえながら考えていた。
こんな気持ちで関西を去ることができるとは本当に思っていなかった。・・ありがとう。




