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30.シェインの帰還

「リア!リア!」


アリスが息せき切って神殿の朝の掃除をしているリアの所に駆け込んで来る。傍にいた先輩巫女が注意する。


「神殿で全力疾走しない!」


アリス達の自由な感じは一部先輩たちには呆れられつつも、好意的に見てもらっている。今の注意も苦笑しながらの型どおりのものだ。アリスもそれをわかっていて、悪びれずに一応の謝罪をしてからリアに近づき、耳元でささやいた。


「シェインが帰って来たわ!彼は無事よ」


「ほ、ほんと?!」


シェインが出征してから早くも3週間が過ぎていた。その間、リアは毎晩彼の無事を祈り続け、彼への愛を送り続けていた。それが、ふっと気を抜くと、胸に忍び寄ってくる不安を振り払う意味も含め、今のリアにできる唯一のことだったからだ。


果たして彼は今どこにいるのか、あとどれくらいで戻ってくるのかもわからない、不安に押しつぶされそうな毎日を、アリスに助けられながら、どうにかやり過ごしていた。アリスは先輩巫女に向き直る。


「報告申し上げます。カーサ王太子を隊長とする遠征部隊がサイファラ公国より戻られました。つきましては巫女たちも神殿前でお出迎えするようにとの先触れでございます」


先輩巫女は軽く、頷いて言った。


「そうでしたか。ありがとう。それでは皆、ご指示の通りに。神殿前に出るように」


待ち望んだ知らせに、まだ手の震えが治まらないリアを引っ張るように、アリスは外に連れ出した。



神殿前に一列に並んだ巫女たち。リアとアリスも端の方にいる。ほどなくして、遠くの城門から騎馬隊が入ってくる。先頭がもちろん隊長のカーサ王太子、そしてその後ろは・・。


(シェイン・・)


リアは声を出さないように、そして泣かないようにするのに精いっぱいだった。


シェインは無事だった。けがをしている様子も見えず、元気に馬に跨っていた。彼は馬上で微動だにせず無表情だったが、神殿の前にさしかかり、立ち並ぶ巫女の列を目にした時、誰かを探すように、視線が揺れた。そのスカイブルーの瞳がリアの姿を探し当てた瞬間、厳しかったその瞳が、これ以上ないくらい甘く優しく笑いかけた。


(あぁ、シェイン、本当に無事で・・!)


リアの中で、今まで張りつめていた緊張の糸が切れた。意識がふっと遠のいて体の力が抜ける。


「リア?どうしたの?しっかりして!」


地面に崩れ落ちたリアに、隣のアリスが声を上げる。巫女仲間がびっくりして駆け寄ってくる。しかし、それよりも早くリアの元に駆け寄った人がいた。長身で青い騎士の戦闘服を身に着けたシェインだった。


「リア・・!」


耳元で呼びかけるも反応がない。完全に気を失っているようだ。貧血か。シェインは膝の下に腕を入れリアを抱き上げた。


「救護所に連れて行く」


誰にともなく宣言すると、シェインは、アーサスに自分の馬を頼み、リアを横抱きにしたまま歩いて行った。騎馬隊は又行進を再開し、巫女たちも振り返りつつ神殿内に戻っていったが、アーサスはシェインの後ろ姿を見送りながら


「おい、目立ちすぎだろう・・。大丈夫か?」


と軽口をたたきながらも騎馬隊の先頭をみやった。先頭で無表情に馬を進めているカーサは何を思っただろうか。


「まぁ、もうバレバレだしな」


アーサスはそう独り言ちるとため息をついて2頭の馬を引いて馬舎に向かった。


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