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20.シェインへの指令

(思えば、あんな年齢で、よくあんな決意ができたものだ。若気の至りにも程があるな。)


でも、何度やり直しのチャンスを与えられたとしても、きっと同じことをするだろうと、シェインにはわかっていた。あれから10年。色々あり、決して平坦な道ではなかったが、でも決して不幸な道でもなかった。リアの一番身近な存在として、傍で見守り続けることができたのだから。


これからもそれは基本的には変わらないだろう。けれど、自分の周りで、それ以上の何かが大きく動き始めているのを感じている。その激しさに負けてしまわないように、地に足を着けてしっかり立っていようとシェインは思った。リアとの愛がそれをきっと助けてくれると感じていた。


(リア、愛しているよ)


シェインは無意識に、今や遠く離れた地にいるリアに愛を送り続けていた。



「フォリスタ」


「殿下」


カーサに呼びかけられて、その場に跪く。一日歩いて夕方、この林の中で野営をすることになり、隊は天幕を張り、食事の準備、馬の世話等、それぞれの役割に勤しんでいる。その時間、一足先に隊長の天幕でくつろいでいたカーサがシェインに話しかけてきた。


「疲れたか?」


「いえ、そんなことは。今日はそれほどの距離でもありませんでしたし」


「そうか・・。ところで、リアのことなのだが。そなた、あれに例の石を渡してくれたな。何か言っていたか?部隊の準備で報告を聞く暇もなかったが」


内心、ギクッとしながらシェインは無表情を装う。


「こちらも忙しさに報告が遅くなり、申し訳ありません。はい、間違いなく渡してまいりました。“かわいい”と言っておりました」


「そうか。喜んでくれたか」


カーサは普段から必要以上に表情の出ない顔を少しだけほころばせた。


「で、そなたはどう思う。もちろん、そなたほどの能力者なら、あの石から何かを感じたろうが」


カーサはシェインの顔をじっと見据え、探りを入れるような言い方をしてきた。


「はい。殿下の術のかけられた石だと感じました」


「その術の方向性もわかったか」


「はい」


「どう思った」


カーサは何を言わせたいのか。シェインは慎重に言葉を探した。


「私には関係のないことです。どうとも思いませんでしたが」


「関係ないか」


そういったカーサが一瞬だったが、かすかに口の端をあげて意地悪そうな笑いを浮かべたのをシェインは見逃さなかった。


(やっぱりこいつは、僕の気持ちを知っている)


「まぁよい。もう約束はなされてしまったからな。名乗りも上げられぬ腰抜けは指をくわえて見ていればよい」


優越感がその声音からはっきり感じ取れた。シェインはその挑発に乗ることなく、


「お話はそれだけでしょうか」


とだけ返した。カーサはそれで気が済んだのか、口調を事務的なものに変えた。


「ここから、海賊タルパが暴れまわっている海沿いの街まではもうそう遠くない。そなた、明日、先遣隊として3人ほどで偵察に出てほしい。その間に我々は、サイファラの大公の宮殿に一足先に入る。そなたたちは偵察後戻り次第合流するように。おそらく丸1日がかりの偵察になるだろう」


「畏まりました」


その場では、疑問も抱かず反射的に答えたが、その場を離れ1人になって、何となく、その命令に、とってつけたかのような印象を感じ、違和感を覚えた。


(もしかしてこれが、リアの言っていたことかもしれない。だとしたら、早い仕掛けだな。もう少し待つかと思っていたが。とにかく、罠だろうとなかろうと、こっちはできることをするだけだ)


騎士として普段から戦いを想定して、戦略を組み、実地訓練している。シェインは、どんな時でも冷静に状況分析し、対応を考えることができた。内部の裏切りなんて想定内だ。


しかし、油断は禁物。シェインは身を引き締めた。まずは、信頼できる2人の騎士仲間に声をかけよう。


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