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19.シェインの回想

シェインはカーサ王太子の後ろで馬を歩かせている。


まだ夜が明けきる前に、部隊は城を出発した。辺りは暗く、城内は静まり返っており、部隊の兵士たちも無言で城門を出てきた。今回の部隊は100名ほどで、隊長であるカーサが先頭で率いている。この100名は、日頃カリア王朝の民を守るために、命を張る訓練と覚悟をしている騎士団の中でも、特に精鋭であり、シェインもその中の1人だ。


(必ずや、これ以上襲撃が広がらないように、王朝に危害が及ばないように、全力で守る。)


シェインは馬を駆りながらそう自分に再度誓い、一番守りたい愛しい人、リアの顔を思い浮かべた。辺りはようやく明るみ始めている。


(リア・・泣いていないだろうか)


昨日池のほとりで会った時の彼女を想う。リアと気持ちが通じ合えたことはシェインにとって奇跡のような出来事だった。今でも信じられない。彼女はとても繊細で心優しいが、恋愛事にはうとかった。それは、巫女になると決まっていたこともあって、敢えて考えないようにしていたからかもしれない。


シェインはリアに告げたように、物心ついた頃にはリアを一人の女性として愛していた。それが愛だと知ったのはもちろんずっと後になってからだったけれど、その想いはずっと変わっていない。片割れだと信じているのも本当だ。根拠なんてない。ただ、“わかってしまった”のだ。自分と彼女は元々は一つの魂であり、お互いに属するのだということが。


それでも、今世は自分の想いは封印して終わる覚悟だった。リアに言えば苦しめるだけだとわかっていたから。だが・・、カーサのおかげで全てが一変した。カーサのたくらみは人として許しがたいが、それでも彼のおかげで、望むべくもなかった喜びを味わえたのも事実。


つくづく運命とは皮肉なものだ。シェインは戦闘服の胸の辺りに触れ、服の下に身に着けている赤い光石の存在を確かめた。


(リアが自分で編んでくれたという・・光石だったか?普通の石よりも波動が明らかに高くて強いな。リアのエネルギーをダイレクトに感じられる)


まるで、リアを抱きしめた時のように彼女の存在がリアルに近くに感じられるのだ。着けていると、安心感が身体を包み込み、戦場に向かっているというのに、恐怖も緊張も全くない。


(真実の愛がこれほどの感覚を与えてくれるものだったとは・・。一度体験してしまえば、失うことなど考えられなくなるだろうな。その飢餓感が、カーサのような病的な執着を生むのかもしれない。愛とはそれほど強烈な、毒にも薬にもなるものなのだ。僕も心しておかなくては・・)


前を行くカーサ王太子隊長の後ろ姿に目をやり、自戒の念を込めてシェインは思う。そして、リアがシェインに巫女になると伝えてきた日のことを思い出していた。



「巫女になる?」


シェインは思わず大声を出してしまった。


ここはめったに人が立ち入らない脇道の先の池のほとり。とは言え、城内ではいつ誰が近くにいるかもしれないから何を話すかはくれぐれも気を付けるように。普段から王城にも出入りしている父母に言われている大原則だ。しかし、今のシェインにとって、リアが口にした言葉はその鉄則を忘れさせるほどの衝撃だったのだ。


「リア、本当か。お前・・巫女になるのか」


なんとか言葉を絞り出す。リアは、その激しい反応にちょっと怯んだようだったが、


「そ、そうなの。うちは代々巫女の家系でしょ?母方の叔母様も巫女で。その叔母様が私には巫女の素質があるから、17歳になったら第一神殿に入るようにって。えーと、もしそうなれば、10歳から巫女候補生の教育所に入ることになるって。うちにはお兄様がいるから、私が巫女になっても大丈夫なんだって」


リアは大人たちに言われたことを、そのまま繰り返した。


「お前はそれでいいのか。それがお前の望む道なのか?」


シェインの問いかけに、リアは目を見張る。


「・・私、よくわかんない、自分が何を望んでいるかなんて。でも、別に巫女でもいい。面白そうな気もするし。・・シェインはダメって思う?」


シェインの反応に、心なしか気落ちしたように見える。シェインは慌てて言葉を選ぶ。


「いや、お前が納得してるならそれでいいんだ。ただ、わかっていると思うけど、巫女になってしまえば、生涯神殿の女神に仕える形になるから、結婚もできないんだぞ?お前、それでいいのか?・・好きな人とかいないのか」


慰めるつもりで違う方向に行っているのはわかっていたが、自分を止められなかった。


「好きな人?・・いないよ、そんな人」


即答でキッパリ返ってきた内容に、シェインはショックを表に出さないように全力を使わなくてはならなかった。この瞬間、冷静な自分がどこかで今の自分を観察していて、


(これで、お前も生涯独身決定だな?)


と意地悪くささやいたのが聞こえた気がした・・。


軽い絶望感に苛まれながらも、シェインはそれでもいいと思った。結婚できなくても、自分の気持ちすら伝えられなくてもいい。リアが幸せだと思える人生を歩めるなら、そのために自分はいつでも彼女を守れるような男になろう。夫としてではなくとも、公然とリアを守れるような立場になる・・。その選択肢は1つしかなかった。


「・・僕は騎士団に入るよ、リア」


シェインの道もこの時決まった。シェイン13歳、リア8歳の秋の出来事であった・・。


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