50.リアとシェインのその後
あれから5日。予定通り、シェインは3日病欠をし、その間に「巫女との結婚式」の話はだいぶ下火になった。何しろ、あの式自体、実際に目にした人間はほぼいなかったから、話が大きくなりようがなかったのだろう。
アリスがエネルギー膜を張っておいてくれたし、噂も曖昧なものにしておいたので、結局誰も本気で探してまで見に来たりしなかったらしい。
昨日からシェインは職務に復帰している。病み上がりなので剣の訓練はしなかったとかで、ちょっと早い時間にリアに会いに来た。いつもの池のほとりで待ち合わせだ。
「シェイン」
「リア。会いたかったよ。3日間君のことばかり考えていた。君は会いに来てくれないしね」
相変わらずというか、開き直ったというか、結婚式以降、シェインはますますリアへの愛情を隠さなくなった。今もシェインの隣に腰を下ろそうとするリアをすくい上げ、自分の脚の上に乗せる。その左手薬指には今も銀の指輪が嵌められている。
「シェイン・・重いから!」
「君の重さなんて、僕が訓練で持ち上げているものに比べれば、何でもないよ」
そして頬に早速口づけしてくる。リアは、彼が一緒にいると常に、彼女のどこかに触れていたがることには、まだちょっと慣れずにいる。
「僕が休んでいる間、何か変わったことはあったかい?アーサスから聞いてはいたけど。」
「そうね、今のところ、噂の巫女が私だとは誰も思っていないみたい。指輪も特に注目されていないわ。結婚の証なんて誰も思わないわよね。そんな風習ないんだし」
楽しそうにリアは報告する。
「そうか、よかった。こっちも何となく収束しそうだ。病欠明けに、カーサとの直接対決を覚悟していたんだけどね。何しろ奴には、結婚式を目撃されてるわけだから。だけど、昨日、カーサには「身体の調子はどうだ?」って聞かれただけで終わったよ。もしかしたら、カーサの奴、敢えて無視することで、君と僕の結婚を無かったことにする思惑かもしれないな」
シェインは、腿の上に乗せたリアの肩に頭を乗せてしゃべっているので、リアはくすぐったくて身を捩る。
「正面切って詰問された方が、僕は「リアと結婚しました」と宣言できるから、それでもよかったんだけど」
「シェインったら。そうなったら騎士も辞めなきゃいけなくなるかもしれないのよ?」
「そんなこと全然構わないさ。そもそも僕が何故騎士になったと思う?リア、君が巫女になると言ったから、僕はそんな君を公に守れる立場になろうと決めたんだ。そうすれば、君の傍にいられるかもと思って。だから、君の傍にいられるなら、騎士じゃなくても全然構わない。」
すましてそう言うと、シェインはリアの頬に又口づけた。リアはちょっと呆れた。
「でも私は辞めてほしくないわ。だってシェインの騎士団の制服姿、とってもカッコいいんだもの。シェインがあの制服着ている姿、好きよ」
「そう?じゃあ、辞めないよ」
どこまで本気なんだか。いたずらっ子みたいなシェインの顔を見て、リアは笑ってしまった。
「ねぇ、シェイン、一緒に生きることを考えようって言ってくれてありがとう」
「突然、何?」
「・・私、愛する人と一緒に生きる幸せは、自分にはないって何故か思っていた気がするの。だから、最初からシェインのこと諦めて、巫女になる道を選んだのかもしれない。でもあの時、あなたがああ言ってくれたことで私の中の何かが変わった。今世は巫女だから結婚はできないけど、それでも大事な人を愛することは罪ではないはずだわ。私も幸せに生きることを、諦めなくていいんだって思えるようになった。だから・・ありがとう」
リアはもう一度言った。そんなリアをシェインは優しく見つめ、そして口づけした。
「他人のルールや評価なんてどうでもいい。僕たちは僕たちのやり方で幸せになればいい。愛しているよ、リア」
「私も愛しているわ、シェイン」
2人は固く抱きしめ合った。その時、リアがふっと頭を上げた。
「リア?」
「今・・“ありがとう、さよなら”って聞こえたの。瑠璃子だわ。このところ瑠璃子の気配が薄くなった感じがしていたけれど・・、もう終わりなのね。お互い運命を変えることができたということかしら・・。」
そしてリアは顔を上げ、空に向かって話し始めた。
「ありがとうを言うのはこちらの方よ、瑠璃子。あなたのおかげで私は今こんなに幸せよ。あなたにもシェインの生まれ変わりとの再会が早く起きますように、心から、祈ってる。私たちはずっと、魂で繋がっている。愛しているわ、瑠璃子!」
リアが空に向かって叫んだ。泣いていた。シェインはそんなリアを優しく抱きしめた。そして、
「僕も愛しているよ、瑠璃子。リアの未来世のあなたを。そして心から感謝している。来世で君と会えることを楽しみにしているよ。その時まで・・またね!」
そして2人で空に向かって手を振った。スカイブルーがとても美しい晴れ渡った空に。




